カラフルショコラ 1
鼻腔を擽るのはこの季節特有の甘い香り。
濃淡様々なチョコレートはどれも艶やかに輝いて瞳を楽しませる。
(地球のどこかの国で製菓会社の販売戦略で女の子が男の子にチョコを送る習慣がある、と言うのは聞いたことあったけど、それを自分で経験することになるとは思わなかった)
スイーツ博覧会に並ぶお菓子たちを見つめながら
アレミア・レスキュラシオンはまさかという気持ちだった。
(正確に言えば私たちは女の子同士なんだけど)
行き先を料理教室へと向けたのは恋人へ贈るチョコレートのことを考えていたからだ。
用意されている材料や道具を一通り確認した後、少し考えてからアレミアは必要そうなものを揃え、調理場へと向かう。
新鮮そのものと言った様子の洋梨を切り分け、ケーキの型に敷き詰める。
溶かしておいたチョコに数滴ラム酒を加えれば上品な香りがチョコの甘い香りと混ざり合う。
ラム酒で香り付けしたチョコをケーキの型へと流し入れ、レシピ通りに焼き上げる。
しばらくすれば洋梨の焼ける甘く香ばしい香りとラム酒風味を纏ったチョコの香りが漂ってくる。
焼きあがった後、ケーキクーラーで冷ましている間にガナッシュを作り、それをかければ完成だ。
(せっかくだから……)
出来上がりが少し寂しいかなと小首を傾げたアレミアはそっとシンプルな飾り付けをして、それを箱へと大事そうに仕舞う。
(アサリル、喜んでくれるかな……?)
無事に作り上げたチョコ菓子を手にアレミアは自宅へと帰って行った。
ちなみにアレミアの恋人である
アサリル・アイラルリーは
「今日はちょっと用事あるから」
とアレミアに伝え、早々に家を出ていた。
(バレンタインのチョコはやはり自分で作って彼女に渡したいじゃない)
そんな気持ちもあり、アサリルもまたアレミアには内緒で料理教室へとやってきていた。
(何を出せばいいかな……)
様々な材料と照らし合わせるのはアレミアの好み。
どんな物を普段、好んで食べていたか、どんな物を好きだと言っていたか、どんな味が好きと言っていたか……。
ふと、ぽんと閃いたのは焼き菓子だった。
(アレミアは焼き菓子的なものが好きだったよね)
レシピをぱらぱらとめくって調べると焼きチョコのレシピが書かれている場所があった。
焼き菓子であり、チョコを使っているならバレンタインにぴったりだとアサリルは早速焼きチョコを作る準備を始めた。
チョコレートを細かく刻み、オーブンを150℃に余熱しておく。
刻んだチョコレートはボウルに入れて湯煎で溶かし、そこに片栗粉を振るい入れて混ぜ合わせる。
混ぜ合わせたものを絞り袋に入れ、オーブンシートの上に星やハートなど様々な型に手早く絞り出し、余熱の終えたオーブンで5分~7分ほど焼けば完成だ。
「うーん……」
出来上がった焼きチョコを見つめるアサリル。
綺麗には焼きあがったが、全体的に茶色いので少し寂しい気もする。
そこでアサリルはシュガーパウダーやアラザンなどでデコレーションすることにした。
「これなら上出来だわ」
普段は大雑把なアサリルだが、さすがに一生懸命頑張ったのだろう。
出来上がった焼きチョコは可愛らしいデコレーションが施されている。
こうしてアサリルもまた完成したチョコを手に家へと帰って行った。
実は同じ料理教室にいたことを互いに知ったのはその日の夜。
お互いに作ったチョコを食べさせ合ったりしながら二人は甘い恋人同士の夜を過ごしたのだった。
普段カレーを作ることが多い
ジェノ・サリスもまた料理教室へとやってきていた。
「バレンタインの企画だ。チョコレート菓子を作ってみるとしようか」
あちこちでチョコレート菓子作りに精を出す人達の様子にジェノの創作欲も掻き立てられる。
(さて……バレンタインの企画としてチョコレート菓子を作るとはいえらどうせなら実用的な物を作った方が価値があるだろう)
そう思い、用意してきた材料を並べ出す。
「持ち運びに便利で、戦闘中でも即時に利用出来て高い回復力を誇る……そんな品を作るとしようか」
イメージが固まったのかジェノは【レディー・スイーツ】で身支度を整えた。
【ドルチェ・クッキング】を用い、【サカイヤチョコレート】をボウルに入れて湯煎する。
同じ方法で【プロティアンキャンディ】も湯煎で溶かしておく。
次に【ホスチア】を一口サイズにカットし、カリカリになるように焼き上げていく。
大き目に砕いた【ストロングビスケット】も用意し、これで下準備は完了だ。
一口サイズにカットして焼き上げた【ホスチア】に湯煎して溶かした【サカイヤチョコレート】を満遍なく纏わせ、追加の食感を与える【ストロングビスケット】でクランチのように。そのままある程度固まるのを待つ。
固まったら手に持った時にチョコが体温で溶けたりしないよう気をつけながら、湯煎した【プロティアンキャンディ】を表面に薄く塗り、固まるのを待つ。
これで固まれば完成だったのだが……
「うーむ……」
手の体温でチョコが溶けないように気をつけたまでは良かったが、湯煎された【プロティアンキャンディ】ももちろん温かいので、それでチョコが溶けてしまうのだ。
その後、何とか試行錯誤を重ねてやっと完成させることが出来た。
「特製・バトルチョコラスク……と言ったところか」
完成したチョコ菓子にそう名を付けるジェノ。
「使った材料は、どれも回復効果が高い素材だ。まあ、組み合わせた事でどの程度の有効性になるかは検証せねば分からんが……」
そう独り言を呟きながら、ジェノは実用性を重視して作ったそのチョコ菓子を口へと運ぶのだった。
プレゼント用のチョコレートを試作しに料理教室を訪れた
羽村 空。
持ってきた【チョコレート制作キット】を用意し、チョコレート作りに必要なものを一通り並べる。
「よし。まずは……」
作り上げたいもののイメージは既に固まっている。
パンダ型のチョコレートゼリーだ。
ホワイトチョコレートベースのチョコゼリーを作り、溶かして黒めに色づけたチョコレートでパンダの顔を描いていく。
「うん、パンダゼリーは上手く出来た♪」
これだけでも十分にも見えたが、空は更に【ワンダーロール】に抹茶味のチョコレートをコーティングして、竹に見立てていく。
こうしてチョコレートで作ったパンダゼリーと抹茶味の竹が出来上がった。
「ちょっと寂しいかな?」
盛り付けて確認した空がそう呟き、【けもけもクッキー】を添える。これで完成だ。
「こんなものかな? いくつか作って色んな人におすそ分けに行こ~♪」
無事に試作品を完成させた空は出来栄えに満足したのか上機嫌だった。