【自分という強敵5】
“2人”のミューズがこれからライブを始める。しかし、それはただのライブではなく
リーニャ・クラフレットが“自分”に届けるライブだ。
「アイドルとして絶対負けられないんだよ!」
海が見える風景になり、水中を浮かぶような振付。2人のリーニャはゆっくりと回りながら、パフォーマンスをしていく。
そんな重力が少ない中で誰もが真似しやすい――楽しく明るいハートビートパンデミックを舞う。
リーニャのコピーもまたこちらのパフォーマンスに乗ってきている。それに対して彼女は乗り返して、高めていくかのように踊る。
様々な光が輝くその泡で跳ね、羽を使って飛んで追いかけっこ。
「ねぇねぇ私! すっごい楽しいの!! もしかしたらこんなに楽しいライブ初めてかもってくらい……!」
そう、彼女は今まで一番楽しい気持ちになっている。
そして、エタニティシャインで終演へと向かっていく。しかし、リーニャは気付いてしまった。
(そっか……今までで一番楽しくなれてるってことは――)
コピーのライブに引っ張られたからこそ、ここまで彼女は楽しくなっている。ということは、より楽しまされたのはリーニャ自身だ。
負けに気付いてしまったリーニャだが、楽しい時間を途中で終わらせたくないと最初まで2人でこのライブを楽しむであった。
これから行われる戦いは
行坂 貫とサポメンの2人と貫とサポメンの2人の戦いとなる。しかし、貫は何となく楽しくない気分であった。それはコピーに何も感じなかったからだ。
貫がサポメンを召喚したのと同時にヴィシャップを持ったサポメンが一気に突っ込んでいく。それに対してもうひとりのサポメンが喜びのイメージからの全方向攻撃で敵の足止めを遠距離から行う。
そして、旅人の智慧で影を呼び出した貫は一緒に激しい動きでコピーへと間合いを詰めていく。
「その程度なら当たり前についてくるか」
コピーはオリジナルと同じくサポメンを召喚して前衛と後衛に別れさせた。そして、足止めを行う事で近づきさせないようにした。
相手は自分の最高のパフォーマンスを持つ力のため、そのくらいは当然にしてくる事は想定していた。だからこそ、前衛と後衛を上手く使い分け、先に影やサポメンを倒す事で消耗を狙う。
相手と同じ事をしていては先に息切れを起こすのは貫のほうだ。そのため、回避だけではなくサポメンを防壁として使い防御をする。
しかし、コピーの数の方が多ければ不利になるのは貫だ。そのため、どうしても同じ数のサポメンや影を出さざる負えない。
「こうなったか……!」
そして、やはり息切れを起こし始めたのはオリジナルの方だった。相手が格上のためダメージを受けないようにするには全力で対応する必要がある。それはもちろん、コピーも同じこと。しかし――消耗戦を狙うのであれば同じ事をしてはいけなかった。
決定打を撃つ前に貫の戦いは終わりを迎えてしまう。
これは自分のための戦い。勇者アイドルとしてファンのために活動をしてきた
アーヴェント・S・エルデノヴァ。しかし、今回の戦いはそう考えていた。
「行くぞ!」
二極性ヒーローの彼は闇の人格となりダイン・シュテルネを使った剣舞のような動きを見せる。コピーもまたそれに対して同じく剣を使って応戦をしていく。
星雲のような衝撃波のダイン・シュテルネの攻撃はこの戦いを煌びやかにさせる。しかし――真っ向勝負で勝てるような相手ではない。
目の前の“自分”は100%の自分。
自分のファンたちの心に呼びかけ――#うちで歌おうを発動させる。そして、その力を星形に凝縮された流星群がコピーに襲い掛かる。
しかし、これでは倒せていないだろう。光属性へと変えたアーヴェントは星灯りの加護を使用して攻撃に備えた。ただ、それはコピーも同じでありそこから一気に攻勢に出た。
押されて行くアーヴェントはその攻撃をあえて受けて強力な一撃をカウンターとして返そうとしていたが――。
「ここで……!」
コピーもまた流星群をこちらに向けて放ってくる。コピーであるため威力は自分と同等かそれ以上だろう。そしてこの攻撃を受けてカウンターは返すことは難しく彼は大ダメージを受けて膝をついてしまうのだった。
「なるほど、向こうもタルちゃんを連れてきたか」
十文字 宵一は限界を挑む戦いの相手である“自分”を見てそう呟く。宵一もまた愛竜である咎竜タルア=ラルに乗ってこの戦いに挑んでいた。
神狩りの剣を振りかぶり双方ドラゴンに乗った空中戦が開始された。
同じく神狩りの剣を持つコピーの攻撃を受けた場合、精神力を吸収され更に強力になる可能性がある。それはこちらも同じであるが、格上だという事を考えると注意しなくてはいけない。
タルちゃんとの英竜一体の攻撃は剣撃の音が響き渡る。宵一は巻旋で防御をするが、こちらの攻撃もまた同じく巻旋で防いでくる。
武器を絡めとることも可能だが――こちらがしっかり力を入れなければやられそうな威力だ。
(さて、どうしたものか)
コピーも距離を空けてどのように攻め込むかを考えている様子。決めるのであればラグナロクブレイク・改を使ってくるだろう。
そして、やはり遠距離から最大火力を撃ち込んでくるモーションが見えた。現在の状態だと回避は難しい。
「相殺する!」
ラグナロクブレイク・改を放ち相殺を試みるが――。
「くっ……やはり相手の方が……!」
その威力はオリジナルを超えており、威力勝負に負け致命的な一撃を受ける宵一だった。
これからの強敵との戦いのために参加した
御子柴 瑞稀は目の前にいる自分と同じ姿の敵を見て不思議な気持ちになっていた。
「確かにわたしを超えなければいけない、ね」
露蘭式霊子機関銃を構えた2人の瑞稀は中距離戦での戦いを始めた。まずは本人を確実に狙うのではなく、前に出させないようにする牽制。
瑞稀は自分の戦いを考えれば長引くことは分かっている。その為の準備をしながらの戦いだ。
虚彼岸の符を投げる事で相手の動きの阻害を試みる。そして、そこから符をいくつか投げておく。本物か、それとも白紙か偽物か。それで撹乱出来れば重畳だ。
重力によって跳流駆の動きが鈍くなったコピー。そのため、照準も先程よりも落ちており徐々に牽制の意味がなくなりつつあった。
チャンスはここだと考えていたのだが――ここで敵の符が発動する。
「カウンターとして……!」
相手も本物と偽物を混ぜてくる事は予想しており、先に雷光閃を使わせ反動が来た時に銃を火力集中モードに切り替える予定であった。しかし――考え方は同じだとしても頭の回転が自分よりも早く対応も早い。これが最高のパフォーマンスを持つ自分だと思い知る。
そして、強力な一撃を与えることが出来ずに挑戦は終わり――超える事は叶わなかった。
国頭 武尊は目の前にいる相手を見る。あれは100%の自分自身。それは完全なる自分だ。
武尊は今回何にも頼らず、その自分を超える。
「真のウェイは何だか分かるか?」
コピーに向かってそう言う。
「そうこれが真のウェイ!」
そう言って力強く眼を見開く。
「( 0w0)ノ ウェーイ」
「∩(・∀・)∩ テンアゲ テンアゲ」
そして、ウェイ同士の戦いが始まる。これはウェイを超える為のウェイ。
「∩(・∀・)∩ テンアゲ テンアゲ ( 0w0)ノ ウェーイ」
「( 0w0)ノ ウェーイ ( 0w0)ノ ウェーイ」
「な、何だと……!」
武尊は気付いてしまう。目の前のウェイもどきの陰キャ野郎がやっている事を。そう――奴もまた何も使っていない状態で自分よりも更に陽キャでいるのだ。
「お、お前より僕は陰キャ野郎だというのか……!」
何もなくともウェイである自分の可能性は見えているが――自分が陰キャ野郎だという事が悔しかった。
この勝負は他の者が見ても勝ち負けが何なのかは分からないだろう。しかし、武尊は負けを認めざる負えなかったのだ。
エレメンタリストとしてSAM0071218#朝霧 垂}は更なる高みを目指していた。そのために、限界に挑み超えようとしている。
今回は聖鎚ローレライを持っている為、基本的に地属性での攻撃が多くなる。しかし、今回垂がやるのはエレメンタリストとして属性関係なく理解する事にあった。
「なるほど」
自分のこれまでの戦いを振り返るだけではなく、コピーの戦いを見ていると精霊剣・地を使う時は現象を纏わせて攻撃をしているのではないかと仮説を立てた。
やろうとしている事は元素そのものを纏わせることが出来ないかだった。
垂はエレメンタルバーストを発動し精霊の力を極限まで高めていく。そして、この力をコピーではなく闘気として自分の力に――。
「くっ……無理か……!」
エレメンタルバーストは元々極限まで高めた魔力を最大限に引き出した上で、魔力を高めて放つものだ。闘気は同じく自分自身の魔力を高めて身体能力を上げるものなので無理なようだ。
そして、この隙を突かれた垂はコピーにどんどん押されて行きこの戦いは負けに終わる、しかし、やろうとしたことが出来ないと分かっただけでも一歩進めたと前向きに考えたのだった。
戦いと開始にスペルプリズムで煌びやかな戦場となった
フレデリカ・レヴィの戦い。浮いている宝石と自分の魔力を共鳴させ、綿密な魔法制御が可能となっている。
浮遊している光剣はそれぞれ防御、攻撃と分けてあり豊穣の白輝杖で効果が高まっている。
宝石を使った多方向攻撃。それをどれだけコントロールし、相手に攻撃を加えるかが勝つための鍵だ。フレデリカもそれを分かっている。
「――魔力を極限まで同調させろ!」
可能な限りの集中力で同調させ、自分が魔法と一体になるかのように動いていく。どうにかコピーと戦えてはいるが、それだけやっても引き分けなのだ。
コピーは100%のパフォーマンスを持つ自分。そのため、先に限界が来るのはオリジナルだ。しかし、限界になったからといって諦めるわけにはいかない。
「これまでの全てを……全てを!」
光剣を限界まで増やし、涅槃子ビームビットや全ての力を持ってここに攻撃をする。
しかし、宝石の結界やヘクスエスカッションの魔法陣シールドが展開されると魔法ダメージを軽減されてしまい戦闘不能にするまでのダメージとはならなかった。
勝負を決めに行ったフレデリカであったが、これを防がれては手がないと限界を超えんとするこの戦いは負けとなった。
「お前にハンデをやろう」
そう“自分自身”へというのは
死 雲人だ。
「俺は全世界の中心でただ一人。ハンデをやるのは当然だ。そうだな――」
どういったハンデが良いのかを考える。そして、雲人が考えたハンデは単純なものだった。
「俺はお前との戦いで武器を使わない」
そう言い放った。
しかし、それに対してコピーは鼻で笑う。そして、拳を振りかぶると雲人に攻撃をする。
武器を使わないため、手には何も持っておらず回避に専念する。しかし、不可解だ。自分は武器を持ちこんでいるがコピーは拳を使ってくる。
「……お前もハンデだというのか……!」
相手は自分のコピーだ。自分がどう考え、どう動くのかが分かっている。だから、同じく心理戦を挑んで来たに違いない。
しかも、武器を持たない攻撃をしてくる事でハンデだという事に気付かせるという一枚上手な方法を取ってきていた。
「考え方のみと言えど、心も真似たか? ハーレムのための心が……!」
ハーレムのために戦う彼は全世界の中心の男であるために戦う。しかし――どれもコピーがひとつ上の事をしてきてしまう。
悔しさ滲む雲人。オリジナルは自分であるが――この悔しさを忘れる事はないだろう。
辻風 風巻は呼吸を整える。師範に言われた「超える日を楽しみにしている」という言葉。だからこそ、今目の前にいる“自分”を超えなくてはいけない。
自分も超えられないようであれば、その日は近い物ではなくなってしまうだろう。
「一手目……ここに――」
風巻の戦いのスタイルはスピードを生かしたスタイル。ここまで磨き上げた瞬発力、体捌き、太刀筋。それが彼の武器だという評価を得た。
しかし、その戦い方は自分を削ってしまう戦い方だ。
黒漆の霊篭手を使って大技の負荷は軽減している。しかし、彼の使う技は体に負担を掛けるものが多く、時間が経てば消耗が激しくなり次に繋げられなくなってしまうだろう。
相手は自分。しかも格上なため、必ず相殺出来ないダメージは帰ってくる。以前師範との戦いでもそれが勝敗を分けた。
「僕の全てを込める」
そこで考えたのが初撃――一手目から全力を込めて攻撃をする事。
雷動で瞬発力を上げて一気に懐へと入り込む。そして、踏み込みと同時に霊力を足と腕に注ぎ込む辻風流始ノ型・疾連風の速度で一撃。手ごたえがない。
コピーは磁刀『辻風』でその攻撃を防ぐ。
「次っ」
刀を鞘に納めた風巻はそのまま鞘に霊力を注ぎ込む。その抜き打ちは霊力の爆風が起こりそれにコピーが吹き飛ばされる。
「勝つのは僕だ!」
勢いを殺さず三井流奥義、空間そのものを断ち切る必殺の剣――時裂斬。これを当てることが出来れば確実に敵を倒すことが出来るだろう。今度こそ手ごたえを感じることが出来た。
「はぁはぁ……」
全ての力を注ぎこんで放った攻撃。これを受ければいくら100%の自分であっても立つことは難しいだろう。しかし――“彼”は立ち上がった。
「どうして……」
風巻は失念をしていた。100%の自分であるのだから、速度、瞬発力、攻撃力――全てが上回る。その速度があるのであれば直撃を避ける事は難しくない。
時裂斬の一撃は有効打となったが、倒すまでには至らなかった。それは何故か。
最大火力で攻撃をしたが、もし自分が全ての力を持った速度で対応したらどうなるだろうと考える。雷動による回避力や雷を霊力にした速度上昇。そして、着ている楓花羽織。
スピード勝負にスピード勝負を挑んだ事と同意義であり、自分より相手の方が速いのであれば対応されてしまうだろう。
風巻は反動により上手く戦う事が出来ず、コピーに押されて倒されてしまった。
鼎が得意とする戦術は守勢。守護をする力を使って守りを固め、その中で戦うものと
人見 三美は考えている。
そのため、持っている矛である天魔反戈は霊力を高める力を持っている事に加えて結界の力も向上させる。それだけではなく禍断霊壁も使うことで更に守りを固めた。
「自分との戦い……だからこそ自分が見えてくるはずです」
相手の防御を崩すことは難しいあだろう。番犬二郎三郎号に霊力を注ぎ込んで戦闘を開始。
攻撃を仕掛けているコピーへと向けて春驟雨を放つことで邪魔をして番犬二郎三郎号が戦いやすくする。しかし、それだけでは勝てないと、相手も援護射撃をしている中で番犬同士に割り込み鏡返しで攻撃を受け止める。2対1の形にして突破しようと考えたのだ。しかし、相手を倒すのであれば攻撃をしなくてはいけないため、コピーも前に出てくる形となった。
鏡合わせのような相手との戦いは、同じ戦い方によって進んでいく。
石凝鏡で相手の霊力を吸収して回復する事も出来るが、それは相手も同じだ。そのため長期戦になってくる。
「このままでは――」
相手の方が格上だと考えると霊力が尽きるのは三美のほうだ。術の威力なども相手が上のため、防いでくれている結界もいつ突破されるかが分からない。
ここにいる“自分”を超えることは叶わない。三美は次につなげる為どうすればよいのかと改めて考える事となった。
久那土の浄衣によって霊力感知能力を高める。そして、鏡花された神纏の狛犬を展開させる。
戦いの準備はいつでも
春夏秋冬 日向は出来ている。そして、今回戦う相手は自分自身だ。
相手の霊力を感知し、どこを狙うべきかを判断する。そして、弱点を見付けそこを突いていく。逆に狙われればそれを防ぐことでダメージを減らす事が出来るはずだ。
「やってやるぜ」
雷閃之振に霊力を込めて速度と切れ味を上昇させると、日向は構える。
相手の霊力の隙間。そして自分の霊力の隙間。攻撃は狛犬が防いでくれる。ただ、久那土の浄衣によって感じた危険は影分身を出すことで隙を作る作戦だ。
日向は俺の心と刃を胸に自分らしい戦いをすると決めた。しかし、相手は最高の状態の自分。同じ戦い方の場合ではやはり分が悪い。
幽世眼による精神的負担は軽減しているとはいえ軽くはない。
刀による一撃を刈意にて受けた日向は、そこから雷閃之振を複製しコピーへと投げた。これを防がれたとしても、そこで隙が出来る。
しかし、それをコピーは気にせず前に出てきた。鏡月剣の攻撃を放った直後の霊力の減りを狙われたようだ。
「ちっ……ここまでかよ……!」
それを防ごうとしたが攻撃をしてきた驚きと、初撃を影分身で防がれた事で隙が生まれコピーの攻撃が直撃し負けとなった。