原型世界の不死鳥
そこは見慣れたルインの街の光景。
飛鳥 玲人はトレジャーハンター協会にいた。
試練の場がここということは、相手も自ずと予想できる。
「ケチュア会長か」
トレジャーハンター協会の会長にして、パチャカマク文明圏を滅びの運命から解放すべく手を尽くした女傑。
別の次元に旅立った本物の彼女に会うことはもはや叶わない。
玲人はかつてケチュア会長と模擬戦をしたが、ほとんど手足が出なかった。経験、実力、戦術。その全てにおいて大きな隔たりがあったのである。
いつかその高みに、と目標にしていた彼にとって、これは成長した今の自分を示すまたとない機会である。
互いに守護者に乗らない一対一。純粋なトレジャーハンター同士の戦い。
ケチュアの体が炎に包まれた。ドレッシングフェニックス。文明衝突トーナメントまで明かしていなかった彼女の真の力。
(最初から出し惜しみはせず全力で来い、ということか)
敵はデータを元に再現されたに過ぎず、言葉を発することはない。
それでも、ケチュアの佇まいと目を見れば、言わんとしていることが理解できた。
元より様子見や小手先の小細工などするつもりはない。
玲人はダークグリフを刻み、身体能力を強化した。ケチュアはまだ動かない。
意識を集中し、フレアーボムを放つ。それに対しケチュアは纏った不死鳥の炎を凝縮し、フレアーボムに衝突させる。
爆風と高熱をオリハルコンの板を素材にした盾で防ぎ、ケチュアとの距離を詰めた。この盾はクリエイションによって生み出されたものだ。
バトルバンカーの杭をケチュアに向け、突き出す。しかしケチュアの姿はそこにはなく、ただ人型の炎が残影としてあるのみ。
ラストミステリーかと思ったが、おそらく違う。炎の軌跡は残り、消えていないからだ。
咄嗟に跳躍する。直後、それまで立っていた場所が爆ぜ、融解した。
(さすがにあれを食らったら一発でアウトだな……)
コンセントレーションの集中力がなければもう勝敗は決していただろう。
もはや炎そのものとなっているケチュアに対し、下手に近づけばそれだけで大ダメージとなる。
フレアーボムなら対抗できるが、集中が要るためどうしても発動には時間がかかってしまう。
(腹を括るしかないな)
シールドリュックのシールドを展開し、さらにオリハルコンの盾を構える。
目に見える盾はフェイクだ。実際には二重の防御となっている。
耐えられるのは一度きりだろう。
ケチュアの炎が玲人に迫る。オリハルコンの盾が消滅したが、その瞬間にバンカーの杭を射出した。ケチュアはそれを掴む。
だが、それを見越した玲人はフレアーボムの準備をし、一気に距離を詰めた。
ケチュアの像が爆ぜる。
しかし、
(やはりか……!)
ラストミステリー。予測はしていた。だが、トン、と体に何かが触れた。
玲人が反応するよりも早く、その体が地面を離れ、吹き飛ばされた。まるでクロークをエネルギーに変換し、衝撃波として放ったかのようだった。
「これが会長の力か……」
前よりも確かに玲人は成長した。しかし、まだ届かない。力ではない、決定的に足りていない何かがある。
気を失う前に、玲人はそのことに気づいた。