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新クレギオン

亡霊の守る場所

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亡霊の守る場所
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・内部を探索する者たち 5


 建物から離れた場所で、自然に囲まれながら九曜 すばるはフィールドワークに勤しんでいた。
 なにやら中央部を中心とした周辺一帯ではパワードスーツとの戦闘が発生しているようだが、かなり外周に位置するこの場所は、戦闘の気配もなくのどかなものだ。

「今のうちに調査を進めるとするか……」

 フリーランスとはいえ、自由に動ける時間は貴重だ。
 この小惑星グレイブの環境は垂涎もので、たとえば草の一つを取っても、これが人間にも食べられる草なのか、それとも動物しか食べられない草なのか、はたまたどちらも食べられない毒草なのか、興味がつきない。
 大まかな見分け方は単純で、そこら中にいる草食動物たちが食べている草かどうか、あえて避けている草があるかどうかなどだ。
 それらを注意して観察していけば、少なくとも動物たち視点ではあるものの毒草であるかどうかは判別できる。
 あとは、草の硬さなどを見て、人間が食べて消化できる程度に柔らかいものかを調べていけばいい。
 動物の糞が落ちていた。
 糞を調べることでも、その食性がある程度分かる。

「調べてみよう」

 即決だった。
 フィールドワークを行っているのは、すばるだけではない。
 アレミア・レスキュラシオンアサリル・アイラルリーも、すばるとはある程度距離を取って調査している。
 とはいっても、調査の主体はアレミアであり、アサリルは護衛兼助手だ。
 そして護衛のほうが主な仕事のはずなのだが、中央から離れたこの一帯はパワードスーツが現れることもなく平和そのもので、元々仕事に熱中すると周囲への警戒がおろそかになりがちなアレミアにもあまり危険はなく、現状アサリルの仕事といえばアレミアの助手が第一となっている。

「すごいわ……緑にあふれていて、動物たちも元気で……。これも、ロステクの賜物なのかしら」

 調べれば調べるほど、アレミアの口から感嘆のため息が漏れる。
 この自然は、数百年をかけて成り立ったものだ。

 それも、人の手で管理されていたのは最初だけで、小惑星グレイブの本格的な漂流が始まってからは、グレイブの環境システム的な物はあるようだが、半ば人の手を離れたも同然の状態だったようだ。
 人工的に再現された自然であれば、継続的な手入れが必要なのは自明の理。
 それがなくなれば崩壊してしまってもおかしくはないのに、こうしてここまで成長して残っているということは、人の手がなくともこの自然だけで誕生と死、さらにそれを糧にした誕生と、動植物たちのあいだで正しい生と死のサイクルが循環していたということを示している。
 とくに、アレミアの知識欲をもっとも刺激しているのは、これらのサイクルをくり返し、動植物たちが独自の進化を遂げているかもしれないという、確信に近い予測だ。

「空気を構成する要素は、さほど変わりはないのね。アサリル、ちょっとそこの川で水を汲んできてくれる? あとできれば、水中に生物がいるならそのサンプルも。最悪藻とかでも構わないから」
「分かったわ。行ってくるわね」

 アレミアからサンプル回収用の器具を受けとり、アサリルは川に近づきその水面を覗きこんだ。
 澄んでいて、水の流れも緩やかなので水中がよく見える。
 一見するとなにかがいるようには見えないが、その実水中生物の楽園であることが分かった。
 それも当然で、地上と水中でも生命の循環ができており、地上の繁栄に合わせて水中も豊かになっているのだ。
 たとえば水面に近い木々などの植物から落ちる葉は適度な日陰を作り、また、それそのものが養分を生んでくれる。
 空を飛ぶ虫たちの死骸が川に落ちれば、それは水中で生きる魚や虫の餌となる。

「なんだか、童心に帰った気分ね。ちょっと楽しくなってきたわ」

 水を汲み、水中に沈んだ石をひっくり返したりして生き物を探すアサリルの口元に微笑が浮かぶ。
 しばらくすると、アサリルの手元には色んな虫や魚が集まっていた。
 そうやってスバルやアレミア、アサリルたちが知識欲から調査や採集に当たっているのなら、そんな彼らを対象に、売りつけるための商品を集めに来た者もいる。
 高橋 蕃茄もその一人だ。
 目的のためにどこまでも足を伸ばすような、フットワークが軽い研究者ばかりだと成立しない商売ではあるが、腰の重い者というのも当然存在するため、そんな彼らに需要がある。
 そして需要があれば、供給も発生するのは当然で。
 蕃茄は虫かごを肩から下げていた。

「ちらほら見慣れない虫がいるな……。ここで独自に進化を遂げたか?」

 ウェアラブルコンピューターで情報を探しても、一致した種がヒットしないものも多い。
 これが品種改良の結果なのか、それとも人の手によるものではないまったく未知の発見なのかはもっと専門的な設備で専門家が調べなければ分からないだろうが、少なくとも今の時点において、貴重な発見であることは疑いようがないだろう。

「環境としては、生物が生きるに適した状態だよな。暑すぎず、寒すぎず。食物連鎖にしても、どれか一種類が急激に数を増やすみたいな、異常なバランスでもないみたいだし。不思議なこともあるもんだ」

 思わずといった様子で、普段心掛けている丁寧口調ではなく、素の声が漏れた。
 まあ、誰が聞いているでもなし、独り言なら構うまい。
 採集と狩りを試みた結果、いくつかの虫と、捕獲した小動物と中型動物が収穫となった。
 ひと段落したところで、フロートバイクを走らせる行坂 貫と鉢合わせる。
 蕃茄の目の前で、貫のフロートバイクが減速していく。

「その肉……分けてもらえないか? カレーの具に使えそうだ」
「ただではさしあげられませんね。こちらも商売ですので」
「なるほど……。俺のカレーを喰わせてやる。どうだ?」
「いいでしょう。どれにしますか?」
「大きいほうがいい。たくさん作っておけば、食いっぱぐれも出ないだろう」

 交渉が成立し、鹿に似た中型動物が生きたまま貫に渡される。
 貫はこの動物を締めると血抜きを行い、ナイフで毛皮を剥いで部位ごとに切りわけ手早く枝肉にした。
 可食部位にならない内蔵類は深く穴を掘って埋める。

「……手馴れていますね」
「ドンパチに役立つ力なんぞないが、かわりにこれくらいのことはできる」

 薪となる枯れ枝を集めるついで木の皮の繊維をほぐして火口を確保し、焚き火を起こす。
 ある程度火の勢いが収まるのを待ってから、鍋を火にかけた。
 そしてカレーを作っていく。
 使っている野菜も肉もほとんどが現地調達の、香辛料のみ持ちこんだ特製カレーだ。
 スパイスの食欲をそそるいい匂いがたちこめている。
 しばらくすると、匂いに釣られて同じように小惑星グレイブにやってきていた面々が集まってきた。

「釣れたは釣れたが……ちょっと想定と違うな。まあいい、食べていくか?」

 当然否はなく、ちょっとしたカレーキャンプとなった。
 そのなかには、ルシェイメア・フローズンが偵察で飛ばしていたちびドロイドからの映像で気づいたアキラ・セイルーンアリス・ドロワーズ、そしてルシェイメア本人の姿もあった。

「いやー、生配信しようとしたら飛び飛びの映像な放送事故で災難だったけど、これは役得だな。美味いぜ♪」

 生配信から録画に切りかえたものの、テンションだだ落ちだったアキラのテンションが戻ってきている。

「うむ、うむ。美味なカレーじゃ。お主、よい腕をしておるのう」

 カレーに舌鼓を打ちながら、ルシェイメアは貫の料理の腕を誉めそやす。
 ルシェイメアが上機嫌なのはもちろん美味しいカレーにありつけたということもあるが、生配信がうまくいかず下降していたアキラの機嫌が上向いたからである。

「よーし、編集、編集っと♪」

 一杯目のカレーを食べ終えたアキラが、さっそく食事映像を動画にしたてている。
 その作業がひと段落すると、二杯目をおかわりにしにいった。
 笑顔でご飯とカレーを盛るアキラの様子を見て、アリスもにこにこ笑っていた。

「機嫌が直ったようだネ。よかっタよかっタ」

 アリスはアキラのアニマロイドに乗っかり、アリスの身体に合わせたミニマムサイズのカレーを食べている。
 一際小さいアリスを見た貫が、突貫でその辺の枝を加工して食器を作ってくれたのだ。

「……それにしても、まさかこんなところにまで来てキャンプみたいな真似をできるとはのう。いったいここの環境はどうなっておるのじゃ?」

 不思議そうに首を捻るルシェイメアは、いまだに正常に動作しているであろう、この小惑星グレイブの環境維持システムに興味を抱いていた。
 陸上でも水中でも、食物連鎖は生きており、長年閉ざされてきた環境のなかで生命が循環している。
 動植物のうち、一つの種類が大幅に増えるような異常事態になっていないのがその証拠だ。
 この場に来るまでに見かけた建物のあちこちが緑で侵食されていたことから、今は人の手から離れていると考えるのが自然だろう。
 そのうえでこうしてバランスが整っているのは感嘆すべきことだ。

 この環境自体がいわばロステクであると言えよう。

「のう、アキラや。あとでここのネットワークに繋がる端末を探しにいかんか?」
「うん? いいぜ? 今は特に目的もないし。でも、カメラは回してくれよ」
「分かっておる分かっておる」

 ルシェイメアは鷹揚に頷いた。
 カレーを食べ終えたアリスが、目を閉じて周囲に耳を傾けた。
 鳥の鳴き声、虫の音、動物の嘶き、水面から魚の跳ねる音、木々が風でそよぐ音。
 聞こえる音は生命に満ちていて、平和そのものだ。
 水が天敵なので、川には極力近づきたくないアリスではあるが、光に反射してきらきらと光る川面の美しさには同意せざるを得ない。
 展開しているサーモグラフィーには動物たちを熱源として反応があるものの、肉食動物特有の身を潜めてじっとこちらを窺っているようなものはない。

「いやー、のどかだネー。戦火をくぐり抜けてここまで来たことを忘れそうになっちゃうヨ」

 ぐぐっと伸びをしたアリスが、しみじみと呟いた。
 そしてその感想はアリスだけでなく、アキラやルシェイメアも同意できるものであった。
 ちなみに、後日アップロードされた動画は、探索動画というよりキャンプ動画として人気が爆発することになるのだが、それはまた別の話である。
 突発ゲリアカレーキャンプが終了すると、集まっていた面々はまた思い思いの探索をしに散らばっていった。
 さりげなく参加していた美空 蒼も、本来の探索に戻っている。

「いやー、カレー美味しかったなー……」

 まだほのぼの空間にいた残滓が残っていて、蒼の表情はぽやぽやしている。

「いけないいけない、気を引きしめないとね!」

 はっとした表情で、蒼は目をつむり、己の両頬を張って気合を入れた。
 改めて小惑星グレイブ内の記録を取ることに集中した蒼は、高機能スマートデバイスによるマッピングを再開する。

「じゃあ、またよろしくね、どろん君!」

 スタメナポーチから飛びだしたどろん君が、蒼に応えるかのように、何度か頭上を旋回すると、前方へ飛んでいった。
 送られてくる映像を確認しつつ、危険がないことを確かめて先に進む。

「あっ……」

 どろん君から送られてきた映像のなかには、肉食動物の狩りの光景もあった。
 草原に身を隠して忍びよった肉食動物だったが、寸前で気づかれ、先に動いたのは草食動物のほうが早かった。
 肉食動物も狩りの失敗が続けば待つのは飢え死になので真剣だが、捕まればそれで終わりの草食動物は死に物狂いで逃げる。
 獲物を見失い立ちつくす肉食動物の後ろ姿は、哀愁を誘った。
 その肉食動物は、どろん君越しに蒼が見守っているなか、無理をして大型の草食動物を狙った挙句、撃退されて怪我をした。
 足を引きずって歩く肉食動物は、もう満足に狩りはできないだろう。
 ついに、肉食動物の前に蒼は姿を現した。

「怖がらないで」

 患部に手を当てれば、怪我が癒えていく。

「次の狩りは成功させなさいよ」

 治療を終えると、速やかに蒼はその場を離れた。
 誰かに護衛してもらいたい二ノ宮 初花は、たまたま参加した貫主催のカレーキャンプに参加した縁で、解散したあともアダム・スワンプマンエラン・ヴィタールの二人組のうしろを、とぼとぼと歩いていた。

(話しかけたいな……でも、迷惑じゃないかな)
(あのおなごは、いつになったら話しかけてくるのであろう)
(カレーを食べていたときに、こちらから話しかけておくべきだったでしょうか?)

 お互い話しかけるきっかけを窺ってお見合いしている状態だ。

「あっ、あの!」

 勇気を出して、初花はアダムとエランに声をかける。
 弾かれたようにアダムがふり返って迫ってきたため、初花は思わずのけ反った。

「我輩らに何用であるか?」
「グ、グレイブに調査に来た人ですよね? よかったら一緒に回りませんか!?」
「あー、申し訳ありませんが……」

 初花を狂人の妄想に振りまわさせるのは忍びない。
 そういうのは自分一人でいい。
 そう考えたエランは断ろうとするものの、なにを思ったかアダムがその口を塞ぐ。

「もがっ」
「見るがよい、この雄大な自然を。この感動を我輩たち二人で独占するのは忍びない。共に見てまわろうではないか」
「えっと、ありがとうございます……?」

 丁寧に礼を告げて頭を下げる初花だったが、アダムに口どころか鼻まで塞がれならもがもがいっているエランが気になって仕方ない。

「あの……その方、息ができないのでは」
「おお、我輩としたことが、うっかり助手を永遠の眠りへ誘ってしまうところであった!」

 大仰な仕草でアダムはエランを解放する。
 大きく息を吸いこんで深呼吸したエランは、アダムにくってかかった。

「いきなりなにをするんですか!?」
「うむうむ。元気があってよいであるな」

 エランの剣幕にも、アダムの態度はいつもどおりで、暖簾に腕押し、糠に釘だ。

「えっと、私、空から偵察しますね」

 ツッコミを入れたら自分も巻きこまれそうなので、初花はそれ以上は見なかったことにして、笑顔をつくりちびドロイドを飛ばした。

「わあ……!」

 空から俯瞰する自然風景の映像に、初花は圧倒される。
 自然、声にも喜色があふれる。
 そうなると、我慢していられないのがアダムだ。
 そわそわ、うろうろ。
 立ちしゃがみ、立ちしゃがみ。

「……なにやってるんですか?」

 尋ねたエランが半眼になっているのはしかたないというものだろう。

「うむ! 我輩も見てみたいのである! だが、我輩の手持ちに偵察機はないのである!」

 どうやら、先ほどからアダムが行っている奇行は、欲求を我慢していたことに付随するものらしい。
 辛抱たまらない様子に気づいて、初花は気を利かせる。

「よかったら、映像回しましょうか? 対応する機械があればですけれど……」
「それなら問題ないのである!」

 さっとアダムが取りだしたのは、初花が持っているのと同じウェアラブルコンピューターだ。
 初花は自分のウェアラブルコンピューターの設定を弄って、ちびドロイドから送られてくる映像をアダムのウェアラブルコンピューターへ転送する。

「おお! 我輩にも見えたのである!」

 届いた映像に、アダムが小躍りをした。
 その瞳から、涙がこぼれ落ちる。

「我輩は……感動した。貴殿も見るのである!」

 アダムがエランにウェアラブルコンピューターを突きつけた。
 まるで鳥が空から見下ろしているかのような、風景が映っていた。
 そしてウェアラブルコンピューターから顔を上げれば、目に入るのは雄大な自然。

「これは……美しいですね」

 思わずこぼした涙の意味も分からないまま、エランはその光景に魅入られた。

「綺麗ですよね。向こうには林や森もあるみたいです。行ってみませんか?」

 地平線いっぱいに広がっている大自然を背景に二人をふり向き、初花はにこりとほほえんだ。


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