ノーチラス号、出港
界域移動船ノーチラス号。
界賊
キャプテン・ネモが所有する船であり、世界間移動を可能とするもの。
TRIALは以前のアーキタイプでの戦いを通してネモ一派とコネクションを得ており、今回のミッションへの協力を要請したことで今回の観測ミッションが実現したのである。
並行して“テスト”も実地しているが、今はそちらは関係ない。
『前にも言ったけど、私たちはお前たちと心中する気はない。危険だと判断したらその時点で引かせてもらうわ』
グリムは今回の“鍵”となる
アンジェリカを守るため、船に残るという。
既にノーチラス号には鍵守である
ヴォーパルも乗り込んでおり、あとは特異者を乗せ、界域の深淵に潜るだけとなっている。
「別に“向こう”に行く必要はないよん。存在を観測できるかどうかが肝だからねー。今回のミッションはとっても危険だけど、犠牲を出す気なんてお姉さんもさらさらないのよさ」
リサ・グッドマンはいつもの調子でグリムに伝えると通信を切るのだった。
乗り込んだ特異者たちはいつ何が起きてもいいように、対策をすでに立てている。
コミュニ・セラフもその中の1人だが、乗らせてもらっている側からすればネモに一言言わない訳にはいかない。
「ネモ船長、まずは今回の調査の協力、ありがとうございますに。必ず、結果を出さねばなりませんに」
『神を殺すには必要なこと。結果などこちらに提供しないでいい。目的が一致しているからこその今回のミッションだ。それ以上でもそれ以下でもない』
「それでもですに。協力してもらったことには礼を尽くさねばならないに。シヴァに対抗する力……あまり正直ピンと来てはおりませんがに。ただ、この裏三千界には興味がありますに。いかなる異変、いかなる戦いもこの場所であれば三千界の世界と全く違う知識が得られるかもに。正直、何が起きるかワクワクしてますに。この冒険心は特異者として……いや、私個人として忘れられない熱き意思ですに」
コミュニからの返答にはなにも返ってこなかったが、追い出されないということは好きに使っていいということだろう。
そう判断したコミュニは愛機であるT-6 JOROU【【サーヴァント防具・大型ロボ】】を格納庫に収め、T-6 JOROUに
ファイアヘッズ・トランスポーターを憑依させ、仲間である
ヨウ・ツイナ、
サジー・パルザンソン、
アッシュムーン・セラフを集合させ、ひとつに固まった。
「ふふん、ルナチョーカーは先日冒険した時に見つけたもの……こういう時に使うためのものに」
「そうはいうが、肝心のチョーカーは首に着いておらんぞ?」
「え、まさか……に!?」
しっかり首につけてきたと思っていたルナチョーカーはどこにもない。
つまり、装備をし忘れてノーチラス号に乗りこんでしまったようだ。
戻って付け直す時間はない。
「装備はしっかりと確認しておくんだな。しかし、精神対策を忘れたということは、無理ができないな」
「申し訳ないに」
コミュニは今回
夏輝・リドホルムと【ダイブヒーローズ】を組んで裏ミッションに挑むことになっていた。
攻撃手をコミュニたちが担当し、夏輝は
妹尾 春那を憑依させた砲剣オルトロス【【サーヴァント・マキシマイザー】】が支援に回る手筈だった。
『起きてしまったことを後悔しても遅いよ。コミュニさんは出来る範囲でいいからね? きっと界域の深淵に耐えきれないと思うから』
「大丈夫でござる! 私もいるでござるからな! 最初助けられてからはずっと恩を返し、また恩を売られる感じでござるが、今回は恩を返す時でござる!」
「ふん、力が得られるなら何の恐れが必要か! 死ぬときゃ死ぬ、だからこそ強くなるってもんよ。俺をもっと強くなるぜぇ、世界に認められたから強いんじゃねえ。俺が強くなりてぇから強えんだよ! 全部を糧にして俺は最強を目指す!」
『前回はサジーの援護を行い世界に認められたのを見届けましたが、前回の経験を活かして、コミュニさんを援護してみせますよ』
「そういうことじゃ。ふふ、私も世界の裏側を見る機会になるとは。生きてみるものじゃの!」
「みんな……ありがとうに! 限界が来るまではわたしも全力で挑むに!」
「その意気だ。……なにやら雰囲気が変わったな。ここで得た結果が希望となるのであれば、救世主の裏側を垣間見た者として、微力を尽くさねば」
ノーチラス号は出港し、今まさに界域の深淵へと潜り始めた。
その感覚は乗り込んだ特異者たち全員が感じ取り、それぞれが目視していた隣の相手はいつしか見えなくなっていく。
知覚できるのは同じ世界のアバターを持つ者同士のみ。
ぐっと重く感じるのは空気か。
迫りくる深淵の威圧か。
それに耐え、特異者たちは裏世界へのゲートがある境界面を目指さなければならない。
果たしてゲートの前に辿りつけるのはこの中で何人となるだろうか。
誰しもが少しでも油断すれば意識を刈り取られかねない異空間。
深淵へ向かう際に見えるという、重なり合ったビジョン。
それはありえた“かも”しれない別の道を進んだ姿の一部。
これまでの「大世界の別の可能性」の世界。
一度見たビジョンを再び見ることは難しい。
もし、垣間見えたとしても、それはまた別の可能性を歩んだ世界かもしれない。
あくまでも可能性の中のひとつでしかない。
合わせ鏡のような裏側のビジョン。
表の世界が歩まなかった世界は等しく異質であり、精神を蝕むビジョンである。
その圧を押しのけて三千界の未来を掴むミッションが始まった。