ワンダーランドのビジョン 2
夜の住人は瓜二つの分身を生み出し、攻撃の役目を担わせると本体は隕石を降らせるために意識を集中していく。
「攻撃している方が分身だねぇ。そっちよりもまずは本体を狙った方がいいかも? きっと詠唱中に妨害すれば発動を防げるよぉ」
攻撃手段を持たないリリアンは戦闘分析で夜の住人の分身をドッペルゲンガーだと判断。
物理的な攻撃方法しかない分身からダメージを本体に及ばせるよりも、ミーティアレインの体勢に入っている夜の住人をどうにかするべきだとプレディクショントレースで導く。
分身の攻撃をルイーザが引き受け、夜の住人に攻撃を向けるのは愚者の鳥籠【ザ・フール】を大鋏に、愚者の境目【ザ・フール】を愚者のタロットカードに変化させた行進。
アンブリンキングの強じんな精神力、スロウアデプトで愚者の鳥籠と愚者の境目を自在に操り、バックスライドで移動。
悪意なき敵愾でいつ攻撃するか分からなくさせることで愚者の鳥籠の大挟が猛威を振るう。
芸を行う道化の様にヘラヘラとけらけらと笑いながら何気なく接近し、気付いた時には大きな口を開けた愚者の鳥籠の大挟が目の前に合った。
ミーティアレインの詠唱が止み、愚者の鳥籠の大挟が口を閉じる。
別の手で愚者の境目の愚者のタロットカードを投擲。
突き刺さったタロットカードは一瞬のうちに双剣へと変化し、突き刺さった部分から切り刻む。
「物語の次の章、そこに至る主人公を見るまでは、誰が滅びてやるものか!」
見えない獣を裏アイテムである笑い道化の片眼鏡【正直者の眼鏡】が見通し、愚者の鳥籠の大挟が切断する。
夜の住人が高らかに叙情的、旋律的な曲を歌いあげれば、聴く者を幻惑し魅了させ理性のタガを外してしまう。
ルキナのフローラルアロマで理性を繋ぎ合せているが、自らが抗う術を持たない者には精神を大きく揺さぶってくる。
「みんな、惑わされちゃダメだよ!」
メアリーのキャンディレインで揺さぶられた精神を飴を舐めさせることで落ち着かせることで連携が崩壊されるのを防ぐ。
戦況分析と位置把握の仕事だってフルムーンチャーム【フルムーンチャーム】で守られたメアリーには続行可能なこと。
少しでもリリアンの防衛戦術に役立ってほしいから。
惑わしの歌に繋げるように今度は空を夜空へと変え、全体に闇の魔法が放たれる。
即座にルイーザから無断で借りてきた癒し手の花杖【煙水晶の短杖】で回復に回るメアリー。
行進は愚者の鳥籠の大挟をそのままに、距離に応じて愚者の境目を変化させると拳銃で撃ち抜き、小型の爆弾で爆破し、槍で突き刺し、大鎌で横薙にし、ハンマーの重みで叩き潰して、大盾で殴り飛ばし、ワイヤー付きナイフで翻弄し、トラバサミで罠にかける。
様々な武器へと変化させて人を楽しませる。
これぞクラウンの裏を見た者による道化の真骨頂。
アンブリンキングの道化の仮面で戯けた笑顔を貼り付け、その場を舞台へと変えてしまう。
夜の住人の反撃を受けようと、どんなに怪我を負いボロボロになろうと、張り付けた笑みは変わらない。
どんな状態であろうとヘラヘラケラケラ笑い続ける。
「酷い悪夢にみまわれようと、僕ら道化は笑うのさ!」
笑い道化の片眼鏡をかけたクラウンは、主人公たちを物語を止める抑止力から遠ざけ、真のエンディングへと導く。
陥る脅威を跳ね除け、主人公たちを抑止力の魔の手に陥らないように、そこに主人公たちが至らないように笑顔で道化を演じ続ける。
手を変え品を変え道化師が注目を集めれば、道化な主人公のリデルは見る者の目を欺き、距離感を誤らせる陽炎の外套【イリュージョンスーツ】に身を包み、ハルシネーションでさらにその錯覚を大きくさせる。
帽子屋の腕時計を身につけたリデルは周囲との時間に誤差がある空間へ身を投じた。
時間の流れが遅くなった空間でバックスライドの動きをすれば、スローになった世界の中で夜の住人の攻撃や動きを冷静に見極めることもできる。
間合いだって優位に保ち続けられる。
回避も反撃も時の遅くなった空間では思いのまま。
2つの黒剣『ザ・スペード』が鋭利な切れ味を魅せ、新たな傷を夜の住人に与える。
外からはルキナがVERO【センスオブレリーズ】の射撃援護が入り、着実に夜の住人へ傷を与えていく。
「さて、そろそろ切り札を切りましょうか」
「ルキナさんが詠唱姿勢に入ったよぉ。今は守り主体に切り替えるべきだねぇ」
ファンタジアを展開したルキナはスーパーノヴァの発動体勢に入った。
リリアンの指示でルイーザを主軸とした防衛に切り替わり、夜の住人がルキナに手が伸びないように立ち回る。
「お待たせしました、纏めて吹き飛ばします」
凄まじい光と熱波が放たれ、夜の住人は魔法の鏡が出現しスーパーノヴァを跳ね返さんとするが、ファンタジアの火力が乗ったスーパーノヴァは反射しきれず鏡は割れてしまう。
「飛びなさい」
幻鳥の栞【蒼炎鳥の栞】で創造した火の鳥も攻撃に加わり、わずかに仰け反った瞬間をリデルは見逃さない。
プリンセスタイムを発動させ、身体能力を強化した状態で因果の終束が果たされる。
「夢は何時か覚めるもの……でもだからこそ美しい……」
否定の羽根ペンで発動したファンタジア。
ルイーザの展開した想像世界では魔法が使えない。
発動者のルイーザはエネルギーシールドとオーバーザレインボーの2枚の盾を尚も構え、仲間を護る騎士は勝利を信じて前を見据える。
変化の道化師の行進が大鋏を閉じれば、夜の住人はスライドするかのように後退。
そのまま高速で行進の死角に入り込み、強力な一撃を繰り出してくれば、ルイーザの2枚の盾がそれを阻む。
距離を錯覚させる主のリデルが黒剣『ザ・スペード』の力を解放させ不可視の斬撃を放てば、夜の住人は姿を消した。
「さて……夢の時間は終わりました……後はただ現実を見据え……勝利とゴールを目指すのみです」
「魔力不足なら、私が分けてあげるからねぇ。深度は増しているから、無理は禁物かなぁ」
一番の損傷のひどい行進をリリアンの時界の杖が時間を僅かに巻き戻し、傷をなかったことにする。
まだ、ノーチラス号は境界面には辿り着いていない。
この夜の住人以上の脅威が訪れないとも限らない。
魔力の回復手段は他の世界の物に比べれば格段に多い。
それでも境界面に行くにはさらに深く侵入してくる精神干渉を跳ね除けなければならない。
「夜」が明けることはない。
「昼」の技術がどこまで通用するのかも未知数である。
それでも【物語の栞】は進まなければならない。