■プロローグ■
――帝都、市谷区。五星邸。
「これは楓様。わざわざ館までいらっしゃるなんて、珍しいですわね」
「普段は学苑内で事足りるからの。じゃが、儂もたまには楪の様子を見ておかんと思ってな」
五星 梓は三井 楓を楪のいる離れに通した。
「具合はどうかの?」
「変わりありませんよ、楓様。霊力も安定しております」
『クカカ……そんなにこの小娘が心配か、老いぼれ』
「黙りなさい、牛鬼」
一瞬だけ牛鬼が浮かび上がるが、楪はすぐに引っ込ませた。
「関係は良好なようじゃの」
「牛鬼にとって、他の九厄や高位のマガカミは煩わしいだけの存在。
我々と利害は一致していますからね」
「本気でお主を乗っ取ろうとするなら、他の九厄の消滅が確認された後、か」
「その頃にはもう、扶桑を滅ぼす気なんて失せていると思います。
現にもう、口で言っている割には協力的ですし」
実際、牛鬼は九厄・静華に関する情報を隊士たちに提供している。
他のマガカミは敵、と言い切っているだけあって、今は楪に積極的に力を貸していた。
「油断するなよ、楪。お主に感化されているように見えても、其奴は九厄。
心を許してはならぬ」
「承知しております。いずれその時が来たら」
楪は覚悟の籠った瞳で楓を見上げた。
「この命と共に、葬ります」
楪の中で、牛鬼が嗤った。
お前に我を殺せるものか、と。
「……牛鬼よ、一つ質問があります。
今の帝都に、わたくしたちと同じようにマガカミと共生している者がいるか、分かりますか?」
『それを聞いて何になる?』
「帝都の……いえ、人にとって新たな脅威となる者です。答えなさい、牛鬼」
牛鬼は楪に告げた。
いる。だが……必ずしもマガカミとは限らない、と。
『“神”が再び現れたか、あるいは……人に融けることで消滅を免れたか』
■目次■
プロローグ・目次
【1】京を巡る
【1】赤紫と佐士
【1】蝶の意思
【1】想いを馳せる
【1】鎮魂
【1】弔いの奏 壱
【1】弔いの奏 弐
【1】空音と一緒に
【2】機巧浄瑠璃 鬼譚『千年桜』
【2】機巧浄瑠璃観劇 壱
【2】機巧浄瑠璃観劇 弐
【2】機巧浄瑠璃観劇 参
【2】機巧浄瑠璃観劇 肆
【2】機巧浄瑠璃観劇 伍
【2】機巧浄瑠璃観劇 陸
【2】舞台の裏側で 壱
【2】舞台の裏側で 弐
【2】とある隊士の休日 壱
【2】とある隊士の休日 弐
【2】ハイカラデヱト
【2】溢れる想い
【2】夜間巡回
【3】朱音 対 心美
【3】朱音 対 焔子
【3】朱音 対 秋良
【3】朱音 対 ユファラス
【3】碧斗 対 ルキナ
【3】碧斗 対 瑞稀
【3】碧斗 対 静音
【3】楓 対 伊織
【3】楓 対 遥
【3】楓 対 真希那
【3】楓 対 ロウレス
【3】楓 対 茜
【3】楓 対 風巻
【3】玄 対 ビーシャ
【3】玄 対 彩斗
【3】梓 対 ロッカ
【3】梓 対 ジェノ
【3】梓 対 千羽矢
【3】梓 対 優
【3】梓 対 三美
【3】景 対 瑠莉
【3】景 対 シャーロット
【3】景 対 日向
エピローグ