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「高槻さんに来てもらえたの、すごく心強いよ。ほんとにありがとう!」
ストロングビスケットを手にN界霊の召喚準備をしている
秋光 紫を見守りながら、
谷村 春香が声をかけているのは高槻 榛名だ。
榛名は今回、春香達から協力してほしいと頼まれて参加することになった。
「わたしも興味がありましたから。お気になさらず」
「高槻さんもやっぱり気になるよね、お菓子の土地だなんて」
榛名の言葉を聞いて
谷村 ハルキも興味深げに言う。
「ええ。それに多く土地を確保できれば安心できるし、N界霊との戦闘は鍛錬にもなるという春香さんの意見はもっともですし」
「そうだ、戦闘中にそんな余裕ないかもしれないから、今のうちに」
ハルキがそう言って紫のところからストロングビスケットを何枚かもらってくる。
何をするのだろうと春香と榛名が見ていると、ハルキが黙示録の勇豚にビスケットを食べさせようと差し出した。
すると普通に食べた。
どうなるのだろうかと見守っていると、少し筋力が増したようだった。
「このビスケット、謎が多いわよね……」
思わず春香が言い、他の2人が頷く。
そうやって3人で話しているうちに準備が整い、紫が手を上げて知らせる。
「そろそろ準備が終わるわよ」
いよいよ界霊の召喚だ。
紫が用意してきたストロングビスケットから適度に距離を取り、4人それぞれにスキルでの強化なども終わらせ、戦闘態勢を取る。
ここへ来るまでに戦闘時の打ち合わせも済ませておいた。
盾役はハルキ、回復役が紫で攻撃役があとの2人、春香と榛名という役割分担になっている。
立ち位置も打ち合わせで決めた通りにし、準備万端で界霊が現れるのを待つ。
そこまで時間を置かずに現れた界霊は、ビスケットでできたイルカだった。
空中をまるで海を泳いでいるようにふわふわと漂っている。
見た目はほのぼのとしているが、それなりに大きいし尾びれで思い切り殴られたら相当なダメージを受けそうだ。
それが分かったのは、4人の目の前でイルカが尾びれで地面を叩き、そこが大きく抉られたからである。
ハルキは召現の楯を手に、イルカに狙われたメンバーをその攻撃から守る。
召現槍二刀流の使い手であり、ナイツオブアポカリプスの実力者である榛名がヒットアンドアウェイで可能な限りイルカの気を引く。
つかず離れずで攻撃を重ね、少しずつ体力を奪っていく算段だ。
春香はPDBブラスターで中距離ないし遠距離からの攻撃を行う。
接近された時のことも考えてあるが消耗が激しくなるため、できれば接近されないようにしたい。
紫はサルベーションを張りつつ、全員の体力や魔力に気を配る。
もしもの時には、レメディでの治療も視野に入れ、自身の魔力不足対策にサカイヤチョコレートを、ハルキの回復用にストロングビスケットをすぐ食べられるように用意していた。
長期戦も覚悟の上での布陣であり、界霊が一体だったので全員が内心でそんなに時間はかからないかもしれないと思ったのだが──。
ビスケットのイルカは体力お化けと言っていいくらい、倒れなかった。
さすがストロングビスケットを触媒としたイルカだと言わざるをえない。
体力回復もできるという性質が強く出たのかもしれないが、面倒なことこの上なかった。
尾びれによる一撃は、ハルキが鈿女壁で受け止めてくれているので問題になることはないが、とにかくタフなのだ。
お陰で一体の界霊相手に長期戦を強いられ、ハルキ以外のメンバーもビスケットを食べて体力の回復を行う羽目になった。
疲れが見え始め、春香がイルカの接近を許してしまった。
ハルキが咄嗟に動くが間に合わない。
榛名も間に割って入ろうと動いたが、榛名はハルキよりも春香から遠かった。
「くっ──!」
事前に対策として考えていた通り、サイコソード・テレポートリープという大技を使い、難を逃れる春香。
消耗してしまったが、紫がすぐに回復させてくれた。
連携が取れている上、回復役もいる。
「どんなにタフでも、いずれ力尽きるはずです! 皆さん、頑張りましょう!」
榛名が檄を飛ばす。
もう一度、気力を奮い立たせようと、他の3人が声を上げた。
「「「おー!!」」」1742
すると界霊が対抗意識なのか、見た目通りにイルカっぽい鳴き声を上げる。
何となくやりづらい。
何しろ普通のイルカは可愛いし、見た目だけならこの界霊もどことなく可愛いと言えなくもないのだ。
それでも気を緩めずに戦い続け、ようやくイルカも体力が限界に近付いてきたのか動きが鈍り始める。
ここで春香が奥の手としてとっておいた界霊特攻のアバターズレイをここぞとばかりに撃った。
「今だよ、高槻さん!」
「ええ、行きます!」
激しく消耗しながらも春香が合図を出し、アバターズレイでついに空中に浮いていることもできなくなり地面に落ちてきた界霊に、榛名が必殺の一撃でとどめを刺す。
少しの間、まだピクピクと身体を震わせていた界霊だが、やがて完全に沈黙した。
「とにかくタフな相手でしたね」
「高槻さんに助っ人お願いして良かったよ。同じナイツオブアポカリプスとして、すごく勉強にもなったし」
「私の方こそ、良い鍛錬になりました。誘ってくれてありがとうございます」
「それにしても、どんな土地になるのかしら?」
「比較的、運用しやすい土地じゃないかなぁ」
戦闘後、皆で紫の持っていたサカイヤチョコレートとストロングビスケットを食べながら交流を深めるのだった。