テルスのビジョン 2
慶火の鼓舞を受け、【チキンダイバー】の士気は上がる。
慶火の全方位索敵にヒットしないステルス能力を持つ者が現れようと、焔子のサイコサーモグラフがあれば見逃す確率も低下するだろう。
援軍がいつ来てもいいように用心しながら、恭也はコンポージャーで精神を常に安定化させ、冷静に対応出来るよう心掛けダッシュローラーで接近。
アンサラーの頭部にあるガトリング砲をターゲッティングし、発射。
続けてタスラムを発射させ、光の投げ槍のような弾を発射するミサイルポッドは僚機である冥細胞の塊に着弾する。
無機物の塊は光の投げ槍のような弾によって内部から爆発した。
だが、数の減った冥細胞の塊はすぐに補充されるように暗黒の細胞に感染したメタルキャヴァルリィより生成される。
このことにより、冥細胞の塊は脆いことが判明。
その半面、補充がされやすく、数を減らし主体のメタルキャヴァルリィのみに攻撃を集中することは難しい。
冥細胞の塊に触れれば感染する恐れも考えられる。
直接殴りに行くのは止めた方が無難だろう。
「脆いんだったら、そっちは射線上だけ蹴散らしちまえばいい。必要最低限だけ吹き飛ばして本体を切っちまうか」
方針を決め、恭也はダッシュローラーで接近しつつタスラムで冥細胞の塊を爆発させ、メタルキャヴァルリィに接敵。
瞬間的なフレキシブルスラスター壱式【フレキシブルスラスター壱式】を噴射させ、速度を乗せた斬冥刀【斬冥刀】の一撃を叩き込む。
それを受け返すように剣が一閃。
せめぎ合った瞬間。
恭也は自分の精神力が吸い取られる感覚を感じた。
真綿で首を絞められるようにじわじわと蝕むその感覚は、以前に感じたことがある。
自身で使うこともできたあの技だ。
「ちっ面倒な技を使ってきやがる! 接触には十分に気をつけろ! 油断してたら精神力を吸い上げられる!」
一度に大量に吸えないことには変わりはないが、こちらの精神力も有限。
長時間の戦いはこちらの首を絞めることになる。
メタルキャヴァルリィの攻撃はまだ続く。
冥細胞の塊を連続的に接敵攻撃させることで恭也の動きを止めにかかった。
細胞の一部を刃に変え、自身の細胞を送り込まんとする冥細胞を、タスラムで破裂させながらMEC制動による精密操作を行い、アンサラーの背部スラスターとフレキシブルスラスター壱式、そしてダッシュローラーを用いてディレイアヴォイドで確実に回避を行う。
それでも攻撃を続ける冥細胞の塊をライオネルが盾の陣を組み、サルガス【【僚機】試製シルトシュナイダー】と相互援護体勢を取りつつ切り払っていく。
MEC制動で底上げした「蠍の剣」と銘打たれた双大剣で切り払えば、冥細胞の塊は霧散していった。
あくまでもライオネルの役割は境界面へ向かう者達の消耗を抑えること。
そのためなら機体のエネルギー消耗が激しいサルガスを酷使することも厭わない。
母機のジェネレーターからワイヤーを経由し直接エネルギーを供給することで、高出力ビームによる刃と盾の展開機構を持つサルガスを使い分け、精神が飲み込まれるその瞬間まで盾になる決意がある。
どちらにせよ、最後は健闘を祈るしかないのだが。
恭也が接近戦を挑み、その周辺を守るライオネル。
遊撃隊のリリックはコンダクトマークからの中口径三連装魔力砲で狙撃を続行していく。
ミシェルも同様にコンダクトマークからクーロンズ・マキナに標準装備されている中口径三連装魔力砲で道を切り開かんとしている。
試製イーグルヴァンガードに騎乗した焔子も【僚機】シュナイダー×3を運用しつつ、ハンドビームガンで多角的なオールレンジ射撃で恭也を援護。
狙うのはサイコサーモグラフでメタルキャヴァルリィの動力源である高熱源部位だ。
その時、一的に恭也が対応できない冥細胞の塊にはハンドビームガンを撃ち込むことで注意を逸らし、サイコビジュアルを死角に発生させると虚像の腕で冥細胞の塊を握りつぶした。
メタボリズムチェッカーで自身の精神状態はキャヴァルリィスーツとコードを繋ぐことで常に安定している。
だが、それも過信してはいけないだろう。
精神異常を防ぐスーツではないものだから。
対する慶火はルナチョーカーで精神安定を行っているが、長時間の対応ともなればそれも過信できない。
それでもメタボリズムチェッカーよりはマシかもしれないといったところか。
数が減ることのない冥細胞の塊を慶火も指揮装甲車より【僚機】サイフォスキャノン×2にも指示を出すことで広範囲弾幕を展開。
足止めを行い、味方の手が空き次第、撃破してもらった。
「冥細胞の塊は接触厳禁。メガフォースキャノンいくよ」
チャージ宣言と共に射線を開けてもらい、極太の光線を発射させる。
一気に冥細胞の塊の数を減らすと、リリックもそれに続くようにカリブルヌス【メガフォースキャノン】をチャージ。
メタルキャヴァルリィに狙いを定め、カリブルヌスを発射。
だが発射のトリガーを引く瞬間、リリックに違和感を誘った。
時間感覚が狂い、動作がわずかに遅れる。
その誤差に加え、冥細胞の塊はメタルキャヴァルリィ並の移動速度で狂った掃射から回避までしてみせた。
それでも相手も無傷とはいかない。
強制的に速度を上げたことで、運動分野の思考に不具合を生じさせたのだ。
それを見逃さないリリック。
「ロゼ!」
「お任せを!」
【僚機】スパイダーリッター×3にメタルキャヴァルリィを拘束させ、ロゼは大地母神の憑代となりクーロンズ・マキナの性能を向上。
まだメタルキャヴァルリィはスパイダーリッターの糸を解くことはできていない。
「準備完了ですわ。ミシェルさんに私の力も預けますわよ……!」
「必ず突破して見せるわ。私達の力を重ね合わせたこの一撃……受け取りなさい!」
大地母神の憑代から力を貰い、アウローラ【メガフォースキャノン】はチャージを完了。
コンダクトマークで狙いを定めた場所目掛けてアウローラを発射。
逃げ場を失ったメタルキャヴァルリィはアウローラの直撃を受けながらも決死の突貫 をしてくる。
ひとりでも多く冥細胞に感染させる。
侵入者を排除するために現れたメタルキャヴァルリィは、冥細胞に侵されることで取り込まんとしてきたのだ。
ミシェルとリリックは全速回避を行い、ロゼがバリアオーブを展開。
クーロンズ・マキナに防壁が展開される。
「柊は私が守る」
指揮装甲車を全速力で走らせ恭也の前に割り込むと、フォースフィールドを展開した。
慶火がここにいるのは敵を全滅させるためではない。
仲間を生き残らせるために動くため。
僚機であろうと同じこと。
守るために、生き残らせるために、慶火はいた。
だからこそ、この行動にも意味がある。
慶火の心は恭也に伝わる。
パートナーである焔子も同じ。
言葉を紡がなくても意志を引き継ぐことはできる。
ふたりは冥細胞Iを使う。
裏側を見たことで得たこの細胞。
焔子はサイコフォーキャストで攻撃軌道を可視化させ、試製イーグルヴァンガードに搭載されている『トランスユニット改』を稼働。
『トランスユニット改』の超人的な反応速度で冥細胞Iを繰り出す。
恭也も冥細胞Iに蝕まれながらもそれを繰り出し、冥細胞を冥細胞をもって相殺させんとする。
全身を冥細胞に飲み込まれたメタルキャヴァルリィとて、外部から冥細胞が加われば同士食いを始める。
動力部分を侵食されたメタルキャヴァルリィは外部の冥細胞によって食い荒らされ、動きが制止した。
同時に辺りに散開していた冥細胞の塊も意志を失い形を維持することができずに溶けて消えていった。
―――ズバッ
恭也は浸食してきた冥細胞をこれ以上広がる前に斬冥刀で切断する。
一瞬の迷いや判断ミスが死に繋がるのは嫌ってほど見てきたからこその判断。
焔子はそれもまたひとつの手だと理解している。
侵された冥細胞はキュベレー神の強力な浄化がなければ感染を取り除くことはできない。
これから続く戦いのためには切り捨てる判断も必要だから。