ビーチで手合わせ
「これでよかったのか?」
Miss.キラーが、
葦原 瑞穂からもらった水着を着て、ちょっと居心地悪そうにしている。いや、単に慣れていないだけのことかもしれない。
葦原瑞穂とお揃いの水着は、下半身が魚の尾となったマーメイドスーツだ。普段は、赤に黒のメッシュのレオタードという過激な姿のキラーとしては、逆に恥ずかしそうにしている。なんとも自分っぽくないという感じなのであろう。
「そんなことではいけません。ゴールデンミズギは、最も自分の水着姿に自信を持っている者の前にこそ現れるのです。もっと自分の水着姿に自信を持ってください。それとも、キラーさんは自信がないのですか!?」
アイン・ハートビーツに言われて、キラーがううっと小さく唸る。
一番自信のある水着を着て来てと言われたのだが、それって何っていうのが現状だ。普段、着飾ったりはしないし……。
なので、アイン・ハートビーツの水着を調べて、それに合わせてきたわけである。
アイン・ハートビーツ自身、あんなことを言うのであれば今着ている水着が最高に自信のある水着なのであろう。でも、なんでマーメイドスーツ……。
まあ、マーメードスーツであれば、泳ぐことに関しては十分に自信を持てる。二人は競争をしながら水の中を探索していった。
こうしていればゴールデンミズギの方から近寄ってくるはずだと、サマーアドベンチャーのゴーグルとシュノーケルをつけた葦原瑞穂が力説する。
確かに、水中にチラリと金色の光のような物が反射するのだが、動きが素早く、その姿は確認できない。魚のようでもあり、海草のようでもあり、水着のようでもあり、なんだかよく分からない。
「仕方ありません、第二段階です」
水中では見つけにくいと、葦原瑞穂がビーチに場所を移した。
魚の尾では動きづらいのだが、微かに浮いているので、移動自体にはさほど問題はない。
スイカ割りセットを準備すると、中央にスイカを置いて葦原瑞穂とキラーが対峙した。
こうして、自信満々の戦いを繰り広げていれば、海中のゴールデンミズギも誘い出されてくるかもしれない。
「先にスイカを割った方が勝ちです。いざ、勝負!」
なんだかルールが微妙に違う気もするが、どちらかというと、このルールの方がキラーとしてはしっくりくる。
でたらめな太刀筋を装って、葦原瑞穂がめちゃくちゃに木の棒を振り回した。雲払による誘い込みだ。これで、油断してきたキラーが打ち込んできたときに、カウンターで一本を取るのだ。
さあこいとばかりに、葦原瑞穂がぶんぶんしながら一歩前にピョンと弾み出た。マーメイドスーツなので、いつもの足捌きというわけにはいかない。
「てい」
渾身の一撃で打ち込んでくると思われたキラーが、スーッと円を描くように回り込み、スイカを叩いた。
「勝ったな」
「違うの、これは瑞穂との勝負なの!」
葦原瑞穂が。ぶんぶんと木の棒を振り回す。
「違わないだろ。ここは、打ち合うところじゃなくて、楽しむ所なんじゃないのか?」
そう言うと、丁度いい大きさに割れたスイカを葦原瑞穂にさし出しつつ、キラーは、みずみずしい自分のスイカにがぶりとかぶりついた。
スイカチキン
「夏ー! 海ー!」
天御柱学院の学校指定水着を着た
桐生 理知が、ビーチを走っていった。白のビキニだが、サマーアドベンチャーで胸元のフリルや腰のパレオが美しく見え、セクシー度二割増しになっている。
「翔くん、似合うかな?」
慌てて後を追いかけてきた
辻永翔の前で、桐生理知がくるりと一回転してみせた。
「悪くはないかな」
学校の水着なので、そんなに代わり映えはしないのだが、着こなしで結構見栄えがする。辻永翔も、天御柱学院指定の、白地に黒の意匠が入ったサーフパンツの水着だ。
「モンスターがいるって聞いたけど、普通の浜辺だよね」
これなら大丈夫かなと、桐生理知が一安心する。となれば、関心はゴールデンミズギのこととなる。
「ゴールデンミズギって、どんな水着だと思う?」
「名前からして、金色の水着なんだろうけどなあ」
イマイチ想像がつかないと、辻永翔が答えた。
本当に金でできていたら、重くてとても着られる物ではないだろう。あるいは、魚の鱗とかスパンコールみたいな物で、金色に反射するのかもしれない。
「イコンに似合うデザインなら、ちょっと着てみたいかなあ。翔君はどう?」
「イコンとお揃いは、いいかもしれないなあ」
二人で、イコンデザインの水着を想像して思いに耽る。桐生理知のイコンのように、青と白のカラーリングだと、夏らしくかわいらしい物になりそうだ。まあ、イコンフェチの感覚である。
貝殻拾いなどでひとしきり遊んだ後、お腹もすいてきたのでスイカ割りを始める。
「うーん、私じゃ、当たっても割れそうにないから、翔君、お願い」
桐生理知が、目隠しのタオルと棒を辻永翔にさし出した。
「よし、見てろよ」
一発で真っ二つにしてみせると意気込んだ辻永翔だったが、剣は銃ほどに得意ではない。
「大丈夫、私が誘導するよー。一時方向、前方二メートルだよー。そうそう。俯角三十度。そう、そこ。いっけー!」
見事に辻永翔の一撃が命中し、スイカが真っ二つになった。
「はて、そっちの分」
食べやすい大きさに辻永翔が手で割って、桐生理知に手渡してくれた。
「ありがとー」
元気よくかぶりついた後、種をぷぷぷぷーっと飛ばして遊ぶ。
『ちちちちち、浜辺を汚すなんてサイテー。そんなんだからダサイっこ』
突然突っ込まれて、桐生理知が盛大にスイカの種を吹き出した。
イジリチキンだ。
桐生理知めがけて、密林の方から凄い勢いで走ってくる。
「出たな」
辻永翔が、迎え撃とうと身構えた。
「ここは私に任せてよね」
前に飛び出た桐生理知が、フォースフィールドを展開した。
『ぶへっ!?』
勢いよく突っ込んできたイジリチキンが、見えない壁に激突してその動きが止まる。そこを逃さず、桐生理知が雷霆の拳を突き出した。雷光と共に殴り飛ばされたイジリチキンが、ひっくり返って動かなくなる。
「やったね」
フンスとポーズをとって、桐生理知が辻永翔を守れたことに満足する。
「お見事。よし、田中是空の海の家へ持っていって、後は丸投げしよう」
「うん、そうだね」
辻永翔の言葉に、にっこりと同意する桐生理知だった。
ビーチパラソル
「
そろそろ、この辺で一休みしていきませんこと?」
ビーチの一角にビーチパラソルとビーチチェアを設置した
エスメラルダ・エステバンが、
ナデシコ(戦艦“大和”)に言った。本来なら、訊ねてから海を楽しむ三点セットを設置するべきなのだが、なぜか設置してから確認のために訊ねている。計画的犯行だ。
「ゴールデンミズギを探さないのですか?」
ちょっと不服そうに、ナデシコが言った。ブルーアドミラルであるナデシコとしては、久しぶりに海に来られて、やる気満々であったのだ。浅瀬を滑るように移動しながら、海や海岸にゴールデンミズギがいないかと探していたのである。
「
うーん、SGレーダーにも反応ないですから、少し休みましょうよお」
エスメラルダ・エステバンに呼ばれて、赤いワンピース水着の上に白いスカートを着けたナデシコが、白い半透明のパーカーをなびかせてビーチに戻ってくる。
エスメラルダ・エステバンの方はといえば、
紺と白のビキニに、薄い藍のパラオと濃い藍のサッシュを巻いた姿で、ビーチチェアに寝そべっていた。
「はい、どうぞ」
二つ並んだビーチチェアの間においたテーブルの上から、エスメラルダ・エステバンが、切り分けられたスイカをナデシコにさし出す。
「うーん、こんなにのんびりしていてもいいのかしら」
言いつつ、ビーチパラソルに近づいてきていたナデシコが、さっと腕を横へと伸ばした。一瞬にして現れた大和砲が、ビーチの一画を砂ごと空高く吹き飛ばす。
その中にいたメガロブスターが、こんがりとローストされてヒュルヒュルと落ちてきた。
すかさず、ダッシュした田中是空が、メガロブスターを受け止める。
「さすが、俺。食材、ゲットだぜ」
さも自分が仕留めたように言いながら、田中是空はバーベキュー台の方へとそそくさと走り去っていった。
「まあ、仕事はした――と、思いましょう」
ビーチチェアーに寝そべると、ナデシコがエスメラルダ・エステバンからスイカを受け取る。
しょりしょりしょり……。
「そういえば、あのとき約束した桜の絵はがき、届きまして?」
エスメラルダ・エステバンが、以前送ると約束した写真の件を思い出してナデシコに訊ねた。
「絵はがきですか? どこからどこへ出しました?」
思い当たる節がないのか、ナデシコが聞き返した。もちろん、写真を送ってくれるという約束は覚えているが、絵はがきは届いていない。
「えっ、ワールドホライゾンから、アーモリーへ出しましたけれど?」
「それって、届くの?」
ワールドホライゾンとアーモリーの郵便制度って、ストレートに繋がっていたのだろうか?
「もしかして、ワールドホライゾンの郵便局で、それって止まっていない? どんな絵はがきだか、楽しみだわ。後で、一緒に確かめにいきましょ」
そう答えるナデシコであった。