アルテラのビジョン 1
アルテラの裏側のビジョンが脳裏によぎった者は多数いた。
虹の華の所有者、魔切の戦術書の使い手、そして紫地の弓を引く者だ。
闇に覆われ、「ヒト」の生存圏が限られた世界。それはまるで、人の時代が成立せず、魔族が世界の大部分を支配する“黒の世界”を思わせた。
それでも人は、世界の支配者――“魔王”たちに抗っている。
そんな短いが濃厚なビジョンを感じ取っていた。
「わたしたちのグループ以外、このアルテラに来た者はいないみたいですね」
クールアシストで冷静に状況を把握してそう呟くのは
ノナメ・ノバデ。
状況は不可測であるが、元より覚悟の上。
それに加え、特異者として様々な世界に行っていればそういう事態には慣れていても仕方がない。
向く先が定まれば、自分のやるべき事……皆を境界面まで守り導く盾となる事に集中するだけだ。
それが魔導騎士として積み重ねてきた覚悟。
ある程度状況が分かれば、白光のロッドを媒介にクヴェレ・グレンツェンを形成する。
同時に裏アイテムである虹の華の力で表層の属性を「黒」に変更。
元素結界をいつでも展開できるよう備えながら周囲を警戒していく。
以前の実験でノナメが見た世界。
あそこに自分達が必要とする何かがあるのなら、ノナメは自身が手にした力……虹の華を使って必ず辿り着いてみせると決意を固める。
「ボクができるボクだけの役割……ちゃんと見つけてみせる」
ノナメと共に見た裏三千界の光景。
ツェルン・ディーレも結局その場所がどんな場所かわからなかったが、今までの常識は捨てて行かなきゃいけなというのは理解した。
そうなると信頼できる仲間との連携は必須。
そのために自分が出来る事を見極めなくてはならないだろう。
戒心で周囲を把握していつ敵が来てもいいよう備えておく。
未知の場所だからいつも以上に慎重に。
慎重になり過ぎることはない。
キチンと自分の置かれた状況を理解していればどんな状況でも冷静に対処できる。
そして精神への負荷にも耐えられる心構えができるというもの。
自分にできることをする。
それは簡単なようで難しいこと。
周りの仲間たちに比べてツェルンはまだ格下。
まともにやり合うより確実に対抗できる実力を持った仲間が十全に戦えるようサポートに回る方が全体的に上手く回るはずだ。
「可能性とはいえ、この先にシヴァ……超越者に対抗しうる力があるというのなら、迷う必要はないよね」
ルメナスのロザリオを首から下げ、懐にアルテラエッセンスを入れているのは
他方 優。
マジン・アーマー・ザ・グレート【黒貴の魔鎧】と【白夜の細剣】を媒体に光の鎧『ヒーロー・ザ・デイブレイク』を形成。
現れる敵が界霊ならば、言わずもが倒さねばならない存在。
正体不明の敵ならば、悪意や虚無的な物を感じなければ無理に倒そうとは思っていない。
なぜなら、正体不明なだけで悪しき存在とは限らないからだ。
限界実験の時に世界が繰り出した影の存在みたいに、世界から拒絶の意味で出されてる可能性も捨てきれない。
どちらにしろ悪しき存在なら、容赦するつもりは微塵も無いが。
『ヒーロー・ザ・デイブレイク』を形成したのは、裏三千界を観測するという『最初の八人』も出来なかった事を成すと言うことから自分の限界をまた一つ超えるつもりで挑まなければならないから。
「この前の実験で一瞬だけ見えた裏側の世界。そこで掴んだこの力が裏側への境界へたどり着く鍵になるかもしれない」
桐ヶ谷 遥以外にも裏アイテムの虹の華を得ている者はいる。
だが、その使い方はひとつではない。
遥には遥なりの使い方があり、虹の華をどう使うかは自分なりに考えるしかない。
蒼銀翼のチャームで心を強く持ちそれを水鏡の戦装束【スーパーアダプトアーマー】の姿にも反映させる。
魔導騎士とは強い意志が求められるアバター。
その精神力をもってこのミッションに挑もう。
ツェルンの戒心の警戒もあるが、遥も色相観測で元素の働きから襲撃が分かるかもしれないと用心する。
そして空蒼の細剣を触媒に捕らえし翠嵐を形成。
元々は緑の元素だが、裏アイテムである虹の華で黄に変えておく。
「裏三千界……アバターの裏側があったように、アタシらの知る三千界とは違う可能性を辿った世界か……。裏の世界だろうが、世界の果てだろうが突き進んでやるさ……!」
文字通り前人未到の領域だが、シヴァと渡り合う力を付ける為には、ここを突破しなければいけない。
黒瀬 心美はこの界域が三千界の裏側の入り口なのだとしたら、敵もアバターの可能性を突き詰めた存在である可能性が高いと判断。
以前の実験で剣士の裏側を覗いた時に手に入れた、この裏アイテムである魔切の戦術書を編纂した知識を駆使して戦う剣士のように。
心美が目指すのは、手数と攻撃力で敵を抑え込み、前衛で仲間の剣となり盾となり得る剣士。
別次元の相手だろうと後れを取るつもりはない。
剣士の可能性を示し、未知の敵を突破してみせよう。
そして同じ世界のアバター同士は把握できるというこの空間。
だが、目に見える物だけが真実とは限らない。
故に心眼による心の眼で、周囲の状況を探る。
「俺の全力、アバターの全力、合わせてもって裏側へ至る……!」
シヴァを倒す。
エルフの裏側の一端を掴んだときの気持ちに変わりはない。
キョウ・イアハート、一特異者が神へ噛み付きうる力を手に入れられるのだというのなら、王道だろうと裏道だろうとその尽くに『適応』してみせる。
一欠片掴んだからと慢心できる道理もない。
世界の深淵、境界面なんて、それこそ何があるか分かったものではない。
キョウの基点は揺られざる者。
エルフの古の血を喚起させるこの力で、自分の芯を確かにし、世界のブレや、未知の脅威に対して恐れや油断、焦りなど感情を揺さぶられないようにする。
そしてホークアイの戦況把握能力をもって、揺らぐ世界、不安定な概念を認識する。
曖昧なものを曖昧なまま把握する、というのもまたひとつの技術だ。
「裏三千界……世界そのものの裏側ですか、なんかゲームみたいで面白そうですね、絶対に境界面まで行ってどんなものなのか見てやろうじゃないですか! 深度が深くなれば界霊やらなにやら襲ってくるみたいですが、これアレですよね? 裏の世界のやつも出てきて襲ってくるパターンですよね!? ぐぬぬ、これは要注意ですね」
ひかる・アベリアは周りが用心に用心を重ね、緊張感が増していく空気を和らげようとややテンションを上げてまくしたてるように口から言葉をこぼしていく。
それでもいつ敵に襲われてもいいように緑風石の片刃剣を媒体に神聖武装ウラガーンを形成。
ニーヴィディモスト・ヴィールヒでウラガーンに風を纏わせておくのも忘れない。
ついでとでもいうかのように裏アイテムである虹の華で属性を緑から黄に変えておく。
記憶が曖昧だが、二色背反というものがあることは覚えている。
相反する二色が、互いに苦手にも得意にもなり得るというもの、だったはずだ。
裏の世界の敵が襲ってくるのなら、裏の魔導騎士が相手にしてる属性を好きに変えてくるのが出てくる可能性も十分あるだろうから。
属性の切り替えだってモノにしてみせる。
それぞれが覚悟を胸に、武器を構え、辺りを警戒すれば、遥の色相観測で元素の揺らぎを感じ取り注意を促す。
元素の揺らぎから現れたのは全身を鎧で覆った騎士のようなもの。
その存在が何者であろうと【幻想の先を覗く者達】は先に進まなければならない。
境界面へ辿り着くため、裏アルテラでの戦いが始まった。