■プロローグ■
深窓の令嬢、大神月花(おおがみ げっか)は生まれつき病弱であった。
難病に侵されてからは満足に体を動かすこともできず、屋敷の自室に籠る日々。
おそらく、自分は大人になるまで生きられないだろう。
はっきりと言われたわけではないが、自分の体のことは自分がよく分かっている。
それでも……もし、自分が元気に動き回れる体だったのなら。
月花は空想に耽り、冒険する自分想像した。
イメージを膨らませるために書物を読み漁り、様々な知識を身につけた。
想像の中では何者にだってなれる。
今、こことは違う世界にも自分がいるなら、それらは可能性の一つなのかもしれない。
(生まれ変われるのなら、有り余るくらい元気な体になりたいなぁ……)
月花は十七歳で地球での生涯を終えた。
しかし、
『汝はこれより、新たな生を受けることになる。
汝に、我からささやかな力を授けよう』
輝神を名乗る者の力によって、月花は異世界で新たな人生を送ることになった。
月花が求めた力は、もちろん――。
* * *
「どうよ!」
「またお強くなられましたね。正直驚きました」
「でしょ? だから、本気出してもいいのよ」
「お怪我をさせるわけにはいきませんが……いいでしょう。これも経験です」
月花はプリシラ公国の公主アリシアの四女シャロンに転生した。
望み通り病気とは無縁な屈強な肉体を得た彼女は、明るく活発な性格の少女へと成長。
……が、有り余り過ぎて無意識に周囲を振り回すまでになっていた。
「あたしもう十二歳だよ。団長さん、もしあたしが一本取れたら――」
「アリシア様に、お嬢様が冒険者となれるよう進言する。……分かっておりますよ」
そしてシャロンは……本気の近衛騎士団長に全く歯が立たずに敗れた。
「ちょっと、大人げないよ!」
「本気を出していい、と言ったのはお嬢様でしょう。
ですが、その歳で私の剣を三度捌けたのですから、大したものです」
団長が、シャロンの右腰に吊るされたもう一振りの剣に目を遣った。
「そちらも使いこなせるようになったら、対応しきれなくなるかもしれません。
まぁ、私も日々鍛錬をしておりますので、そう簡単に負けてやることはできませんが」
「ぐぬぬ……」
数日後、レガリス王国の首都陥落の報せが、プリシラ家にも届く。
団長に負けてからは大人しくしていたシャロンだったが、
(魔王が現れた? 確か、うちには曾お婆様の英雄の武器があったはず。
……よし)
こっそりと屋敷を抜け出し、“輝者の棺”へと向かった。
十英雄、剣聖ルクスが使用したという、聖剣グロリアスを求めて――。
■目次■
プロローグ・目次
【1】足跡を辿って
【1】シャロンという少女
【1】公女とともに
【1】希望の道
【2】潜入、そして戦闘
【2】捜索、そして戦闘1
【2】捜索、そして戦闘2
【2】盗賊、そして遺産1
【2】盗賊、そして遺産2
【3】聖剣を狙うもの
【3】銀色の騎士
【3】大いなる魔物の戦士
【3】折れぬ銀の意思
【3】聖剣を手にする者
エピローグ