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アバターリミット3

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アバターリミット3
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孤軍奮闘する者が見えたビジョン


 重なり合い、今立っている場所すら見失いそうな鏡合わせの空間。
 己のアバターが千国ならば、この地は千国なのだろうが、複数の世界が重なり合ったこの空間では確証が得られない。
 意識を保たねば鏡合わせの空間に飲み込まれてしまいそうだ。
 烏丸 凌駕は栄気で極度の緊張状態を、気を巡らせることで強制的にリラックスさせブレそうになる意識に芯を通し、身体の硬直をほぐしていく。
 凌駕の存在を察知した異界は鏡合わせの空間から亡霊兵を排出させる。

「俺は、こんなところでは立ち止まれないんだよ!」

 どんな攻撃が来ようと対処できるように甲身を心がけ、重圧に心が折れそうになっても喊声を上げて己を奮い立てる。
 この場所には自分しかいないが、ノーチラス号には他にも特異者が乗っている。
 ならば、『そこにいる誰かのため』に、境界面への道を開き、道を指し示す炎になってもいいだろう。

 凌駕には八咫烏になるという目標がある。
 八咫烏……人に先駆け、道を切り開くもの。勝利をもたらす必勝の戦神。
 未だ至るにはまだ遠いのは分かっている。
 だが、「至らないから」と言って進まないのでは、いつまで経っても八咫烏になることなんか出来やしない。
 未だ分からぬ世界への道があるというのなら。
 その道が未だ見えぬと言うのなら。
 この俺が踏み越えて、切り開いてみせる。
 一つ一つ道を開き、一つ一つ勝利をもたらす。
 一つ一つ積み重ねて、八咫烏になる。

 「俺」が辿り着かなくてもいい。
 「俺」の後に続く「仲間」の為に。
 「俺」は、俺の全身全霊を以て「八咫烏」になる!!

「いくぞ! 道を切り開く八咫烏として!」

 八咫烏衆【【触媒:3倍】赤備え】を触媒に甲武館【【領地:60人】駐屯地】から180名の亡霊兵を召喚。
 武神疾駆で陣奥に突き進む強力な機動力と攻撃力でこちらを飲み込まんとする敗者の亡霊兵を吹き飛ばして奥へと、深淵を目指す。



◇          ◇          ◇




 重なり合った空間から見えたアーキタイプ。
 過ぎ去ったビジョンには実体を持った精霊が飛び交い、高度の文明が築かれている様子が見えた。
 精霊がシステムに抗い、自らの力を機械に貸すことで稼働している機械文明都市。
 アーキタイプのシステムは「文明の限界点」のデータの習得を目指すようになったのだろうか。
 この滅びることのなかった文明都市を垣間見たのは真毬 雨海

「見たことのない精霊がたくさん……雲霓、力を貸して下さいね。貴方が居れば、私はもっと先を目指せる」

 黒曜の狐「雲霓」【黒曜の狐】に跨り、雨海は前へ進んでいく。
 見たこともない精霊がどんな牙をむいてくるかは分からない。
 だからこそ、ネイティブの気骨をみせる時だろう。

 闇の巨大な狐に恥ずかしくない戦いをしたい。
 もっと精霊について知りたい。

「シャーマンとして、私は貴方たちとコンタクトを取りたいのです。力を貸してほしい。これから訪れる悲劇を回避させたい。だから……!」

 雨海の想いに応えるのか、拒絶するためなのか、精神をかき乱さんとする霊気が集まりひとつの姿をとった。
 姿をみせたとしても、それはどの生き物にも当てはまらない名もなき精霊。
 不定の姿をした影の精霊は霊圧をさらに高め、雨海の前に立ち塞がる。
 言葉も思いも聴くことは叶わない。
 ただそこにいるだけで自我を保つのが難しい存在。
 圧倒的な存在。
 それでも、力を借りるには自らの力を証明するしかない。

「いきます……!」

 雲霓の機動力を生かして縦横無尽に駆け巡ることで狙いを外し、とにかく攻撃を受けることはしない。
 砂塵の槍を手に名もなき精霊に挑み、硝子の鸚哥である実体化した鳥の精霊を飛ばすことで羽ばたきのたびに鋭い破片をまき散らし、周囲を傷つける。
 この世界に来たのは雨海だけだが、雨海には雲霓がいる。
 彼も攻撃手となり、突進していくことで雨海が接近戦に挑めるようにしながらも、自らの身体で名もなき精霊に噛みついていく。
 突進に合わせ雨海が畏縮の呪いで硬直を狙うが、相手は裏側の影。生物ではない。

「風よ……!」

 天狗風で小型の竜巻を吹き起こし、名もなき精霊を飲み込むがそれで霧散するような脆弱な集合体ではない。
 それを自覚しているからこそ、追撃するように砂を集め砂塵の槍を投げつけ魚群の嵐で魚の精霊の群れを呼び出して名もなき精霊を飲み込む。
 精霊に力を借りるシャーマンだからこそ、まだ認知されていない精霊とも交信したい。
 契約したい。
 認められたい。
 そう思うからこそ、全力で雨海は名もなき精霊に挑んでいった。



◇          ◇          ◇




 重なり合う世界は表の世界。
 その中に地球の姿もあった。
 どこが違うかと言えば、はっきりとした違いは見えない。
 それでも納屋 タヱ子は破滅や拒絶、略奪の末に訪れた裏の地球の姿を一瞬感じ取った。
 何千年も争いを繰り返してきた、人の性が形取ったものを。

 裏世界に続くゲートなるものがあるという話は聞いた。
 もしかすれば、境界面に辿り着く事で裏側の存在がこちらに流れ込んでくるかもしれない。
 どれほど強大なものかは分からない。
 個々の力はそれ程ではないかもしれない。
 群れとして集合することで力を発揮することもあるだろうから。
 地球人のアバターは特別な力はなく、身体能力は地球にいた時と何ら変わらない。
 その半面、とてつもなく危険な存在である可能性が高いのだ。
 裏世界であれば、その危険性が突出した形として形成されることだってある。
 それでもタヱ子はその力を手に入れなければならない。
 全ては主人を、たった1人の人を支える為に。

「……ああ。裏側だってそうです。自分の世界の為に“奪う”のかもしれませんね」

 アース・スプライトの光を道標に奥を目指せば、目の前に現れたのは精神を飲み込まんとする、タヱ子の姿を映した影。
 ゆらゆらと揺らめく形なき者が形を定めたのは裏の力を持つに至った彼女の姿。
 この存在を倒さない限り境界面へ行くことは叶わない。
 セーラー服【AAベスト】に身を包み、アバター負荷を軽減させると共に、ポケットには療養のお香を染み込ませたまな板が忍ばせてある。
 自らの負を引き摺り出そうとする存在に、療養のお香が鼻をくすぐることで穏やかな精神状態へと導いてくれる。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」

 九字切の動作で魔を払い、集中力を高めれば負のオーラの塊とも呼べる裏地球人の影を真っ直ぐ見つめ返すことができた。
 マンフレッドのリアルの付与によって“本物”となり、斬れ味もさらに増した童子切 を握りしめ切り刻まんとする。
 裏地球人の影も同じ童子切で受け止め、タヱ子を弾き飛ばす。
 ジオスフィアⅠで引き寄せられれば、タヱ子はその重力を反対に利用し深く童子切を突き刺す。
 地球に似たパラレルワールドの地球であれば、地球の持ち物であった童子切の存在もさらに同一の物になり得る。
 深く突き刺し、拘束したところで裏スキルであるアバタードレインでアバターの能力を奪う。
 それまでに積んだ経験がリセットされれば、如何に裏側で積み重ねていた経験があっても無に帰してしまう。
 タヱ子の方がアバタードレインされる可能性もあったが、今回の時の運はタヱ子に味方したようだ。
 アバターの能力を奪い、弱体化させてしまえば、童子切で切り払うのも容易になる。

「その知識も、力も、特異性も、全て―――私の血肉にします」

 裏地球人の影を切り払ったタヱ子はさらに深淵を目指した。
 アース・スプライトを道標に、重なり合う表世界の狭間に沈んでいく。
 かき乱されそうになる精神を、押し潰されそうになるアバターを身につけた品々がタヱ子を守る。
 それが保つのはどこまでか。
 辿りつけぬまま精神は異界に飲み込まれるか、無事に境界面に辿りつけるかは誰にもわからなかった。

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