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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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潜入エージェント


 一般人に溶け込んで調査する者、調査よりも純粋に園内を楽しむ者がいる中、月光園のスタッフとして紛れ込むエージェントも存在した。
 エルミリア・ライガー、表の名をミリア・ガードナーという事務員は以前からこの月光園のスタッフとして働くことで信頼関係を築き、A機関用に月光園の情報交換サイト「ムーンライトちゃんねる」を立ち上げることに成功していた。
 情報技術で月光園を公式HPやSNSで予習していたことで不自然なくムーンライトちゃんねるを立ち上げることはできたが、まだそのサイト内は空白だらけでとりあえず箱だけ出来た段階である。
 これからこのムーンライトちゃんねるに偽装した情報を乗せていくことになるが、今はまだその段階に移行できていない状態であった。
 このムーンライトちゃんねるを立ち上げたのも、まだ誰もやってなくて誰かがやるべきことは何か熟考した末にの悪あがきだ。
 世界の平和のためとはいえ、自分を偽り続けるのは正しいことなのか、その答えはまだ見つからない。

「ふーやっと休憩だよー。ミリアちゃんはこの月光園には慣れた?」
「それなりに、かな? 時々符丁の意味を忘れちゃいそう」
「分かるー。この世界観にそぐわない言葉を使っちゃいけないから、けっこう神経使うよねー」
「そうだね。あ、そういえば聞いた? あの月餅に新しいフレーバーと模様が出るって噂」

 休憩時間を利用し同僚とトークセンスを活かして会話を繋いでいくミリア。

「聞いたよー。開発部の子からその話を聞いたんだけどー、この模様が繊細でさーこれ見てよ」

 同僚が見せてくれたのは旧式の携帯画面。
 画質も悪く綺麗な画像とは言えないが、月餅の表面に細いツタと花に囲まれた月華ちゃんが模られた画像が写っている。

「可愛いよねー」
「すっごい可愛い!」
「何話しているの? 私にも見せて!」

 他の休憩に入った同僚が話題に加わってくる。
 ひとつの携帯を覗き込みながら新作スイーツの話題で話が弾む。
 話題は跳ね飛び、スイーツや仕事中にあった出来事、とあるアトラクションに存在するジンクス、スタッフ間での恋愛模様といろいろな話題が上がっては過ぎ去っていく。

「あ! 休憩終わっちゃう!」
「えーもうそんな時間?」
「早いね。私はこのあとメンテ業者さんの案内に入るけど、そっちはいつもと変わらず?」
「やることは変わらないけど、なにも問題が発生しないことを願うだけかな」
「あたしもー。CSS社の社長が直々に来てくれるなんてラッキーだよねー」
「失礼が無いように気を付けないと。お互い問題なく終われると良いね」

 ミリアの次の予定は機器メンテナンス業者に扮したゲルハルト・ライガーとそのドライバーであるモーブ・マクドール、ガードマンのミハエル・ゴッドバルドと合流しアトラクション機器のメンテナンス作業に従事することになる。
 事務員ミリア・ガードナーの制服【カームフォーマル】の裾を正し、胸に万年筆型ライト、救急セットを仕込んだマスコットキャラ付き備品鞄【アンチエーテルケース】がきちんと揃っているか確かめると彼らを出迎える形で合流した。

「ライガー社長、園内のナビは頼んますよ?」

 モーブの乗りつけてきたギミックワーゲンⅠは煙幕装置やオイル散布装置といったギミック関連を全て取り外し普通の小型自動車となっている。

「私が一番先に潜入したから一番この園内に詳しいけど、じいじ……じゃない、社長もアトラクションの位置は是非とも把握しておいて下さい。モーブさんも覚えておいてくれると別日でもスムーズにメンテナンス作業を行えると思うのでお願いしますね」
「分かってる分かってる。でもガイドはかわいい子にしてもらいたいだろ? なあ、じいさん」
「エルミリアが可愛いのは当然だろう」
「ちょっとミハじい! ここでの私はミリアっていうスタッフなんだから本名を言わないでよ!」
「そうだったそうだった。すまんな」

 思わずミリアもミハエルにいつもの呼び名で注意してしまうが、ここは敵地なのだ。
 あまりボロは出さない方がいいだろう。

「で。メンテナンスが必要な機械はどこにあるんだ」
「事前に頼んでおいた機体のメンテナンスをお願いします。場所は……」

 ゲルハルトが本題に戻しミリアの案内でモーブがギミックワーゲンⅠを走らせる。
 ひとつめのアトラクションに辿り着いた一行は、モーブがギミックワーゲンⅠからメンテナンスに必要な機材を下ろしていく中ミリアがアナウンスにまわり、ミハエルが『メンテナンス作業中 これより先、立ち入り禁止』の立て札を置いたら、これ見よがしにカバーをしたゲートマンをどしりと突き立ちはだかった。
 メンテナンスの日程は他のスタッフも把握しておりスムーズにミリアの開始報告を受けると積極的に協力して人の流れを制御してくれる。
 中には不満げにスタッフを睨む客もいたが、聞き耳を立てていたミハエルが毅然と立ち塞がりマーダーズアイで睨めばすごすごと人混みに消えていった。

「ほお、面白い機械があるんじゃな! して、どこの調子が悪いのか? ん? ん?」

 ゲルハルトは機器点検用ノートPC【ゴーストコンピュータ】を接続させて嬉々として培ってきたメカニックの技術やクラックコントロールを活用して工具箱を広げて修理を開始。
 いちいち大げさに配線を弄り周囲に機械を弄るのが大好きな偏屈爺さんを演じていく。

「ほれ、直ったぞ! 嬢ちゃん、次の壊れた機械がある場所へ案内するんじゃ!」
「分かりました。先輩方も人流操作の協力ありがとうございました」
「これも仕事の内だからね。どんな人が来るか不安だったけど、あの人ならば興味の対象は機械だろうし安心して任せられるよ」

 モーブがメンテナンス機材を車に乗せ直し、ミハエルが乗り込んだのを確かめミリアも先輩スタッフに頭を下げて次のメンテナンスが必要なアトラクションの案内をするためにギミックワーゲンⅠに乗り込んだ。
 そしてメンテナンス修理を繰り返しながらゲルハルトは旧基地の老朽化した動力設備、裏でこっそり実験や測定をしている装置、一度に大勢の精神操作する設備がないか探りを入れていくが遊園地ゾーンには実験装置らしき機械は存在しなかった。
 精神操作の方は決まった個体機がそもそも存在しなく、入口の他にはパーク内のアナウンスやアトラクションの仕掛けも利用し、一般人に違和感を抱かせないよう何重にも施されていることが判明しゲルハルト単独でどうにかできる代物ではないことが分かる。

「ふはははは! こいつはまた随分と年代物の設備じゃのぉ! 我輩といい勝負かもしれんな!」

 そんな楽し気なセリフを吐きつつゲルハルトは機械好きの爺さんという印象を派手に植え付けることに専念した。
 遊園地ゾーンに実験装置がないということは怪しいのはサファリエリアになるが、遊園地ゾーンのメンテナンス作業に追われサファリエリアまで探りを入れることはできなかった。
 常に稼働しているアトラクションはこれからも不具合を見せることだろう。

 スタッフに紛れ込む者がいれば自分の持ち前のアートセンスを披露することで潜入する者もいた。
 朝霞 真璃もそんなアーティストのひとりだ。
 特殊メイクのアーティストとして契約し2、3分の即興で出来る程度のボディアート的な特殊メイクをお客様に施すキャストとして噂が密かに広がっていた。
 まだ名前と顔が一致するほどに有名なアーティストにはなっていないが、月光園には特殊メイクのパフォーマンスをするアーティストがいるという噂とそのアーティストが真璃という名前であることは一般人の風の噂程度にはなっている。
 そして今日も真璃はスタッフの“仮装”と月光園の世界観、伝承知識を下敷に特殊メイクのパフォーマンスを行っていく。
 契約時、真璃はパフォーマンス内容の説明と共に数時間毎に移動してパフォーマンスする許可を貰っていた。
 そしてパフォーマンスを行う場所に適した所を選択するためという名目で客の人流、人気アトラクションの位置、パフォーマンスを行うのに適した場所、反対に避けて欲しい場所を聞き出した。
 避けて欲しい場所が具体的には示されなかったが、あまり人気のない場所でパフォーマンスをしても人が集まらないだろうとさりげなく牽制されるだけに留まったのにはなにか理由があるのだろうか。
 正社員以外が侵入を禁止する場所、絶対に入ってはいけない場所があれば即ちそこに何かがあるということになるのだが、そんな簡単には尻尾を出してはくれないようだ。

 月光園に訪れる前に集めた口コミの情報と合わせて思い返してみても、根強いファンがいるテーマパークとして概ね好意的な情報に溢れていたことがかえって気になった。

「とても広くて一日では全部は見て回れない」
「異世界に入り込んだような感じ。全部が本物に見える(本物は知らないけれど)」

 などと不自然な程に好意的なコメントしか出てこないのだ。
 そういえば、東オデッサは情報規制・統制がなされているため、ネガティブなものは「ないと不自然」な範囲以上には出ないようになっていると聞いたことがある。
 疑問が晴れ、真璃は正式的に契約を結び特殊メイクのアーティストとしてパフォーマンスを日々披露する日常が始まった。

「皆さんも月の世界に溶け込んでみませんか」

 そんな言葉で客が捉まえ易そうな無難な場所を選んで呼び込みをしていく。
 スパイグラスを目にかけ、立ち止まった客にアピールする真璃。

「ママ! あたしこれやりたい!」
「あらあら。どうしましょう……」
「あ、簡単に落とせるから心配しなくても大丈夫ですよ」

 目を輝かせて立ち止まった少女と、やや心配げに真璃を見つめる母親に薄く笑いかける。
 さりげなく目利きを行いつつそっと待っていると母親が子供に許可を出した。
 商売道具【変装セット】で少女にどんな風になりたいか尋ね、そのイメージに沿ってメイクを行う。
 特徴を掴んだそれっぽいメイクを施すと少女はとても喜んでくれた。
 それが呼び水となって様々な人が真璃に特殊メイクを頼み始める。
 ある程度人を捌くと拠点を動かしそこでも特殊メイクの呼び込みをするというのを繰り返し一日を終える真璃。
 場所ごとに客やスタッフの分布や聞き耳で入ってきた情報をレポートに記し上司に定期報告を行うとベッドで眠りに入るのだった。

 特殊メイクのアーティストが月光園にいるのならば、奇術師があえて普通のスタッフとして雇ってもらうパターンもあった。
 奇術師の名をユファラス・ディア・ラナフィーネという。
 スパイグラスで簡単に顔の印象を変え、トレードマークであるマジシャンズガウン姿で園内を散策している。
 探しているのは園内のスタッフだ。

「やあ。ちょっと時間は良いかな」
「どうしたんだ。なにか問題でも起きたのか」
「それはないが、この園にはいろいろな伝承を基にしたアトラクションが多いだろう。それがいかに素晴らしいか語りたくなってな。ぜひとも聞いてほしい。否、聴いてくれ」
「トラブルがないのならば仕事に戻りたいのだが」
「待ってくれ! いいか。遊園地ゾーン、特にライダーエリアが素晴らしかったのだ。まさか本物のグリフォンやペガサス、ガイドもできるケンタウロスにマンティコアまでいるじゃないか! マンティコアはあんなに素早く動けるとは思わなかった」

 トークセンスを活かし伝承知識も使って伝説や伝承が大好きなオカルトマニアを装いユファラスはベラベラとしゃべっていく。
 ホライゾンラベリアと聞き耳で小声も聞き逃さないように耳を傍てながら。

「全能の神が雲で作った人形の間に生まれたのが初めのケンタウロスだとは知ってはいたが、あのように園内情報を説明できる程の知性を持ったケンタウロスというのはまるであのケイロンのようではないか! 観覧車の半地下の海にいるのはマーメイドだろう? 人を魅了する美しい歌声はぜひとも直接的に聴いてみたいものだ。それで海に引きずり込まれても本望だ」

 オカルトマニアとして流暢に語っていくユファラス。
 それに若干引き気味のスタッフだが邪険に扱うことなく最後まで話を聞いてくれる。

「ところで、人に居ない場所で物音がするとか、動かないものが動き出すとか、そんな噂は知らないだろうか」
「急に話題が反れたな。そうだな……これだけ物好きならばこんな噂は知っているか? 軍の生物兵器が幻獣に紛れているらしいぞ」
「なんだって!? それは本当か! おお……それはぜひとも見つけ出したいものだな」
「本気か? 軍の生物兵器なんだぞ」
「生物兵器だろうと幻獣に紛れ込めるというのならば、姿形は幻獣と似通っているということだろう。何を基に合成したのか気になるじゃないか。キメラがいるんだぞ」
「そういうものか。あ、月光園から帰って来ず行方不明になる人がいるって話は? なんでもその人たちが怪物に変えられてしまっているとか」
「そんな恐ろしいことがあるのか」
「あくまで噂だけどな」
「火のない所に煙は立たぬというしな。オレも気をつけとこう」
「そうしておけ。じゃあ、そろそろ仕事に戻らないとだから」
「ああ。引き留めて悪かった」

 ユファラスに手を上げ別れを告げるスタッフ。
 独り言のように「月に通じる転移門がある、ってのはさすがに嘘だろう。誰が信じるんだか」という声が零れ落ちたのをしっかりと聴き取ったユファラス。

「月に通じる転移門、ね……」

 これは重要な情報ではないだろうか。
 ニヤリと笑い、そして表情を切り替えた。
 パチリと指パッチンをして周囲の注目を集める。

「Hello Everyone! ここにいる皆様はラッキーな人! これから奇術ショーを始める!」

 そう言って手始めにカードマジックでなにもない空間からカードを取り出しシャッフル。
 観客を巻き込み透視マジックやインターチェンジのすり替えを利用したコインの移動マジックを披露していく。
 徐々に高度なマジックを披露することでユファラスの奇術ワールドに見入る観客たち。
 だがこれはあくまでも一般客目線。
 マジックは芸術であり、それもまたひとつの作品。
 美しき暗号を仕込んだマジックでカードの種類、コインの表裏を暗号とし集めた情報を伝える。
 園内に一般客に扮しているエージェントたちならきっと伝わると信じて。

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