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アバターリミット3

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アバターリミット3
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<3>逆転の一撃は


 実験部屋に、白森 涼姫とそのコピーの叫び声が響き渡る。
 狂戦士たるベルセルク――強靭な狂戦士の体躯を黒き狂獣の鎧で更に高め、巨大化のキシリットで巨大化した二人が暴れ出す中、葉剣 リブレ風間 瑛心砂原 秋良のコピー三体が涼姫へと集中的に飛び掛かった。
 瑛心のコピーは、巨狼の黒牙が嵌められた涼姫の腕にしがみつき、秋良のコピーは夜想の光輪とEvangeliumで光やベルの音を響かせながら、背後から涼姫の膝裏や背中を狙って攻める。
 瑛心も秋良も自身のコピーと対峙しようとしたが、コピーたちは体躯の大きな涼姫まず落としにかかっていた。大振りの、涼姫自身のコピーの動きの隙を埋めていくような動きだ。リブレのコピーも、涼姫の視界を邪魔するように空中戦闘で飛び回る。
 リブレのコピーが涼姫の目をアールヴフェンスで突いた直後、涼姫のコピーの拳が、涼姫の顎を捉えた。殴り飛ばされて、涼姫は体を床に打ちつける。
 ――すかさず、リブレは自身のコピーへと妖精の翅で飛んで肉薄した。
 スワロウターンで肉薄と同時に連撃。二撃目にはスワロウターンの刺突も織り交ぜたが、躱される。
 更にコピーは回転アタックでリブレを蹴り飛ばした。距離をとったところに、今度はコピーのほうがスワロウターンで迫る。
 どうにか躱して、リブレのほうが回転アタックで斬り込んだ。聖剣がコピーの体を裂く。が、手応えが浅い。刺突を繰り出され、肩を貫かれる。蹴り飛ばして距離を取り、また互いに肉薄する。
 回転アタックで蹴るか斬るか、切り替え式にすることで予備動作が大きくとも読まれにくくしていたリブレだが、それはコピーも似たようなものだった。そして、来るとわかっても互いに速い。回避の技術が意識に追いつかず、リブレもコピーも瞬く間に傷だらけになっていく。
 アールヴフェンスをメインに、他の技を織り交ぜることでコピーとの差をつけようとリブレは考えていたが、技と技の使い方そのものの習熟度は、コピーのほうも一種の完成された動きを見せていた。
 無駄のない、効率的な戦い方で持てる技と力を発揮している。高速で動き、体の小ささで攻撃を回避し、素早く攻撃を当てていく。それはリブレの戦い方にも酷似しているように感じられたし、リブレの考えたアールヴというアバターの真髄を体現しているようにすら思えた。
 この先へ行かなくてはいけない。ここを越えなくてはいけない。アバターの裏側、それは一つの強さの到達点。――強くなって、超えたいアールヴがいるリブレは、だから意地でもアールヴの裏側を見たい。
 だが、そのために必要な、自分らしさとは。
 一瞬揺らぎかけた。自分を見失いそうになった。けれども、首を振って、コピーを見据える。
 諦めずに願い、行動して積み重ねれば、願いは叶う。妖精王の聖剣、アールヴフェンス、ラジカルアンプがその証拠だ。
「――故に私は諦めない!」
 再び距離の離れた隙にラジカルアンプで魔力を込める。コピーのほうも、同じようにラジカルアンプを披露した。
 だが、怯まない。
 コピーはスワロウターンを仕掛けて来たが、リブレは正面からアールヴフェンスで迎え撃つ。
 ここでアールヴフェンス以外を選ぶのはリブレらしくない。初めて、コピーとリブレに明確な行動の違いが表れ、それらが真っ向からぶつかった。
 アールヴは火力のアバターだ。そう聞いた。殆どその通りだとリブレも思う。
 でも、そこにリブレは、速さと体躯の利を付け加えたい。
 高速で動き、体の小ささで攻撃を回避し、そして白兵戦闘にて火力をたたき出すアバター。それが、アールヴなのだと。
 スワロウターンで反転しかけるコピーへ、リブレは回転アタックで回し蹴りを入れる。
 体勢を崩したコピーへと、リブレはアールヴフェンスで妖精王の聖剣の刺突を叩き込んだ。
 ようやく、コピーの体が弾け消える。
 しかしコピーを倒した直後、リブレも力が抜けたようにふらふらと床へ落ちて、倒れた。どうにか倒しはしたが、リブレの傷も浅くはなかった。
 ――その時、再び部屋に叫び声が響き渡った。涼姫の、コピーのものだ。
 涼姫は倒れたまま起き上がらない。連携で畳みかけられたとはいえ、そこまでの深手ではなかったはずだが――しかし、秋良のコピーにEvangeliumで殴られたうえで、己のコピーにも殴り飛ばされた。意識は朦朧としていた。
 涼姫のコピーは、瑛心のコピーと共に瑛心へと向かう。
 コンセントレーションの集中力で、瑛心はコピー二体の猛攻撃を躱していく。
 ――戦闘開始と同時に、コピーたちが真っ先に涼姫へ集中攻撃を仕掛けたのは誤算だった。虚を突かれたと言ってもいい。だが、そこからどう冷静に立ち直していくかが大事だ。
 涼姫の傷は深くない。瑛心がここを護りきればまだ勝機はある。それに。
 コピーの涼姫が打ち込んできた拳に、瑛心は羅睺 極を合わせた。……受け流した瞬間に巨躯が大きく傾く。体勢が崩れ無防備になった鳩尾へ、瑛心はAAグローブを深く打ち込んだ。
 強烈な一撃が、涼姫のコピーを弾き飛ばす。――地球人の瑛心にとって、格上となる相手だったからこそ、この技が完全にはまった。床に転がると同時に、コピーはその体を霧散させる。
 必ず受け流せるとは限らなかった。しかし技を合わせていく瞬間、瑛心はこれがうまくいくということを肌で確信していた。仕掛ける前は賭けだったが、殴った時には自信を持って踏み込んだので、より狙った場所に深く拳を入れることが出来た。
 瞬間、何か鏡の並ぶ世界を垣間見たような気がしたが、本当に一瞬だった。殴るときに瞬きはしていなかったが、していたとしたらその合間にだけ見た世界だった。
 ――いかにそのアバターを理解し、“自分らしく”力を振るえるか。
 瑛心の修めていた古武術は、“一瞬でも相手を極め、絞めて、固めて打撃を打ち込む”“相手の攻撃を逆に目隠しにして急所突く”等々、突き詰めれば“如何に迅速に相手を破壊するか”というところに重きが置かれている。
 思いやりも人情味もない、情け容赦もないそのスタイルが嫌いで使いたくなかった。だから、瑛心は、信条以外の自分らしさは出来るだけ消して、各世界のアバターに自身を合わせてきた。極力他人にも関わらず、私情を持ち込まずに――義務感だけで、世界の危機に対するだけの物であろうとしてきた。
 けれども。
 嘗てある人には『活かしきれてないなぁ』と見透かされ、ある男には、幾度挑んでも叩き伏せられている。
 だから。
 ……これからも戦い、そして守るため、嫌いで使いたくなかったと否定する自分を乗り越えて、自分らしくなってみせなければならない。
 そして辿り着いた答えがこれだ。
 本来の姿である地球人では、確かに能力面では他世界のアバターに劣るかもしれない。だが、武術を修めた者として精神力――つまり集中力なら、対抗しうるかもしれない。瑛心はそう考え、そして、何かを掴みかけた。
 垣間見た世界に一瞬集中力を乱された瑛心の背後へと、瑛心のコピーが飛び掛かってくる。
 避けきれない。振り向きながら瑛心は構えた。
 ――と、再び、叫び声と同時に、瑛心の視界の端から大きな拳が飛んでくる。目を覚ました涼姫のものだ。
 それが、瑛心の目の前で、瑛心のコピーの体を真横に殴り飛ばす。
 一発ではなく、何度も、狂乱舞の拳が舞った。破壊眼で見えた弱点――けれども、涼姫から見れば地球人のコピーは全身が弱点のようなものでもある。
「砕け散れ!」
 涼姫の叫び通り、まともに拳を全身に受けた瑛心のコピーの体は文字通り砕け散った。
 ――瑛心はAAグローブをしている。ならばコピーも同じものを身に着けていた。瑛心は一度でも喰らっていたら危なかった。最初に瑛心にも殴られながら、それでいて起き上がって来た涼姫がとんでもなくタフなのだ。
 その間、秋良は自身の最適化されたコピーを相手に、キャロリングを流さず、salusで姿を隠さず、スローシックスでプレゼントも夜想の光輪を投げることもせずに、ただ真っ直ぐに正面からEvangeliumの鐘を叩きつけようと奮闘していた。
 ――だが、コピーはというと、夜想の光輪を投げて秋良を近づけさせず、やっと距離を詰めても姿を隠し、きょろきょろとする秋良を後ろからEvangeliumで叩くというのを繰り返している。
 小細工なしで、そして持ち得る技をあえて使わずに挑んで捉えられるほど、コピーは甘い存在ではない。なにせ、コピーは他でもない、秋良自身のコピーなのだから。
 それでも秋良は諦めなかった。何度でもこの鐘の音が響くまでと果敢に立ち向かった。しかし、何度も殴られ、至近距離で鐘を鳴らされているうちに眠くなって、視界がぼやける。判断力も鈍ってぼんやりよろけているところに、夜想の光輪で攻撃され激痛に目を覚ます、という繰り返しだ。
 秋良が裏側へ挑戦するのは、今回が初めてだった。
 ――正直自信はまるでないというのが本音ですが、それでもやれることはやってみましょう。そう思って、ここへ来た。
 プレゼンターとは、クリスマスの手伝いのためにもたらされた“プレゼントを届ける”ことを目的とするアバターのはずだ。
 だがその裏側と言っても、プレゼントを奪ったり届けなかったりというのは、違う。届けないプレゼンターがプレゼンターだなんて、秋良は認めない。
 秋良がプレゼンターとして成したいのは、プレゼントを届けた結果喜んでもらうことだ。それ以外になにかを贈ることでやってみたいことがあるとすれば――それは彼らの前に困難を届けて、それを越えてもらうこと。
 そしてその先に進む姿を見てみたい、そんな彼らの勇気を見てみたい、という想いがある。
「クリスマスのプレゼンターとはかけ離れてるかもですね」
 歪んでいるかもしれない、と秋良は朦朧とする中で苦笑する。でも、たとえ自分が憎まれても、彼らが心に宿す勇気や希望というもので未来を拓く姿を見たいと、秋良は思うのだ。
 彼ら――物語の主人公が、越えてくれると信じているから。
 秋良は物語を盛り上げることをしたいのだから――。
 眠りかけた秋良に、背後から肉薄したコピーが夜想の光輪を振りかざす。
 が、それが炸裂するより先に、駆けつけた瑛心の足刀が夜想の光輪を持つコピーの手を蹴り払った。
 その風圧に我に返った秋良はすかさず、Evangeliumでコピーを殴りつける。
 三度、殴ったところで秋良のほうが、蓄積していたダメージに膝をついた。鐘の音で朦朧としたらしいコピーもそれに気づき、すかさずまた夜想の光輪を構える。
 すぐに姿を隠さなかったのは、コピーも判断力が鈍っていたからかもしれない。秋良が傷つけられるより先に、瑛心はコピーを羽交い絞めにし、――そして、秋良がもう立てそうにないとわかるまで待ってからか、そのまま絞め落とした。
 瑛心の腕の中で秋良のコピーが霧となって消える。涼姫もようやく一息がつけたのか、その場に座り込んだ。
 どうにか、コピーをすべて倒した。連携で先手を取られてしまった分は立て直せたが、リブレも秋良も、涼姫も満身創痍になっている。
 瑛心は秋良に肩を貸して、涼姫もリブレに手を貸し、四名はゆっくりと部屋を出た。

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