・進出と探索2
オーバーチュア騎士団も、鶏肉騎士団と同じように、前回の続きで遺跡の探索に来ていた。
今回取りかかるのは、未調査になっていた二層の攻略である。
ゲルハルト・ライガーの操縦するネブカドネザルⅤ世改の持つ、マジックトーチがぼんやりと暗闇を照らしている。
明かりとなるものを所持しているのはゲルハルトひとりであるため、照明が照らしてくれる範囲は頼りない。
『我輩から離れ過ぎるな。守ってやれんぞ』
集団行動には、互いに距離が近くフォローしやすいという利点があるものの、範囲攻撃でまとめてやられやすいという欠点もあった。
とはいえ照明の数に限りがある以上、集団行動せざるを得ない。
『一層は攻略済みだから良かったけど、二層はちょっと心配ね。水中戦闘の準備はしてきたとはいえ、もっと照明を増やすべきだったかしら』
ぼやくのは、前衛について先行気味に動くタルワールを操縦する、
今井 亜莉沙だ。
『かもしれんが、今は手持ちの条件でいかにこの遺跡を攻略するか、考えるべきじゃな』
『もっともね』
背後からの敵襲も考え、最後尾について敵警戒に当たっている
ミハエル・ゴッドバルドのエスカリボールから、そんな通信がくる。
モニターに移ったミハエルに、亜莉沙も頷きを返した。
「わあああ、すごいね!」
ネブカドネザルⅤ世改のステージで、
千波 エルミリアが眼前に広がる風景に、感嘆の声を上げている。
水中を泳ぐスタンドガレオンのステージに立つのは、何度経験しても新たな発見と驚き、そして感動を与えてくれた。
ゲルハルトのネブカドネザルⅤ世改と並んで飛んでいるのは、
川上 実麗のセンペリットURだ。
ステージには、【レリクス】クリュサオルを纏った
川上 一夫の姿がある。
『整備した機体の調子はいかがですか?』
『悪くない。良い腕をしているな』
自分が整備したエスカリボールに実麗が声をかけると、中からミハエルの満足そうな声が返ってくる。
その答えに、実麗は自らもほほえむ。
修理と整備を担当する実麗としては、戦闘が始まってからよりも、始まるまでのいかに全員の機体を仕上げられるかが腕の見せどころだ。
戦闘に入っても、機体の応急修理、実麗自体の攻撃参加など、やることは山のようにある。
そしてそれは、ゲルハルトにも言えることだ。
『我輩も事前に整備して、動作不良への対策を施しておいた。どこまで通用するかは分からんが、何もしないよりはマシだろう』
『その辺りは心配していない。信頼しているからな』
ミハエルの言葉に、ゲルハルトは顔を顰めてそっぽを向いた。
照れ隠しか。
分かっているエルミリアが、にんまり笑ってそんなゲルハルトの反応をステージから見ていた。
『今のうちに、連携を取れるように詳細を詰めておきますか』
『賛成だ。時間を無駄にはできん』
一夫の言葉に、ゲルハルトが乗った。
今回の遺跡二層の特徴は、出てくる敵が搦め手に長けているという点が挙げられる。
対策の要となるのは、実麗とゲルハルトの整備もそうだが、重要さでいえばエルミリアの星詩も変わらない。
性質に違いはあるが、重要なのは一夫の星詩も同じ。
連携の詳細はこうだ。
一夫の星詩、及び星素で敵のスキルを封じて、妨害を逆に妨害しつつ、そこから漏れたものに対しても、エルミリアの星詩や星素による護りにゲルハルトと麗美による整備で乗り切る。
そうして作り出した有利を活かし、水中戦に秀でたタルワールを操縦する亜莉沙を攻撃の起点とし、一気に攻勢に転じ、殲滅に動く。
果たして、作戦通りに行くか、そもとも想定外の事態になるか。
敵との遭遇が、その答え合わせとなった。
* * *
最初に敵の存在に気付いたのは、先頭を進む亜莉沙だった。
バルバロイ・ゼリーフィッシュと、バルバロイ・ダイヤモンドダストが二体ずつ。
醜悪だが、見た目の印象はまさに、クラゲとスライムそのもの。
『敵影発見! 星詩をお願い!』
「分かりました!」
即座に反応した一夫が、黙って俺について来なを発動する。
歌われた演歌が、バルバロイ・ゼリーフィッシュとバルバロイ・ダイヤモンドダストを沈黙させ、しばらくの間その妨害行動を封じた。
『今だ、撃ち込め!』
すかさずゲルハルトが、ネブカドネザルⅤ世改のネイバースフィア<G>でバルバロイ・ゼリーフィッシュを銃撃する。
「いけーっ!」
一夫のスキル封じが成功したことで行動予定を攻撃に変更したエルミリアが、火の鳥を飛ばして体当たりさせる。
物理的な直接攻撃をするしか無くなったバルバロイたちに、間髪入れず亜莉沙とミハエルが襲いかかった。
『スキル封じの効果が切れる前に、まずは一匹減らすわよ!』
『攻撃目標を合わせる! 先に行け!』
水中戦仕様ではない自分のエスカリボールよりも、亜莉沙のタルワールの方が機動性で勝っていることを見て取ったミハエルが、素早い判断で亜莉沙を先行させる。
両手両足からジェット噴射の水流を発射しつつ、高速で間合いを詰めて肉薄したタルワールが、トルネードシースの加速を乗せた?ahrz?d?による猛チャージをかけた。
『獲った……! ぶち抜いてやるわ!」
手応えを感じた亜莉沙は、そのまま機体の動力を全開にした。
?ahrz?d?の穂先をバルバロイ・ゼリーフィッシュに突き刺したタルワールがなおも勢いを強め、ついには大きな風穴を開けて反対側に飛び出る。
大穴を開けられても生きている様子で、不気味にもがくバルバロイ・ゼリーフィッシュへ、続いてミハエルが仕掛けた。
『止めだ!』
炎をクリアマインドソード<D>に纏わせ、エスカリボールが瀕死のバルバロイ・ゼリーフィッシュを斬り捨てた。
まずは一匹。
そこで、一夫が警告を発する!
『残りの敵が動き出しかけています!』
どうやら、もうスキル封じを破ろうとしている個体が出ているようだ。
「了解!」
すばやくエルミリアが行動に出て、始まる敵の妨害行動に先んじて、結守火の護りを発動する。
火の鳥が翼を広げたような聖なる結界が展開され、味方全員を包み込む。
結界の炎が水中に漂い始めた氷の霧を遮断し、伸びてくる触手を焼き焦がして追い払う。
同時に、イノセンスブライトから放たれた光が、周囲へ広がっていった。
ようやく、スキル封じから全員逃れた残るバルバロイ・ゼリーフィッシュとバルバロイ・ダイヤモンドダストたちが反撃を開始するものの、各自が個人的に行っている対策と、実麗、ゲルハルト、エルミリアが全体を支えることにより、妨害効果の浸透を許さない。
危なげない連携で、バルバロイたちを追いつめていく。
しっかりした援護をもらえれば、その分だけ亜莉沙とミハエルが攻撃に意識を割くことができる。
『護りは任せて大丈夫そうね……私たちは、殲滅に集中するわよ! ダイヤモンドダストたちは私がやるわ!』
『ならばわしは、残る一体のゼリーフィッシュを始末するとしよう』
勢いよく水中を飛ぶように泳ぐ亜莉沙のタルワールがダイヤモンドダストたちに突っこんでいくのを見届け、ミハエルはゼリーフィッシュへ向き直った。
伸ばされる触手を掲げたクロスラインシールド<D>で弾き、押し退けると、素早くクリアマインドソード<D>を横薙ぎに払う。
『まずはその邪魔な触手を斬らせてもらうぞ。ここにきて、麻痺させられてはたまらんからな』
有言実行とばかりに、ゼリーフィッシュの触手が千切れ飛んだ。
決死の体当たりを避け、返す刀で本体を両断する。
亜莉沙は機体の水中適応能力を十全に発揮し、機動戦でダイヤモンドダストたちを圧倒する。
『二対一だろうと、上手く連携できなきゃ意味がないのよ!』
鋭い回転突きが衝撃波を巻き起こし、スクリューのように水中を飛んでいき、命中する。
あまりの威力にまるで見えない魚雷の直撃を受けたかのごとく、ダイヤモンドダストの一体が爆発して弾け飛んだ。
残る一体のダイヤモンドダストは、亜莉沙の相手をするのを諦めたか、身を翻して直接ゲルハルトのネブカドネザルⅤ世改を狙ったものの、そのステージにはエルミリアがいた。
「破れかぶれの突撃ってやつ? でも残念だったね。私がいるよ」
強固な護りを維持するエルミリアが、ダイヤモンドダストの攻撃を受け流す。
『これでおしまいよ!』
直後、ダイヤモンドダストの頭上から亜莉沙の?ahrz?d?が降ってきて、ダイヤモンドダストを串刺しにした。
* * *
安全を確保ししたオーバーチュア騎士団は、バルバロイを相当しつつ隅々まで探索を進める。
その最奥には、声楽の使い手用の品が眠っていた。