■青葉の香り 3
以前、参加した時に楽しかったので……と
月見里 迦耶は再び、王大鋸を誘ってシェテルニテを訪れた。
「模擬結婚式をご希望の月見里様ですね。ご希望の神父役はクロニカ・グローリーでお間違いはありませんか?」
「はい。よろしくお願い致します」
「ではご案内致しますので衣装をお選び下さい」
受付での確認を済ませ、迦耶と王は衣装選びへと向かった。
「本日もお越しいただき、ありがとうございます」
「かまわねぇが……。気に入ってんだな」
衣装選びへと向かいながら、迦耶が礼を述べれば王は迦耶が前にも模擬結婚式をしたことを覚えていたのかそう言って。
衣装を選ぶとき、何かイメージや好きな色、希望するモチーフ等があるか聞かれた際に迦耶は
「空を意識した衣装をお願いしたいのですが……」
と伝える。
とても一度では確認出来ないほどたくさんのウェディング衣装が並ぶ。王道の白から様々な色合いのウェディングドレスとタキシード。デザインも多種ある中から二人分の衣装を選ぶ。
迦耶は背中に小さな翼のついた柔らかい色合いの虹色の衣装と、白い紫陽花・霞草・スモークツリー等を使用した雲のようなブーケを選んだ。
王の衣装は迦耶の見立てにより青と白の色合いの衣装となった。
着替えを済ませ、二人は用意された式場の扉の前にいた。
キィ……という軽い音を立てて扉が開く。
用意された式場は壁や天井、床に至るまで全て白で揃えられていた。そこに投影技術を使い、蒼空を映し出す。
まるで空や雲の上を歩く様な雰囲気の中、二人は祭壇まで歩いて行った。
「本日はおめでとうございます」
祭壇で待っていたクロニカが笑顔を向ける。
「前回に引き続き、今回も引き受けてくださりありがとうございます。よろしくお願い致します」
クロニカへ迦耶はそうお礼を述べる。
「では始めましょう」
クロニカの進行で式が始まる。とは言っても今回は普通の式ではなく、オリジナル要素いっぱいの式となっている。
~~♪
式場内に聞こえてきたのは小さな翼の曲だ。
「一緒に歌っていただけますか?」
「ああ」
迦耶の言葉に力強く頷く王。一緒に歌えることになり、迦耶は嬉しそうな表情をしながら【【昼】パワーオブラブ】で王と一緒に歌い始めた。
『信じることから始まるような気がした
どこまでも続く 透明な空の下
どんな未来 どんな過去も
抱きしめて 羽ばたけ 蒼い空へ』
迦耶の歌声に、王の歌声も合わさって。
王は音を外しっぱなしだったのであまり歌が得意ではないのかもしれないが力強い声で最後まで歌い上げた。
「お二人の歌声、とても素敵でした。次は果実シロップ作りですね」
祭壇の横に準備されていたのはシロップ作り用の瓶と様々な種類のフルーツ。最後に瓶に入れるシロップだ。
「好みの味や果物等はありますか……?」
迦耶は王の好みを聞いた上で味と健康に気を使いながら旬のフルーツを虹に見えるように瓶に入れていく。
「色んなモンが作れんだな」
用意された瓶やフルーツ、シロップをまじまじと見つめながら呟く王。
迦耶が作っていたやり方を見様見真似で自分も作り始める。ひょいひょいと赤いフルーツを選び、瓶にいっぱいになるほど詰め込んだ。
「ではシロップを注ぎ、蓋をしますね」
二人が作ったそれぞれのフルーツ瓶の中にクロニカがシロップを注ぎ、蓋をする。
「こちらでラベルを描きませんか?」
「おう。何か書くか……」
迦耶が持ってきた【お絵描きセット】を使い、瓶のラベルを描いていく。
迦耶は中にいれたフルーツの絵をかわいらしく描き、青空と虹も描いて。
一方の王はどうしたものかと悩んだ後、血飛沫のようなものをラベルに描いた。
「では、交換をお願いします」
クロニカに言われ、二人は作った果実シロップを交換する。
「ありがとうございます」
「こっちもありがとな。味の保証とかは出来ねえが楽しかったぜ」
迦耶のお礼の言葉に王もお礼を返す。
王の楽しかったと言う言葉を聞き、迦耶は勇気を出して
「これからもお誘いしたいと思っておりますので、ご都合のよろしい時に、是非いらしてください……!」
と、これからも一緒に色んなことを楽しみたいことを伝えた。すると
「おう、ありがとな!」
と王から良い返事が貰え、迦耶の表情がぱぁっと明るくなった。
その後も二人は【フィルムカメラ】で撮影をしたりして楽しんだのだった。
西宮 彩とイドラの女王と最高の模擬結婚式を行うべくシェテルニテを訪れた
死 雲人。
(結婚なぞせんが、俺のハーレムの女として、模擬結婚式を行うのは当然だ。
この模擬結婚式を通して、彩とイドラの女王に俺と事実婚をしたと意識させてやろう)
そんな思いもありながら、模擬結婚式の申請をする。
「取り仕切り役? そんなものはいらん。全世界の中心は俺。俺が誓う存在なぞ俺しかおらん。
だからこそ、この模擬結婚式は俺が取り仕切るのは当然だ」
シェテルニテの受付スタッフにもいつものようにそう平然と言いつつ、申請を進める。
「場所は適当に厳かなチャペルでの教会風でいいだろう。俺は普段着。彩はウェディングドレスだ。俺に慎ましさなぞいらん」
さくさくと決めていく雲人。
申請を無事に終えた後、雲人は式場へ、彩はウェディングドレスを選びに行った。
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「お……お待たせしました」
ビスチェ風ウェディングドレスに身を包んだ彩がやってきた。デコルテ部分にレースがあしらわれハイネックになっている上品で可愛いデザインのウェディングドレスで彩らしい。
「よし、行くか」
「えっ、きゃ……っ」
彩をお姫様抱っこした雲人は式場への扉が開くのと同時に【レインボウカーペット】で祭壇までの道を虹色のカーペットにした。
お姫様抱っこをして歩きながら彩の胸を見る雲人。
「おっぱいで俺を誘ってるとは大胆だ」
雲人の言葉に彩は顔を赤らめて俯く。
そんな彩の顔を覗き込みながら
「やはり可愛い花嫁だな。ウェディングドレスでお姫様抱っこは憧れたりするのか?」
「それは……どちらも女の子の夢で憧れでもありますし……」
俯きつつも彩は答える。
今は様々な夢を見ることが出来る時代だが、それでも幸せな結婚やお姫様抱っこというのは夢であり、憧れでもある。
祭壇まで歩ききった雲人は彩の顔を間近で覗きながら
「俺は彩を、イドラの女王を、それぞれ『俺のハーレムの女兼事実婚の女』の一人とする事を誓う」
と言った。
「模擬結婚式だが、この誓いは事実だ」
自信満々に言う雲人は
「彩は、イドラの女王はどうだ?」
と彩の顔を見つめる。彩の真っ赤な顔を可愛いと思いながら
「こう言う事言われてうれしそうな顔をしてる」
と言う雲人だが、彩は頬を膨らませている。
雲人の予定ではここで二人から誓いの言葉を聞く予定だったのだが。
仕方ないとばかりに雲人は先に
「じゃあ、最高の愛をプレゼントしてやろう」
と誓いのキスも兼ねて深いキスを彩にした。
「んっ……」
彩が苦しげに声を漏らせば雲人は満足そうに口の端を上げる。
「彩の声、可愛いな」
しばらく深いキスを堪能した雲人はそう言って唇を離した。
はふ、と彩は呼吸を整えつつ、雲人をじっと見つめる。
「俺のハーレムの女兼事実婚の女の一人として相応しい」
キスの反応に雲人は今度こそ二人から誓い言葉を聞けると思ったが、彩はまた頬を膨らませて俯いてしまった。
「俺の子供を産みたいとか考えてるのではないのか?」
雲人が彩の頬を指先で撫でながら聞く。
「まあ、そこはお前が俺に頼む事だ」
女は好きでも子供に関心のない雲人。こんな話をすればいつもなら顔を赤くした彩が何か言ってくることが多かったのだが、今の彩は顔は赤いが頬を膨らませ、涙目になっている。
「……内縁の妻って響きがなんか嫌だわ」
痺れを切らしたのかイドラの女王が助け舟を出すように彩の気持ちを代弁する。
「……雲人さんのことは好きですけどそういう中途半端な態度は好きじゃないです」
雲人の自信満々な言動や行動が好きな二人だからこそ、今回のような模擬結婚式で事実婚にするという中途半端さは気に入らなく、不機嫌になったのだ。
「どうせならハーレム全員を娶るくらいの覚悟をしてからプロポーズをして欲しいものだわ」
雲人を見ながらイドラの女王は今後の展開に期待を込めて、そう言ったのだった。