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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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ウォーターランドエリア


 大戦から数十年を経て、東西両国政府の和平派が秘密裏に組織した特務機関A機関。
 そこのエージェント及び外部協力者はある年から急激にその人数を増やした。
 エスメラルダ・エステバンはひとつ危惧していた。
 ワールドホライゾンと繋がりA機関と協力関係になった者の中には容姿にすぐれた者も少なくないため、目立つ存在が増えたことで人口が一気に増えたことに気づかれるリスクだ。
 今まで存在していなかった存在が増えたことを敵対組織に気づかれることはあってはならないことだろう。
 敵対している相手に違和感を持たせずにどうすれば特異者が暮らせるか注意して考えていく必要が今後はあるだろう。
 バイナリアに来て間もない自分たちではボロを出す可能性も高い。
 今のうちに最低でも東トリスでの空気感を身に着けておく必要があった。
 暮らしや流行を調べるのに東オデッサ最大のテーマパークはサンプリングするにはちょうどいい場所のはずだ。

「まぁ! 観覧車があるみたいですわよ、アンドレア様!」
「では、そこにまずは行こうか」
「はい!」

 多少浮世離れした修道女に扮したエスメラルダが久しぶりに会った幼馴染でボディーガード(研修中)という名目のアンドレア・トルッファトーレにキラキラした顔で笑顔を浮かべた。
 ボディーガードのアンドレアはヴァンパイアだ。
 己の存在がこの世界でどういう目で見られているのかも確かめる必要性を感じていた。
 日焼け対策の日傘に園内で購入したトマトジュースを飲んで後ろから歩いていく。
 そっと周囲の目を気にしてみれば、恐れの表情と憧れの表情に二分化されていた。
 若者は憧れの表情でこちらを見ているが、年が上になる程に恐れのある表情でアンドレアとあまり目線を合わせようとはしない。

「ねぇ、アレって本物かな?」
「どうかな? だって存在しないって政府が言ってたし……グール化は感染症、奇病の類なんでしょ?」
「でもでも、あの人の目は赤いよ」
「えっ……!? ということは私たちの血も吸われちゃう? やだ、こわーい」
「本に書かれているみたく不死身だけど高潔だったり、高慢で人間を支配しようとする強力な存在なのかな? どうなのかな?」
「知りたいけど、話しかけるのはちょっとなー」
「だよね。本物だって言われてもうちらにはどうしようもないし」

 そんな会話がすれ違いざまに聞こえてきた。
 興味はあるが本物だとは信じていないような印象だった。

「ヴァンパイアが実在するとは認知されていないようだな」

 チラリと太陽を日傘越しに覗いてみて分かったが、他者の血は欲しいが日光程度ならば致命傷にならない程度の傷にしかならないらしい。
 あまり素肌をさらして太陽の下には出たくないという忌避感はあるが。
 だが、戦うと決めたら軽い火傷くらい目をつぶればそれなりに戦うことは出来そうだ。
 その火傷も持ち前の生命力で日陰に入れば修復できるかもしれない、今は試したくはないが。
 すれ違った少女らのファッションも動物の耳としっぽを普通に隠さず服装の一部として着飾っていた。
 人間の耳にピアスをはめるように、ライカンスロープ専用のアクセサリーが出回っているらしい。

「思ったよりも距離がありますわね。あの車を使いましょう」

 園内専用車はあちこちの駐車場に数台ずつ設置されており、好きな車で移動でき、好きな駐車場で降りてよいことになっている。
 ただし、路上駐車は認められておらず、アイドリング中の車や無人の放置車は発見され次第スタッフに誘導、もしくは移動されてしまう。
 そのため車内に荷物を放置することは推奨されておらず、移動されてしまった車の中に荷物があった場合落とし物センターにまとめて預けられるシステムになっていた。
 エスメラルダが注目した観覧車はウォーターランドエリアでも目玉のアトラクション。
 円形の半分が地下に潜ってしまう特殊な形の観覧車だった。
 『ソールとマーニの観覧車』と呼ばれる観覧車のゴンドラの全体の半分が金色、もう半分が銀色で装飾されており、太陽と月のイメージになっている。
 そして半地下になっている空間は海となっておりマーメイドやウンディーネ、イルカに乗ったレネイドといった存在がゴンドラに向かって手を振ってくれるのだ。
 半円形部分しか地上から顔をのぞかせていないがゴンドラの数も多く、それなりの高さまで上がれるため一周回り終えるまでの時間がとても長いのが特徴である。
 それ故にゴンドラ内で飽きさせないために付属のカメラが設置されており、降りるまでに好きな写真をひとつ選んで現像してもらえるサービスがあった。

「大きいですわねー」
「一周回り切るまでけっこうあるんだな」
「かまいませんわ。その分たくさんの景色が見れますもの」

 順番が機て乗り込んだゴンドラの色は銀色だった。
 ゆっくりと月が空に昇っていく。
 ここからあの東西を分断するトリスの壁が見えないかとエスメラルダは遠くの方を眺めるが、その壁は小さく肉眼で見える大きさでしかない。

「アンディ、一緒に撮影しましょう?」
「こっちの機材でもな。スタッフに止められなかったことからも、個人のカメラで撮影することは禁止されてなさそうだが、念のためこっちでも撮っておこう」

 できるだけトリスの壁が写るようにエスメラルダはフィルムカメラで寄り添った写真を撮る。
 友人同士で記念の写真を撮影し合う仲だと装うことでなんとなく違和感を覚えたところを背景にした写真をいくつか撮影していく。
 そして地下の海ゾーンに入るとたくさんのマーメイドやウンディーネを取り付けてあるカメラで撮影し、記念の一枚は近寄ってくれたマーメイドと一緒に撮影した写真にするのだった。

「食事をしたらもう一度乗りましょうか」

 時間を変えれば何か別な視点が見えてくるかもしれない。
 アトラクションを楽しみつつインスピレーションが下りてくるのを待って。

「さて、月光園を楽しみましょうか」

 A機関からのミッションはこの月光園の情報を表側から調べること。
 高い所から全景を確認することは真っ先に行うことだった。
 東トリスの土地勘を火屋守 壱星は持っていたが、この月光園へ潜入するのは初めてのことだ。
 パンフレットと土地勘から逆張り的にスタッフに紛れているであろう保安局員の巡回ルートを計算することにした。
 接触の機会をできるだけ減らし、この月光園に馴染むことを目標にアタックモービルを駐車場に止め『ソールとマーニの観覧車』に乗り込んだ。
 なかなかに巨大な観覧車は一周回るまでに相当の時間がかかる。
 全景を知るにはちょうどいいアトラクションだった。

「相当広いですね、ココ」

 ひとりになっても表用の口調を崩さないのは盗聴を恐れてのこと。
 魔法で隠ぺいした監視カメラもあるかもしれない。
 なんせゴンドラの中は完全な密室になるのだから、密談には持ってこいの場所のひとつだろう。
 情報統制の厳しい東トリスならばこのくらいのことは仕掛けている可能性が高い。
 スパイグラスで遮蔽物で意識しにくい死角や、不自然に道が折れ曲がってる所、基地時代から残ってる古い建物など、怪しげな場所は余すことなくパンフレットに書き加えていく。
 傍から見れば観覧車から見えた気になる場所をパンフレットに書き込んでいるように見えるだろう。
 広すぎてここのウォーターランドエリア以上のエリアを具体的に調べて書き加えるのは難しい。
 どれだけ広大な敷地面積を遊園地に作り替えたのか。
 反対に考えればどれだけ大規模の軍事実験を昔はしていたのか。
 ピックアップを終えた観覧車が地上に戻って来る。

「行きたいところがありすぎますし、パンフレットのおすすめコースでも巡りますかね」

 向かうのは目星をつけた場所だが、直接的にそれらを巡るのは怪しまれるかもしれない。
 各エリア内のおすすめルートも書かれており、ルートコース付近には気になった場所もあった。
 ふとアタックモービルを走らせていると迷子の子供を発見する。

「どうかしました? お父さんやお母さんはどこにいますか?」
「わかんない……月華ちゃんをギューッとしてたらいなくなっちゃった」

 月華ちゃんというのはこの月光園のマスコットキャラクターの顔である。
 真っ白なモフモフの毛皮に真っ赤な瞳をした長い耳をピンと立てたウサギは二足歩行で様々な場所に神出鬼没で現れるらしい。
 迷子の子供も月華ちゃんが大好きで彼女の姿を見つければ思わず駆けだしてしまうのも無理はなかった。

「それは困りましたね。寂しくありませんか」

 聖人の抱擁で安心感を与えながら目線を合わせる壱星。
 少しずつ聖職者としての経験を積み、困りごとや悩み事に寄り添う方法を掴みかけているところだ。
 その抱擁感に安心したのか不安そうな顔ではあるが泣き出したりせずに壱星にギュッと抱きついてきた。

「心細いですよね。でも、大丈夫ですよ。私が一緒に探しますから」
「ほんとう?」
「はい。ですが、まずは館内放送で呼び出しをしてもらいましょうか」

 アタックモービルのサイドカーに子供を乗せ、壱星は手押しでスタッフを探す。
 迷子のお知らせセンターならば力を貸してくれるだろう。

「すみません。迷子の子供を見つけましたので、館内放送で呼びかけてくれませんか?」

 トークセンスでエージェントであることを隠しながら聖人の抱擁で怪しさを消して迷子センターの担当に見つけた子供を見せる。
 スタッフの対応は手慣れており、相当数の相手とやり取りをしてきた熟練のスタッフであることが窺える。
 手早く必要な情報を手に入れると館内放送で呼びかけた。
 迷子センターには他にもはぐれた子供が数人いるようで、おもちゃや本を読んでリラックスしている。
 不安な気持ちを覆い隠すようにいろいろなアイテムで気を紛らわせているのだろう。
 それか、差し出された飲み物やお菓子にリラックスさせる成分が含まれているのか。

「ありがとうございました。迷子センターへ自力でたどり着ける子供というのはなかなかいないので助かりました」
「いえいえ。困っている人がいれば助けるのが私の役目ですから」
「そうでしたか。神父さんもありがとうございます」

 スタッフに感謝されているとひとり、またひとりと家族が迎えにやって来る。
 あの子供のそう遠からず両親と再会できるだろう。

「では、私はこれで」
「はい。ご協力感謝します。月光園を楽しんでくださいね」

 なにも怪しまれることなく迷子の引き渡しを終えた壱星はアタックモービルを走らせ次のアトラクションに向かった。

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