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クラッシュ★バレンタイン

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クラッシュ★バレンタイン
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 カラフルショコラ 2


~あみかれん~

 様々なチョコレートがあるようにチョコを贈り合うだけがバレンタインではない。
 大切な人に想いを伝える日、それがバレンタインなのだ。想いの形も伝え方もチョコレートの数と同じくらい種類がある。

 広場に用意されたステージで行われているバレンタインイベント。藍屋 あみか藍屋 華恋は二人でそこを訪れていた。

「はじめまして。いつもご活躍、拝見しています。フェスタの藍屋あみかと申します」

 舞台衣装に【フェリーツィアの加護】を着たあみかが神獣の【ファーブラ】を連れてジェニーたちへと声をかけた。

「ありがとう」

 あみかの言葉にジェニーたちは笑顔で応える。

「バレンタイン、たいせつな方に歌わせてもらえたら……」

 おずおずとあみかが参加の意思を伝えれば

「ええ、歓迎するわ」

「じゃあ、こっちで手続きするね」

 こうして、無事にあみかのバレンタインライブへの参加が認められた。
 後は順番を待つばかりだ。


 出番が来るまで観客席でバレンタインライブを観ることにした二人が移動する。
 すると料理教室で作っているチョコレート菓子の香りが観客席にまで広がっていた。

(そういえば去年のバレンタインは……)

 あみかがふと思い出したのは去年のバレンタインのこと。
 去年はチョコ作りをしながら、話をして過ごした。
そこから紐付いた思い出たちが次々と思い起こされていく。そこにはいつも華恋の姿があって……。

(いつも様々なイベントを、そしてなにげない毎日を、楽しく暖かく過ごせている感謝を届けられたら)

 ライブに向けてそんな風に思うあみか。
自分の歩幅でアイドルを続けてこられてるのも、支えてくださる沢山の人、妹に神獣や星獣といった家族……そして華恋がいるからだと思う。

 いつも一緒にいたと感じているのは華恋も同じだった。

(そついえばいつも側に居てくれてましたがら改めて歌を聴くのは久しぶりかもしれませんねー)

 ステージで行われるバレンタインライブに二人は拍手を贈る。

「次は藍屋あみかさんです。どうぞー!」

 名前を呼ばれたあみかが立ち上がる。
一瞬振り返ったあみかへ、華恋は微笑み頷いて見送る。
 華恋に見送られ、あみかは【ファーブラ】を連れてステージへと上がる。

 軽く深呼吸したあみかが【ファーブラ】の方を向けば、それに応えるように

「きゅ♪」

 と【ファーブラ】が小さく鳴く。
【スタイル】プリーストを高めあげてきたからこそ、【ファーブラ】とは互いの気持ちが分かるほどの仲が深まっている。

 あみかの周りに小さな星のような光が瞬き、観客たちはその場がほんのりと薄暗く静かになるのを感じた。

 観客席にいる華恋に向けてあみかは【ファーブラ】とアンサンブルするように感謝と愛のきもちを歌い始める。


『♪幾度も見上げた日暮れどき
♪幾夜も見つめた星あかり』

 歌い始めたあみかの姿を華恋は一秒たりとも見逃さず、その言葉、歌声、姿、そのどれもを瞳に焼き付けるように見つめる。

(私はかつて……いつからか人が怖くなって臆病で逃げ出す、そんな人になっていました)

 あみかの寄り添うような歌声に華恋はいつかを思い出す。

(忘れられないあの日のこと。全てを失ったあの日の事故)

 それは華恋の全てを変えてしまったと言っても過言ではない出来事だった。

(一人が楽だった。何もしない事が楽だった。
その場で立ち尽くし、一歩を踏み出すことをしない停滞、変化のない日常)

 ただただ流れゆく時間に身を任すだけの日々を思い返す。

(楽ですよね。だって何もしなくていいのですから。
情けなくとも、甘えだとしても私はそれを善しとした)

 【宵の明星】により、いつしか周囲が次第に暗くなり、薄紅、赤、紫、濃紺と色彩を変える。

 仕舞っていた日々を思い出させる歌声。
心に染み渡るそれは不思議と嫌なものではなかった。

(けど、不思議です。たった一人の出会いでここまで変わるのですから。
楽って感じてしまうとそれに頼ってしまうものじゃないですか。それを知ると中々変わろうとしないじゃないですか。けれど……)

 華恋の視線の先にいるあみかを見つめる。
そう。自分に変化をもたらしたたった一人が今、ステージで自分へ向けて想いを込めた歌を歌っている。

(ただ真っ直ぐに、こんな私にでもずっと側で寄り添ってくれて、大切にしてくれて。
多分、私にその一歩を踏み出してほしい。たった一歩のその為にこんなにも)

 少しずつ、少しずつ、あみかの歌声が華恋の心を優しく包み込む。

『♪いつか誰かの、ちいさな光に
♪たいせつなひとの、ひとつだけの光に』

 ステージも観客席もひと時の暗がりに包み込まれる。
 だがあみかの【神獣極光】により、オーロラが現れ、【ファーブラ】の姿もまた大きく成長していた。

 そっと、あみかが【ファーブラ】に触れ、そして最後の旋律を【明けの明星】を使って歌い上げる。

 濃紺、紫、赤、金色……と夜明けの色が広がるその光景を華恋が眩しそうに見つめる。

 あみかは大きくなった【ファーブラ】の背に乗り、ぐるりと会場を一回り飛んで

「華恋さんがもし迷っても、きっときっと
みつけられるような星に……!」

 そして華恋の近くへと向かうとあみかはそう言って手を伸ばす。

(暗く寂しいその道を照らしてくれたお星さま。
私が明かりを消してその道を閉ざしていただけだったのですけれど……。私が歩めるように照らしてくれて。
寂しい夜にさようなら。
独りじゃない。何かあっても私には側に居てくれる人がいます)

 あみかはそんな存在なのだと再認識する。
そして華恋の口からは思わず

「ありがとうございます」

 そんな想いと感謝が溢れ出て、そっと差し出された手を取る。

 二人は【ファーブラ】に乗ると再び、ステージ上をぐるりと周り、微笑み合うのだった。





~菫色のバレンタイン~

 バレンタインデートの計画をした明菫 凛明菫 綺朔に待ち合わせ場所を指定して伝えていた。

「バレンタインか……もうこんな時期なんだなぁ」

 待ち合わせ場所で綺朔を待つ凛は漂ってきた甘い香りにバレンタインを実感する。

(綺朔さんに連絡入れてあるからそろそろ来ると思うんだけど……)

 きょろきょろと凛は周囲を確認する。


(凛くんに指定された場所は騒ぎのあるとこから離れたとこだから、ここらへんだと思うんだけど)

 同じ頃、綺朔は凛との待ち合わせ場所へと向かっていた。
今回は凛がデートコースを考えてくれるとのことで綺朔はそれをとても楽しみにしていた。

(いつも私が率先して動いてるわけだけど、こういう時くらい男の子らしいところも見てみたいじゃない。
まあ、いつも頼りにしてないって言うわけじゃないんだけど、たまにはね)

 鼻歌交じりで歩いていけば

「あ、来た来た」

 綺朔を見つけた凛が手を振って場所を知らせる。

 そんな凛の隣でとある女の子が彼氏らしき相手に頑張ってチョコを作ったんだよ、等と話している声が聞こえてきた。

(――そういえば、バレンタインって女子から男子へだよね。なんで、俺がデートプラン考えたんだろ……?)

 ふとそんなことを思うものの既に遅く。

「ふふ、ちゃんとエスコートしてくれないと私の手作りのチョコレートあげないわよ?」

 なんて、綺朔からちょっと意地悪なことを言われたり。

(何、これ試練!?)

 と心内で綺朔の言葉にプレッシャーを感じつつも笑顔で迎える凛。
 凛から自然な形で差し出された手を綺朔が取ればバレンタインデートが始まる。

「しっかし、街中バレンタイン。何だか短かったけど恋人だった頃を思い出すねー。あの時は手もロクに繋げなかったっけ」

「まだ少し恥ずかしいところはあるけど、それでも恋人だったときに比べたらましになったかしらね?」

 懐かしそうに恋人同士だった時の話をする二人。
手は確かにあの時よりもしっかりと繋ぎあっている。

「いつも使わせて貰っていたBeehiveさんも今回の騒動でクローズかぁ」

 デートコースにと考えていたお店だったがどうやら今日はやっていないようだ。

(ベルが教えてくれた所にでも行ってみようか)

 どうしようかと考えた凛は以前、パートナーに聞いていた店へと向かうことにした。





「――確かに女子向けではあるんだけど……男居辛くない?」

 パートナーから渡された紙に書いてあった店へとやってきた二人だったが、その店の様子に思わず凛が呟く。

「確かに男の子は入りづらそうね。甘いものに興味あるの?」

 綺朔はくすくすと笑っている。

 お店はどうやらチョコ菓子で有名なお店のようで、今日はバレンタインということもあり、お店の前に簡易的な屋台も出ている。
 可愛らしいお店の外見も相まって客は女性ばかりだ。

「ほら、店の前でも屋台で売ってる……ん? 甘いものに興味はあるよ? ベルが知ってるぐらい有名なんだから……」

 凛の様子に笑っていた綺朔が繋がった輝を引いて行列に並ぼうとすると

「いやいや、良いよ……結構行列長いし。今度食べるさ」

 遠慮する様子の凛に

「たまにはこういうのを楽しむのもいいじゃない。それとも、私と一緒に待つのがイヤとか……?」

 と綺朔が言えば、凛はたじたじしてしまうのだった。


 その後も色々と見て歩き、周囲は徐々に暗くなってきた。
 二人がディナーに向かったのは凛が予約していたレストランだった。

「結局あんまりロクにデートって出来なかったな。バレンタイン恐るべし」

 いつもなら開いていたり、空いていたりする場所も今日はバレンタインということで休みだったり、混んでいたり……と凛は改めてバレンタインと言う日を知った気がした。

「そうそう、これ……」

 料理を注文し終えた後、綺朔は持ってきていた【ねこチョコ~明菫夫妻ver.】を差し出した。

「え、これ……いいの? って言ったらダメだよね。うん、有難う。大切に食べるね」

 順風満帆なバレンタインデートではなかったため、チョコは貰えないかもと思っていた凛が驚いた表情をした後、嬉しそうに綺朔からのチョコを受け取った。

 運ばれて来た料理を食べながら会話を弾ませる。
そして、凛は今日のデートの本題へと触れる。

「……俺さ、バイナリアが落ち着いて思った。綺朔さんが毎日居てこういう皮肉めいたことも言える日々が何より尊いって」

 綺朔を真っ直ぐに見つめる凛。
そして、僅かに深呼吸した後

「だからさ……『同棲』しない?」

 凛はそう言いながらチャリ……と新居の鍵を取り出して綺朔に見せる。

「私としては凛くんと一緒にいられるだけで嬉しいわけなんだけど、凛くんは違うのかしら?」

 意地悪な返しは先程の凛の言葉に。そして

「『同棲』のことはもちろん受けるわよ。
まあ、結婚してるわけだから『同棲』とは言わないかもしれないけどね。
ただ、私のところも結構大人数なわけだし、うるさいかも知れないわよ?」

 いつものような綺朔の言い回しを想定していたのか、凛は微笑んで

「実は先輩のツテで家はもう出来てるんだ。綺朔さんたちの部屋もあるしさ。
今は広いけど、きっと綺朔さんのとこが来たら賑やかになるよ」

 と、伝えると

「じゃあ……よろしくね?」

 と綺朔は新居の鍵を受け取った。

「唐突でごめんね、実は結構前から気にはしてたんだ……」

 だから今回、そう話を打ち明けたのだと続けた凛。
鍵を受け取って貰って安堵しているのが表情から伝わってくる。

 ディナーを終えた帰り際、二人は心もお腹も満たされた気分だった。

「今日のお礼、ね」

 そっと綺朔が凛の頬に唇を寄せる。

「素敵なデートプランを考えてくれてありがとう。
それと、これからもよろしくね」

 意地悪も皮肉もない綺朔の真っ直ぐな言葉に、凛はバレンタインデートを計画してよかったと思ったのだった。

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