◆第三章 【2】メルヘンスイートな世界創り◆
――1――
青井 竜一と
ジルディーヌ・ベルセネーはそれぞれが触媒となるお菓子を用意して来ていた。
竜一は小型チョコレートファウンテン、ジルはストロングビスケットだ。
並んで召喚の準備を行い、ジルが勇気の唄を歌って自身と竜一の心を奮い立たせる。
それから2人とも戦闘態勢を取りつつ界霊が現れるのを待つ。
召喚されたN界霊は、ストロングビスケットの性質が強く出たのか、ブロックタイプだった。
それも、かなり数が多い。
大きさは元のビスケットと大差ないのだがとにかく大量な上、厄介なことにチョコレートでくっついて自由自在に形を変えている。
分裂したり飛んだり、好き放題だ。
「空中戦は任せるぞ、ジル」
「イエス、マイマスター。マスターの頭上は私が守ります」
空中での戦闘が可能なジルが飛び回っている界霊を相手にすることになった。
地上では大量のビスケットが様々な形を取り、竜一と対峙している。
すぐに竜一が2本の槍で攻撃するが、思ったより硬い。
大量にある上にチョコと合わさり厚みを増して、元がビスケットとは思えない強度になっていた。
パレードアーマーを纏っているとは言え、全力で殴られればダメージを受けそうだ。
そこで界霊からの攻撃には鶴翼の構えでカウンターを狙う。
上空で飛び回る界霊は、ジルが抑えてくれているお陰で心配する必要がない。
空中で戦うジルのことは常に気に掛け、互いの距離も確認しながら黙示録の体現を使い戦う。
数に任せた界霊の攻撃にはジルとの距離を取った上でトゥエルブオーディールをお見舞いする。
一方、ジルは上空で飛び回る界霊にヴィランとしての口上で気合を入れる。
「私の名はゴールドローズ! 闇に咲く黄金の薔薇を侮る者には、冷たく鋭い棘にて返礼いたしましょう!」
ジル自身はどうかと思いつつ竜一や他の皆に似合うと言われ、複雑な想いを抱いている口上なのだが──。
何はともあれ、スキルで射撃能力を向上させた上で超高速粒子突撃銃での射撃を行う。
「そうはいきません!」
竜一の近くには一切、界霊を近寄らせない。
数の多さにこのままでは埒が明かないと判断し、ジルが界霊を誘導しできるだけ集めてからダークネスグラヴィトンを放つ。
闇の塊が界霊を一掃した。
「大丈夫でしたか、マスター?」
戦闘が終わり、竜一の側に降り立つジル。
「ああ、お陰で思っていたより、楽に済ませられたよ。ありがとう」
悪役令嬢顔と評され、高慢な印象を与えがちなジルだが竜一にとっては心強く感じられる。
「せっかくだから、チョコレートを食べて戻るか?」
「そうですね、そうしましょう」
戦闘後は2人でチョコレートファウンテンを作り、残っていたストロングビスケットにかけて美味しく食べたのだった。
一方、ストロングビスケットを用意してきた
心美・フラウィアは義兄弟のルキア・フラウィアと一緒だ。
心美はストロングビスケットを触媒として召喚されたN界霊はパワータイプだと予想していた。
というのも、ストロングビスケットの製作者の1人がビスケットからそういうイメージを持ち、体力回復や筋力増強といった効果をこのお菓子に付与してしまったからだ。
マッチョなイメージを持って作られたビスケットがパワータイプになる、と考えるのは当然である。
ここへ来るまでの道中、ホライゾンの新世界計画について確認を兼ねてルキアに説明し、召喚するN界霊についての予想も話したのだが、ルキアも賛同してくれた。
適当な場所でストロングビスケットを取り出し、召喚の準備の前に心美がウィース・インカントで魔力を活性化させる。
「姉さん、剣を」
「ああ、頼む」
心美の短い言葉だけでルキアはその意図を察し、すぐに剣を差し出す。
イグニス・インカントを自身とルキアの剣に付与する心美を見るルキアの瞳は優しい。
戦闘の準備を終えてからN界霊の召喚を行う。
現れたのはゴリラっぽい姿をしていながら、どう見てもビスケットっぽい質感の界霊だった。
ゴリラっぽい辺りからパワータイプなのではと思えるが、実際そうらしい。
2人を認識するやいなや、体当たりしようと突っ込んできた。
だが心美はバリイングでそれを受け流し、ルキアは余裕を持って避ける。
すぐに混戦となり、心美とルキアはどちらがどうと決めるでもなく、自然と状況に応じてどちらかが攻撃、どちらかが防御とカバーし合って戦う。
コルリスの紅き雷、紅雷のルキアと呼ばれるだけあってルキアの長い髪は見事な紅である。
そして、そう呼ばれるのが当然だと思えるくらい素早く見事な体捌きでルキアが界霊を翻弄する。
遠くから見れば、紅の稲妻が動き回っているかのようだ。
その隣には同じように長く赤い髪の心美がいてルキアの動きをカバーするように動き、紅の稲妻は2本になっている。
正確には、心美の方は炎のように見えるのだが。
しばらく戦って途中、界霊のパワーに押される場面もあったが、スピードを活かした連続攻撃でじわじわと界霊の体力を削っていく。
そして界霊に隙ができたのを2人は見逃さない。
心美の紅焰とルキアの紅雷が同時に放たれ、業火と稲妻という2人を象徴するような極技が重なって界霊を跡形もなく消し飛ばす。
「さすが姉さん」
「心美こそ」
短く言葉を交わして微笑み合う。
その後、心美とルキアはその場を通りかかったミリアム、ギリアムと一緒に残ったストロングビスケットを食べ、どんな土地ができるだろうかと想像を膨らませて語り合った。