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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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ライダーエリア


 遊園地ながら月光園ならではのエリアがひとつあった。
 サファリエリアは車の中から動物を見るのに対して、ライダーエリアでは実際に騎乗が楽しめるエリアなのだ。
 幻想動物に乗れることを目玉にしたエリアは非常に人気でケンタウロスのツアーガイドは常に行列が絶えなかった。
 やはり言葉を交わせる幻獣というのは敷居が低いらしい。
 そしてケンタウロスというのは非常に賢く、かつては英雄の指導者としての面があった。
 一番人気は英雄アキレウスやイアソン、ヘラクレスの師と同じ名前を与えられたケイロンというケンタウロスだろうか。
 森を駆け、他エリアのおすすめスポットまで紹介してくれるガイドとして人気のケンタウロスだった。
 他のケンタウロスもガイド役として多くライダーエリアに収監されており、長蛇の列の割にはスムーズに列は進んでいく。
 少年の中でも意外に人気があるのはキメラだろうか。
 様々な合成をされた動物は一体一体が強さを誇り、それが合体したとなれば少年の心をくすぐらずにはいられないらしい。
 ライオンの身体を合成されたキメラは特に愛され、その背に乗ることが一種のステータスになっていた。
 年若い少女に好かれているのはユニコーンだった。
 否、ユニコーンが少女を好いていたとも言える。
 処女好きで有名な潔癖の一角獣が好むのはやはりそういう年齢層なのだ。
 騎乗補佐をするスタッフも年若い女性が担当していることからもユニコーンの管理には繊細な注意が必要なのかもしれない。
 噂によると男性とは一切写真を撮らせてくれないらしい。
 既婚者の女性でも絶対に背中に乗せないプライドの高い存在なのだが、老婆であっても共に写真を撮るのは良いらしく女好きの馬というのが一般的な印象のようだ。
 速さを感じたければスタッフはマンティコアを勧める。
 巨体に見合わず目にも留まらぬ速さで駆け抜けることが出来るため、上級者向けの騎乗動物となっている。
 空に憧れを抱く者ならば外せないのは、やはりグリフォンだろうか。
 巨大なワシの翼に獅子の胴体で大空を翔る気高い存在に憧れ、共に写真を撮る者も多い。
 グリフォンのように空を駆けられる幻獣はほかに難易度の低いヒポグリフも存在するが、空に憧れる女性ならばペガサスに軍配が上がる。
 天使のような翼を持つ白馬は広い年齢層から好まれた。

「すごいな。幻獣と呼ばれる存在がこんなにたくさん」

 九曜 すばるはフィルムカメラを手に撮れるだけの写真を撮りまくっている。
 周囲からは子供が目に留まるものを手当たり次第にカメラに収めているように見えることだろう。
 現像するまでどう写っているか分からないが、全くのモザイクになることはないと願いたい。
 ウォーターランドエリアの湖にはたくさんのニンフ……正確にはナイアデスという名称の妖精がいたり、セイレーンもいたように思う。
 それらの存在が全て本物で、かつそれらがこの月光園から逃げ出さないのはなぜなのか。
 受付で洗脳を受けてから入るために違和感を覆い隠して幻想的な風景や魔法による演出は多岐にわたっている。
 それでいてまとまりがないのだ。
 エリアによって分断することで世界観が変わっても疑問に思うことなくそのエリアの演出だと納得させてしまう強引さ、同じエリア内でもアトラクションが違えば出典の違う伝承を使っている雑多さ、とにかく寄せ集め感がすごいのだ。
 ひとつの風景のイメージで構成されていない。
 ちぐはぐの接続部分を綺麗に隠して全てを月の演出だと思い込ませる力がそこにはあった。
 ひとつひとつのアトラクションを吟味している時間はない。
 できるだけ多くのエリアを踏破し世界観を網羅しなければならない。
 公共バスを多段に利用してとにかく回る回る。
 それでも一日ではサファリパークになっているサファリエリアまでは回り切れない。

「あそこの壁、剥がれかけているな」

 すばるが目線を向けるその壁は確かに少し脆くなっている。
 誰かがぶつかりでもしたのだろうか。
 近づいてみると剥がれかけた壁の内側にもう一つの壁が存在していることに気が付く。
 上から塗り重ねたとしか思えない壁を少しだけ剥がしてみる。
 内側には酸化した血液のような赤黒いシミが付いていた。

「これは……」

 一部をサンプルとして回収し、なにもなかったという風に復元に取り掛かるすばる。
 そこへポンと肩を叩かれギョッと肩を跳ね上げる。

「ボク、どうしたのかな?」

 笑顔を浮かべたスタッフがにっこりと声をかけてきた。
 まさか、エージェントだと気づかれたか!?
 焦りそうになるが、ここでボロを出すわけにはいかない。

「ご、ごめんなさい。壁、壊しちゃったの……」
「あら。怪我はない?」
「大丈夫」
「そっか。ここの壊れちゃったのは後で直しておくから。正直に話してくれてありがとう。お礼にシールをあげるね」
「ありがとうございます。あの、本当にごめんなさい!」

 ぺこりと頭を下げて大急ぎですばるはこの場を後にする。
 そのため声をかけてきたスタッフの言葉は聴こえなかった。

「こちら保安局シータ班。怪しげな子供を1名発見。エリアはライダーエリア。現在転倒した一般客の手当てをしていることから医療知識を有していることが予想される。しばらく監視体制に入る」

 監視対象になってしまったすばるは保安局員の監視に気づかないまま跳ね上がる心臓を鎮めるためにグリフォンに抱きつき思い切りふかふかの羽の感触を楽しんでいた。
 満足すれば、今度は毛並みの良いキメラやヒポグリフを撫でに向かう。
 その笑顔はどこから見ても普通の子供に見えた。

 その近くではイケメンのスタッフが騎乗のレクチャーをしているの見てキャーキャー言うサーエルン・セルンアウスラーダ・セルンがいた。

「白馬の王子様っていいね!」
「最高!」
「ねぇ、騎乗動物が寝泊まりしている小屋って怪しくない?」
「怪しいね。私たちで調べちゃう?」

 なぜそんな綱渡りな言葉を交わしているのかと言えば、イケメンキャストをチェックしている双子に扮したエージェントだと保安局に気づかせるため。

「魔素が濃いのはサファリエリアだけど、ライダーエリアだって全く魔素が無いわけじゃない。ここにいる動物たちをけしかければあっという間に怪我人続出だね」
「すでに他の誰かは監視対象になっているかも」

 スレスレを狙っているが確信を持たれて襲われたら身も蓋もない。
 自分たちは他のエージェントが動きやすいように囮役として場をかき乱すだけ。
 アウスラーダもサーエルンの案に乗ったのは敵の行動や監視方法を調べるため。
 監視方法を知ることが出来れば他のエージェントが動きやすくなると思ったから。
 だが、相手は保安局員だ。
 すでに目を付けられていることにふたりは気づかない。

「なにやら危険な計画を立てているようですが、一体なにを調べようというのです? お姫様方」

 アンダーリムの眼鏡にフードパーカーとスキニージーンズといった姿の男性が声をかけて来る。
 その目は笑っておらず、気さくな雰囲気と噛み合っていない。
 やりすぎた。
 サーエルンとアウスラーダは顔を真っ青にする。

「え、えーと……」
「な、なんでもないよ? エルンがあの人カッコイイよねって話をしてただけだし」
「そうですか? なにやら動物の管理小屋に侵入する話が聴こえてきたのですが」
「それは……」

 コツコツとゆっくり接近してくる男性。
 絶体絶命の危機に二人は涙を浮かべる。
 そこへ誰かの会話が聞こえてきた。

「例のアレが手に入ったよ。このケースはどこで渡そうか?」

 声の主は空音 見透
 人畜無害でうだつの上がらない感じの仕事がうまくいかなかったサラリーマンが手を耳に当てて暗号会話をしている。
 スパイグラスで印象を変えた見透がチラリと保安局員の男性に視線を向けたように思うとサッと建物の角を曲がっていく。
 見透の手にはアンチエーテルケースが握られており、保安局員がどちらを優先するか一瞬だけ迷うが別の保安局員にサーエルンとアウスラーダの特徴を伝えると見透を追いかけだした。

「エルン、逃げるよ」
「うん。私たちはやりすぎた」

 こうして巡ってきたチャンスを逃すほど愚かじゃない。
 あの人は自分たちと同じエージェントだろう。
 そうでなければ保安局員に視線を向けて気を引いたりしない。
 サーエルンとアウスラーダは急いで巡回バスに乗り込み月光園を脱出した。
 そして二人のフォローに入った見透はいくつかの角を曲がりながら追いかけてきた保安局員が追いついてきたのに合わせてアフターグロウで逃走。
 アンチエーテルケースを落としてナイトジャケットで視界を覆うと素早く人込みに溶け込んだ。

「くそ。逃がした……だが、ケースは手に入った」

 アンチエーテルケースを開けると中には『成人済みムーンチャイルドの素晴らしさ』を真面目に延々と書かれた紙の束が入っているだけだった。
 さすがに暗号会話を応用して暗号文書を書くことは出来なかったのだ。
 その束をビリビリと破る保安局員だった。

「あのロリコン野郎……絶対に捕まえてやる……!」

 徐々に保安局員もエージェントの存在に気づき始めた頃。
 ライカンスロープのアキラ・セイルーンは変身せずに人間の姿のまま一般に公開されている施設の評価を調べていた。

「(隅々まで遊びつくして余すとこなく調べ尽くしてやるぜヒャッハーーー!!)」

 ファンタジーエリア、ヴォルケーノエリア、ウォーターランドエリア、ライダーエリア、フューチャーエリア、そしてサファリエリアの各エリアの名所をとにかく片っ端から楽しみ尽くすことに命を燃やすアキラ。
 フリーパス、飲食代、お土産代と金に糸目をつけずに遊びまくり、買いまくり、その金銭を全てA機関へ請求する気満々である。
 パンフレットや園内案内板などを見て全体図を掴み、どこに何があるか把握し、ネットで集めに集めまくった口コミ情報や雑誌情報から目をつけていたものや狙っていたものへ真っ先に突撃していき、とにかく行列に並ばず乗れるものから、遊べるものからトライしていく。
 巡回バスを乗り継いでいては時間のロスがある。
 各駐車場にある個人で使える車を使ってとにかく最短ルートで次のエリア、次のアトラクションを目指し、無駄なく園内を制覇しようとするアキラはしっかりと日中のパレードも楽しみ、月華ちゃんとの写真も収め、園内の映えスポットを探し見つけ、情報を記録したり撮影を楽しんでいた。
 とにかく量をこなすことを目的にしているが、この広い園内を隈なく遊びつくすには時間が足りなかった。
 さすがに今回の裏側で行われるミッションと同日に行われている表のミッションのため、宿泊代までは下りなかった。
 まだ、ウォーターランドエリア、ライダーエリア、サファリエリアまで行けていないまま夜のパレードが始まってしまった時間帯。
 今はフューチャーエリアに来ている。
 未来型エリアとも言われるこのエリアであったが、アキラからしてみれば、未来といいつつも機械やロボットが古臭い感じがした。

 『クレセントムーン闘技場』では武装した二足歩行の動物と人間が戦う4Dアトラクションという名目だったが、演出が大味で最新鋭と言われるその武器や防具が何世代か前のデザインだったり、人間側も武骨であったり服装が古臭く、あまり未来的デザインとして褒められたものではなかった。
 乗っている箱物も振動だけがやたら強いだけのシンプルなものなのも頂けない。
 そう感じるのは自分たちが東トリス以上の技術を知っているからかもしれない。
 これが西トリス側だとしたら通信インフラも整備され、軍事技術の多くを民間転用することで技術革新も成されたことで、フューチャーエリアも様変わりしていたことだろう。

 『ネレニーア姫とサンドローズ王子の幻影劇』も登場する人形たちも本物の幻獣に比べて見劣りし、旧型のロボットとしか呼べない代物。
 衣装に使われている布も安っぽく、他の世界の技術であれば素晴らしい衣装になるのにと惜しく感じてしまう。
 ストーリー的にはある日、山の頂で寝ていたサンドローズ王子を見たネレニーア姫が恋に落ちたところから始まる。
 月の住人である自分とは違い、人間のサンドローズは次第に老いていくことに耐えきれなくなった彼女は、月の王に彼を不老不死にするように頼んだ。
 月の王はその願いを聞き入れ、彼を永遠の眠りにつかせた。
 それ以降、毎夜ネレニーア姫は地上に降り、永遠に眠り続けるサンドローズのそばに寄り添ったという流れだ。

 『トートのタロット館』も非常に惜しいものだった。
 ロボットのトートがトート式タロットで占う施設で、タロットをシャッフルする手が拙く、結果のパターンも少なく汎用性に乏しかったのだ。
 魔法による演出は相当なものだったが、トートロボット自体がリアリティに乏しく、機械的な見た目から抜け出すことができていない。
 手探り感がすごく、当時の最先端だった時代から遠く置いて行かれてしまった物寂しさがそこにはあった。

 一日で遊べたのは4分の1行けば良い方かもしれない。
 閉館の音楽が始まれば夢から覚めたような寂しさがそこにはあった。

「しっかり準備してきたのに、全部は回れなかったか。これは第二回、第三回の調査が必要だな。その時も経費が落ちればいいが」

 帰宅後、各施設の人気度、待ち時間、スタッフの対応、実際に体験しての満足度を点数化したレポートをまとめ上げ、A機関に提出。
 そしてまだまだ普及していない個人ブログでそのレポートを見やすいように編集し、公開するのだった。

 アリス・ドロワーズもアキラに随行し、こちらは食道楽を行った。
 特定の表の職業を持たないアリスはやや一般客から浮いているような形になってしまったが、それでも車を運転するアキラが車を止めるところに点在する飲食店に突撃していき値段、味、量、見た目、提供されるまでの時間、それぞれの店の客層や食のジャンルや混み具合、店員の対応を独自採点していった。
 中でも月光園の目玉商品といえば、各エリアごとにフレーバーと模様が異なる月餅だ。
 各エリアをモチーフにした数パターンの模様で型取りされた月餅は見た目も楽しめるお菓子になっている。
 子供に人気があるのはデフォルメした月華ちゃんがいるタイプの模様のようだ。
 大人の場合は模様よりも味に重きを置いているだろうか。
 季節ごとに中身の変わる四季の味覚餡が人気らしい。

「フューチャーエリアのジャンク感はスゴカッタね。それに自動販売機も各エリアでデザインが違ってた。ちゃんと周りにマッチするようになってタのがポイント高いヨ」

 建物式の飲食店から移動販売車、そして自動販売機まで網羅したフードランキングをアキラとは別のテーブルでレポートにまとめるアリス。
 基本項目に加える形で移動販売車なら持ち運びやすさ、自動販売機ならば場所や品揃えが採点に加わる。
 意外と盲点になりやすいショップに並ぶ食品系も売れ筋の商品やアリス個人的なおすすめのお菓子を書いて書いて書きまくる。

「できたネ!」

 渾身のレポートを掲げるアリス。
 そしてアキラが提出するレポートと一緒に提出してもらい、アキラのサイトのコーナーをひとつ借りてランキング形式で今回の評価・評論を載せていった。

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