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アバターリミット2022

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アバターリミット2022
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【2】仲間と限界へ挑む―1

 織羽・カルスリルテ・リリィ・ノースと共にアバターの限界へ挑む。
 
 複数人で挑む場合、自分達のコピーではなくこれまで特異者達が戦ってきた大型の敵が相手となる。織羽達の前に再現されたのは見上げる程の巨体の竜……竜族の末裔ハダルだ。
 
 ハルモニア・ドレスを翻らせ、織羽は歌う。
(青よ。はじまりの元素よ。どこまでも広がる大いなる海よ)
 アルテラの海を讃える唄を織羽が高らかに歌い上げると、その周囲に青の元素が満ち始める。
「神聖武装、形成」
 リルテは蒼月の杖を触媒に青き三日月の杖を形成する。
「この身は護り照らす、青き三日月。繋げ――ウィンクルム!」
 杖を掲げ、青の元素結界を展開。杖の結界術式と色隷の聖装の防御結界、織羽のパリエスを「繋結」の性質で繋ぎ、強固なものとする。
「行くよ!」
 大いなる翼を広げ、織羽は空を翔る。
 ハダルが大きく口を開き、炎のブレスを吐き出してきた。
 翼を羽ばたかせ、ブレスを回避しながら織羽はステラ・カデンツァを歌う。唄の効果で織羽とリルテの魔力が活性化され、内なる力を引き出す。
 空中の織羽に敵の意識が向いている間にリルテは地上から接近。杖と空蒼の細剣の二つを手に攻撃を仕掛ける。大型の敵とは言え攻撃の通りやすい部位は存在する筈だ。そう考え、脆そうな敵の部位……目や足、羽等を集中的に狙う。
 ハダルが大きく首をくねらせ、地上を薙ぎ払うように広範囲へブレスを放ってきた。リルテは杖を構えて結界の維持に集中し、ブレスが通り過ぎるまで耐え凌ぐ。
「く……っ!」
 ブレスの威力が尋常では無く、元素結界を保つだけで魔力を根こそぎ持って行かれる。急いでアルトルークの霊水を口に含んで魔力を回復し、攻撃を再開する。
 リルテの攻撃により少しずつ敵の体力は削れていく。だが、それよりもリルテ自身の消耗が早く、大きい。
 霊水の残りももう殆どない。魔力が完全に尽きる前に、リルテは勝負に出る。
「青き流れよ、母なる恵みよ、全てを繋ぎ――流したまえ……!」
 聖約によりリルテの神聖武装が活性化。その先端に青の元素が集い、一点に凝縮されていく。
 リルテの後を追い重なる様に、織羽の詠唱が、歌声が空から響く。マーレ・アリアの歌声は周囲に青の元素を満たしていく。
 それはリルテの攻撃のサポートであり、織羽自身の攻撃でもあった。歌声で青の元素に働きかけ、残る魔力を全てつぎ込んだ全力の青の攻撃を放つ。
 翼で身を包み防御態勢を取ったハダルへ二人の攻撃が命中。翼を突き抜けて本体へもダメージが入る。だが致命傷には至らなかったようだ。即座にブレスの反撃が放たれ、魔力の尽き果てた織羽達は防ぐことも出来ずに吹き飛ばされる。
 二人が戦闘不能に陥ると、すぐにハダルの姿が掻き消える。残念ながら挑戦失敗と判断され、シミュレーターによる再現が解かれたようだ。
 
 
 
「随分と硬い相手じゃのう……これは厄介じゃ」
 高橋 凛音はそう言って眉を顰める。視線の先では御霊 史華忌ノ宮 刀華が大柄な鬼と激戦を繰り広げていた。
 相手はかつて特異者達に討ち取られた六鬼衆の一体、土蜘蛛。六つの剛腕が振るわれる度に風が唸り、目前を拳が掠めていった史華の背を冷や汗が伝う。
「喰らったらひとたまりも無いわね……」
 そう言いつつも、史華は余裕の笑みを崩さない。黒華緋華を翻し、婆娑羅らしく何があろうとも笑って華麗に苛烈に舞い続ける覚悟だ。
 仲間達と息を合わせ、別々の方角から交互に攻撃を仕掛ける。素早い一撃離脱の戦法は、一発喰らえば即戦闘不能になりかねない強敵との相手には適していた。
 無論、相手もやられっぱなしという訳では無い。硬い皮膚に覆われた掌で史華の剣を真正面から受け止め、残りの腕を叩きつけてくる。
 成神月 鈴奈が両者の間に割り込み、鞘受けで土蜘蛛の攻撃を防ぐ。ただの殴打でありながら、鬼の怪力による一撃は丸太で殴られるよりもなお重い。逸らすために角度を付けた刃も意味は無く、鈴奈は背後の史華を巻き込みながら後方へ大きく吹っ飛ばされる。
「まずい、刀華!」
「任せてくださいです!」
 刀華が星降を抜き、光の刃を飛ばす。穢れを跳ね除け鬼の皮膚さえ切り裂くと言われる妖刀である。光の刃は土蜘蛛の体に命中し、確かに傷を作った。土蜘蛛の意識が刀華に向くとすぐに、凛音は仲間の治療を行う。
 巻き込まれて吹き飛んだ史華は大したダメージでは無かったようだが、土蜘蛛の一撃をほぼ正面から受け止めた鈴奈がかなりの深手である。天冥の宝玉を取り出し、自身の霊力を注ぎ込む事で宝玉の霊力を解放する。すぐに鈴奈の傷が癒え始め、同時に体力も回復させていく。
 ちらと横目で刀華の様子を窺えば、相手の拳を喰らわないよう常に距離を取って星降による牽制攻撃だけを行っていた。現状、味方が復帰するまでの時間稼ぎとしては最適の行動である。
 光の刃が土蜘蛛の顔を掠め、切傷を作る。だが、傷口は徐々に塞がっていき、数秒も経つと跡形もなく消え去っていた。
 刃を易々と通さない硬い皮膚に加え、驚異的な再生能力も保持している。今の所、相手が見せた攻撃は力に物を言わせた殴打や蹴りばかりであるが、自身の強靭さを生かして被弾を無視して躊躇いなく突っ込んでくる為、「ただの物理攻撃」が非常に危険で厄介なものとなっていた。
 加えて、その威力も並みの殴打とは桁違いだ。土蜘蛛が地を蹴り、刀華へ突撃する。横へ飛び退いた刀華の脇で土蜘蛛の拳が地面にめり込み、巨大なクレーターを作り出した。その衝撃波に刀華は押され、僅かに姿勢を崩す。
「あら、背中ががら空きね?」
 戦線復帰した史華が土蜘蛛の背後から斬りつけ、その背を蹴って後方へ跳躍する。与えた傷は浅いが土蜘蛛の気を引き、刀華への追撃を阻止することは出来たようだ。そのまま刀華と代わる代わる攻撃を仕掛けていく。だが相変わらず与えた端から傷は再生されていき、自分達の体力だけが削られていく。
「奥の手を使うとするかのう。鈴奈殿、動けますかな?」
「ええ、もう大丈夫です」
 治療を終えた鈴奈が立ち上がり、凛音は符を構えて言った。
「一時だけあの鬼の力を封じますじゃ。皆、行くぞぃ!」
 凛音は複数の符を投げつけ、土蜘蛛の左腕周辺に結界を張る。
 森羅万象の結界内では、例え鬼であろうと異能を封じられ十全な力を発揮できなくなる。札を剥がされる前に鈴奈が土蜘蛛へ接近。抜刀の構えを取り、しかし刃を抜かずに零の太刀で殺気のみを放つ。強敵相手では斬られたと錯覚させる程度の効果ではあるが、一瞬だけでも気を引くことが出来れば十分だった。
 結界に囚われている土蜘蛛の腕を史華が斬る。硬い皮膚に防がれ、与えられたのは軽傷だ。だが、その傷が塞がっていくことは無い。
 ステップを踏むように後ろへ下がり、史華は土蜘蛛の反撃を回避する。そこへ、刀華が突貫した。肉薄して振り下ろされたばかりの腕へ滅閃を放ち、即座に離れる。
 地面に叩きつけられていた腕の肘部分に赤い線が浮かぶ。線に沿うようにずるりと腕が滑り、土蜘蛛が姿勢を起こすと同時に肘から先が腕から離れ、地面に転がった。
「通ったです!」
 喜んだのも束の間、土蜘蛛は凛音を睨みつけるとそちらへ突貫する。刀華と史華が止めに入ろうとするが間に合わない。唯一間に合った鈴奈が間に割り込んで鞘受けを試みる。信念の光刃も展開し、出来る限りの手は尽くす。だがそれでも土蜘蛛を止めるには至らない。光刃を力づくで押しのけ、無数の傷を負いながら土蜘蛛は腕を振り抜き、鈴奈と凛音へ拳を叩きつけた。
 二人が戦闘不能となり、残った刀華と史華だけでは土蜘蛛に有効打を入れられない。攻めあぐねている内に疲労が溜まり、土蜘蛛の攻撃を回避し損ねて重傷を負ってしまう。全員が戦闘継続不可能となった時点でシミュレーターによる再現が解除され、土蜘蛛は消滅した。
 
 
 
「デカブツ相手に持久戦は不利だ。どうする、アクルル?」
「それなら短期決戦で急所をぶち抜けばいいのでは?」
「はは、ま、いつも通りだな」
 天峰 真希那アクルル・スゥは四本腕の巨漢のマガカミ、巌(イワオ)に挑む。
 アクルルは麒麟の血瓢箪の中身を口に含み、雷雲を生み出す。彼女が雷雲に飛び乗ると同時に真希那は踏み込んだ。
「天鳴流壱ノ型……緋雷ッ!!」
 極端な前傾姿勢を取ったかと思えば、次の瞬間には巌の目の前に移動している。
 天獣雷鞘が内蔵する雷を雷迅丸が霊力に換え、帯電した刃が稲妻の如き速度で振るわれる。
 一撃目は巌の頑強な皮膚に阻まれ、浅く傷をつけただけに終わる。構わず真希那は鞘の力を借りて二度目の緋雷を放つ。さらに続けて三度、四度と緋雷を繋ぐ。
 死角へ回り込みながらの攻撃を繰り返しているとその動きを読んだ巌が先んじて拳を繰り出してきた。拳に貫かれた真希那の姿が燃え上がる。それは不知火により発生した蜃気楼であり、本物の真希那は巌が突き出した腕へ雷迅丸を振り下ろしていた。
「ちっ」
 鎧のような肉体に阻まれ、これも有効打にはならない。一度離脱し、隠し持っていた身代藁人形にそっと触れてみれば既にぼろぼろになっている。拳が一度掠めただけでこの有様だ。長期戦はやはりこちらが不利だろう。
 真希那が再び突撃。アクルルの召喚した雷虎が挟み込むように位置取り、巌へ攻撃を仕掛ける。
 アクルルは板貯古の呼び符を用いてチョコレートを召喚し、その攻撃をサポートする。液状化したチョコレートに包まれた巌へ雷虎が飛び掛かり牙を立てる。だが振り向きながら全身の捻りで勢いを乗せた拳が、一撃で雷虎を消し飛ばした。一拍遅れて発生した衝撃波により、チョコレートも飛散して地面へ飛び散る。
 その眼前で光が弾ける。アクルルの放った天道の印だ。威力はなく目くらましの効果もほんの一瞬。だがその一瞬の内に真希那は宙を蹴り、巌の頭上へと移動していた。
 アクルルの虚彼岸により巌と真希那が重力場に囚われる。真希那が落下し始めると同時にアクルルは天破皇雷を撃ち込み、巌の雷への耐性を低下させる。
「任せたよ、真希那」
 残る霊力を全て真希那へ預け、アクルルはその場に膝をつく。
「天鳴流奥義、雷牙天鳴ッ!!」
 重力に従って落下する真希那は受け取った霊力と自身の霊力を雷へ変換し、極限まで加速する。
 空に向けて突き出される巌の拳とすれ違うように真希那が着地。直後、縦に伸ばされていた巌の腕が真っ二つに裂ける。
「止めだ!!」
 真希那は巌の首目掛けて時裂斬を放つ。
 空間そのものを裂く必殺の一撃。膨大な雷を纏った刃は、頑強なマガカミの皮膚を破りその首を刎ね飛ばした。
 武器を振り抜いた直後、真希那はその場に崩れ落ちる。奥義の反動に加えすれ違った敵の拳が発した衝撃波により全身の骨が砕けていた。
 起き上がる事もできない満身創痍の状態ではある。だがそれでも、二人は確かに限界を超える戦いへ勝利していた。



 草薙 大和草薙 コロナは土蜘蛛と対峙していた。
 威圧感を放つ巨体に怯むことなく、コロナは虎走りで一息に距離を詰める。相手が間合いに入った瞬間に斬りつけ、すぐに後退。与えた傷は浅く、土蜘蛛の再生能力によりすぐに塞がっていく。
「硬いですね。生半可な攻撃じゃ通りそうにないです」
「なら予定通り、『止め』の一撃を狙うとしよう」
 大和が駆ける。土蜘蛛が迎え撃つように腕を振り上げ、大和の真正面から拳を叩き込む。
 大和はその動きを見抜いていた。身を捻って拳の正面から逃れると、先んじて刃を突き立てる。足を狙った一撃は可能なら相手の体勢を崩す事を期待していたが、分厚い皮膚に阻まれ掠り傷を与えるに留まる。
 しかし拳を振り抜いた後の僅かな隙を突き、コロナが土蜘蛛の脇腹に刃を滑らせる。その刀身は雷を纏っていた。感電したのか、土蜘蛛がぴくりと僅かに身を震わす。しかしすぐに腕を振り上げ、攻撃を受けた事など微塵も感じさせない動きで拳を振り下ろしてくる。
 コロナが下がり、土蜘蛛が攻撃を空ぶったならば即座に大和が攻撃に転じる。有効打とはならず、すぐに傷は塞がれてしまうが、焦らず、諦めず二人は交互に攻撃を続ける。
 業を煮やしたか、土蜘蛛は三対の腕を振り上げて大和へ突貫する。そのまま力任せに振り下ろされる巨腕を、大和は避けるのではなく正面から迎えうった。グレートウォールによる鉄壁の防御術で、突き出された土蜘蛛の拳を全ていなす。
「くっ!」
 掠っただけでも致命傷になりかねない鬼の連撃だ。防ぎ切ったとはいえ消耗はかなり大きい。
 だがその結果、連撃を終えた土蜘蛛に決定的な隙が生まれた。コロナはそれを決して見逃さない。
「九頭斬ッ!」
 神速の乱撃が土蜘蛛を背後から襲う。その全身に決して浅くない傷が刻まれた。だが、それだけではすぐに土蜘蛛の再生力により塞がれてしまう。
 振り返りながら拳を振り抜いた土蜘蛛へ、コロナは後ろへ跳び退って零の太刀を放つ。強者相手では「斬られた」と錯覚させほんの僅かに怯ませる程度の効果しかない。だが、その一瞬さえあれば十分だ。
「ハァッ!!」
 裂帛の気合と共に、大和が九頭斬を放つ。コロナの与えた傷と合わさり、土蜘蛛の腕がいくつも切り落とされた。
 土蜘蛛の再生能力でも切り落とされた腕はそう簡単に修復できないようだ。残った二本の腕で戦闘を継続しているが、これまでの猛攻に比べれば随分と防ぎやすい。
 虎走りで駆けるコロナへ土蜘蛛の攻撃が空ぶった瞬間を突き、大和が九頭斬を放つ。土蜘蛛の脚に無数の傷がつき、バランスを崩した所へコロナが肉薄し、太い首目掛けて九頭斬を叩き込む。
「ぐっ!!」
 首を落としきれず、剛腕に払いのけられる。腹を突き抜けるような衝撃が来たが、月糸威鎧のお陰で重傷には至っていない。コロナよりも先に土蜘蛛が立ち上がる。だが、何か行動を起こすより先に、大和の攻撃が土蜘蛛に届いていた。
「止めだ」
 ソードルーラーで強化された大和の追撃が土蜘蛛の首を切り落とす。
 首が落ちると同時に土蜘蛛の身体は消滅した。すぐにシミュレーターによる戦場の再現も解かれ、無機質な金属質の景色が周囲に戻る。
 疲労感と安堵から大和はその場に膝をつく。どうやら、自分達は「限界の先」へと至る事ができたようだ。
 
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