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アバターリミット2022

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アバターリミット2022
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【3】TRIAL技術部―2

「いつも思ってたんです。私達は攻撃力が足りないと!!」
 弥久 佳宵はキョウに向けて熱弁を振るっていた。
 机に置かれた提案書には巨大な大砲のイラストが載っている。列車砲位の大きさをしており、主に艦船に搭載して使用するようだ。
「十分な火力を持つのは数人だけで良いんです。敵を一撃で葬れるだけの火力さえあれば、誰かが死ぬ前に戦闘が終わるんですよ! 足止めして、戦って、その間に敵を吹き飛ばす準備をすれば強力な攻撃で綺麗に片付きます。一度、サイズや実用性は無視してでも問答無用で神様でも屠れる兵器とか、そんなのを試して下さい!」
「神殺しの兵器か。神格装備も少しずつ実用化しているが、一撃で葬れる、か……」
「後、拠点ごと敵を吹っ飛ばせたら楽じゃないですか。キョウさんとか決戦の準備してる相手をいきなり吹っ飛ばして高笑いするのが似合いそうですしね」
「はは、言ってくれるな。まぁ、ロベリアの全能力解放が現実世界でもできるなら容易いだろうがね」
 楽しそうに笑うキョウに、もしや気にいって貰えたのか、と期待した佳宵だったが。
「だが、甘い。その一撃で葬れるだけの火力を、そっくりそのまま跳ね返されたどうする? オーラによる防御術を極めたセレクター、黒田 官兵衛であればそんな芸当ができてもおかしくない。
 使う武器がどれほど強かろうと……いや、強ければ強いほど、使い手が未熟な時のリスクが上がる。物の性能を過信しているなら特にね」
「なら、こちらはどうだ?」
 弥久 ウォークスの差し出した提案書には検証の意味もあるinspection(インスペクション)の文字が仮名として記載されていた。どうやらエアロシップに近い形状の艦艇のようだ。
「新世界創造計画や神域、新たな敵や、神多品の崩壊……俺でも分かる程度には三千界が変わりつつある。そういった事態に対応するために、トライアルでは既に新たな装備の開発案は出ているんだろう? 特に界賊のような巨大兵器を持つ敵対者に対しては、こちらも同じように巨大な艦艇や大砲なんかを作って対応するつもりじゃないかと思ってな」
 それに乗っかる形で提案しに来た、とウォークスは言った。
「戦闘艦だが、可能なら人型に変形できるようにしたい。ユニークアバターやアバターオーラの研究はそちらでやっていると聞いた。その技術を応用すれば、操縦者の思うように動かせるようにできたりしないか?」
 キョウは提案書の隅々まで目を通し、やがて口を開く。
「成程、中々面白い提案だね。だが……」
「ちょっといいか? 提案された中でいくつか見てほしいのがあるんだが」
 そう言ってジェシカ・丸山はキョウに数枚の書類を手渡した。
 一枚目は新型メタルキャヴァルリィの提案書だ。発案者の夏色 恋がジェシカの背後から身を乗り出す。
「やっぱり新装備にはロマンが大事だと思うの! 合体ってロボットアニメじゃ定番だけど、テルスにはそういうのまだ無いよね? TRIAL技術部の人達ならそういうロマンを理解してくれるんじゃないかなって。どうかな?」
 提案の内容は分離・合体機構を持ったメタルキャヴァルリィだ。分離すると小型のメタルキャヴァルリィと戦闘機型の僚機に別れるらしい。
 一通り目を通したキョウは、肩を竦めて答えた。
「コレも、先程の戦闘鑑も面白そうだとは思うのだがね。
 資材ばかりは現地の稀少鉱物とかが必要になり、技術とは別の問題が発生する。ゼストのIFみたいにデータから具現化して済むわけじゃないし、実際にカタログスペックを発揮できるかは、テルスで試すしかない。それにはエーデル氏の協力がいるが……残念だが厳しいだろう。すまないが今回は不採用とさせて頂こう」
「まあそうだよな。次二枚目、お前が興味持ちそうな奴」
 ジェシカに促され、キョウは書類をめくる。
「ほう、これはエクスマキナの……」
 キョウが目にしたのはアイン・ハートビーツが持参したエクスマキナ用の新装備設計案だ。
 正確には装備というより肉体そのもの。合成人間の交換用ボディのように、エクスマキナだけが使える機巧式の全身義体である。仮の名称は機巧義体。ガイアの機巧、セフィロトの錬金術、クロノスの星術を合わせた、恐らくTRIALでしか作れないであろう一品だ。
「動力源は重力操作系ギアストーンとクロノハート……成程、これで攻撃性能や機動力の強化か……ふむ、パンツァーゴットと別ベクトルの強化案としては中々……」
 キョウはぶつぶつと早口で何かを呟いている。余程興味を引かれたようだ。
 ややあって、無言で何か考え込む様子を見せるキョウへアインが話しかける。
「一応、デモンストレーションに使えそうな装備は持ってきているから、試作品を作ってもらえるならすぐに試せるけど、どうかな?」
 キョウは数秒悩んだ後、ゆっくりと首を横に振った。
「私個人としては興味はあるが、今すぐ試作品を作れる代物ではない。組み込む技術が多いからね。ただまぁ、実用化に向けた検討はしておこう。またこういう機会があった時、その時点でも必要だと求めているようであれば、試作品を渡して運用を試せるようにね」
「惜しくも今時点では不採用、ってところか。んじゃ、本命は残りの二つだな」
 ジェシカが残る二枚の提案書を指し示す。提案者はライオネル・バンダービルトシャブダ・ボーディだ。
 目を通したキョウは目を細めて呟いた。
「ほう……これは分かってるね」
「だろ? 実はもうパーツ作らせてる。あとは組み立てるだけだ」
「私も手伝わせてもらうとするかね」
 キョウは立ち上がり、ジェシカと共に試作品の製作に向かった。
 
 それから暫くして。
 
「言っちまえばモチーフにしたのはこのパイルフィンガーだ。腕一本の中に杭を六本仕込んだゴキゲンな武器でな、使うときはどちらかと言えばクローや槍みたいな使い方になる」
 ライオネルは技術部の職員と協力して試作品を調整していた。既にガワの部分は完成しており、無骨な二本腕のギアが作業台の上に鎮座している。
「もう完成しかけてる。流石TRIAL技術部」
 凄まじいスピードで試作品を作る職員達を見て、苺炎・クロイツはそう口にしていた。
「ここの連中はクセは強いが実力は確かだからね」
「お前がソレを言うか」
 苺炎は今、キョウとジェシカの手伝いをしている。と言っても武器製造の知識は無いので専門的な作業は専門家たちに任せ、彼女が請け負うのは主に雑用だ。
 工具や材料の運搬に片付け、記録するための機材準備等。少し前までは限界実験に挑む特異者達のサポートも行っていた。
「カメラの角度、直してきた。これでちゃんと映るはず」
「ご苦労。さて、さっそくだが試運転と行こうじゃないか」
 試作品を身に着けたライオネルが別室へ入ると、シミュレーターが起動して数体の魔物が生成された。
『実戦に近い形式の方がデータを取りやすいからね。そんなに強い個体では無いから安心するといい』
 スピーカーからキョウの声が響く。魔物たちは牙を剥き、今にも飛び掛からんとしている。
「ぶっつけ本番で戦えとか無茶言いやがる。まあ、せっかく俺が望んだ武器を作ってくれたんだ。しっかり実用性は示してやるさ」
 飛び掛かってきた魔物をライオネルは増設した腕で殴りつける。機能を盛り込めるだけ盛り込んだ機械の腕はかなりの重量があり、ただの打撃武装としても優秀だ。
 続けて鋭く尖った爪先を突き立て、切り裂いてその切れ味を確認する。
「文句ねぇ切れ味だ。んじゃこっちはどうだ?」
 内蔵された大型散弾砲を取り出し、魔物に向かって発射する。的になった魔物は全身が穴だらけになっており、威力は申し分ない。
「おおっと」
 だが発射の反動が思っていたより大きく少しバランスを崩してしまった。ここは改善の余地ありのようだ。
 散弾砲を収納し、腕を真後ろへ。エナジーウィングを起動すると指の噴射口からマナが噴出され、急加速して遠くの魔物まで一気に肉薄する。
 突き出した爪をスパイラルで高速回転し、腕ドリルに。突進の勢いを乗せた一撃は簡単に魔物の身体を貫いた。

「ふむ、いくらか改善点はあるが概ね問題なさそうだな。威力も申し分ない」
 提案書によればデュプリケイターで複製した状態の運用も考えてあるらしい。そちらの検証用に別の被験者を準備するよう、キョウは技術部の職員に指示を出す。
「お疲れ様。これお茶、どうぞ」
 戦闘を終えたライオネルへ苺炎が冷たいお茶を手渡す。試作品のギアは技術部員達が回収し、さっそくメンテナンスや改良を始めている。
「随分重そうだけど、大丈夫?」
 試運転の様子を見ていた苺炎はキョウへ尋ねる。元々質量のある外殻に大型の散弾砲やマナ噴出機構まで追加したことにより、試作品はかなりの重量になっていた。使っていたライオネルも少し振り回されていたように感じる。
「火力を重視した武装だからね。とはいえ、エクスマキナには重力操作の能力がある。あくまでカスタマイズを前提としたギアであり、一見するとロマンに溢れているようで、実用性もある。カスタマイズのハードルはやや高めだがね。コアの出力を補う術があれば、彼であればさっきのように振り回されず使うことができるだろう。そうだ、もう一つの試作品はどうなってる?」
「ついさっき完成したって連絡がきたよ。今試運転の準備をしてる」

 数分後、試作品を装備した佐門 伽傳がシミュレーションルームに入ってきた。
 装備した、と言っても目に見える状態ではない。シャブダの提案した装備は仮名「AAツクモデバイス」。依代装備に神祇を憑依させた上での使用を前提とした、ATDのサポートデバイスだ。現在は神霊化したシャブダがその身に取り込んだ状態で伽傳の武器に憑依している。
 通常は神祇が憑依した武器にオーラを纏わせる効果だが、神祇が神霊化した状態なら装備者の全身にオーラを纏わせる事が可能だ。このオーラはアンチアバター性能を有しており、対特異者との戦闘で大いに役立つ。
『長時間その状態を維持するのは難しいだろう。すぐに始めてくれ』
 設計上、オーラを纏った際の霊力消耗はかなり大きい。試作品という事も有り最適化もなされておらず、今は保って数分といった所だ。
 シミュレーターにより数体の妖魔が生成される。伽傳はまずは軽く動いて異常が無いかを確かめる。普門示現、【レイス】六臂観音で増えた腕にシャブダが憑依した黒蓮乃戈と金剛砕破を持ち、次々と突きを繰り出していく。多少の傷はシャブダの分霊が癒してくれるので、試運転のデータをなるべく多く得られるように、率先して敵に突っ込んでいった。
「うむ、身体の動きに支障はない。オーラもしっかりと固定できているようだ」
(だね。さっき提案したばかりなのに、まさかこんなに早く完成させてくれるなんて思わなかった)
 微調整は必要だろうが、基本的な構成はほぼ出来上がっているようだ。アバターのオーラ研究を行っているキョウだからこそ、製作指示も的確に行えたのだろう。だがやはり霊力の消耗は大きいようで、伽傳は既に疲労を感じ始めていた。
 最後に残った妖魔へ二槍の切っ先を向け、金剛砕破を放つ。自身の纏っているオーラが風のようにうなり、推進力となって伽傳を加速させる。
 妖魔を倒し終えた伽傳はシミュレーションルームを出て、試作品を使ってみた感想をキョウへ伝える。
「使用感に問題は無し、と。アンチアバター性能はこちらで計測していたが、もう少し改善の余地がありそうだな」
 計測結果を書き記した書類にキョウが手書きで伽傳の所感を書き加える。すぐにもう一つの試作品共々、技術部総動員で完成に向けて調整が進められていく。
(官兵衛さんがやってた、へし切長谷部にオーラを纏わせる奴。神祇なら似たような事できそうだなって思って提案してみたけど、うまく形になりそうかな。ユーラメリカのサーヴァントとかエデンの同調とか、他のアバターでも応用できるといいんだけど)
 流石に別のアバターで似た装備を作るとなれば一から設計し直しになるので、今は無理だろう。だがもしかしたら、今回シャブダの提案から作られた装備を元にまた新たな装備が考案される事もあるかもしれない。

 やがて、調整が完了した試作第一号はそれぞれ発案者へと手渡されるのだった。

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