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アバターリミット3

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アバターリミット3
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セフィロトのビジョン


 ノーライフキングの裏側を見る事の出来た現在唯一の特異者である碧海 サリバン
 彼は、数少ない覚醒者のひとりとしてこのミッションに参戦している。
 ノーライフキング……不確かな「死の力」。
 2つの世界の滅びが結実したもの。
 覚醒した特異者自体少ないだけに色々と謎が多いこのアバター。
 その謎の1つでも解き明かせる切欠でも掴めればいいと願うことは自由だろう。
 身を護るためにサリバンはルナチョーカーとフルムーンチャームの2つを身につけていた。
 精神の安定と人を狂わせる魔力への耐性を持って、サリバンは境界面を目指す。
 そしてこのミッションは目的地にたどり着くまでの持久戦。
 異世界のスキルではあるが、ノーライフキングを主軸とすれば長時間の戦いに耐えうるタイアレスであれば肉体的負荷・疲労にも備えることもできよう。

「やれやれ。サブマリンツアーの客の気分で酒を一杯、とはいかねえか」

 目の前には聖騎士の影がダブルポゼッションでミカエルポゼッションを憑依させ、キャリバー・オブ・メサイアを手にセラフィックアーマーで上空から舞い降りてきたところだった。
 ゴッドブレスの聖なる波動を広範囲に放たれるが、サリバンには死雰傀儡がある。
 死を遠ざけ、二重廻【目目連】【悪鬼の正礼装】の高い魔法防御力をもって波動からの死を免れたサリバン。
 死雰傀儡で“死”を周囲に集め、龍燈松明丸【禍髄太刀】に纏わせカウンターを繰り出す。
 高速で刃を振るえば、炎を帯び、さらに自らの血液を纏わせ龍燈松明丸を振るう。
 まさに烈血の刀舞と呼べるもの。
 肉を焼き切れば、その傷口から血を侵入させて壊す。
 どのような敵であろうとも、内側から破壊せんと暴れる血に耐えられる者など存在しない。

 物事には表と裏がある――。
 裏側など見て見ぬふりをすればいいが、虎穴に入らずんば虎児を得ずという諺もあることを島津 正紀は知っている。
 正紀自身半吸血鬼の裏側を見た男だ。
 そして、今も流血帝国の支配が強く、魔人教団の動きも活発な世界が脳裏によぎった。
 恐らくこれが裏のセフィロトの一部。
 ここにはパートナーのパティア・ノイラートとサリバン、聖騎士の影の元になったイルファン・ドラグナが存在した。
 彼らと協力すれば、境界面に行くことも可能だろう。
 それには全力で影に挑まなければならない。

「ま、全力で頑張るしかないな」
「そうですね」

 フルムーンチャームによって守られた精神の中、正紀のフューチャーヴィジョンでは影なる存在が剣戟を真空波で誰かを背後から切り刻まんとする瞬間が見えていた。
 それが自分なのか、はたまたここに来ている仲間なのかは分からない。
 それでも敵の攻撃手段がそれだけとは限らない。
 いざという時は紅紫帝の剣【真祖の狂剣】で切り払って守ってみせる。

 天使の翼が広がったかと思えば、再びゴッドブレスが放たれた。
 サリバンのように死を遠ざけることができない正紀だが、正紀には裏側を見たことで得た裏アイテムがある。
 陽光の指輪で光を収束させ、放出することでゴッドブレスに対応。

 パティアはマインドプロテクトを施した状態でバトルサポートユニットのアシストを受けながらキャリバー・オブ・もふもふ【キャリバー・オブ・メサイア】を手にもふもふ神の熾天装甲【セラフィックアーマー】で正紀の傍を飛行し、ミカエルポゼッションによる真空波を鎧の翼で受け止めエンジェルフレアを送り返す。
 キャリバー・オブ・メサイアが振り下ろされれば地獄の炎陣で自らの周囲を、燃え盛る硫黄で囲み身を護る。
 地獄の炎陣より食い込んでくるキャリバー・オブ・メサイアをもふもふ神の聖盾【クルセイドシールド】で受け止めていれば、背後に回った正紀がストリーム・オブ・ブラッドを与えようと手を伸ばしていた。

「あんたに恨みはないが、それじゃあな!」

 キャリバー・オブ・メサイアで反撃してくる聖騎士の影に呼吸を整えた上で浸空で攻撃の衝撃を和らげ、カウンターへ繋げる。
 触れた場所から血流をかき乱し、内側から身体を破壊するストリーム・オブ・ブラッド。
 正紀のストリーム・オブ・ブラッドもサリバンの烈血の刀舞も体内破壊に特化した技である。

「(今、見えたのは裏のセフィロト……流血帝国の支配が強く、魔人教団の動きも活発な世界か。天界と魔界の境界線も薄かった……)」

 そして聖騎士の影の元になったイルファンはオリジナルとしてダブルポゼッションでミカエルポゼッションとキャリバー・オブ・メサイアを憑依。
 今しがた見えたビジョンを考えるのは後にした方がいい。
 日々の鍛錬で培った元来の剣術も合わせて自らが名乗る“剣聖”の名に恥じぬ剣の達人となり、自身の最も得意とする白兵戦に持ち込まんとする。
 この現状になったのも、前回の実験で限界を超え、聖騎士の“裏”を見る事が出来たからだ。
 だが、これはスタートラインに立っただけの事。
 裏三千界との境界面に辿り着く為にも、新たに得た裏側の力を使いこなせるようにならなくてはならない。
 更なる高みへと到達するためならば、幾度でも限界を超え、憑依した存在……いや、大切な“仲間”と共に剣を振るう。
 そう誓ったのだ。
 聖騎士というアバターは天使や悪魔を憑依させ、その憑依した存在の力を借りて戦うアバター。
 イルファンは自分一人で戦っているのではない。
 数多の天使や悪魔達、聖騎士のアバターが力を貸してくれているからこそ戦えるという事を再度深く認識し、常に忘れぬよう心に刻み込む。
 大事な局面でいつも精神面の助けとなってくれていた蒼銀翼のチャームを身につける事で心を強く保つと、セラフィックアーマーで飛び上がりホーリートーカーに耳を傾ける。
 この声はかつて自らに「万物の救済者」という枷を課し、事実それを行使した聖騎士が用いていた剣の声。
 そしてセフィロトを統べる七人の天使の一人、御前天使ミカエルの声でもある。

“神は降りていない”
“彼らは降臨するのを待っている”
“試練は果てしなく続く”
“我らの願いはセフィロトの平和、そして安寧”
“どの世界であってもそれは変わらない”

 その声をイルファンは間違いなく聞き届けていた。

(分かっている。これまでも死線を掻い潜ってきた貴殿たちだ。疑うまでもなくその声に従おう)

 自らを映し撮った影との戦いはすなわち自らの可能性を広げる一戦。
 ホーリートーカーによって身の危険や敵からの攻撃に対して素早く反応することができる。
 こちらから声を掛ける事は出来なくとも感謝の意を述べたり、憑依した存在に対し、礼節を重んじなければ憑依させてくれている彼らに顔向けできない。
 セラフィックアーマーによる飛行で空中線になろうとも、セラフィックアーマーによる翼での攻撃やミカエルポゼッションの力を借り、剣撃を真空波として飛ばす事でどんな距離であろうとも攻撃に繋げることが出来る。
 低空飛行で地上の仲間の射程に入れることで体内破壊を行わせ、内側から削り取っていく。

 広範囲にわたるゴッドブレスから身をも守ることは容易ではない。
 聖騎士の影の体内を破壊することができようと、こちらが無傷とはいかない。
 騎士の影が黒いメルカバーを出現させ、一気に距離を詰めるのは裏スキルであるシャドウメルカバ―がなせる技。
 距離を詰められ、キャリバー・オブ・メサイアに貫かれたのは接触することでしか体内を破壊することができない正紀である。

「ぐぅ……!」
「しっかりして……リヴァイヴ! 正紀、一緒に無事に帰りましょ」
「そうだな。なら、こいつの力を解放しなきゃな!」

 空間に飲み込まれる前にパティアがリヴァイヴで蘇生させ、再び戦地へと送り込む。
 紅紫帝の鎧の力を解放させ、聖騎士の影へ呪いを伝播させていく。
 そのまま浸空によるカウンターからのストリーム・オブ・ブラッドを繰り出すが、そう同じ手を受けるような影でもない。
 カウンターは不発。
 だが、それで終わるようではこのミッションに参加することはできない。
 パティアがすかさず空中から急降下し、キャリバー・オブ・もふもふでの追撃を加えた。

 聖騎士の影はサリバンの背後に向かってミカエルポゼッションの真空波を飛ばす。
 それこそ正紀の視たフューチャーヴィジョンの情景。

「させるか!」

 紅紫帝の鎧の力を解放させたまま間に入り込み、紅紫帝の剣で真空波を切り払った。
 真空波すら切り払えるのは正紀がセンチュリオンでもあるから。
 サリバンがこの中で一番体力があろうとも、防げる攻撃は防いでみせる。
 戦いはここで終わることはないから。

「シャドウメルカバ―!」

 別次元の聖騎士が扱う、メルカバーの影を用いた突進術を習得しているイルファンは自身の影から黒いメルカバ―を出現させ、聖騎士の影に突撃させる。
 もちろんただ突撃させて攻撃するだけに出現させたわけではない。
 回避した先に回り込むように放ったミカエルポゼッションの真空波を当てるため。
 真空波が当たった瞬間というのは否が応でも動きは止まるというもの。
 そこをサリバンは龍燈松明丸による烈血の刀舞を叩きこみ、イルファンがキャリバー・オブ・メサイアでの全力を込めた剣を振るうと同時にゴッドブレスで聖なる波動を放つ。
 憑依した存在との完全融合だけでなく聖騎士のアバターさえも己の一部とする事を再び強く意識した一撃で聖騎士の影は形を留めることなく身を崩していく。

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