バレンタイン・コレクション 5
〜花子と仲良くなり隊〜
総勢10名にもなるグループが広場へとやってきた。
白波 桃葉が声を上げ、発足時した『花子と仲良くなり隊』。
メンバーは桃葉の他に桃葉のパートナーである
麦倉 音羽と
藤崎 圭、
小山田 小太郎と小太郎のパートナーである
堀田 小十郎、
睡蓮寺 陽介、
睡蓮寺 小夜、そして
梨谷 倫紀と倫紀のパートナーである
栗村 かたりと
麦倉 淳だ。
桃葉が呼んだ木 花子との待ち合わせ場所へと向かいながらグループ名について話題が上がる。
「俺は好きだぜ? 『花子と仲良くなり隊』!
ダジャレだろうが何だろうが、分かりやすいのは一つの利点だ。
花子に俺達の想い、思いっきりぶつけてこうぜ!」
陽介の言葉に同意するように
「えっと……わたしも花子さんとは仲良くなれたらなって思うから……いい名前だと思う、よ……?」
と小夜が呟く。
「名前のセンスはさておき……想いは、私も同じだよ」
小夜の隣を歩く小十郎もまた同じ気持ちであると告げて。
「思えば花子がフェスタに入学してから彼女とゆっくり話す機会は、そう多くない。
何か事件や依頼があった時にだけ関わるのも寂しいからな。
同じく学友同士、皆で楽しもう。勿論、小太郎さんもだ」
そう言って小十郎は小太郎へ視線を向けて。
「この度は、小十郎君達が行くというスイーツ博覧会に同伴する事になりましたが……グループ名に皆さんの意気込みを感じますね」
苦笑を浮かべつつも小太郎は言葉を続けて。
「ですが、想いは自分も同じです。
これを機に花子さん……延いては倫紀君達『フィアクレー』の皆さんや桃葉さん達『cat’s tail』の皆さん達の事を知り、そして己の事を知って貰って、交友を深められたら嬉しいですね。
勿論、小十郎君達『幻想演武』の皆さんともです」
小太郎の言葉に全員が微笑みながら頷く。
そんな話をしている間には一行は待ち合わせ場所へと到着した。
「皆も花子と親睦を深めたいと言ってくれたので連れてきちゃった☆」
「そうなんですね。今日はよろしくお願いします!」
待ち合わせ場所で合流すると花子は丁寧にお辞儀をして一行へと加わった。
花子も加わった一行はスイーツ博覧会と料理教室のあるイベントスペースへと向かった。
「わーい、博覧会とスイーツ教室なの♪
桃葉ちゃんや音羽ちゃん、圭せんぱい、花ちゃんと……今年はさよちゃん、ほったせんぱい、陽介おにーちゃん、小太郎せんぱいも来てくれたから、きっと、とってもとっても、楽しくなるなの♪♪
みんなで、お菓子をたくさん作って、いろんな人に、食べてもらって、いっぱい幸せになるなの♪♪」
「今年は、各世界のお菓子を楽しめるイベントなんですね。わくわくします」
かたりと倫紀はにこにこととても楽しそうだ。
「花子はどんなお菓子が好きなの?」
「んー……見た目の可愛いお菓子が好きですっ」
ほら、あのお菓子とか! と花子が指し示した先にあったのは動物や花をモチーフにしたチョコレートだ。
ぐるりとスイーツ博覧会を見て回った一行は料理教室へと向かう。
(そういえば……去年はここで淳さんと音羽さんの結婚2周年記念パーティをしまして、その際にも淳さんは「来年も3周年記念パーティをやる☆」などと張り切っていましたが)
ふと去年の出来事を思い出す倫紀。
それは他のメンバーもそうだったようで、何とも言えない沈黙に包まれる。
ただ、一人だけ。そんな空気感に気付かずに
「今日はバレンタインの前に音羽とオレの結婚3周年記念日だ。
去年もここで、みんなと盛大に祝ったなぁ☆
幸せな時間だった」
淳がしみじみと話す。
「今年も音羽はもちろん、桃葉ちゃんと圭に花子
ノリとかたり、そしてさらにししょー、小十郎、陽介、さよちゃんまで祝いに来てくれたとは……☆」
へへっと嬉しそうに鼻を擦る淳。
そんな淳に気付かれないように、他のメンバーが顔を合わせる。
「さて、みんな今日もうまいお菓子をたくさん作って
結婚3周年記念パーティを……ぅが☆」
「…………ふにゅん。そういえば……まことおにーさんには、たぶんノリちゃんも含めて、誰も何も言ってなかったと思うんだけど……今日は、結婚3周年記念のパーティじゃなくてみんなでお菓子を作って、博覧会を楽しむなの。だから、おにーさん……ごめんねなの!」
かたりは【ショコラティエ・オンステージ】で淳の口へチョコを飛ばした。
「あ、陽介おにーちゃん……まことおにーさんと一緒してくれるかなあ?」
かたりが陽介にそう言うと
「淳は俺と一緒に待機組だぜ? 持って来た睡蓮寺家特性お汁粉を食わせてやんよ……!」
陽介はがしっと淳の肩を引き寄せ、料理教室で作ったものを食べられる飲食スペースへと引き摺っていく。
ついでにダメ押しで余っていた餅を【まかないレシピ】でお汁粉にし、それを淳の口へと入れようとして。
「ぅわっ、みんな止めてくれよ?
結婚3周年記念だろーーっ!?」
陽介にずるずると引き摺られながら、淳が叫ぶ。
「あ……いえ、お2人の幸せをお祝いさせていただいてはいますが、えっと……、今年はここでは結婚記念パーティというより、純粋に花子さんと親睦を深めつつ、博覧会や料理教室を楽しみたいというのが、皆さんの総意でして……」
とても言いにくそうに説明する倫紀。
「はわはわ、淳さん、ごめんなさいですよ。
お祝いは、えっとその、また今度させていただきますから……」
連行されていく淳の後ろ姿に倫紀はそう謝罪する。
「折角皆で集まってるのに毎年私たちが主役扱いはどうかなと思っていたから……。
3周年は家で改めてお祝いしましょう、ね?
今は皆が同じ立場で楽しめるようにしたいわ」
音羽の宥める声が淳に届いていればいいのだが……。
(淳と音羽の記念日を祝いたくないんじゃないんだよなぁ。
仲睦まじい方が仲悪そうなのよりいいしさ。
去年は皆が気を使って言わなかったけど、さすがに2年連続は…………)
圭も苦笑を浮かべながら、淳と陽介を見送る。
「今年はバカップル夫婦(旦那の方)の長い惚気話も阻止できたしお菓子作りに専念できるわね!」
一方で桃葉は辛辣にそう言うと、くるりと花子の方へ向き
「それでは花子をアシスタントにして一緒にプリンを作るわ。花子、協力してね☆」
「あ……はい!」
一連の流れを呆然と生還していた花子が桃葉の言葉に頷く。
こうして、それぞれ料理教室でお菓子を作ることになった。
「ロディニアの世界にね、【ピクシープディング】というすっごく美味しいプリンがあるの。
妖精さんが栽培してる天然の魔法の甘味料が使われてるので、同じのを作るのは無理なのよねぇ……。
でも、方向性が合ってれば近い味には出来るんじゃないかと思うの。と、いう事で早速試してみるわ」
花子に説明して桃葉は早速調理へと入る。
「えっと、あの味に近づけるには……花子、ちょっと必要な材料があるから追加で貰ってきてくれる?
その間に分量の配分を考えましょう」
「はい、桃葉先輩!」
桃葉に言われて材料を取りに行く花子。
桃葉は揃えた材料たちをそれぞれ味見したりしながら分量の配分を考える。
そうして、まず一つ目のプリンが出来上がる。
「なんか全然違うわねぇ……ダメね、これは失敗。
こんなプリンは消しましょうね」
味見をした桃葉はそう言って作ったプリンをもぐもぐと食べ進める。
どうやら納得のいく味にならなかったようだ。
「はい、花子も手伝って。さぁ、次よ、次☆」
失敗したプリンを花子にも渡し、食べるように勧めながら、桃葉は次のプリン作りに取り掛かる。
「美味しい……!」
桃葉は失敗と言ったが花子にとってはとても美味しいプリンだった。
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一方の飲食スペースでは色ボケ旦那(淳)を止めた陽介が
「まぁ、皆の菓子が出来るまでの辛抱だ……こっちはこっちで楽しむとしようや、淳!」
と淳を宥めていた。
「何だよ……みんな別のことをしたかったなら
前もってそう言ってくれよ」
【黒衣の極意】で目立たなくなりながら、淳は改めて振る舞われた陽介の【お汁粉】をすすりながら、しょんぼりとしていた。
兎の【あかり】は丸くなって上目遣いで様子見をしているようだ。
「ほら、ふて腐れてねぇで、今は何が出来る予想といこうぜ!」
料理教室に並ぶ仲間たちの方に視線を送りながら陽介が提案する。
「えー、何を作るって?」
淳はまだ不貞腐れた様子で返事をして。
「実は何を作るか聞いてねぇんだ。
まぁ、桃葉は何時もの如くプリンだろうけど、小太郎さんや小十郎は新しい物に挑戦するって言うし、小夜も家の餅を見て何か思い付いたって言ってたが……淳は音羽から何か聞いてねぇの?」
「さあ……音羽は、じゃがいも持って行ってた気がするけど?」
淳はみんなが試行錯誤しながらお菓子を作る様子をぼけーっと眺めつつ答える。
「倫紀や圭は性格的に皆の菓子をアシストする感じのを作るんじゃねぇかなって予想しよう!
注目はスイーツメーカーにして料理好きのかたり!
実力と経験に後押しされたかたりの菓子…*何ができるのか……いやー、皆何ができるか楽しみだぜ!」
少しでも淳のテンションを上げようと、陽介はみんなの調理風景を擬似実況し続ける。