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楽園シャングリラのとある日

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楽園シャングリラのとある日
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・暗闇の中へ2

 ライトニング騎士団の面々が、集団で洞窟内を進んでいる。
 照明のない状況では、探索行動はあまり捗っていないようだ。

『どう? 地形について何か分かりそうかしら?』
『いや、駄目だな。暗くて見えん』

 聞こえてきた桐ヶ谷 遥の声に、ストレートナビゲーターの使用に手間取っていたジェノ・サリスは、諦めて顔を上げて答えた。
 互いの顔も見えない状況なので、少々会話がし辛い。
 遥はライトニングカリバーンⅢに、ジェノはデュランダルにそれぞれ搭乗しているため、互いの表情の確認自体は、モニターを介して行うことは可能なものの、やはり地形が分からないというのはやり辛い。
 ごつ、という鈍い音がした。

『あっ……』

 それと同時に、ビーシャ・ウォルコットの声が聞こえてくる。

『また、ぶつけちゃいましたねぇ……明かりが欲しいです』

 ただでさえ狭くて操縦に気を使わなければならないのに、暗闇でそれもままならないビーシャの声は、切実だった。

『これが、光源になれば良かったのですが』

 虹色の光で構成されたラインをシオン・ツバキと繋いでいる鳥屋尾 牡丹は、ビーシャの操縦するシュワルベWRdreiのステージ上で、申し訳なさそうに俯く。
 光ではあるが、地形を把握する目的としては、光量が少なすぎて活用できないのだ。

「敵の姿が見えないのは怖いね。幸い位置は分かるから、心構えできるのは救いかな」

 壁にぶつかった衝撃で小刻みに揺れるステージの上で、事も無げに立ちながら、シオンが肩を竦めた。

『本当、レーダーとソナーがあって良かったわ。これなら最悪の事態は防げる。……少し、北に移動するわよ。南から近付いてくる集団があるわ』

 バルバロイの反応の場所と、それぞれの動きを見張りつつ、遥が指示を出して騎士団全体の指揮を執り、北上を指示する。
 先頭に立って、集団を先導するのはディマジオに乗ったフィーリアス・ロードアルゼリアだ。
 スタンドガレオンでは移動するだけで手一杯だろうと、小回りの利くイダテンを持ってきた判断こそ間違っていないものの、暗闇ではろくに調査が捗らない。
 この状況下では、遥の感知能力が頼りだった。
 絶対に不意討ちを受けるわけにはいかないが、遥はレーダーとソナー、さらにクリアマインドソード<D>による敵意感知、己の優れた感覚にものを言わせた殺気感知を四本柱に、敵の正確な位置を常に把握し続けているので、暗闇の奇襲からの騎士団壊滅という最悪の事態だけは避けられている。
 熱源探知をしてくる種が多い甲虫型バルバロイに対して、全員が対策を取れているというわけではないため、居場所を察知されることを防ぐことはできないため、このように頻繁に追いかけられる状況になってしまっているが。
 フィーリアスは、何度か壁にぶつかったりぶつかりかけたりしつつ、時には痛みを伴う体当たりな探索を繰り返し、着実に地形情報を集め、騎士団を先導していく。

「暗闇でほとんど見えないですが、それでも分かることはあるんです」
『そうね。私も協力は惜しまないわよ』

 照明がないため、地形把握は手探りでの探索による経験と、遥が逐一伝えてくるバルバロイの移動情報から導き出す推測が鍵となる。
 とはいえ、洞窟内にいるバルバロイ・アシッドや、バルバロイ・フォリジャー、バルバロイ・スポッターたちはこの三種ともそれぞれドラグーンアーマーやスタンドガレオンとは大きさが違うので、バルバロイが移動できる経路を遥たちが利用できるかどうかはまた別の話で、これもいちいちひとつずつ確認しなければならなかった。
 とはいえ結果的に、全体的に動きにくくはあってもドラグーンアーマーやスタンドガレオンが入りこめない場所というのはほとんどなかっただが、それも実際に手探りで確かめなければ分からなかったことだ。


* * *



 できるだけ戦闘を避けて進んできたライトニング騎士団であるが、どうしても避けられない状況というものは発生する。
 そしてその状況というのは、複数方向からバルバロイが進撃してきて、退路が無くなった状況とイコールで繋がる。

『三方向からバルバロイの反応が近付いてくる。接敵まであと三十秒程度……。もう逃げ場はないわ。戦闘準備!』

 この状況に陥るのが嫌で、戦闘を避けてきたライトニング騎士団だったが、なってしまったからには腹を括るしかない。
 遥の号令で、全員が一斉に戦闘態勢を取る。

『皆さんの機体は入念に事前整備しておきました。いざとなったら応急修理もしますよぉ!』

 ビーシャが【使徒AI】アベルのサポートを受けつつ、ハーモニウムガン<G>の発射準備を進める。
 ステージの上では、シオンと牡丹がそれぞれ星詩と星音を発動させようとしていた。
 シオンが歌うのは、元気の華舞。

「普段より歌声を響かせにくい……けど、頑張るよ!」

 地形の影響と効果範囲を減じさせながらも、シオンは曲に合わせて身軽にステップを踏み、その足元に色取り取りの小さな花を咲かせ、宙に舞わせる。

「支援と妨害は私たちにお任せください。……いきます」

 守護の門扉を発動させた牡丹がシオンの星詩を拡張させると共に、桜吹雪を舞わせその踊る姿を彩った。
 さらに、シオンを護るように、目前に扉が出現する。

『俺と遥で前線を張る! おそらく身動きが取れないスタンドガレオンは、バルバロイにとって格好の的に見えるはずだ……! 後衛にいても気を抜くな!』

 勢いよく前に飛び出し接敵するのは、遥のライトニングカリバーンⅢとジェノのデュランダルだ。
 至近距離にまで肉薄したことで、ようやく先頭にいたそのバルバロイたちの全貌が露わになる。
 大きさは、ライトニングカリバーンやデュランダルのおおよそ半分ほど。
 蟻タイプの甲虫型バルバロイ、フォリジャー。
 ライトニングカリバーンⅢに搭載されている【使徒AI】お局様が、この三種のバルバロイについて情報を検索し、遥へ伝えた。
 最優先すべきは敵側の索敵の要であるスポッターだ。
 集団の目となるこの種類のバルバロイは、徹底的に潰しておかなければ、後になればなるほどきつくなっていく。
 おおよその位置は分かっている。
 そして位置さえ捉えることができるなら、狙う技術が遥にはあった。

『……そこね!』

 クリアマインドソード<D>の一振りが、空間を穿ち斬撃を跳躍させ、曲がりくねった通路の地形を無視し壁すら透過して、射程距離ぎりぎりの範囲に踏み込んでいたスポッターを斬殺した。

『メルセデス、防御は任せた!』

 【使徒AI】メルセデスに機体の護りを託し、ジェノはライトニングカリバーンが攻撃した直後の隙をカバーし、遥を狙おうとするフォリジャーの目前に飛び込んで【神格】ソハヤノツルギを振り上げる。
 狙いを変えたフォリジャーがジェノへ酸を噴射するも、その前脚を斬り飛ばすと同時に元の場所へ戻っていたジェノには当たらない。
 そしてそのジェノの動きは、射線を開ける動作も兼ねていた。

『これなら外しませんよ!』

 ビーシャのハーモニウムガン<G>による狙い済ました四連砲撃がシュワルベWRdreiから放たれ、フォリジャーの胴体を貫いた。
 バルバロイ側も応戦を始めるものの、桜吹雪を舞わせる牡丹と光を屈折、反射させるフィーリアスが共に混乱を誘い妨害を行ったため、思うように被害を与えられない。
 辛うじて抜けた攻撃も、牡丹が展開する扉に受け止められる。
 さらに行われる遥とジェノの猛撃を防ぐことはできず、バルバロイたちは蹴散らされた。


* * *



 戦闘に勝利したライトニング騎士団だったが、暗闇の中での戦いは負担が大きく、各自消耗もそれなりにある。
 連戦を避けるためにその場を離れ、損耗した戦力の建て直しを図った。

『ちゃっちゃと応急修理しますねぇ~』
「皆の疲れを吹き飛ばしちゃうよ!」

 てきぱきと各機体の点検整備をビーシャが行っている間に、シオンも負傷者をステージ上に集めて一人ずつ傷を癒し、活力を漲らせていった。
 速やかに戦闘前とほぼ同じ状態に騎士団の態勢を戻すと、再度移動を始めた。
 とはいえ、照明がなく動き辛いことには変わりないので状況は好転しておらず、以後ライトニング騎士団は、作戦終了まで戦闘と回復、移動を交互に繰り返すことになった。


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