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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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・【チーム:カード】

 最終的に、エカテリーナの心を解きほぐし、信用させたのは【チーム:カード】だった。
 とはいえ、すべてがすべて、順調にうまくいったわけではない。
 事態が動いたのは、2(行坂 貫)のコウモリが、逃げ惑うエカテリーナを見つけたことに端を発する。
 そのままコウモリで監視を行いつつ、臨時の作戦会議を開いた。

「どうする? 逃げまくってるのを見るあたり、俺たちが出ても同じことになりそうだが」
「うーん……俺が参加型パフォーマンスでさりげなく指名して、サービス券を渡してさりげなく、店に向かうよう誘導するのはどうだ?」

 話し合っているのは、貫とA(アーヴェント・S・エルデノヴァ)であるが、ふたりとも表情が渋面だった。
 揃ってため息をつく。

「駄目だ。成功するビジョンが思い浮かばん」
「警戒心は相当増してるはずだしな……」

 そんなふたりの袖を、ちょんちょんとK(行坂 真預)が引っぱり、腹案を述べる。

「なら、オレと八玖斗で先に接触してみよか。さすがに相手が子どもなら、向こうも即逃げたりせんやろ。特に、八玖斗なんかは刺さりそうやし」
「何にだよ……。我ながら、なんて格好してんだろうオレ……。おかしい、一番年上のはずなんだが……」

 真預はJ(龍造寺 八玖斗)を引き連れていた。
 子どもと見紛うムーンチャイルドの容姿に、背負った試製武装ランドセルが、似合いすぎるほど似合っている。
 試製武装ランドセルの外見が普通のランドセルを模しているだけに、小学生男子にしか見えない。
 複雑な気持ちではあるようで、真預へツッコミを入れつつ表情が黄昏ていた。

「成功するかは分からんが、やってみるか。店の準備をする」
「了解。ならこっちはパフォーマンスを続けながら待とう」

 顔を見合わせた貫とアーヴェントの鶴の一声で、作戦が決まった。
 もうどうにでもなーれと腹を括った八玖斗と、面白そうな作戦に密かにワクワクしている真預がエカテリーナのもとへ向かい、それを確認して貫とアーヴェントも動く。
 貫は店の準備に。
 アーヴェントは、路上パフォーマンスの人寄せに。
 しばらくすると、貫の店には人だかりができていた。
 パフォーマンスを見にきた人々を、アーヴェントが次々送りこんでいるため、人の流れは途切れることを知らない。
 これでは、敵エージェントたちも強硬策は取り辛いだろう。
 とはいえそれだけではエカテリーナの富士山のごとくそびえ立った警戒心を、切り崩すには足りない。
 自分にとって危害を加えるに足らない人物だとエカテリーナに認識させ、その心を解き解す必要がある。
 そしてそれは、八玖斗と真預の役割だ。

「ねえねえ、まーにぃあれ食べたい! 買って!」
「おお、いいぞ、並ぼか」

 まるで本当の子どものように愛想を振りまく八玖斗が、真預の手を引っぱり駆けていく。
 最初のうちは微笑ましそうに付き合っていた真預は、笑顔のまま段々頭上に疑問符を浮かべていく。

「あれ乗りたい! ぎゅーんっ! って昇って、すとんっ! って落ちるやつ!」
「うん? ……うん?」

 普段の八玖斗と演技中の八玖斗の温度差に真預が風邪を引きそうになっていると、手を握る八玖斗の力が強まる。
 見下ろせば、静かな意思の光を宿す瞳と目が合った。

「演技しろよ。オレだって色々苦汁を飲んでやってんだぞ」
「あ、いつもの八玖斗だったわ」
「どういう意味かな? まーにぃ、オレずっといつもどおりだよ?」

 にっこりと笑って、八玖斗は真預の足を踏んだ。
 そうして臨んだ八玖斗と真預のエカテリーナとの接触は、一見するとうまくいっていた。
 最初は警戒心に満ちていたエカテリーナだったが、エカテリーナを案内するためのメモを落とした責任の擦り付け合いから始まったふたりの喧嘩を仲裁したりして、一緒に行動する時間を深めるうちに、少しずつ心を解き解され、ときおり笑顔すら零れるようになった。
 やっと見つけたアーヴェントのパフォーマンスを見て楽しんで、指名されてあたふたしながらもステージに上がり、一緒に指名された八玖斗や真預と一緒に、音楽のリズムと掛け声に合わせてポーズを取って、参加型パフォーマンスを楽しんだ。
 渡されたサービス券を握りしめて向かった貫の店では、振る舞われた料理を前に、三人で舌鼓を打った。
 この楽しい時間が、永遠に続けばいいのにと、エカテリーナは思う。
 今の時間を切りとって、大切な宝物として、絵画にでも閉じこめてしまえたら。そう思う。
 少しずつ、魔法は解ける。
 よく似せされていた真預や貫、アーヴェントの喋り方や態度、身振り素振り、それらの一つひとつが、些細に、少しずつ、けれど無視できない違和感となって、時間の経過と共に、エカテリーナの知る東トリスや東オデッサ人のものと食い違っていく。
 最後まで変わらなかったのは、八玖斗だけ。
 それでも、信じることができない。
 エカテリーナは、確かに世間知らずの箱入り娘だ。家を飛びだして、今もこうして多くの人間に迷惑をかけている大バカ者だ。
 けれど、決して愚かなだけの少女ではない。
 見た目の年齢がちぐはぐながら、まるで長年の親友同士であるかのような仲の良さを見せる四人のうち、三人が偽りを抱えているのなら、残るひとりである八玖斗もそうでないと、どうして思うことができるだろう。
 だからこそ、他の客がはけてすぐ最後の襲撃が起きた時、エカテリーナの心に浮かんだのは、諦念だった。
 また騙された。
 結局、信頼できる人なんて、いなかったのだ。
 そう思いかけたとき、八玖斗の横顔に浮かんだ表情を見た。
 自らを庇う、その小さな背中を見た。

「──手を出させんな! 俺たちで守るぞ!」

 銃撃が掠め、頬に赤い傷跡を残し、痛みに怯みそうになりながらも、目を見開き気迫をこめて、下がりかけた足を勢いよく一歩踏み出す確かな音を聞いた。
 試製武装ランドセルに内臓された魔法銃で魔力弾を撃ち、応戦する勇姿に、息を飲んだ。

「せっかくに店が繁盛してるのに、騒ぎを起こしやがって……! 営業妨害するなよ、お前ら!」
「そこや! 足元がお留守やで!」
「君たちも飛び入りでパフォーマンスに参加希望かな? でも残念、乱暴者の参加はノーサンキューだ!」

 周囲では、貫がシャンパン砲をぶっ放し、真預がゲートマンに気を取られた敵エージェントの足をアイアンワイヤーで払い、アーヴェントも白のウードを奏でながら、体術で巧みに叩き伏せている。
 皆エカテリーナのために戦っていた。
 感情が、あふれる。

「……どうして」

 そこまでして、守るのか。
 守って、くれるのか。
 命を狙われる身でありながら、自分勝手に飛びだして危機に陥り、多くの人間に迷惑をかけてしまった馬鹿な小娘を、なぜ。
 疑問はたくさん浮かぶのに、こみあげる感情が邪魔をして、言葉にならない。
 辛うじてこぼれた呟きに、八玖斗が振り返る。
 道に迷って雨に降られ、家路も分からず、途方に暮れて立ち尽くす。
 そんな濡れそぼった表情の、エカテリーナがいた。

「すまない。本当は子どもじゃないんだ。でも」

 八玖斗の、子どもと見紛う、されど子どもにしか見えない容姿とは不釣り合いに大人びた言葉遣いが、見た目相応のものに切り替わる。

「依頼とか、損得とか、そういう気持ちを抜きにしても。おねぇちゃんを守りたいっていう気持ちは、本物だから」

 無邪気な笑顔を浮かべた横顔に、エカテリーナはもう一度胸を打たれた。
 大人と子ども。
 どちらの態度でも、その横顔を見て、受けた衝撃は変わらない。

「……たすけて、ください」
「うん。任せてよ」

 初めてエカテリーナの方から差し出された手を、八玖斗は取る。
 信頼は成る。
 【チーム:カード】は、こうしてエカテリーナを敵エージェントたちの手から、最後まで守り切ったのだった。


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