クリエイティブRPG

ムーンライト・ミステリーツアー

リアクション公開中!

 101

ムーンライト・ミステリーツアー
リアクション
First Prev  14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24  Next Last


・少女はどこに2

 金鶏(小山田 小太郎)が行った、エカテリーナの父親への聞きとりでは、有用な情報を得られなかった。
 どうやら、議員はエカテリーナが月光園に行きたいと思っていたこと自体を知らなかったようだ。
 これも、家族のコミュニケーション不足によるすれ違いというものだろうか。
 現地は現地で、一度はエカテリーナらしき少女を見つけたものの、見失っている。
 一見すると、手がかりは残っていない。
 とはいえ、何もないわけではなかった。

「ふむ。あの姿は、エカテリーナ女子ではありませんか?」
「伝えられた目撃情報と一緒だしねー。本人に確かめたわけじゃないから、まず確認しなきゃね」

 そんなことを言い合いながら、大勢の客が行き交う道をてくてくと歩く少女私立探偵がふたり。
 本郷 聡美と、本郷 聡美だ。
 あるいは金髪の聡美と桃髪の聡美。
 または、知的な方の聡美と、元気な方の聡美。
 同姓同名のふたりは、そんな感じで見分けられたり、呼び分けられたりしている。
 魔素自体は魔獣の猟場のほうが濃く、多くの情報量を読み取れるのだが、見つかった場所はそことは逆の遊園地だ。
 遊園地は猟場と比べると魔素が薄く安全であり、エカテリーナがいても不思議ではない。
 安全と引き換えに魔素が薄い分、残留魔素から読み取れる情報にも限りがあるため、断片映像からエカテリーナの居場所を確定させるのには推理が必要になる。

「おおぅ。いかにも探偵っぽいですね。わくわくしてきました」
「ねえねえ、あれ、映像に映ってなかった?」

 ぐっと拳を握り、やる気を漲らせる金髪の聡美に、桃髪の聡美が話しかける。
 金髪の聡美の手を引いて桃髪の聡美が指差したのは、ジェットコースターだ。
 ふたりが見た断片映像には、人混みの向こうで、しきりに周囲の様子を伺いつつジェットコースターへと向かう、エカテリーナらしき挙動不審な少女の後ろ姿があった。
 その様子から推察すると、自分が狙われているという自覚と危機感は一応持ちあわせているらしい。
 とはいえ、まだまだ遊びたい、帰りたくないという欲求が勝っているようで、ジェットコースターに乗ろうとしているようだ。
 すでに起きた出来事の映像を読み取る関係上、どうしてもタイムラグがあるため、すでにジェットコースターから降りているかもしれないが、まだ周辺にいる可能性もあるので、ひとまず連絡を入れてから向かうことにした。
 事前調査が空振りに終わった小太郎も、警察官として月光園に到着していた。
 窮屈な暮らしを強いられていたと思われるエカテリーナの心情を鑑みれば、遊園地のアトラクションで遊んだり、魔獣や幻獣たちとふれあったりすることは憧れだったであろうことは、予想できる。
 また、自分なりに危険に対しての備えをしていることから、あくまで客足が多く安全な遊園地エリアで遊ぶに留め、動物園エリア……いわゆる魔獣の猟場に立ち入る可能性は低い。

「とはいえ、まだ子どもですから、言葉巧みに誘導されて連れこまれないとも限りませんし……」

 あくまで遊ぶのが目的なのだから、エカテリーナもパンプレット程度は持っているだろう。
 となると、パンフレットの地図を見て、目玉のアトラクションを中心に遊園地エリアを見て回り、そのうち我慢できなくなったり、言葉巧みに唆されたり様々な可能性はあれど、何らかの理由で動物園のほうも見たくなり、最終的には魔獣の猟場を含めて全体を見て回る可能性が高い。
 ふたりの聡美からの情報は小太郎にも伝わり、小太郎はジェットコースターへと足を向けた。
 エーテルワーゲンに乗って月光園にやってきた狐月(砂原 秋良)は、身につけた一般常識も相まって、どこからどう見ても休日の息抜き兼布教に来た聖職者にしか見えない。
 なにかエカテリーナの私物を借りられれば良かったのだが、できなかった。
 手がかりとして他人に貸し出せるような私物は、エカテリーナに事前に処分されるなり隠されるなりされて、見つからなかったようだ。
 エカテリーナなりに考えて、すぐに連れ戻されないように対策したのだろう。
 秋良にも情報は回ってきていたため、迷わずジェットコースターを目指す。

「手がかりがなくて正直どうしようかと思っていましたが、助かりましたね」

 その足取りに、迷いはない。
 少女の正体を確認し、それがエカテリーナならば速やかに保護するため、あちこちからジェットコースターがあるエリア付近に、エージェントたちが集まりつつあった。
 元々、ジェットコースターといえば遊園地の定番だから、人混みでごった返すのは大抵の遊園地ならば同じことだろう。
 月光園も例に漏れず、ジェットコースター付近は客たちでごった返している。
 ギミックワーゲンⅠを運転する黒鴈(ブラック・ライトニング)は、園内で発生した渋滞に巻き込まれていた。
 乗り物での移動が当たり前とされているため、場所やタイミングによってはこんなこともある。
 徒歩の家族連れが、牛歩の歩みで進むギミックワーゲンⅠを追い抜いていった。

「……歩くほうが早かったりするか?」

 その背中を見送りつつ、ステアリングを指で叩きながらブラックは呟いた。
 しばらく待つと渋滞の列は動きだすが、一メートルも進まずにすぐ止まる。
 そんなことを延々と繰り返すので、業を煮やしたブラックは、近くの駐車場にギミックワーゲンⅠを止めて徒歩に切り替えた。
 歩道は歩道で混雑しているとはいえ、渋滞を我慢するよりかは遥かに快適だ。
 ブラックが止めたギミックワーゲンⅠの横にはギミックワーゲンⅠがもう一台止まっていた。
 西村 由梨のものだ。
 由梨本人は、とっくに車を降りて、徒歩客のひとりとして歩道を歩いている。
 ジャーナリストとしての表の顔を活かし、由梨は取材のため月光園に来ている。
 もちろん本当の目的はエカテリーナの保護なのだが、取材もしっかり行っていた。
 今までキャストや客の何人かに取材を申しこんだが、軽妙なトーク力が相手の警戒心を解き解してくれ、今のところは好感触を掴めている。

「情報によれば、この辺りにいるはずよね。探してみようかしら」

 取材に使ったペンとメモ帳で表情を隠した由梨は、それらを降ろした瞬間、元のジャーナリストらしい笑顔を取り戻していた。
 エカテリーナらしき少女を保護するため、集まりつつあるエージェントたち。
 その中で、一番に少女との接触を果たしたのは、情報の大元であるふたりの聡美だった。

「我が推理に狂いなし。さすがは私です」
「ねえねえ、話しかけてみようよ!」

 むふんと得意げな表情を浮かべる金髪の聡美の手を、桃髪の聡美が引っぱる。
 明らかに自分へと近寄ってくるふたりの聡美に気づいた少女は、警戒心を強めて一歩二歩後退った。

「こんにちは。いきなりすみません。あなた……家出していますね?」

 ぎょっとした表情を浮かべる少女を見て、金髪の聡美は笑みを深める。

「どうして当てられたのか分からない……そんな顔をしていますね? 理由は簡単です。私が探偵だからです。その変装は連れ戻されたくないからですね? とすると、あなたは家の者が探しに来るような、良家の者なのでしょう。納得はしつつも窮屈さを感じていて、今回それは爆発した……。どうでしょう。当たらずとも遠からずでは?」
「……凄い。探偵って、そんなことまで分かるのね……」

 少女の目が丸々と見開かれた。
 一部間違っているが、少女はそれを指摘しないし、金髪の聡美もわざと間違えている。
 あえて金髪の聡美は推理に間違いを混ぜることで、少女の自分に対する認識をエージェントの疑いから、変わり者のただの探偵へと引き下げた。

「うんうん! 探偵はね、色んなことが分かるんだよ! ペットの居場所から、うわきのしょーこ? まで!! なんでも見つけられる有能ちびっこ探偵コンビ! その名もついんすたーず!」

 援護射撃とばかりに、笑顔で立て板に水の勢いでまくしたてる桃髪の聡美の勢いに押され、少女はわずかにのけ反った。

「こうして出会ったのもなにかの縁。今日は私たちも、本業のためではなく、休暇として息抜きに来ているのです。……良かったら一緒に見て回りませんか?」

 差し出された金髪の聡美の手と顔を、少女はぽかんとした表情で交互に見比べる。
 どこか硬かった少女の表情が、柔らかな笑顔に変わった。

「ええ。喜んで」

 どうやら、ある程度は信用してもらえたようだ。
 少女が名乗った名前はエカテリーナではなかったが、まあいうまでもなく偽名で、その正体はエカテリーナである。
 エカテリーナが同行を許した理由は、自分の命を狙う刺客としては、あまりにもふたりの聡美がらしくないからだった。
 最初は子どものふりをしたムーンチャイルドで、刺客なのでは? という疑いを持っていたが、それを持続させるには桃髪の聡美が無邪気すぎたし、金髪の聡美の丁寧な態度も、子どもが一生懸命背伸びしている印象を拭えなかった。
 子どもっぽさが演技だとは思えなかったのである。
 ふたりの聡美が本当に人間の子どもだと、エカテリーナが確信するのにさほどの時間はいらなかった。
 そして、危害を加える存在ではないことも。
 警察官として保護しようと思っていた小太郎だったが、エカテリーナを見つけた時にはすでにふたりの聡美と仲良く行動を始めたあとだった。

(これは接触するより、陰で護衛に集中したほうが良さそうですね……)

 いくら表の顔が警察官という、秩序の守護者であっても、エカテリーナに信頼してもらえるかどうかは分からない。
 というか刺客は純血同盟の他に、政府の暗部組織に属する者もいる。
 表の顔として、治安維持に関わる職についている者も皆無ではないだろう。
 警察官であっても安心とは限らないのだ。
 小太郎はあえて接触せず、護衛に回ろうと静かに動きだした。
 ここからは、小太郎としてではなく、エージェント……金鶏として動く時間だ。
 同じように、黒鴈は美術商としての観察眼を活かして敵エージェントを看破しようと試みたものの、うまくいかず、こちらも陰からの護衛に切り替えている。
 さすがに、美術品の価値を見抜くのと、一般人を装う敵エージェントの演技を見抜くのは、観察眼でも種類が違う。
 敵エージェントたちに怪しい美術商として黒鴈は動向を警戒されていたので、しばらくほとぼりを冷ます意味合いもある。
 一応休暇として説明がつくとはいえ、それでも遊園地で他人と接触するには、美術商という肩書は理由としてはいささか苦しいのだ。
 もし美術商としてエカテリーナに話しかけていたら、警戒されて逃げられていたかもしれなかった。

「まあ、警戒して貰えば敵の誘導に引っかかりにくくなるだろうし、それはそれで意味はあると思っていたが、必要なさそうだしなぁ」

 ぼやきを漏らしながら向けられる黒鴈の視線が向けられる先には、ふたりの聡美と行動しながらも、決して警戒心を失わず、説得を行おうとする聖職者から逃げるエカテリーナの姿があった。
 黒鴈の足元には、気絶した敵エージェントが倒れ伏している。
 邪魔な黒鴈を排除しようとして、返り討ちに遭ったのだ。
 慌てずすばやく相手の口を押さえ、銃声が響かないよう腹にショットアンブレラの銃口を押しつけて、ズドン。
 襲われた側でありながら、鮮やかな手際だった。
 ちなみに、聖職者としてエカテリーナに接触した秋良も、逃げられてからは狐月として敵エージェントの排除に回っていたが、現地人として溶けこんでいたこともあり、エカテリーナに怪しまれてはいなかった。
 逃げられたのは、説得が宗教の勧誘と勘違いされたからである。
 そして由梨は、ジャーナリストとしてエカテリーナに月光園にきた客に対する取材を申し込み、いくつかやり取りを行ってあっさりと引き下がっている。
 鮮やかな引き際だったので、これもエカテリーナに疑われなかった。

「悪いけど、邪魔はさせないのだわ」

 動きだそうと、一瞬殺気を放った敵エージェントは、背後から由梨に声をかけられる。
 振り返りざまに袖口に隠した銃を発砲しようとした敵エージェントだが、手に強い衝撃を受け、銃を取り落とす。
 パルサーウォッチを構えた由梨が、そこにいた。
 早撃ちの一撃で妨害されたと敵エージェントが理解した時にはすでに遅く、由梨に詰め寄られている。
 続く電光石火の二撃目を至近距離から叩きこまれ、倒れ伏した。

「……問題ないようですね」

 いざとなれば、ふたりの聡美と共にエカテリーナを連れて逃げることも視野に入れていた金鶏が、味方の活躍を見て静かに胸を撫で下ろしていた。

「あれがエカテリーナと味方のエージェント、とすれば、近付いているこいつらは敵と見るべきだな」

 シングルバルーンに乗り、上空からスパイグラスでエカテリーナを追跡しているのは、雛(春夏秋冬 日向)だった。
 月光園の敷地は広すぎると踏んだ雛は、気球のアトラクションを楽しむ一般客を装ってエカテリーナの捜索と敵エージェントの偵察を行っていた。
 動物園は、月光園の遊園地側に比べて遮蔽物が少ないのも、偵察しやすい一因であった。
 一方、上空に浮かんでいるということは、それだけ敵にも見つかりやすいということでもある。
 一般人を装っている以上、雛から攻撃的なアプローチを行うことは自ら正体をばらすことに他ならない。

「味方が苦戦しないよう、こいつには……」

 腕利きのメカニックでもある雛は、シングルバルーンのバスケット内でゴーストコンピュータを操作し、エカテリーナへ近づいてくる敵エージェント近くにスピーカーをハッキングすると異音を鳴らす。
 理想はフェイクスクリーンによるプロジェクションマッピングなのだが、監視カメラにそのような機能は当然ないのと、雛自身がプロジェクションマッピングを行える機材を用意していなかったので、これが限界である。
 だが、突然スピーカーから異音が聞こえれば、敵エージェントはそちらを警戒しなければならなくなるし、自分たちの動向が調べられているならそれを排除する必要が出てくる。
 結果的に敵エージェントの足止めに成功したのだった。

「万一の時はシングルバルーンから降りて戦うが、フェイクスクリーンが使えない以上、敵に正体を晒すことになりかねないからな」

 シングルバルーンはエーテルリアクターが動力源であるため、普通の気球に比べてスピードは出るが、降りて戦う時は偵察任務を捨てて、エカテリーナを守る時のみに限られてしまう。

「誰でも息抜きは重要だろうが、息を抜きすぎねぇようにしなければな」

 夜鷹から「エカテリーナは相当鬱憤をため込んでいるらしいのだ」と聞いていた雛は、少しでも温室育ちの少女の憂いが晴れるよう祈りつつも、万一のことは起こって欲しくないとも祈るのだった。
First Prev  14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24  Next Last