アルテラのビジョン 2
前線で元素結界を張るのはノナメと遥。
ノナメの色は黒。
遥は黄。
どちらも虹の華で色を変えることで本来の色を隠して前衛の盾となる。
ツェルンも観察眼で敵味方の動向を見極めて自分の立ち位置を動かしていけば、元素結界を張る二人の後方へ緑の元素の加護を受けた矢が飛ぶ。
「させないよ!」
ホーミングする矢の前に立ち塞がるとアームズマスタリーでコルリス王国軍の盾の最大限の性能を発揮させた状態で矢を受け止める。
心美も心眼を見続けながら果敢に前へと出ていく。
「今は緑が使われている! 黄にしている者は気を付けること」
遥は色相観測で現在の色を仲間に知らせる。
虹の華で黄にしているのは、遥とひかるだ。
純度と魔力がこちらの比にならない程上回っていることからも致命傷になることは必須。
回避に重点を置く遥の判断も悪くない。
元素結界を展開し翠嵐を鞘に収めた状態で防御と回避を重視することで敵をしっかり目を向け捕らえし翠嵐の性質を発現。
同時に常に色相観測で相手の色を捕らえ続ける。
「捕らえるもの」の性質を内に秘めた捕らえし翠嵐の性質は、刀を鞘に納めている時間に応じ、自身の神聖武装の攻撃力が上がり、射程も伸びるというもの。
制約としては目標に意識を集中し、狙いを定めなければならないとあるが、敵は1体。
集中を続けることはそう難しくない。
ひかるも今は攻撃のタイミングではないと理解している。
追尾する矢をオートカウンターで避けることで被弾を凌いでいく。
「裏だろうと起源が同一でありゃベースは変わらん。元素っつー概念もな」
裏アイテムである紫地の弓を引き絞りキョウは乱れ撃つ。
周囲の元素を吸い、それを所持者であるキョウに還元して身体能力を上げ、高威力の矢を放つ事ができるそれがあれば、周りの元素を用いる者ならば色を問わず元素を用いる限りはその力を削ぐことができる。
鈍器にもなり得る紫地の弓だが、合理的といえばそれまで。
裏側で発見したこれはつまるところ、キョウとエルフの裏側を一瞬でも繋いだ縁、あるいは楔だ。
特異者が裏側の世界から異物として嫌悪されようと、この武器は裏側の世界に適応しているものだ。
そしてエルフの古の血もまた起源に近いもの。
表にして裏側に適応しうるカードということ。
一方的に殴り込むのではダメだとキョウは思う。
表はもちろん、裏側のルールにも迎合し、アバターの負荷軽減を図る必要があるだろう。
ノナメも色隷の聖装で周囲の元素に働きかけて、魔法攻撃の威力を減少させることでキョウの後押しに加わる。
ノナメの元素結界は黒。
それを打ち消さんと白の元素を混ぜ込んでくる鎧の騎士。
言葉なき言葉で白の元素の加護を受け取り、鎧の騎士の干渉は強さを増していく。
その上で白系統の最上位魔法が放たれる。
聖なる光により、白の元素で満たされ、ノナメの黒の元素結界はこのままでは持たない。
ノナメは即座に虹の華で変化させていた色を解除。
本来の白に戻し、融和で周囲の白の元素を取り込み魔力を高めると、白の元素結界を張り直す。
「私がいる限り、絶対皆さんを脱落させたりなんてしません!」
鎧の騎士は白と黒の合わさった一閃を受け止めるノナメ。
広範囲にわたる光と闇が螺旋を描くように交わったそれをひとりで受け止めるのは困難。
元素結界を張っている遥も盾として加わり、時間を稼ぐと共に性質の力を高めていく。
「こんなモノは切っちまえばいいんだよ!」
心美が裏アイテムである魔切の戦術書を身につけたことで通常攻撃でも魔法を斬ることが出来る。
真鋼の剣で切り払い、前へと出る。
心美の剣により白冥の一閃が消えれば、次の攻撃が来る前にとノナメはアルトルークの霊水を飲み体力と魔力を大きく回復させる。
境界面にいつ到着するかわからない以上、他の者達は出来るならギリギリまで使いたくない手段だろう。
そういった者たちのためにも盾として戦場に留まり続ける事の大事さは、以前行った裏側を見る実験で実感済みだ。
ならばそのための努力は惜しまない。
前に出た心美は灼熱の炎を巻き起こされても怯まない。
魔封石【魔封石】で威力を抑え、炎すら切り払ってみせる。
決して後ろへは下がらない。
裏三千界との境界面にたどり着くまで、この鎧の騎士と戦い続ける持久戦になる。
背中は仲間に預け、剣士たる心美が戦線を支えるのだ。
目にも止まらぬ速さで剣を振り抜いてくれば、心眼を持つ心美はそれを捌かんと真鋼の剣で受けて立つ。
一太刀からしてこの鎧の騎士がただの元素を操るだけの操り手ではないことが窺える。
攻撃を切り払うだけでは押し負ける。
だからこそ、こちらから攻撃を仕掛けねばならない。
心美はクアッドリープの高速連撃を集中して叩き込む。
踏み込みと共に放つ一撃から、流れるような三連撃に繋げ、同じ個所を連続攻撃、一点突破せんと。
それで折れるような剣も鎧の騎士は持ち合わせていない。
速度と一撃の威力を併せ持つ剣技を繰り出せば、受け捌こうとしても強烈な衝撃波からは身を守れない。
「こんな所で倒れるようなアタシじゃないよ!」
離れれば最上級の魔法が使われる。
近づけば手にした剣で押しやられる。
戦線を維持するのはこのままでは難しい。
ならば、ここが使い時。
持久戦が予想されるとはいえ、魔力の消費が大きい技だろうと、使うべきところで躊躇うようではこの先やっていくことはできない。
「迷いを断ち切り、業火の刃で敵を溶かし斬る……!」
紅焔を使い、速さよりも一撃の威力に重きを置いたそれで薙ぎ払う。
キョウも紫地の弓を引き絞り異物たる自分たちを拒絶しようとする鎧の騎士へ向けて放った。
倒しきれなくても相手の動きを遮り、味方の攻撃へ繋ぐことはできる。
裏側の境へ至るための一歩になればいい。
一瞬のうちに距離を詰めてきた鎧の騎士に対してもキョウは戒心で臆することなく紫地の弓を鈍器として振るう。
裏側の境へ至るための一歩になればいいと思うが、容易く潰されてやるつもりはない。
「筋力でものをいう、ってのもまたひとつの選択肢、だろう?」
「ほら。今のうちに回復だよ。盾も重要だけど、決定打を与えられる剣も同じくらい大事だからね」
「助かる。戦いは終わってないからね」
「べ、別にお礼なんていらないんだからね!」
切り札を使ったことで消耗した魔力、前線を維持するために受けた傷をツェルンが渡してくれたラクスの水で回復する心美。
感謝の言葉を素直に受け取れずにそっぽを向いて場所を変えるためにツェルンは離れていった。
「黄に変化! 緑は攻める!」
「今度はボクの番、ってね!」
黄に変化させていたウラガーンを元の緑に戻し、ひかるはニーヴィディモスト・ヴィールヒを纏わせていた風を解放。
風の刃を放つ。
さらにフルメニスを唱え桁外れの雷を落としてみせる。
「ふふふ、ボクの道を阻む者には何者でも容赦はしないのです!」
「緑に変わった! 斬り結び、捕らえよ――翠嵐」
嵐の如き暴風を巻き起こし、周囲にあるものを吹き飛ばさんとする暴風に遥はエターナルブレイブで魔力を高めて対抗。
聖約を紡ぐことで捕らえし翠嵐を活性化させ、鞘に納めていたことで高めた攻撃力で鎧の騎士の魔力と拮抗し、攻撃と防御で互いの力を打ち消しあい耐え抜く。
抜刀すれば、エターナルブレイブの効果の切れる瞬間まで残った力も込めて全力の一刀を放つ。
射程距離の伸びた大地の刃に対抗すべき、鎧の騎士が黄の元素を纏い硬質化させれば、すかさず虹の華で変化させていた色を元の色に戻す。
黄から別の色に変わる前に抜刀した翠嵐を振りぬき傷を与える。
「これで終わりじゃないよ!」
優はエターナルブレイブを発動。
身体能力、魔力を大きく活性化させ融和を行う。
本来の自分の限界を超えた融和によって得られた力で超強化した状態でラストデモリション。
物理を超えた破壊の力で障害を破壊するための一撃を叩き込む。
それは『生命を奪わず戦闘不能にし、障害のみを叩き壊す』事を意識してのこと。
着実に己が身に覚えさせるための一撃。
障害を突き抜け、世界の壁に盛大なノックをしに行くぐらいのつもりで全力で繰り出した拳。
「未来(あす)の可能性を掴め! ヒーロー・ザ・デイブレイク!!」
ルメナスのロザリオが揺れ動き、アルテラエッセンスの存在を感じることでアルテラそのものを意識した優の一撃。
発動させたエターナルブレイブでその世界から加護を受けて戦った偉大な先達である明夜を意識している。
アルテラでは『白のデモニス』と呼ばれる様になった自分なりに超える為に行った融和。
その想いと姿を込めたラストデモリションは確かに鎧の騎士に届いた。
「元素の揺らぎが消失。脅威は今のところ去った模様」
色相観測ができる遥が言うのならば、今が息を整える時。
これから先に控えている境界面での戦いに備え、負荷の強まる空間ではあるが回復できる者は回復に専念した。