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楽園シャングリラのとある日

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楽園シャングリラのとある日
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・人々の日常1

 楽園シャングリラでは、人々が束の間の日常を楽しんでいた。
 もちろん、シャングリラから完全にバルバロイの姿が消えたわけではない。
 今でも散発的に襲撃が行われており、前線基地の防衛やバルバロイの排除にあたる者たちは、これが嵐の前の静けさであることを悟っている。
 されど。
 束の間でも、平穏は平穏だ。
 各々、思い思いに羽を伸ばし、日々続いていた戦いの疲れを癒している。
 フルール歌劇団はこの機にキルデア騎士団やダブリン聖歌隊など、他の騎士団との友好関係を深めようしていた。
 クローヴィス・キルデアには戦戯 シャーロットが許可を取った。
 一方、ダブリン聖歌団に関しては、麗羅からの「騎士団内にダブリン聖歌団のメンバーがいれば問題ないのだけれど」と言われてしまい、ロミア王女に確認を取って欲しいということになった。
 ダブリン聖歌団はトルバドール(歌姫)の選抜制に加え、レンスター騎士団直属であるから、ということらしい。
 それはキルデア騎士団も同じなので、そちらの確認も兼ねて、ロミア王女の下にまでフレデリカ・レヴィが交渉に出向くことになった。
 そして、迅雷 敦也の推薦でシャーロットの許可を受け、団員となったキャスリーン・エアフルトもロミア王女に用あるということで、皆へのお披露目を前に、フレデリカと合流することになった。

「他の人とは一足早い顔合わせになったわね。まあ、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 挨拶を交わしながら、フレデリカとキャスリーンは互いの一挙手一投足をじっくりと眺めた。
 互いに見て、最低限の貴族作法はどちらも問題なくできている。
 アークの最高権力者であるロミア王女に対して、最低限で足りるかどうかは分からないが、少なくともアークの貴族であるキャスリーンにはそう見えた。
 いざ王女との謁見を果たしたフレデリカは、最低限の貴族としての礼儀作法を用いて、用件を述べる。

「フルール歌劇団とダブリン聖歌団の間で、星素や闇詩、そしてアークの加護をもたらしている存在の共同研究を樹立したいと思っています」
「だから、ダブリン聖歌団と友好関係を深めたいというわけですか……。キルデア騎士団の件も了承いたしましたわ。ダブリン聖歌団、キルデア騎士団との交友関係は許可を出しますわ。ですが、星素や闇詩、アークの加護をもたらしている存在の共同研究につきましては不許可とさせて頂きますわ。“外法の者”であっても危険、というのが理由ですわ。そちらの方は?」

 ロミア王女はゼノビアやイペタムのことを考えて、そう判断したようだ。
 そのままキャスリーンへ視線を移す。

「ゼノビアが潜んでいたアーク中枢、特に中心部にあったカプセルの調査をしたいと思っています。カプセルの中に女性らしき姿が確認できています。もしアークが誰かの犠牲の上に守られているのならば、アークの民はその理由を知らなければならない。その前準備として、王家が保有している資料閲覧の許可をいただきたいのです」
「……用件は分かりましたわ。ですが、申し訳ございませんが許可できませんわ」

 キャスリーンは、ロミアとの交渉に失敗した。
 食い下がる。

「カプセルの存在が明らかになった以上、きちんと調べて誤解のないよう関係者に周知しておくことは必要です。前回のように、伏せられていた情報が敵に漏れて危機に陥ることのないようにしたいのです。ご再考願えないでしょうか」
「耳が痛い話ですわ。ですが、アークについてはわたくしたちも知らないことが多いのですわ。そしてわたくしたちはそんなアークに生かされている……ならば、わたくしはアークがすべてを明かしてくれるまで待つべき、と判断しておりますの。王家が保有している資料閲覧につきましては、おそらく同様に、あなたが閲覧しようとすれば、アークが拒否するかもしれませんわ。こればかりはどうしようもないのです。用件はそれだけですか? なら、下がって結構ですわ」

 結果として、ロミア王女との交渉はフレデリカの目的であるダブリン聖歌隊とキルデア騎士団との交友許可は問題なく取れたものの、星素や闇詩、アークの加護をもたらしている存在の共同研究については許可が下りなかった。
 また、キャスリーンの目的だった資料閲覧許可は取れなかった。

「アークがすべてを明かしてくれるまで待つべき……そのような悠長なことは言ってせれませんのに」
「今はまだってことでしょうし、おそらくロミア王女も調べたいけれど調べられないのかもしれません」

 帰路の途中、項垂れるキャスリーンをフレデリカは慰めた。


* * *



 所変わって。

「こっちだよ! 歓迎ライブも予定しているから、楽しんでいってね!」
「今回の交流で、ぜひ協力関係を築ければと思っているわ」

 シャーロットとフレデリカに案内され、ライブステージ会場「ヒザクラの森」へキルデア騎士団とダブリン聖歌団の面々が到着した。
 同時に、大々的にキャスリーンの紹介も行われる。

「……と、いうわけでー、あつやちゃん推薦の、フルール歌劇団の新メンバーお披露目だよっ」
「この度フルール歌劇団へ移籍させていただくこととなりました。よろしくお願いします」
「大歓迎だよっ♪ 仲良くしようね☆」

 ぺこりと頭を下げるキャスリーンに、率先してシャーロットが拍手をする。
 団員たちから、盛大な拍手でシャーロットは迎えられた。


* * *



 一方、キッチンでは敦也がスイーツ作りに奮闘していた。

「フルールパークはまだ実が生っていないから、フルーツは王都からの調達だけど……まあ試作だしな。とはいえ、試作でも手は抜けねーぜ。他人に出すんだからな」

 試作するスイーツは、フルーツパイである。
 シャーロットの好物だ。
 どこかでシャーロットが歌っていたような気がする歌を鼻歌混じりに歌いつつ、ベリーや桃、オレンジ、パイナップルといった果実がふんだんに使われた豪華なフルーツパイがシウコアトルの炎で焼き上がった。
 パイの名前はフルールミックスパイである。

「味見にひとつ……うん、美味い。これなら自信を持って提供できるぜ。あとは……、茶か。うーんあんま詳しくねーけど、アイスティーにレモンを添えて……レモンティーにするか」

 キャスター付きの配膳棚に人数分のフルールミックスパイとレモンティーをセットし、敦也はそれをライブステージ会場まで運んでいった。


* * *



 スイーツを運んでくる敦也の姿を、シャーロットが真っ先に見つけた。

「やった! フルーツパイだ!」

 己の好物が出てきたことで、シャーロットがはしゃいでいる。

「席について待ってな。今、順番に運ぶから」

 パイと茶を配る途中で、敦也はキャスリーンに話しかけた。

「フルール歌劇団に来てくれてありがとな。こいつは歓迎の印だ。ライブも楽しんでいってくれよ」
「ありがとう。そうさせてもらいます」

 キャスリーンは、敦也に元気づけられたようだ。


* * *



 敦也謹製のスイーツを楽しんだところで、ライブの時間になった。
 最初の演出はアレクス・エメロード剣堂 愛菜が担当する。

「ようこそ、ヒザクラの森へ。あたし達フルール歌劇団のおもてなしとしてライブを披露します。楽しんでいってね??」

 マイクを片手にキルデア騎士団のダブリン聖歌団の面々へ愛菜が口上を述べると、桐島 風花によるガレオンピアノの前奏が始まる。
 前奏に合わせて愛菜はチューニングフォークをクルクル回し、地面に突き立てた。
 妖精達の千年社を発動して、銀色の霧を纏った神秘的で和風なお社を作り出す。
 出現した社を背景に、愛菜はアレクスへとバトンを渡す。

「さぁ、アレクス様。この妖精の舞台に優雅な風をお願い。今日のシャロちゃんの笑顔はあたしがサポートしてるから二割増しだよ?」

 向けられたチューニングフォークに乗せられた愛菜の思いを、アレクスはきっちりと受け取った。

「和風ステージか。シャロの好みが分かってんな。さすがは自称シャロのライバルだ。……それに、俺にまで気遣いを、か。はっ、とんだお節介なライバルもいたもんだ。……いいぜ、俺の実力を見せてやるよ」

 アレクスはサニーベルスタッフを振るい、響き渡る鐘の音で暗闇から徐々に白んでいく夜明けの空を演出する。
 ピアノを演奏する風花自身も歌い手のひとりとなって、ライブが始まった。

「それじゃあ、いっくよー!」

 シャーロットが猫妖精舞踊を発動し、愛らしい猫のオーラをまとい、虹の橋を生み出す。
 猫らしい仕草と気まぐれさでシャーロットが虹の橋に飛び乗ると、新しく別の場所に虹の橋が伸びてかけられた。
 春告草の姫羽織が翻って桜の花弁が宙を舞い、妖精合唱団で生み出された光の妖精達が合唱する。
 さらに虹村 歌音が七色猫のポロネーズを合わせる。

「もっともっと、盛り上げていこうねー!」

 猫のオーラを纏ったカノンは、虹の橋の上でくるくると回りながら歌い踊る。
 歌音の歌をを効いた観客たちは色取り取りのオーラに覆われ、そのテンションを高まらせていく。
 キルデア騎士団とダブリン聖歌団の面々の中にライブに引き込まれる者の姿がちらほら出始める。
 無秩序にかけられる虹の橋を跳び回るシャーロットの手には、いつしか二振りの虹色の光剣が握られていた。
 歌いながら行われる、虹の双剣の演舞。

「さあ、僕たちも続こう」
「大舞台ですね。張りきっていきましょう」

 虹の橋の上に草薙 大和草薙 コロナが飛び乗り、剣舞を始めた。
 対照的な位置から同じ軌跡で描かれる三連撃と、そこから繋がれる光を帯びた斬撃が、シャーロットの剣舞と共にステージを鮮やかに舞う。

「ほう……これは」
「あらあら」

 キルデア騎士団やダブリン聖歌団の面々の中には、ただただ純粋にこれらを振り付けの一環として楽しんでみている者も多かったものの、長であるクローヴィスと麗羅はきっちりと三人の斬撃の鋭さが、バルバロイ、それも上位の存在との戦いでも通用するであろうことを見抜いて興味を深め、別の意味でも楽しんでいた。
 そしてそのふたりの反応は、ステージにいるフルール歌劇団の面々も気付いている。

「掴みは上々かしら?」

 己が歌うパートを終えた風花は、シャーロットへの注目を奪わない程度に調節しつつ、ピアノの伴奏を続けながら背後でパフォーマンスを続ける。
 時に立ち、時に座り、後ろを向いたり、横を向いたり、回転したり、リズムに乗ってダンスを踊る風花は、激しく動きながらも演奏を失敗しない。
 もはや鍵盤に視線も向けずに、されど完璧に引きこなすその様は、まさしくプロの技だった。
 ただのプロではない。超人的な身体能力を持つプロだ。
 ならば、この程度は不可能なことではない。

「悪くねえ。この調子で続けようぜ」

 シャーロットに合わせ、アレクスが妖精郷の祝風を発動した。
 春の香りがする暖かな風が渦巻き、柔らかく親しみやすい雰囲気にステージを変化させていく。
 ステージの変化に合わせ、シャーロット、大和、コロナの剣舞も、緩やかなものへと切り替わっていった。
 激しい動きの振り付けは見応えがあったが、この緩やかな動きも見事なものだった。
 一見すると簡単そうな振り付けでも、体幹の動きで差が出る。
 三人の動きが一致したまま全くぶれないのを見て、麗羅が並んで座っていたクローヴィスの肘を己の肘でつつき、横目で流し見た。

「……ねえ」
「ああ。僕の判断も、おそらく同じだ」

 振り返らず、視線をステージの三人に向けたまま、クローヴィスが答える。
 ふたりとも悟っていた。
 目の前で見せられている美しい剣舞が、実戦ではバルバロイを斬り裂く苛烈な剣技へと変貌するであろうことを。

「そろそろね」

 風花が歓迎の慈雨を発動する。
 雄大で荘厳な音色に合わせた、情熱的なアップテンポの詩の進行に合わせ、雨が優しくステージに降った。
 それらは落ちてステージを濡らす前に水の輪となる。
 激しい運動量に、風花は頬に汗を浮かべ、よくよく見れば風花の足元には汗によってできた水滴の痕跡がいくつもあるものの、風花は笑顔を崩さず踊り続けている。

「雨上がりにはコイツがつきものってな」

 さらにアレクスが、まるで雨によって現れたかのように、空へ無数の虹をかける。
 そして、歌の終わりと共にアレクスのハナビ・ディスターブと風花の水の輪が同時に空へ発射された。
 虹の橋が、クローヴィスの方へ伸びていく。
 笑顔で、シャーロットが友好の握手を求めた。
 麗羅へは、歌音が握手を求めた。

「これほどの歓迎を受けては、応えないわけにはいかないな」
「そうね。戦力的にも期待できそうだわ」

 笑みを浮かべたクローヴィスと麗羅が握手に応じると、シャーロットの演出により背後で二本の虹の剣が交差し、掲げられた。

「そちらもよろしく頼むぞ」

 全員で綺麗に一礼して退出する間際、どさくさに紛れて最後に愛菜がクローヴィスへ行ったウィンクは、ばっちり本人に気付かれていたらしい。
 どうやら覚えてもらえたようだ。
 今回の出来事を機に、フルール歌劇団、キルデア騎士団、ダブリン聖歌団の三者は、友好を深めていくこととなった。


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