■プロローグ■
――TRIAL技術部。
「どうしたんですか、キョウさん。難しい顔をして……それ、Project.A.Mの新曲っ!」
「ん? ああ、あのいけすかないパリピ女が私に送りつけてきてね。
厳密には、TRY-RのブレイクP宛だが。だが当然、新曲のプロモーションなんかではない」
限界実験のモニタリングをしながら、
キョウ・サワギは私物のタブレットをノエルに見せた。
表示されているのは音楽プレイヤーで、Project.A.Mの新曲のジャケットと曲名が映っている。
「メッセージはこのアルバムアートワークの中に隠されていた。これだよ、ノエルん」
「えーっと……『Projiect:Over the singularity』?」
「アマネがずっと追いかけてる界賊案件に関わるものだよ。
人為的に神格持ちのアバターとその適合者となる特異者を同時に生み出す計画、らしい。
セレクターとは別口だが、これもまた“神域”絡みなようでね」
ノエルが読み進めているが、さすがに彼女には難しいようで、首を傾げている。
「キョウさん、今回の実験のこと、リサさんとジェシカさんに持ちかけたのって……」
「この件があったからだよ。私も研究者の端くれだからね。
アバター研究で“敵”に先を越されたくないのだよ。
……いずれにせよ今の三千界の脅威に対抗するために必要なことだったから、建前には困らなかったがね」
キョウはノエルに向かって微笑みかけた。
「ノエルんも強くなった。もう一人前の鍵守として胸を張ってもいい頃だと思うよ。
現にホライゾンの新生につきっきりのヴォーパルに代わってゲートを支えているのだから」
「は、はいっ! ……でも、珍しいですね、キョウさんがそんな風に人を励ますなんて」
「君に対しては普段から優しいだろう、私は。たまにからかうことはあるかもしれないがね。
どこぞの誰かへの態度を見てそう思ってるのかもしれないが、あれはあれで特別だからね」
■目次■
プロローグ・目次
【1】自分という強敵1
【1】自分という強敵2
【1】自分という強敵3
【1】自分という強敵4
【1】自分という強敵5
【2】仲間と限界へ挑む1
【2】仲間と限界へ挑む2
【3】TRIAL技術部1
【3】TRIAL技術部2
エピローグ