パートナーと垣間見たビジョン
重なり合う感覚はどこまで沈んでも変わらない。
どれもこれも表の世界と変わらない世界が重なっているだけ。
感覚はあろうと、そう簡単に裏側を覗き見ることはできない。
ごく少数の裏世界のアイテムやスキルを持つ者にしか裏世界のビジョンは見えない。
「俺はただ世界の裏側を見たいわけじゃない。裏側にたどり着いて……そこでも世界を救いたいんだ!」
「あたしだって世界を救いたい……その思いで潤也に負けるつもりはないわ!」
RWOは
世良 潤也にとって大切な思い出がたくさん作られた大事な世界。
そしてそのRWOから前回の実験で認められた潤也は、今回の観測ミッションで裏側にたどり着き、裏RWOを救いたいと思っていた。
また、RWOで大切な思い出ができたのは、潤也だけではない。
アリーチェ・ビブリオテカリオも友達と遊んだり、仲間と一緒に冒険したりと、数えきれないほど、たくさんの思い出がこの世界で紡がれた。
表RWOにしろ裏RWOにしろ、滅びの危機から脱することは叶っていない。
だからこそ、救いたい。
表も裏もどちらも潤也とアリーチェには大切な世界だから。
深淵にいたるこの場所に吹き溜まる負の感情が形付き、界霊が姿を現す。
精神を飲み込まんとする界霊のオーラに潤也は鍔姫の籠手でアバター能力を高めることで負荷を軽減。
ブリングマインドによる極度の集中状態で意識を強く保ち、リゾルブの不屈の精神で界霊を睨み返す。
アリーチェも汎用アシストユニットでアバターの負荷軽減をさせると、ブリングマインドによる極度の集中状態で意識を強く保ち、リゾルブの不屈の精神で潤也の隣で界霊を睨み返した。
界霊は筋肉を収縮させると、それをバネに突撃して来る。
「攻撃は任せるから、しっかり戦いなさいよね!」
「ああ、任せろ。その代わり、防御は頼んだぜ!」
言葉を交わすのはこれだけでいい。
仲間との連係プレイがRWOの醍醐味。
アリーチェが前に出て守護の錫杖で結界を構築。
もう片方でヴァストシールドを構えると、アイアンヴェールを展開。
界霊の突撃を防げば、後ろから潤也がタイラントのジョブを活かしたポリアナードの宝刀を媒体にライトブレードで巨大な光の刃を、横に薙ぎ払う。
リゾルブの折れない精神で強大な界霊に挑んでいく。
体力の底上げがメインだが、折れない芯というのはそれだけで長時間の戦いができるということ。
「この程度であきらめるもんか! こんな所で諦めたら……後で鍔姫に裏RWOの話ができなくなるからな!」
自分にできる装備とスキルで対応していく潤也だが、それにも増して「鍔姫と一緒に救ってきた世界をこれからも守りたい!」という思いが潤也の原動力になっていた。
どんな困難が来ようとも鍔姫の籠手を見れば、それだけで強い意志を奮い立たせることができる、諦めずに立ち向かうことができる。
ナイトのアリーチェとタイラントの潤也は二人の力を合わせ、攻撃を防御を織り交ぜ戦い続けた。
◇ ◇ ◇
重なる世界にもエデンも当然存在する。
裏側のエデンではどのようなことが起こっているのか。
裏側のビジョンが見えない
壬生 春虎と
葉月 凛には分からない。
それでも異空間のこの場所には負のオーラも存在し、それが実を結ぶことで界霊が姿を形作る。
春虎はエデンに認められはしたが、まだアバターの裏側を見た事が無かった。
共にノーチラス号に乗った者の中にはアバターの裏側を見た者もいるという。
その者たちはその目と心で何を視たのか。
興味が尽きなかった。
このミッションで裏側の境界面に辿り着いたら自分も視られるのだろうか。
もしかすれば境界面に辿り着くこと自体が裏側を見る試練になるかもしれない。
だが、そんなことは別に何だっていい。
エデンを守る為。
ひいては三千界を守る為。
エデンが認めてくれたこのエデンエッセンスを胸に飾り、どんな障害も貫き突き進んでみせる。
凛も何が起きても動じぬ様にルナチョーカーで精神を安定させて臨まんとする。
境界面まですんなり辿り着くなどということはいかないことは百も承知。
それでもしっかり主である春虎についていく。
主と共に最後まで戦い抜く。
この願いを胸に勝利を。
深度が深まる程に周囲の空間は歪んでいく。
春虎は境界面に迫るというプレッシャーに負けぬ様、最後まで戦い抜く意志を強く念じ、精神の隙を付け込まれぬ様に【栄具】鉄王冠を身につけている。
界霊の精神干渉を凛のグロウブレッシングのフィールドで感知。
春虎のコートオブダークナイト【結漿の外套】でも界霊の存在は察知できる。
グロウブレッシングのフィールドに弾かれた、いるだけで精神をかき乱してくる界霊の精神干渉を跳ね除けるために春虎は【栄具】鉄王冠の力を解放し、精神を守ることでようやく界霊に対峙することができた。
凛も界霊の精神干渉から春虎の手を握ることでその感触を頼り、誓いの羽織【壬生の羽織】に込められた不屈の意志を滾らせ抗ってみせる。
言葉を交わさずともお互いにやるべきこと、次の一手がどう出るかということは分かっている。
それだけの信頼がふたりにはある。
「出し惜しみなんてしない」
春虎はディープユニゾンからのファストワークで加速。
凛も加速させると倍化させた最大戦速で挑む。
凛がいることでファストスロウの間合いが伸びたブレードオブエンヴィで界霊に斬りかかる。
だが、界霊は負のオーラが形になった存在。
物理属性の攻撃は一切通用しない。
それでも、攻撃の手を止めればこちらが攻め負けることは必須。
即座に凛がグロウスイッチで主導権を切り替え楽土幻想Ⅲを放つ。
ファストスロウの硬直時間はコンビネーションによって短くなっているが、ディープユニゾンした状態でグロウスイッチすればさらに隙は潰せる。
凛の理想の“楽土”は「そこに幸も不幸も楽も苦も存在しない。ただ白く眩き絶光に満たされた幻想の果て」である。
春虎にもそれが認識できた。
楽土幻想Ⅲで弱体化された界霊との速度差は縮まる。
だが、相手は物理属性の攻撃が通用しない存在。
「あなたにターンは渡しません! これからも私たちのターンは続きます!」
速度差が並んだ状態で凛はブレシィ・オブ・ライトで極限までの軽量化された無銘の絶剣【【原典】断界の太刀】を現速度のさらに上の速度で連撃を繰り出し、界霊を斬りつけるも無銘の絶剣もまた物理属性。
原典回帰させ防御越しのダメージを狙っても当たらなければ意味はない。
守りを切り崩せなかったが、それでも主導権を春虎に戻しファストスロウされたサイトデリートに繋げる。
タイムラグを限りなく少なくした武器の発現と消失を使いこなす高速連撃だけが、ただひとつ界霊に傷を付けた。
◇ ◇ ◇
ガイアのアバターを網羅した者であろうと、裏側の力を手に入れることはそう簡単なことではない。
綾瀬 智也、
エレナ・フォックス、
李 霞を害と認定した鏡の一枚はマナに干渉し、今まで見たこともない人間とも獣人とも汽人とも呼べない、まるでマナが集合したような異様な存在を呼び起こす。
「自分もエレナも伊達や酔狂でガイアのアバターを全て制覇した訳ではありません。障害は大きいですが、必ず辿り着いてみせましょう」
「そうだね。あの異様な物体をどうにかしない限り、境界面には行けないだろうし」
「立ち回りは事前に打ち合わせしたように。行きますよ」
風に乗って香るのは霞が焚き上げた療養のお香。
タルンカッペで姿を消し、隠密状態で回復を行うのが霞の役目だ。
ホールアップで身を隠し、いつでも回復が行えるように備えておく。
エレナはデュアル・アーツで2つのシルフ【GC:デル・フリス】を同時使用し、ギア・アーツで変形をスムーズに行えるようにしておく。
隙を減らし、SA-E型【スチームアーマーE型】でマナのバリアを表面に展開。
ギアの出力増幅効果によってギア性能、機動力を上昇させるとシルフの杖を小銃に変形させ、素早く移動しながら連射することで界霊に弾丸を撃ち込む。
マナの集合体の圧倒させるような精神干渉にはマインドリセットで戦闘に意識を集中させる事によって精神の乱れを和らげる。
完全に打ち消せずとも、精神切り替え術によって戦いは続けることが出来た。
それは智也も同じこと。
エレナが素早く動き回り、狙いを絞りきらせない戦いが始まれば、汽竜翼【汽甲巨翼】を羽ばたかせ飛翔し、【ギアストーン:エクリプス】【ギアストーン:パワー】【コンヴァージ】【サイクロン】を組みこんだ竜爪【GC:ストリングス】の『鋼糸による斬撃』に特化してカスタマイズされた篭手型のギアから目視しにくい鋼糸を複数本伸ばして自在に操ってみせる。
エレナの攻撃の隙間を埋めるようにマナの集合体が飛ばしてくる氷塊を刻み、エレナの攻撃が当たりやすいようにフォロー。
汽竜翼で飛び回ることで、元々見えにくい鋼糸を把握させないように立ち回っていく。
マナの集合体に接近できそうな時はすれ違いざまに竜爪の鋼糸によるギアスラッシュで斬撃。
この際、飛行方向に沿って放つ事で飛行速度を威力に転換することを忘れない。
斬撃後はすぐさまその場から離脱する。
入れ替わるようにエレナがメビウスループで瞬時に片方の小銃を杖に変形させ、もう片方の小銃で【ギアストーン:ガスト】の効果を利用した突風を打ち出し、マナの集合体に急接近。
マナの集合体は火柱を上げることで身を護ろうとするが、それは智也のギアスラッシュが許さない。
守りの火柱を切り払い、無防備になったマナの集合体にエレナがメビウスループで今度は両方を剣に変形させ高速の連続攻撃を繰り出す。
反撃の雷は上空からいくつも落下し、エレナに重い一撃を与えた。
智也の方にも落雷はあるが、竜巻に鋼糸の力を乗せて防壁を張る『円壁』で身を護り、最小限の被弾に抑える。
即座に隠れていた霞がカイロスサイズで斬撃を空間に滞留させることで別方向に意識を向けさせ、その隙にエレナに接近しヒールオブマナを施す。
「今、治療致しますわ」
「ありがとう」
「……! 気付かれましたわ……お気を付けて」
マナの流れを察知したマナの集合体が霞に気付くが、ヒドゥン&サドゥンで気配を遮断させマナから霞を探る時間差を利用して再び距離を取って隠れ潜む。
それぞれの役目は戦い方から伝わってくる。
智也とエレナのアバターであるピースメーカーはその構成次第で前衛、射手、魔法、盾役、回復、支援、修理、隠密といった多くの役割を担えるアバターである。
それ故に『どう戦うのか?』をしっかり決める事こそがピースメーカーを使いこなす上で大切になるというのが智也の主張だ。
今回ならば、智也が『高威力の鋼糸ギアを斬撃技で振り回す前衛型』、エレナは『二つの変形ギアの形態を適時に組み合わせて使う万能型』という形になる。
『災厄』で鋼糸に竜巻の力を乗せて威力、射程を上昇させたギアスラッシュこそ智也の奥の手。
小銃に変形させたエレナが突風で自分を飛ばし、メビウスループさせた杖を手に側面に回り込む。
そして打撃を叩き込む事により、その箇所より突風が巻き起こし、その反動を利用しもう片方の杖でさらに打撃を叩きこんだ。
マナの集合体が上昇気流を生み出し、エレナを吹き上げれば、エレナは両方のギアを小銃に変形させ、体勢を立て直しつつ射撃を行う。
どんな距離、どんな体勢であっても攻撃に打って出られる。
それがエレナの強みである。
『変幻自在』それがテーマのエレナの戦い方。
智也の方は『一糸両断』がテーマといったところだろうか。
そして、霞は『隠密回復』がメインテーマとして打ち立てられている。
マナの集合体は世界そのものから力を借りる者。
管理されたマナの下、効率のよい魔法で人間を支配する存在である。
それぞれが己の存在を示すために、争いは激しさを増していった。