クリエイティブRPG

ワールドホライゾン

アバターリミット2022

リアクション公開中!

 132

アバターリミット2022
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last

【自分という強敵1】


 アバターの限界。それは自分自身の限界を突破する事にも繋がる。そして、超えた先に見えるものは一体何なのか。

 柊 恭也の目の前に丸っきり自分と同じ者が立っているのを見ていた。
「さて、やれることは全てやっていかねぇとな」
 自分とアバターを見つめ直す。そして、目の前にいる自分との戦い。
 スティンガーを構えると相手に牽制としてヘビーアサルトライフルを撃つ。それは向こうも同じで牽制で銃弾を撃ち込んでくるため、恭也はツインシールドで防いでいく。
 致命傷にならないだろう攻撃は防ぎ、危険なものは回避をする。優先度をつけての戦法を挑んでいた。
 人間は100%であることはほぼないが、相手は100%の自分。相手の性能を落とせばよいと踏んでいたのだが――。
「ちっ……! 向こうの方が反応が速ぇ!」
 相手も中距離での戦いを挑んできており、牽制をして隙を狙って強力な攻撃を行うという基本スタイル。違いは100%の力を出し切れているかどうか。
 回避行動を可能な限り減らせば攻撃チャンスも出来ると考えたが、例え現在の自分が99%だとしても、1%の差で追い詰められていく。
 もちろん手と足が出ないわけではない。こちらの攻撃も当てることが出来ている。
「なるほどな――自分が考える戦法は向こうも考えられるって訳か」
 こうして追い詰められていった恭也は先に膝をつくこととなる。


 これから始まる数多彩 茉由良の自分との戦い。それをパートナー達は応援をするために駆けつけていた。
 少し離れた場所から見守るようにして、ナイア・スタイレス達4人が座っていた。
「最近ホライゾンでは、誰が強いのか? みたいな事が、よく話題に成っているみたいであるな」
 今回は茉由良だけではなく、多くの特異者達が限界に挑もうとしている。そんな中でも誰が最強なのかという話はよく出ているようだ。
「今に限らず、割と昔から……何度も話題には成っているわよ。実際、戦場に立つ特異者も多いから、必要に迫られて……という側面も、あるでしょうしね」
 メナト・アジズに対してチェーン・ヨグが答える。
「ドこのオ店の料理がオイシかった、トカの方が、興味あるネ。んー……モうちょっとネ」
 ナイアは2人が話している事よりも美味しいものや今湯煎をしている六明館かれいらいすのことしか気にしていない様子。
「そりゃあ……あたしも、新刊情報とか、図書館等の蔵書情報の方が興味はあるわよ」
「――あ、始まりますよ」
 榦宙 結が茉由良ともう1人の茉由良が動き始めたのに気付く。それを聞いて3人もまた茉由良へと視線を向けた。一体どういう結末になるのかはまだ分からない。
「よろしく おねがい します」
 きちんと“自分”にそう言うのはこれは挑戦であるからだ。
 実は茉由良はここへ見学へ行こうという話で着ていたのだが――彼女ら4人に乗せられた結果、こうして立っている。立ったからには中途半端な気持ちではなく、自分自身へ挑戦する事で試したいこともあった。
 豊穣舞を踊り、自身の生命力を活性化させて霊力への干渉を受けづらくする。もちろん、目の前の自分も戦うための準備をしていた。
 挑戦したい事はあるが、一番優先すべきは生存する事。死ぬことはないとは思うが――それでも、相手の零の妖気を受けたらただでは済まないだろう。
「自分自身と戦う――その自分自身はベストコンディションの自分か。どういった感じなのかしら」
「普通に戦っては勝てないだろう。それに自分が考えられる事は相手も考えられると思った方が良いだろうな」
 茉由良の戦いを観戦しながらチェーンとメナトがそう言う。
「危なかったら止める気ではいますが……挑戦したいこと、というのが出来れば良いのですが」
「そうだな……勝つにしても負けるにしても、何か見いだせれば一番だろう」
「そうね、今は見守るしかないわ」
「みんナ」
 突然ナイアが彼女らを呼んだ為、何かあったのかと振り返る。
「カレー出来たヨ。食べル?」
 彼女の前には出来上がったカレーが人数分置いてあり、それを差し出してきた。
「いただこう」
「私ももらうわ」
「ありがとうございます」
「終わったらお腹すク。ちゃんと取っておこウ」
 ナイアはまだ残っているカレーと茉由良を見ながらそう呟く。
 そして、茉由良の方はというと――やはり、徐々に押され始めているのが分かる。
 基本的に支援を行っている彼女は直接的に戦う事はあまりない。しかし、何があるか分からないので攻撃する手段は持ち合わせている。
 今回は1対1の戦いなのでその攻撃手段で応戦する事にするが――やはり、徐々に差が出始めていた。
「はぁ……はぁ……」
 肩で息をしている茉由良。零の妖気に当たられてしまえばどうなるか分からないため、回避に専念しているからか攻撃を受けてはいない。
 攻撃を受けないからといっても消耗はするため、疲労が隠せない。しかし、分かってきた事もある。
「ここまで わたしは うごける ということ……」
 今の自分がどれくらいの自分かは分からない。しかし、今戦っている完全な自分はここまで戦うことが出来ている――ということは、茉由良本人もここまで戦えるという事だ。
「……雰囲気が変わりましたか?」
 戦っている茉由良の様子に結が何かに気付く。
「あむ、んぐ……ゴクン。きっとお腹すいたネ」
「いや、違うと思うわよ……」
「何かに気付いたのだろうな。ここまで戦っている中で目の前の自分を見ることが出来たのだろう。しかしな……」
 メナトは何か懸念抱いている。それが何なのかは他の3人も分かっていた。
「パクパク。自分が出来るかどうカ、それハ別ネ」
「“出来ると分かる”事と、“出来る”事は全く違う意味――ということね」
「まゆらさん……」
 4人は心配そうに彼女を見守る。しかし、その決着はすぐに訪れる事となった。
 神霊化をする事で霊力の波動で応戦したり、相手の霊力を吸収する事で防いでいた。それは相手も同じ。しかし、先に限界が来たのがオリジナルの茉由良だった。
 攻撃を受ける頻度が彼女の方が多かった為、霊力を吸収する事が多くその力が弾けてしまったのだ。そして、それにより茉由良は倒れてしまう。
 それを見ていた4人はすぐに茉由良の元へと駆け寄る。危険だと判断されたのか、すでに彼女の分身はいなくなっていた。
「大丈夫か!?」
「はい…… だいじょうぶ です」
 ゆっくり立ち上がるところをみて4人は安堵をする。
「負けちゃったけど、何かは見出せたかしら」
「そう ですね。こえられません でしたが……まだ うえには いけそう です」
 そう言って茉由良は笑った。
「それなら良かったです。少し休んでから戻りましょう」
 戦ってすぐなのでこのまま帰宅となると彼女が辛いかもしれないため、結はそう言う。
「ハい、イッパイ食べてゲンキ出してネ」
 ナイアがカレーがよそってある皿を茉由良へと手渡すと、それを受け取り食べる。
 今はまだ自分を超えることが出来なかったが、自分がどこまで出来るのかは分かった気がした茉由良だった。


 他方 優は白夜の細剣を構えて深呼吸をしていた。これから始まる戦いは本当の意味で自分自身との戦いになる。
 優の戦い方はコルリス王国の聖霊ルメナスによる加護によって自分自身を強化。そして、マジン・アーマー・ザ・グレートと剣を使い、自分でヒーロー・ザ・デイブレイクと呼んでいる神聖武装を形成し、一気に加速をして距離を詰めて攻撃――というスタイルだ。
 相手は自分であるため、このスタイルで戦ってくる事は目に見えている。そして、同じ戦い方をすれば必ず負けるのは目に見えて居る。だからこそ今までの自分とは違う方法を取る事にしていた。
 勝負は一瞬だ。これに勝てなければ自分は自分に勝つことは出来ないだろう。
「――行くよ!」
 自分自身を強化、神聖武装を形成、そして試製魔導推進器で加速。ここまでは同じだ。しかし、違うのはこの時点で融和を行う事で、自分自身の霊力を一気に高める。
 この方法は切り札であり、いつもの自分であればこんな方法は取る事はない。
 限界まで高めた魔力でラストデモリションを放つ。そして、力のぶつかり合いは大きな衝撃を生んだ。
 そして、決着。分身は大きなダメージを受けていたが致命傷は避けており、そこから一気に畳み込まれて優は倒れる事となる。
「まだ……力不足だった……かな」
 徐々に彼の意識は遠くなって行き、気絶をしてしまうのだった。


「さて、相手になってもらおうかな」
 3AWとジ・アドマイアラーを構えた紫月 幸人はこれから自分との戦いに挑む。もちろん、その自分は丸っきり同じ姿をしている。
 パーン! と服がはじけ飛ぶ音が聞こえると、全裸の幸人2人が向かい合う。
 オリジナルの幸人はゆっくりと前に進んでいく中で、コピーが銃を撃ってくるが浮雲流にてその攻撃を回避。そして、このまま近接戦闘になると相手も気付いたのか銃撃ではなく、同じく近づいてくる。
(あーもう、色んな意味で自分がこんなに面倒だったとはなぁ)
 蹴りを回避してから銃を構える。しかし、それを蹴りからしゃがむことで回避したコピー。足払いを狙ってくるところを受け流す様にして回避しようと試みる幸人。
 しかし、相手は自分でありながら、ベストコンディションの自分。追い詰められていくのはオリジナルだった。
 面倒という意味合いには色々ある。目の前の自分、そして変わった自分に対しての意味合いも含まれている。だからこそ勝ちたかったのだが、そうはいかないようだ。
「くっ……あえて受けた一撃がきつすぎた……かな」
 あえて受けた直撃の力をザ・ペイシェンスの能力を使ってデュアルバーストで全弾叩きこむ――そこまでは良かった。一枚上手な自分自身のコピーはそれを受け流し、受けたダメージを同じくデュアルバーストで返してきた。
「そりゃ……自分だもんなぁ……」
 自分が出来るなら相手の自分も出来る――天井を見ながら幸人はそう呟き溜息をこぼすのだった。

 バトルクルーザー級エアロシップが浮かぶフィールド。そこに乗っているのは土方 伊織だ。彼もまた自分自身との戦いに身を投じた1人。
「リュッツォウ2隻あるフィールドですけど……広域展開は出来なそうですね」
 相手もまた同じくリュッツォウに乗っている自分自身。ある程度の広さはあるが、広域展開は出来ない事が考えられる――であれば、船の装甲を信じて真正面から砲撃戦を挑むのが一番だろう。
 主砲の大口径連装魔力砲に加えて中口径三連装魔力砲二基、浮遊型中口径連装魔力砲もまた2基搭載されているため、戦力で考えれば互角。
 後は経験の差が出る。データ上の自分だけならばそこに隙が生まれる可能性がある。それを狙って粘り強く待つしかない。
 伊織とコピーとの激しい撃ちあいが始まり、どちらも致命傷を避けつつ考えていた通り真正面からの撃ち合いとなる。しかし、伊織の予想は外れる事となった。
「データ上だとしても相手は自分の最高のパフォーマンスでした……! このままじゃ危険です……!」
 常に自分自身は100%の力を発揮出来るわけではない。しかし、相手は逆にそのパフォーマンスを持ってこちらとの戦いに挑んでくる。そうなれば、押されるのは自分となるのは必然だった。
 船からは煙が上がり、危険を知らせるシグナルが鳴り始める。こうなれば負けるのはオリジナルの伊織だ。
 彼は悔しいが負けを認めるしかないのであった。


 激しいぶつかり合いが行われているのはビーシャ・ウォルコットとそのコピーだった。
 彼女の戦い方は覇拳の闘気を纏い、武術の心得、拳豪としての心得から自分自身を強化し、格闘家として至近距離での戦いを挑んでいた。
「はっ! ふんっ!」
 こちらが拳を繰り出せば、相手はそれを右腕で受け流し、同じくパンチをしてくる。それを体捌きと浸空による衝撃で威力を殺す。
 勝負がどこになるかはビーシャ自身分かっていた。
 この守りの戦いで勝負をつけるためにはカウンターを狙う必要が出てくる。そして、回避をしてから無影脚をカウンターで叩き込む。これを直撃させられるかがポイントだ。
 自分だけではなく、同じ自分だからこそ相手もそのタイミングを狙っているだろう。しかし、体勢を崩し始めたのは自分自身であった。
 相手の反応が自分よりも少しだけ早く、対応出来ないことが彼女は気付き始めていた。
「くっ……!」
 コピーの浸空で乱されたビーシャ。そして、そこに無影脚の構えを取る。ただ、ビーシャは隙を見せたからこそ狙ってくるだろうと思っていた。
 ここで攻撃を防ぎ逆にカウンターを取れれば――しかし、相手の方が一枚上手であった。乱された自分の体勢は思ったより酷く、呼吸が乱されていたのだ。
 衝撃を殺しきれない攻撃を受けたビーシャはそのまま膝をついてしまい、負けてしまうのだった。


 鳥獣型の使い魔と一緒に戦いの場にいるのは葵 司だ。そして、目の前の敵もまた鳥獣型の使い魔を連れてそこに立っている。
 戦うのは自分自身。そして、超えるべき自分でもある。
「やることはひとつだ!」
 グラップラーの司は守護鳥と共に前に出る。そして、相手はその守護鳥を上空からこちらに向けて放ってきた。それがいつもの司のスタイル。
 しかし、彼は同じ守護鳥を低空飛行させ真正面から邪魔をするようにして飛ばした。もちろん、相手は上からの攻撃に警戒しただろう。
「嫌がってんな。よし」
 これを嫌がるということは、そこに自分の隙が出来るということ。しかし、逆に上から攻撃をしてくる相手の使い魔の相手を自分がしなければならない。
 攻撃、防御。相手――自分の戦い方をしっかり見極め、それを自分の成長に繋がる。しかし、最高のパフォーマンスの自分の相手では徐々に力負けをしてきた。
 それでも自分の糧のするためにスピリットオブガッツで立ち上がる。ただ、それも限界が訪れるのは自分が先だった。
「……自分はまだ成長出来る……。それが分かっただけでも――」
 意識が遠のきながらそう彼は呟くのだった。+


 知る事。それはどんな状況でも必要な事であり、今回行われることに関して非常に重要な事だ。
 クロウ・クルーナッハはエイボンの書をパタンと閉じると前方にいるもうひとりの自分を見据える。これから知る事になるのは自分自身とそのアバターだ。
 ラプラスの魔瞳環を発動、バイオコンピュータによる高い計算力。それを持っているのは相手も同じ。それだけではなく、相手は一言で言えば完全な自分とも言えるコピーだ。
「そう、これが私だ。だからこそ、更に知る必要がある」
 永劫の探究を持つ彼女は更に自分を知る為、踏み込んでいく。最高のパフォーマンスを持つ相手にはこれくらいしなくてはいけない。
 クロウはエーリヴァーガルに閉じ込められている霊気と毒を周囲に放ち、そうなった場合の“自分”を観察していく。そして、毒霊気に紛れて門の解放し、現れた邪神群を操り攻勢に出る。
(もっと――そう、もっとだ。最適は何なのかを見せてくれ)
 どれがどうなり、どう考え、何故そうなったのか。踏み込んだ先に見えたのは――。
「なるほど――これが私か」
 倒れたコピーを見ながらここまでの戦いで知り得た事を自分なりに彼女は整理をしていく。
 いつもより踏み込んだからこそ、限界の自分が見え、その先へとたどり着けたのだろう。
 情報の精査、必要なことの優先度――それをまとめる為の処理速度。まだまだ知り得る事があると思うと、クロウは嬉しくなるのだった。


First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last