・人々の発見と救出1
修道院のなかを、一羽のスパローホークが飛んでいる。
ろぼ子・クロウカシスが放ったユオだ。
ろぼ子はユオを待っているあいだも、常に周囲の地理情報を頭に叩きこみつつ、状況の変化に即応できるよう、神経を尖らせている。
ユオはゴブリンや邪教徒たちの攻撃がぎりぎり届かない高度を保ち、偵察していた。
ある程度見てまわると、ユオは旋回して来た道を戻っていく。
「……おかえり」
差しだされたろぼ子の手に、ユオがとまる。
小型の鷹とはいえ、革手袋越しに爪の感触と、それなりの重量がかかるのを感じた。
「リルテさん……なにか、反応あった……?」
「そうですわね……ゴブリンか邪教徒かは分かりませんけれども、魔力反応が移動していった痕跡がこのあたりにはあるようです。おそらく、ここは彼らの巡回ルートなのでしょう」
「それはまずいね。見つからないうちに、移動しようか」
猫宮 織羽の言葉に否を唱える者はいない。
マギアビジョンで魔力の流れを見ている
リルテ・リリィ・ノースを頼りに、巡回ルートから外れた場所へ移動していく。
そこは、両側がそれぞれ別の部屋に繋がっているL字型の通路だった。
「曲がり角まで部屋から丸見えだから、引きつづき警戒したほうが良さそうだな。このあたりの巡回ルートを推測できないか?」
「二つの部屋自体は入っておりますが、通路には来ていないようですわ。濃度の差からある程度時間差もあるようですので、やりすごすのは可能でしょう」
ルゥゼリァァナ・クロウカシスの問いに、マギアビジョンで二つの部屋の魔力の流れを追いながら、リルテが答える。
「……え?」
きょとんとしたろぼ子の声に、他の三人がふり返る。
「ロボコ、どうした?」
「ユオが、なにか気になるものを見つけたみたい。案内したがってる」
ルゥゼリァァナが尋ねると、困惑した表情を浮かべ眉を寄せた。
「行ってみようよ。重要なものが見つかるかも」
織葉は乗り気のようだ。
リルテやろぼ子、ルゥゼリァァナが顔を見合わせる。
誰からも反対意見は出なかったため、ユオが見つけたものを見にいくことになった。
それは扉だった。
だが、部屋の出入口にあるような扉とは違い、鉄格子の扉だ。
外から見えるのは修道院遺跡内部のよくある壁であり、左へ通路が続いているのが見える。
一応罠がないか確認してから、鍵を破壊して扉を開けた。
通路は狭く、二人並んで歩けるほどではない。
少し進んで軽く様子を確認したろぼ子が戻ってくる。
「隊列……組みなおそう。るーちゃんは先頭に。私は、背後からの奇襲を、警戒しておくから……。織葉ちゃんと、リルハちゃんは、私たちの、あいだに……」
「よっしゃ、戦闘の気配がするぜ!」
「うん、分かったよ」
「援護は任せてくださいませ」
ルゥゼリァァナ、織葉、リルテ、ろぼ子の順に、一列になって進んでいく。
その先の部屋の入口を守るように、ゴブリンたちがいた。
「敵だよ! 皆、戦闘開始!」
織葉がとばした警告に反応して、全員即座に戦闘態勢を取る。
「あまり、時間をかけてもいられませんわね。一気に殲滅いたしますわ」
旋渦の潮に番えた水の矢を、リルテが放ちゴブリンたちへ浴びせる。
降りそそいだ矢を起点に大渦が発生し、ゴブリンたちを飲みこんだ。
辛うじて影響範囲から逃れて無事だったゴブリンには、すでにルゥゼリァァナが迫っている。
「そらよっ!」
慌てふためくゴブリンの顔に、刃を振るうように戦紅の縁を叩きつけて怯ませ、隙だらけになったところへ夕焼を振りおろした。
斬りすてられたゴブリンがくずれ落ちる。
ゴブリンたちが守っていた部屋には、大勢の人々が拘束されていた。
すえた臭いがたちこめ、囚われている人々のうめき声があちこちから聞こえてくる。
すすり泣くような声もする。
なにかをする気力すらなくなっているのか、項垂れたまま声を発さず、ぴくりとも動かない者もいる。
「こんなの……ひどいよ。助けないと!」
拘束から解放していく織葉だったが、洗脳を確実にするために、人々の気力と体力は共に限界まで削られていて、このままでろくに歩くことすらできない状態だった。
さらに悪い事態は重なり、無数の足音が近づいていくる。
「……ちょっと、まずいよ。ゴブリンと、洗脳された邪教徒が、たくさん来てる……」
部屋の外の様子を見にいったろぼ子が、険しい表情で戻ってきた。
「しかたねぇ、ロボコ、オレたちで止めるぞ!」
「リルテも行ってあげて。わたしはこの人たちを動けるようにするから」
三人を防戦に向かわせ、織葉はリーンの鐘を鳴らしながら力強く歌い、人々の疲弊した心を奮いたたせていく。
さらに、自分が持ちこんだライトブレッドと、リルテのオータスワインを分け与え、彼ら、彼女らの体力と精神を少しでも回復させようと努めた。
戦うろぼ子やルゥゼリァァナ、リルテの無事を祈りながら。