・暗闇の中へ3
ベイグラント騎士団は、順調に探索を進めていた。
索敵の要となるのは、
土方 伊織が操縦するデュランダルⅢと、
十文字 宵一が操縦するエスカリボールⅡ、そして
ミューレリア・ラングウェイのだ。
この二機はどちらもドラグーンレーダーを搭載しており、バルバロイの反応を監視することができた。
そして、それらと対を成すほど重要なのは、どう地形を把握するか。
これは光源による把握が第一となる。
幸い、
アーラ・フィオリーニのシュワルベWRzwieにマジックトーチが積まれているので、最低限の光源は確保できていた。
『シュワルベWRzwieが落とされたら何も見えなくなるですよ。最優先で護るです』
『一応、俺たちも役割の重要度で言えば、護衛される対象だからな』
『かなり広いと聞いていたが、さすがにスタンドガレオンを機動させるには狭いな。私はいつものように動き回るのは無理そうだ。ユファや恭司さん、アリーチェさんを乗せていることだし、大人しく護られておこう』
周囲を照らし、地形を明らかにすることのできるアーラのシュワルベWRzwieを中心に、その両脇を索敵に秀でた伊織のデュランダルⅢと宵一のエスカリボールⅡで固め、さらにその三機を
ミーラル・フォータムのEXミーラル、
星川 潤也のエスカリボールⅢ、
砂原 秋良のディマジオなどが囲む形で、ベイグラント騎士団は陣形を敷いている。
シュワルベWRzwieのステージ上から、
ユファラス・ディア・ラナフィーネがアーラを気遣った。
「このままの速度で大丈夫か? もう少し、全体の速度を落としても構わないが」
『いや、大丈夫だ。周囲の地形が分かるなら、何とかなる』
壁と壁の間をすり抜けるように、器用に機体を飛ばすアーラは、ユファラスの申し出を気遣い無用とばかりに断った。
実際に、アーラは激しく機体を壁にぶつけるようなミスを今のところしておらず、念のためにユファラスがつけたセーフティチェーンは、今のところステージの飾りとなっている。
もっとも、戦闘になればどうなるか分からないが。
『とりあえず最奥を目指せばいいよな? 重要なものは、大体奥にあることが多いし』
『ああ、構わないだろう。敵の反応があれば知らせる。それでいいよな?』
潤也の質問に宵一が答え、ユファラスにも確認を取った。
「ああ、構わない。ただ、スポッターに注意してもらいたい。おそらく今回の作戦は、敵よりいかに索敵を早く成功させるかが鍵となる。索敵能力に優れたスポッターは、見つけ次第排除しておいた方がいい」
「こっちの洞窟が外れだとしても、何か収穫があればいいわね。骨折り損は嫌だわ」
宵一とユファラスのやり取りを聞きつつ、
アリーチェ・ビブリオテカリオがため息をついた。
「今回もよろしくお願いしますね、アーラさん」
『ああ。責任を持って、その命を預からせてもらう』
恭司・プラズランが挨拶をすると、アーラから生真面目な返事がきた。
『戦闘は可能な限り避けたいですわね。不意討ちにも注意しませんと』
「それについては大丈夫だろう。レーダー二機の索敵があるし、視界も確保できている。他にも個人で感知能力が高い者も多い。何とでもなるはずだ」
クモキリマルに乗る
グラーフ・シュペーの懸念については、ユファラスが太鼓判を押して払拭した。
* * *
ベイグラント騎士団の探索は、思いの他捗った。
理由は、やはり光源の存在があるだろう。
地形の把握に手間取らなくて済むというのは、本当に有難い。
その分のリソースを他に回すことができ、全体行動の安定化に繋がっている。
『スポッターらしき反応を見つけたです。周囲の反応の動きを見るに、まだ気付かれてはいなさそうですね』
『こっちも確認したぞ。動きは鈍いが、このまま直進するとぶつかりそうだ』
伊織と宵一が、推定スポッターの反応をそれぞれキャッチした。
「ふむ……気付かれず忍び寄って姿を確認し、仕留められるか?」
『いや、難しいだろう。私たちの誰も、熱源探知の対策をしていない。範囲外から狙い撃つことはできないか? 私だけでは威力に不安が残るから、できれば誰かと合わせたい』
「なら、伊織さんと宵一さんが適任だろう。遠当てができる。……ふたりとも、頼めるだろうか」
アーラと話し合い、ユファラスがふたりに声をかけた。
『構いませんが、星詩の支援をください』
『そもそも、なきゃダメージが通らんからな。すぐ移動できるようにもしておいてくれ。攻撃すればさすがに位置がばれる。速やかに移動して撒く必要があるぞ』
「その指揮はオレが執ろう。星詩は……」
伊織と宵一のもっともな要望に頷き、最初に切る星詩を吟味するユファラスに、
デューン・ブレーカーが声をかけた。
『妨害効果のあるものは温存しておいた方がいいでしょう。私から使います』
「そうだな。そうしてくれると助かる」
ユファラスも異論はなく、デューンに任せることにした。
デューンが想響星譚・大空に響く癒し詩を発動した。
高く澄んだ歌声が、洞窟内に反響して響き渡る。
しかし、思ったよりも遠くへ広がらない。
やはり洞窟の凹凸構造が邪魔をしているようだ。
「広げます。これなら届くでしょう」
秋良が想奏星譚・癒しの風が導くはを発動し、デューンの星詩を広げ、確実に伊織、アーラ、宵一の三人が恩恵を受けられるようにした。
『よし、準備が整った。撃つぞ。ふたりも用意はいいか?』
『いつでもどうぞです』
『既に完了している。タイミングは俺たちで合わせよう』
アーラがシュワルベWRzwieから尋ねると、それぞれの乗機であるデュランダルⅢとエスカリボールⅡの通信を介して、頼もしい返答が返ってきた。
* * *
二体のスポッターにとって、その襲撃は、どちらもがまったく予想外といってよい奇襲だった。
シュワルベWRzwieから放たれたゼッフィーロ<G>の直撃を受けたスポッターが、急いで壁の向こうに隠れ、遮蔽で身を守ろうとする。
だが、アーラが行った攻撃は、伊織と宵一の攻撃に繋げるための布石に過ぎない。
『よし、予想どおり隠れた。あとは頼む』
アーラの合図を確認し、伊織と宵一はほぼ同時に動く。
『こちらから姿は丸見えなのです。外しません』
『確実に仕留める』
僅かな差で先んじた伊織のデュランダルⅢがバーングラディエーターを薙ぎ払い、斬撃を跳躍させて直接スポッターを襲う。
伊織のデュランダルⅢが慌てて隠れる場所を変えようとするも、その涙ぐましい努力すら無意味。
シュワルベWRzwieによる砲撃、デュランダルⅢによる斬撃、その両方から逃れようと逃げ惑うスポッターに対し、宵一のエスカリボールⅡがビートルバスター<D>を振るい、必殺の一撃を飛ばす。
甲虫型バルバロイへの特攻能力を秘めた、この一撃こそが本命。
飛来した斬撃が、スポッターを両断した。
三人は、同じようにもう一体のスポッターも、速やかに片付ける。
周囲のバルバロイたちがようやく三人の存在に気付き、動き始めるも、その時には既にベイグラント騎士団は移動を初めており、そこに姿はなかった。
何度もスポッターに狙いを絞った撃破を繰り返したところで、その姿を見なくなってきた。
「……そろそろ、スポッターの数も尽きてきたか?」
「そうですね。反応でそれらしい動き方をしていたバルバロイは全部スポッターでした。似たような反応は見当たりませんし、少なくとも僕たちの周囲にいるスポッターは一掃したと見て良さそうです」
なおも移動を続けるベイグラント騎士団は、現在地から近い場所で、一か所に集まりつつあるバルバロイたちの反応に気付いた。
ベイグラント騎士団を襲撃するため、集まっているわけではないようだ。
もしそうだと仮定するなら、集まるバルバロイの数が少なすぎた。
「……おかしな動きですね。スポッターが発見して、周囲のバルバロイを呼び寄せたのなら、もっと広範囲から反応が集まってくるはずです」
「もしかしたら、味方が戦闘しているのでは?」
「確かに、可能性はあります。となれば……」
考えこむ秋良は、デューンの言葉を聞いて、伊織と宵一に確認を取る。
「付近にドラグーンアーマーの反応はありますか?」
『……あるです』
『友軍が戦闘しているとみて、良さそうだな』
ふたりとも、ドラグーンアーマーの反応にもきっちり気付いていた。
「となると、友軍で確定でしょうね」
伊織が頷き、シュワルベWRzwieのステージへ目を向ける。
「大変です。助けないと」
「幸い、あたしたちに助けに行くだけの余裕はあるわね。苦戦していないし」
慌てる恭司と、冷静に自分たちの戦力を数えるアリーチェが、同時にユファラスを見た。
「そうだな。助けに行くべきか。アーラと伊織さん、宵一さんを中核に、前線をミーラルさんと潤也さんで張ってくれ。スプリガン、ビルドチューナーを含めたたトルバドールとジオマンサー陣の妨害でバルバロイたちの虚を突いて、一気に畳みかけるぞ」
ユファラスが決断を下し、ベイグラント騎士団は速やかに移動を開始した。