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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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給仕たちのスパイ活動


 飲食店は各エリアに様々なテイストのレストラン、軽食店、移動販売車が周囲の雰囲気に溶け込む造りでそのエリアに腰を下ろしていた。
 表で給仕の職業を持つエージェントはそれぞれ別の飲食店に潜り込む形で情報を集めていく。
 新人の羽村 空はウェイターとしてホールを任せられ、注文の品を配膳しつつ聞き耳を立てることに余念はない。
 雑多とした中から必要な情報を手に入れることは至難の技だ。
 インスピレーションが下りればその受注時、もしくは配膳するタイミングで何気なしに人気エリアはどこなのか質問したりする。

「人気なのはやっぱりライダーエリアかな。実際に乗って体験するのは他ではできないことだし」
「サファリエリアじゃダメなの?」
「そりゃあ、たくさんの動物を見るだけならそっちがいいよね。でも、触ったりはできないでしょ。ふれあいコーナーは小さい動物だし、大きな動物……しかも幻獣を実際に触れるのはライダーエリアだけなんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、反対にあまり人が行かないエリアとかもあったりしちゃうの?」
「うーん。あくまでも僕の感覚だけど、フューチャーエリアは不人気かな。未来の世界を経験できると謳っている割には機械やロボットが古臭いというか」
「なるほどねー。この動物だけは見ておいた方がいいって言えば、やっぱり月華ちゃん?」
「子供ならね。僕だったらドラゴンをお勧めするよ。ヴォルケーノエリアはいろんなドラゴンがいるから」
「それは良いこと聞いちゃった。仕事が終わったらそっちの方に入って見るね」

 ありがとう。とお礼を言って手を上げているお客の方へと向かう空。
 親切な男性からは嘘を言っているようには感じられなかった。

 シン・クレシェンテ、本名を美月 慎というエージェントは持ち前のトークセンスを活かしてさりげなく周りの様子や会話に気を配ったり耳を傾けて給仕をしていた。
 多少のトラブルならば他のスタッフを呼ぶことなく話術で和解させ、気分を切り替えるために飲み物を促すということで売り上げに貢献している。
 新人にしては肝の据わった男、というのがスタッフからの印象だった。
 スパイグラスがキラリと輝き、できる男感を醸し出しつつシンは会話を紡ぐ。
 休憩時間になればバックヤードに戻りそこで休んでいる同僚へ気さくに接近する。

「お疲れ様です」
「おう。お疲れ様。ここのレストランには慣れたか? なかなか人が入る場所だろう」
「そうですね。ですが、それは他のレストランも同じでは」
「いやいや、けっこうシビアだぜ。人気のレストランはそれだけ人気になる理由があるし、人が入らないのは入らないだけの理由がある。内部ではそこそこ順列も知っているから最下位ににでもなればそこから這い上がるのは難しい。フューチャーエリアは知っているだろう?」
「あの、未来型エリアですね」
「そう。あそこは月光園ができた当初からあるエリアなんだが、その分最近の流行に置いて行かれている部分があってな。エリアを拡張したり、新アトラクションをオープンすることも減っちまった。当時の技術のままブラッシュアップできずに、でも自分たちの手で初めて作り上げた代物だからリニューアルして新型にするのも抵抗があるって古株が渋ってるんだよ」

 壁が出来てから手を取り合って自分たちの手で実験、研究して作り上げたフューチャーエリアは東トリスに取り残された西トリスの住人が故郷を想って作り上げた機械装置だったらしい。
 旧式であるが時折流れて来る設計図を見れば見る程に、故郷の発展する技術革新に取り残された元西トリスの技術職たちは絶望したことだろう。
 どれだけ最新式を自分の手で生み出しても故郷はその二歩も三歩も先を歩いている。
 血が滲むような想いで作り上げても届かない故郷の技術。
 それでも何かを生み出すことを止めることが出来ない自分に流れる血がフューチャーエリアに広がり置かれている。
 そんな過去をシンに教えてくれたガサツな男はもしや……。
 核心を持てないシンは何も言わないが何かを感じ取った彼は話題を変えるように最近始まったイベントの感想をガサツ男に言い始める。
 気を使われたのに気づきながらもそれに乗ってくれた男とシンは休憩が終わるまで会話に花を咲かせるのだった。

「はぁ……さっきのお兄さんカッコよかったわね」
「エリカちゃん、出会いは内側で探すものじゃないよー」
「そうそう。お客さんとの甘い恋っていうのがいいじゃない」
「だってだって、ここは東オデッサ最大のテーマパークなんだよ。そこの正社員スタッフとかだったらお給料だっていいよね!? 玉の輿に乗れるチャンスじゃない!」

 エリカ・クラウンハート
 彼女は過去に接客経験ありそうな雰囲気を変装で作り上げ、見事に採用されレストランの華になっていった。
 素直な立ち振る舞いとトークセンスで瞬く間に従業員と打ち解け、エリカがこのレストランの従業員になった目的を打ち明ける。
 月光園のスタッフとお近づきになって玉の輿に乗りたい……! と。
 個性が強ければそれだけエージェントだとは疑われ難くなる。
 それが演技だと気づかれない限り。
 給仕服姿に月光園という世界観に合わせてウサギの付け耳を頭に付けたエリカ。
 お尻に付けた丸い柔らかなしっぽもチャームポイントだろうか。
 顔面国宝を見せつけなくとも彼女の笑顔は誰からも愛され、そして恋に落とす恋愛キラーであった。
 潜入してから一体いくつの告白を断ったことだろう。
 だが、今回のエリカの顔は玉の輿に乗りたい女の子。

「従業員の人が来店したら教えてね、私がんばるから♪」

 可愛らしく気合を入れながらお願いしてエリカはホールへと向かう。
 後ろからは呆れた声と応援の声がそれぞれ返ってきた。

「ウェルカム! 月光園へようこそ♪」

 テーマパークスタッフらしい身振り手振りでお客様の非日常を盛り上げていく。
 子供連れの客は楽しい園内が見える窓側の席に。
 騒ぎそうな若者たちは壁際に案内。
 どちらのお客も快適な時間を過ごせるように気配りし、席に案内していくエリカの客さばきは他のスタッフからも一目置かれていた。
 案内した子供もとても楽しそうで、エリカはニコニコと笑いかけながら声をかける。

「いい笑顔をしているけど、今日はどんな楽しい事があったのかな~?」
「えっとね、えっとね。獣人のショー!」
「ファンタジーエリアのドリーミングショーだね」
「うん! ウサギさんでしょ、ネコさんでしょ、ライオンさんに、お馬さん、人魚のお姉さんも出てたの!」

 ステージショーはミュージカル仕立てで子供には夢のような世界が広がっていただろう。
 歌と踊りで盛り上げ、ストーリーもシンプルな物語になっている。
 ステージには立ちにくいとされる人魚も巨大水槽をセットすることで登場できるのはさすがといったところだろうか。
 魔法と本物の幻獣が織りなす舞台はそれはそれは素晴らしいショーとなったはずだ。
 子供はこういう夢に憧れるのだろう。
 他のお客の給仕をしつつ聞き耳を立て園内の噂を情報収集するエリカ。
 複数のアトラクションがメンテナンスをしているようでタイミングが合わずに遊べなかったという会話もちらほら聞こえてくる。
 確か、どこかの偉い社長クラスが直々にメンテナンスをしてくれる流れになっていたように記憶している。
 それが仲間のエージェントであることはエージェント側の上司から聞いている。
 エージェント間で情報を共有しておかなければ仲間同士で妨害する形になってしまうのだから。
 上司となる存在はそういったチーム以外の連携・調整もしなければならないのだから頭が下がる。

 そして瞬く間に時間は夕方、空に星が見えるようになってきた。
 月も顔を出し、この時間帯からはVIP席も絶えず埋まるようになってくる。
 こんなに御偉方は話し合うことがあるのだろうかという程にスケジュールは真っ黒である。
 特定の人物が毎日のように使っているわけではなく、毎回違う顔同士が密談をするのだから一体何を話しているのだろうか。
 エリカは予め決まっているVIP座席下の見えない位置に試作ラットバグをセットしておく。
 個室内に必要以上の装飾を置くことなくゆっくりと仕事の話ができる空間を作り上げると今回の予約人である社員を案内する。

「いらっしゃいませ♪ 今日もお仕事お疲れ様です♪」
「エリカちゃん、今日もキミが給仕してくれるのかい」
「もちろんです♪ 訪れる人に癒しを、安心感を与えるのが私の役目ですから。なんでもおっしゃってくださいね」

 ここぞとばかりに顔面国宝級の笑顔で疲れを癒してもらうために特別な接客を行う。
 その笑顔に絆された男性がチャームポイントのしっぽが付いているお尻を撫でて来るが笑顔を浮かべたまま対応を続ける。
 玉の輿という噂はきっとVIP社員にも届いている。
 相手はそれを分かったうえでセクハラしてくるのだ。
 ブレイクタイムで手早く料理を提供しもう一度ニコリと笑う。

「ゆっくりしていってくださいね♪ なにかありましたら、そこのベルを押してください。すぐに参りますから」

 かわいく手を振りつつVIP席から離れたエリカは従業員用控室で彼らの会話を盗聴していく。

『なに? A機関の奴らが潜り込んでいるだと』
『保安局員からの情報ではそのようです』
『一般人でか』
『そのようですが、一日に潜入するには数が多すぎます。おそらく、それ以前に潜り込んだエージェントもいるかもしれません』
『全員は消せないのか』
『一般人を何人も神隠ししていいのならば』
『ふむ。あの実験を止められる訳には』

 重要な情報が聞けそうになった瞬間。
 休憩に入った同僚が声をかけてきたために盗聴に集中できなくなってしまう。
 わずかに頭に残る言葉もあるが、それを結びつけるには同僚と会話をしながらでは難しかった。
 同僚が席を離れた時にはVIP席の会話は別の話題になっていた。

「あと少しだったのに」

 悔しいがエリカは盗聴できた部分の情報を自分の本当の上司に報告する。
 そして玉の輿を夢見る少女はレストランから消えるのだった。

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