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ムーンライト・ミステリーツアー

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ムーンライト・ミステリーツアー
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ファンタジーエリア


 月光園。
 遊園地とサファリパーク型動物園が併設されている東オデッサ最大のテーマパークは一般人の休日のデートコースとして、家族イベントとして、ひとりでゆっくりと楽しむため、それぞれの目的に合わせて様々な顔を見せてくれる魅惑的なテーマパークである。
 “月の世界”をコンセプトに、幻想的な風景や魔法による演出、神話や伝説に出てくる動物たちとのふれあい等、非現実的な体験ができることを売りにしているこの施設は一般市民が魔法や幻獣、獣人といった伝承上の産物を肌で感じることができる場所となっていた。
 それ故に広大な敷地面積を誇り、テーマが異なる複数のエリアを持つテーマパークとなっている。
 遊園地は定期的に新しいアトラクションを公開し、常に行列ができる程の人気を生み出しており、アトラクション開発者の手腕にも一目置かれていた。
 もうひとつの目玉である動物園……サファリエリアも様々な幻想生物を放し飼いにしており、檻を挟んだ普通の動物園とはまた違った魅力を感じることが出来るため、人気のエリアとなっていた。
 だが、それは表向きの顔である。
 本当の顔は統一連邦時代のオデッサ軍トリス基地だった場所。
 幻想生物は本当の魔獣な上、兵器も隠されている危険な場所でもあるのだ。
 来場者は受付の際に荷物の検査や、パーク内のものが全て作り物・演出であるという暗示を掛けられており、一般人はその暗示が途切れることなくパーク内を歩き回っている。
 A機関は月光園に関する情報を多く集めるためにエージェントを召集、任務を与えると、それぞれのエージェントは表の顔を利用し、思い思いの方法で月光園へと潜入を開始した。



◇          ◇          ◇




 乙町 空、16歳学生。
 空はアンチエーテルケースを手に月光園に来ていた。
 中身はクーゲルシュライバー・アカデミックノート・ホライゾンカムコーダの3点。
 園内を巡回しているバスを移動手段に空は月光園を巡り始める。
 事前に園のスタッフに社会見学の課題の一環としての許可を得ており、他店のスパイではない証拠として許可証を首から下げていた。
 スタッフにはそれとなく分かるようになっているが、一般の人から見ればフリーパスを首から下げているように見えるカモフラージュもされており、なかなかの出来栄えである。

「次、どこに行く?」
「えー、と……近くだとやっぱりハピラビかな?」
「いいね! そこ行こう!」

 危険が潜むサファリエリア行きのバスには乗らず、遊園地内を循環するバスに乗った空のひとつ前の席に座っている学生らしき少女二人の会話に聞き耳を立てれば、近くにハピラビなるアトラクションがあるらしい。
 A機関のサポートで暗示にはかかっていないが、念のためセラピュティクスで暗示にかかっていないか確認しておく。
 変調もなく、いつも通りなのを確かめ『Happiness RABBIT』と看板が掲げられているアトラクション付近の停留所で降りると迷うことなくそこへ入っていく。

「ようこそ! Happiness RABBITへ。ここはウサギと一緒に旅に出ることが出来ます! 1名様ですか?」

 ウサギの耳を生やしたスタッフが笑顔で空に話しかけてくる。
 年齢も若く、カインドマスクを被り、私なりの正道に則り誠実に対応すれば空がエージェントだと気づかれることもないだろう。

「はい。あの、事前に話は通してありますが、私はここの社会見学としていろいろ調べて回っているんです。この中での出来事をメモしてもいいですか?」
「いいですよ。たくさんの人にこのアトラクションを知ってもらいたいですからね。しっかり宣伝しちゃってください!」

 トークセンスの話術でエージェントを隠しきった空の許可証を一瞥したスタッフが笑顔で許可を出してくれる。
 いってらっしゃいの言葉を背に空はゴンドラへと乗り込んだ。
 そしてスタッフにバレないようにホライゾンカムコーダの録画ボタンを押すとゴンドラが動き出す。
 風景が変転し自然の中へと放り出されると音声が始まり、ここでの自分はある年老いた旅人らしかった。
 室内なのに明るく、アカデミックノートにクーゲルシュライバーでメモをとるのも不便なく行えた。

 ストーリー的には、まず旅人は1匹のうさぎと出会う。
 旅のお供を得た老人は共に幻想的なウサギやシカ、クマに出会い、一緒にご飯を食べたり遊んだりしていく。
 しかし、ある時とうとう食料が尽きてしまう。
 老人が困っていると、初めに出会ったあのうさぎが「どうかわたしを食べてください」と自ら火に飛び込んだ。
 悲しくなってもお腹は空いたままの老人。
 せっかく命を投げうって肉になってくれたうさぎのためにも老人はその焼けた肉を食べる。
 そしてそのやさしさをみんなに知ってもらい敬愛の念を抱くようにと実は天の神であった老人が月にそのうさぎの姿を刻むのだった。

 ストーリー仕立てのアトラクションを後にした空はベンチに座って今見たアトラクションの内容を精査する。
 ホライゾンカムコーダで録画した映像を見直してみたが、映像は荒くどうやらあの風景は魔法で作られていたらしかった。
 正常に操作されなかったことからそう判断した空は次のアトラクションで遊ぶためにバスに乗り込んだ。

「うわー! ここ、すっごく楽しそう! ハッピーに溢れてる!」

 空とそう変わらない年齢のエリナ・アークライトも新聞記者として取材に来ていた。
 とはいってもエリナとしては遊園地の謎を調べるより、どんなアトラクションがあるかの方が重要だった。
 遊びを重視し、謎を調べることなくただただ遊ぶ。
 新聞記者としての体裁のために遊んだアトラクションの内容をメモしているが、ただの感想文と化した内容である。
 *エリナの取材メモ!*
 月夜の占いにはジンクスがあるらしい。
 建物はテント。なのに中はとても広かった。魔法だろう。
 動物が案内するが、どうやら空に昇る月の形は動物から予想できるっぽい。
 満月・半月・上弦・下弦の担当がいることは突き止めた。
 動物に誘われて丘の上にいくと、空を見るように言われる。
 上を見ると今回は雲がかかった薄ぼんやりとした残念な夜空だった。
 無月、というらしい。悔しい!
 他には月がきれいに見える良夜・雨で月が見えない雨月のパターンなどが見れるようだ。
 密かに好きな人と良夜が見れれば恋が叶うというジンクスがあるらしい。
 私も好きな人が出来たらこっそり占ってみよう。

「ねぇねぇ、シスターさん早く行こぉ?」
「あらあら、急がなくてもお月様は逃げませんよ」

 ムーンチャイルドであるノーラ・レツェルは子供らしさを全開に無邪気な雰囲気になるよう変装し、聖金絲教会【【不動産】教会】のシスターに変装した風華・S・エルデノヴァの手を引っ張っていく。
 【幽玄睡彩】の二人は園内を楽しむことを前提に頭の片隅でこの月光園の正体のことを考えていた。
 軍事基地から国営テーマパーク化という経緯もあることから、噂の遺産隠しや抗争と裏の痕跡面では常に流動があってこそ都合のよい場であること、もしかすれば一般市民の観客は知らず知らず隠蔽や広告の片棒を担がされているかもしれないと風華は心配していた。
 このファンタジーエリアは危険な幻想生物も少ないようで、マスコットキャラクターである月華ちゃんが愛想よく子供たちの撮影に応じている。
 彼らの親はきっと月華ちゃんのことを着ぐるみだと思っているだろうが、あれはどうみてもライカンスロープの本性である。
 完全に獣化し、モフモフの真っ白い毛皮に赤い目で可愛らしく愛想よく媚びを売っている。
 A機関のバックアップで洗脳されず月華ちゃんの正体に気づいているが、万一のことを考慮し風華は聖金絲香炉【祈祷用香炉】を魔除けに焚いておく。

「んー……動物さんも見たいけど、まずはアトラクション乗りたい!」

 月を特別視しているノーラとしては単純にバイナリアでの月の世界を存分に楽しみたいという気持ちでいっぱいだ。
 任務のことも忘れていないが、あくまでも表の顔で行動するのなら、任務を忘れて月光園を楽しむくらいでちょうどいいとも思っていた。
 パンフレット片手に目ぼしいアトラクションに目を付け、風華の右手を掴んで引っ張ってまで早く行きたくてワクワクしている風に装う。
 形的な演技はあるが、アトラクションを楽しみにしているのは本当だ。
 ノーラが目に付けたのは『月森の演奏会』。
 なかなかに自分と同じような年齢層の子供と親が一緒に列に並んでいる列へちょこちょこと接近し、スタッフに声をかけるノーラ。
 スタッフの頭には可愛らしいミニハットを装着している。
 小さいながらも凝った作りで材質もよいものを使っているようだ。
 アクセントのリボンが可愛らしく、それでいて男性が付けていても違和感がないデザインとなっていた。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「どうしたのかな?」
「ここって、月の世界なんだよね? 本物の月もこんなに楽しいところなの?」
「そうだよ。月に住んでいる月華ちゃんのお父さんがここの月光園を作ったんだ」
「へー。月華ちゃんのパパってすごいんだねぇ!」

 無邪気に喜ぶノーラ。
 実年齢的にはすでに成人している身としては、こうして子供のフリをする度に何かが無くなっていく気がするのは気のせいだと思いたい。

「私からもいいですか? この園、夜はどこからでも月が見られたり?」
「遮蔽物があるにはありますが、建物のバルコニーや高所のアトラクションからでしたらしっかりと見えますよ」
「具体的に月のよく見える場所は、どのあたりでしょう」
「そうですね……」

 スタッフがパンフレットを取り出すとオススメポイントをいくつか指さしてくれる。
 覚えられないといけないからとシールを取り出すとスタッフはそのポイントに貼り付けたそれを手渡してくれた。
 『月森の演奏会』は幻想的な森をゴンドラに乗って移動し、いろいろな動物が楽器を持って演奏会を繰り広げるアトラクションだ。
 動物に出会えば出会う程に楽器の音色が重なっていき壮大な音楽に包まれながら一周する『月森の演奏会』を楽しんだノーラが次はどのアトラクションにしようか、あそこがいいと風華を連れまわしていく。
 先程教えてくれたスタッフの月の見える場所は複数のエリアに点在し、それぞれのエリアで一番よく見えるポイントを教えてくれたようだ。
 広大な敷地面積を誇る月光園のおすすめポイントをすべて巡ることはアトラクションを楽しみつつだと移動時間がありすぎて難しい。
 アトラクションを待つ間に列の前の人にこっそりと聞き耳を立てていたが、どの人物もアトラクションを楽しみにしている期待に満ちた声しかない。
 強い統制で表向きの治安はよい東オデッサならば、好印象の言葉しか聞こえないのも無理はないかもしれないとふと考えた風華の脳裏にパッとインスピレーションが下りてくる。
 月に対して好印象を抱くのはアトラクションやステージホールといった一般人が遊べる部分のみ。
 逆説的に言えば月の当たらない場所、おすすめポイントから死角になるポイントは月の光が当たらない場所ということになる。
 もしかすれば、月の光が当たらない場所になにかがあるかもしれない。
 そんなことに気づきながら、はしゃぎすぎているノーラを宥めベンチに座った風華。
 ここのベンチもノーラがスタッフから休んでも人の邪魔にならないところかつ、綺麗なものが見れる場所を聞き出したポイントである。
 飲み物を買い、二人で喉を潤しつつ空を見上げた。

「もっと色々見て回りたかったけど、ちょっと疲れちゃった。いつか全制覇したいねぇ」
「そうですね。帰ったら今日の出来事をまとめませんと」

 聖金絲教会へ戻ったらディープリガードに落とし込まないとと気合を入れる風華。
 傍から見ればこの言葉も日記に記すためのセリフに聞こえることだろう。
 川のせせらぎを聞きつつ、日が傾き月が顔を覗かせようとした頃、【幽玄睡彩】の二人は月光園を後にした。

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