バレンタイン・コレクション 3
西宮 彩と腕を組み、堂々とした様子でスイーツ博覧会を見て回っている
死 雲人。
「色々とスイーツが目新しいな、彩」
「そうですね。どれも美味しそうです」
「俺は美味い物は何でも好きだ」
会話を交わしながら並べられたスイーツを見る。
やはり、バレンタインということもあり、チョコレートやチョコレートを使ったスイーツが多い。
「それで、それで、彩にイドラの女王! 俺へのチョコは当然、用意してきたな」
待ちきれないのか早速本題を切り出す雲人。
どうやら彩とイドラの女王はそれぞれ雲人にチョコを用意したようだ。
バレンタインということもあり、多めに用意された休憩スペースの一つ。
あまり人の来ない場所で彩たちは雲人にチョコを渡すことにした。
「イドラの女王のチョコはデカいな」
布で覆われたチョコらしきものを見ながら雲人が呟く。
彩には見せていないようだが、「絶対に気に入るわ」とイドラの女王は言っていた。
雲人が布を外すと、中から現れたのは彩の顔と体が再現された胸像型のチョコレートだった。
何よりも目を引くのは完全再現されているのではと思うほどの胸の大きさで、美術館にある彫刻の像と同程度の露出っぷりだ。
「おお。彩のおっぱいが正確に。まさに『私を食べて』なチョコのいい彫刻だ……」
露出度の高いそのチョコ像の胸の当たりは雲人はじっくりと見つめる。
「触って食べるか」
雲人がそっとチョコ像の胸へと手を伸ばす。すると――
「きゃぁぁぁぁぁ!!!」
どうやら彩は恥ずかしさに耐えられなくなったようで。
悲鳴をあげながら彩はチョコ像を隠すように抱きしめた。
「像のおっぱいに自分のおっぱいを当てて、自分のおっぱいで対抗か」
チョコ像の方は柔らかくないはずなのだが、みているとおしくらまんじゅう感がすごい。
せっかく本物が出てきたことで彩とチョコ像の体のライン等も見比べる。
「セクシーに再現だ」
からかうように雲人が言えば、彩は隠すのに使っていた布を見つけ、すぐにチョコ像に被せた。
「私からのチョコレートも受け取ってくれますか?」
そう言って彩が差し出してきたのはいい見た目のボンボンショコラだ。
実家がパティスリーだからか、完成度も高い。
「俺、彩のチョコを口移しで食べたい。さらにチョコが美味しくなる」
雲人が彩の耳元でそう囁けば、彩はみるみる顔を赤くして。
「それかおっぱいで俺にチョコをプレゼントとか」
からかう口調で提案する。
こうなってしまえば、彩はどちらかを選択するしかない。
「じゃあ……」
おずおずと彩がチョコを口に咥える。
「ふ……彩は可愛いな。流石俺の女」
彩が口で運んだチョコを味わう雲人。
「彩の香りが混じって、さらにいい口溶けで香りが良く美味しい」
雲人の言葉に彩は顔を赤くして俯くばかりだ。
「ふ……楽しいバレンタインだ。
まあ当たり前だ。彩とイドラの女王は俺のハーレムの女。つまり、事実婚でもある」
「じ……事実婚!?」
驚く彩に雲人は
「愛の形よりも俺らの愛が全てだ」
とさらりと告げる。
「俺はチョコ貰ってハーレムの愛を再認識した。再びな」
雲人は満足そうな笑みを彩たちへと向けて
「俺は彩もイドラの女王も愛してるぞ。ハーレムの女として、事実婚の女として」
そう言って笑みを深くするのだった。
アデルと会うのは久しぶりな
クロノス・リシリア。
「ハッピーバレンタイン! 一緒にバレンタインを楽しもう」
既に楽しそうなクロノスに連られてやってきたのはスイーツ博覧会。
「アデルはどんなお菓子が好き?」
「リンゴを使ったお菓子が好きだよ」
「じゃあ、リンゴを使ったお菓子を探しに行こう」
たくさん並んだスイーツの中にはもちろんリンゴを使ったものもあった。
それを二人で食べたり、味の感想を話し合ったりして過ごす。
その後、バレンタインライブが行われているイベント会場へと行き、観客としてライブステージを観賞する。
時間を忘れるほどライブを楽しめば、気付くともう帰る時間になっていた。
「あのね、これ……受け取ってもらえるかな」
そう言ってクロノスが差し出したのは【手作りガトーショコラ】だ。
料理が苦手なクロノスだが、料理の得意なパートナーに指導してもらいながら一生懸命作ったものだった。
「わざわざ……? ありがとう」
クロノスから【手作りガトーショコラ】を受け取りながらアデルは嬉しそうにお礼を言ったのだった。
エーデル・アバルトと共に料理教室を訪れた
スレイ・スプレイグは一風変わった料理を作ろうとしていた。
(私としても丁度いいアイディアが浮かびましたからね。……最近柄にもなく料理に凝る様になった気がしますがやはり食べてもらえると嬉しいという事を実感しますね)
「で、何をするの?」
「今回はチョコレートソースを使ったサラダを作ろうと思います」
スレイの発言に近くで作業をしていた人達がえっ!?という驚きの表情になる。
とはいえ、今回スレイがサラダを作ろうと思ったのには理由があった。
(良かれと思ってとは言え、今年もエーデルさんには結構な数のチョコレートを贈っています。
そのうえで更にチョコレートのお菓子となると少々胃に重いのではないかと今更ながらに思ったのです)
「この時期は甘いチョコを食べる機会が増えますし、カロリー的にも栄養バランス的にも罪悪感の無い料理を作ってみますよ」
そう言ってスレイは【チョコレート制作キット】を取り出す。
「こちらでチョコレートソースを作りますのでエーデルさんはその間サラダに使う野菜を選んで貰えますか?
好き嫌いとかはなさそうですけど女性目線の意見も取り入れたいですし」
審査もそうだが、エーデルの為に作る料理であるため、スレイはエーデルにそう言った。だが
「食べられれば何でも良いのではないかしら?」
と返されてしまった。
そもそもエーデルは自分で料理することもないため、食材にも詳しくないのだ。
「わかりました。もし嫌いな食材があったら教えてくださいね」
スレイはチョコレートソース作りの手を止め、エーデルと一緒に野菜を選びに行った。
選んだ食材を切り、盛り付けも一緒に考えた。
残るはスレイがチョコレートソースを作るだけだ。
【料理知識:洋】と【メイクスイーツ】で作りたいチョコレートソースの食材選別や作成の手順を確認する。
メインとなるチョコレートは料理用のためカカオ成分が多い物を選んで苦めの味付けにする。
それに食感を楽しめるようにナッツ類を加え、味のアクセントにスパイスも足して。
目指すのはお菓子のチョコとは違った味だ。
出来上がったソースを先程盛り付けた野菜の上にかければ出来上がりだ。
それをジェニーたち3人とエーデルに食べてもらう。
「こういうサラダの食べ方は面白いわね」
サラダを食べたエーデルが素直に褒める。
「美味しいんだけど、もう少しいいチョコを使った方がいいよ!」
チョコレートが好きなジェニーはやはりこだわりがあるのか、そう注文をつける。
「あら、美味しいわね」
「チョコレートを食べることへの罪悪感が無くていいわね」
夏織はチョコレートにハマっているからか高評価であり、茉莉花は面白がっていると言った様子だ。
概ね高評価であったことにスレイは胸を撫で下ろしたのだった。