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アバターリミット3

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アバターリミット3
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始まりの世界、最初の地



 アバターの親和性を高め、世界に認められる。それがこの限界実験の趣旨だ。
 しかしこの実験で認められるのは、必ずしもその世界で活躍してきた者とは限らない。それは過去二回のデータが物語っている。
 その人が世界に根差していることと、アバターの力を最大限に引き出せることは別問題だ。そうでなければ、該当世界の出身者は全員認められて然るべき、ということになってしまう。
 数多彩 茉由良はシステムで再現されたコルリスの空中庭園の風景を眺め、思いを巡らせた。

「ワタシ達ハ、アルテラの出身だケド……いくツか、他ノ世界も出歩イテいるシネ」
「もし、故郷に……異物とか、思われていたら……哀しいので御座いますわ」

 たとえどの世界の出身であろうと、特異者となって様々な世界を渡り歩いているうちに影響を受ける。
 実際、故郷が拒絶するかといえば、否だろう。しかしそれでも、認められないと哀しいものがある。
 ナイア・スタイレスカラビンカ・ギーターが呟き、互いに目を合わせた。

「まゆらがアルテラの世界を好きだと思っているのは判っていますわ。そして、アルテラにどう認識されているか確かめられずに燻っているのも」

 アシュトリィ・エィラスシードが言った。茉由良にとってアルテラは初めて訪れた異世界であり、地球に帰れない今は第二の故郷のようなものとなっている。
 この実験にエントリーしてくれたデーヴィー・サムサラも含め、パートナーたちは皆アルテラ出身。
 そんな自分たちが、世界に存在を認知してもらえるか。
「みなさん、ありがとうございます。くすぶっているかは、わかりませんけれど……しりたくは ありましたよね。たたかいは にがて ですけれど」
 裁定者は理の扉の向こうにいる女神ではなく、あくまでワールドホライゾンが作ったシステム。気負うことはない。この実験において、勝敗は重要ではないのだから。
 空中庭園に白いローブの老人と厳つい黒鎧の騎士が現れた。

 ――大賢者ロートゥスとコルリス王国軍元帥テオドルス。
 
 コルリス王国の双璧をなす魔法使いと剣士。
 プレッシャーに息をのむ茉由良だが、覚悟はできている。
 祝福の唄を唄い、皆でこの実験を乗り切り、認められるよう祈った。
 詠唱の素振りはない。ロートゥスが杖をかざしてすぐ、植物の根が伸びてきた。

「きます、よけてください!」

 茉由良が声を上げ、アシュトリィが飛び退いた。
 
「風よ、緑の元素よ――」

 緑の色の加護を受けて身を守りつつ、ヴェンティスを詠唱する。
 ロートゥスの前にはテオドルスが大剣を構えて立っており、ナイアとデーヴィーがこれに立ち向かう。
 ナイアはデーヴィーの後ろに隠れるようにして追従。アシュトリィの風に後押しされ、カラビンカの清澄の唄声による加護の唄を受けながら、デーヴィーがスタンインパクトを放った。
 次の瞬間、デーヴィーは宙に打ち上げられていた。テオドルスが大剣を振り下ろすと、その剣圧が大気を揺さぶり、一種の衝撃波となってデーヴィーを打ち据える。
 ナイアは液状化して地を這うように移動し、テオドルスに接近。無音戦闘術による奇襲を仕掛ける。
 彼女の動きに合わせ、カラビンカがアクアフルクシオで拘束を試みた。黒鎧の騎士は水で動きを封じされたのか、その場にとどまったまま。しかし――ただ腕だけを動かし、大剣の腹をナイアの方に向け、巨獣の短刀を受け止めた。
 ガードされた。かと思えば、ナイアの体が勢いよく跳ねる。テオドルスはナイアの攻撃をただ止めたのではなく、刃が当たる瞬間に力を込め、衝撃を打ち返したのである。
 さらに身をひねっただけで、拘束を脱した。いや、最初からアクアフルクシオは意味をなしてなどいなかった。
 この流れは不味い。通用しないのは仕方ないが、このままではほとんど何もできないままに終わってしまう。 パートナーたちをクールアシストするためにも平常心を心がけ、茉由良は負傷したデーヴィーとナイアに、順にエーテリアを施した。
 テオドルスに気を取られていてもいけない。その後ろでロートゥスは詠唱を続けている。上級以上の魔法を撃たれたら、防ぎきるのはまず不可能だろう。
 茉由良はパートナーたちに目配せし、響鳴を発動させた。直接精神に働きかける、唄の応用。不快そうに顔をしかめたあたり、効果はあるようだ。
 デーヴィーが再び敵に接近し、剣舞の動きからエクスブレイドに繋げた。無論、彼女の力では堅牢なテオドルスを崩すには至らない。だが、ロートゥスに攻撃を当てるためにはテオドルスを引き剥がす必要がある。重要なのは、注意を引くことだ。
 空気が揺れる。テオドルスではない。ロートゥスが詠唱を破棄し、ヴェンタに切り替えたのだ。
 基礎魔法でありながら、渦巻く風の風圧は地に足をついていられないほどである。さらに地面が隆起し、茉由良たち五人の足場を崩す。
 アシュトリィは本来、デーヴィーに合わせて聖約で神聖武装を活性化し、緑の輻射を放つはずだった。だが、彼女はそもそも形成していない。魔導騎士の力の大部分は、神聖武装を形成していることが使用の前提。
 そのような基本的なことを忘れている状態で、世界に認められるはずがない。アシュトリィは崩れる足場に飲み込まれてしまう。
 テオドルスの一閃がデーヴィーを裂き、液状化して潜んでいたナイアを飛散させる。
 そして茉由良とカラビンカはロートゥスの放った業火に飲み込まれた。


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