<10>同調者
戦闘の開始と同時に
桐ケ谷 彩斗とそのコピーが発揮した偉能力――夢幻の孤独の幻術により、
ノワール・ネージュ、楽園の怪物を纏う
私 叫、
マルコ・ショーテストとそのコピーたちは五感が歪み、周囲を正常に認識できなくなっていた。
こちらは連携し、相手にはさせないのは戦術の基本だが、基本だからこそコピーも同じ戦術を用いてくる可能性があると言うことを彩斗は失念していた。
だが、彩斗自身とそのコピーはエクスサブリガを纏っている。それに二人ともが同調者だ。互いに互いの幻術は跳ね除けた。
しかし他の三名――いや、六名が散漫状態となったことで、彩斗もコピーも孤立した状態に追い込まれたようなものだ。ただ、倒すべき相手は認識できる。
戦闘が難しい状態の仲間に手を出されないためには、まず彩斗のコピーをどうにかせねばならない。仲間が正気に戻る前に倒されてしまえば全滅の恐れもある。
それはコピー側も条件は同じだった。だから、二人はすぐにライトニング・ダイで雷弓を形成した。
――この間、他の者たちは、しかし完全に何もしないままでいるわけではなかった。
私叫とマルコはディープユニゾンで同調し、幻術に惑わされながらも、ノーボーダーで辛うじて敵であるコピーの居所のおおよそを掴み、すぐに攻撃を仕掛ける。
慣れとは怖いものだ。私叫は、アルテラからずっと戦い続けた。
最初は人を殺すことに泣いた。鳴いて泣いて啼いた。
それでも戦い続けた。
そしていつからか武器と自身の境は消え、処理することに慣れてしまった。躊躇も何も感じなくなった。
まずいと思った。
――これでは誰にも愛されぬの。
だから私叫は、自分に枷をはめる暗示をかけた。そして――。
「今こそ枷を外すとき。アウェイクン『UNLEASH』モード……ティアマト」
私叫は偉能力のリミッターを外す。
(なんとなくだけど裏の力って可能性だったり禁じ手だったりズルだったりの裏技……タブー技っぽいね……? つまり身を危険にさらす覚悟ってことかな……?)
ズル技だったら偉能力のエデンが十八番だろうかと私叫は考えた。
『やればできる』で上空へと飛び、同調したマルコのフォーフォールドで『しゅうぞう』を四つ展開。
「ラーストリガー FIRE」
まるで言葉に魔力を込めるように宣言した直後、上空からの爆撃を敢行する。あまりに独特でうるさい発射音の後、着弾と同時に起きた爆発でコピーの私叫とマルコが吹っ飛ばされた。
だが、この衝撃でコピーたちも我に返る。
マルコのコピーがすぐにグロウブレッシングを発動、強固な防御フィールドで着弾と爆発から自身とコピーの私叫を護った。
同じく同調したコピーも四つに展開したフォーフォールドを放ってきて撃ち合いとなった。激しい爆発が部屋に響き渡る。
その爆風に煽られ、吹っ飛ばされたノワールとそのコピーもようやく我に返った。
彩斗とそのコピーの戦いは膠着状態となっていた。
ノワールが戦えるようになったことに気付いて、彩斗はすぐにディープユニゾンでノワールと深く繋がる。そして、そのままアウェイクンを発動させた。
遠距離から電撃の矢を打ち合っていたのとは打って変わり、彩斗は一気に接近戦を挑む。
しかし、彩斗のコピーの前に、ノワールのコピーが割り行って真・黒雪を振るってきた。
彩斗がブレシィ・オブ・ライトによるブレードキャリバーの光速の連撃を叩きこめば、配者の慚愧によってノワールのコピーはそれを捌く。
コピーのロイヤルセイバーの剣圧が彩斗を押し戻した。そこに、コピーの彩斗の雷弓の矢が飛んでくる。
傲慢の浮盾でそれを防ぐと、その隙にノワールのコピーが肉薄してきた。
グロウスイッチで、体の支配権をノワールへと切り替える。
真・黒雪で原典回帰――配者の慚愧と革命の旗を同時に発動。
そして断つ概念を付与したロイヤルセイバーを、コピーのノワールへと叩き入れた。
ノワールのコピーが、吹き飛ばされながら霧となって消える。
「うふふ、私達の強み、つまり美しさを見せつけて裏側を覗きに、そして力を手に入れにいくわよ彩斗! アハハ!」
狂笑するノワールは、しかしコピーの彩斗に迫る直前、同調を解いて彩斗と二人に戻る。
あまりに大きく魔力を消費したために、ノワールは満身創痍だった。けれども、不意に二人に戻ったことで挟撃を受けるかもしれないとコピーを警戒させることは出来た。
その一瞬の隙に、彩斗はコピーの足元に、偉能力を溜め込んだブレードキャリバーを叩き、その衝撃を伝播させてコピーの体勢を崩させる。
虚を突かれたコピーが体勢を立て直すよりも早く、叩きつけたブレードキャリバーを上に振り上げることで、彩斗はコピーの体を両断した。
ほぼ同時に、私叫とマルコ、そのコピーたちの激しい撃ち合いも膠着状態を脱していた。爆発の中、マルコのコピーが先に倒され、孤立した私叫のコピーへと私叫が肉薄したのだ。
防御を大きく失ったコピーに、私叫は『しゅうぞう』を突きつけて、ほぼゼロ距離からそれを撃つ。
爆発で互いに真後ろへ吹き飛んだ。だが、グロウブレッシングで護られた私叫はどうにか被害を最小限に抑え、コピーのほうは爆発に飲まれて消えて行く。
コピーたちがすべて倒され、しかし、アウェイクンなどによる消耗で、私叫もマルコも、彩斗もノワールも座り込んだ。
だが、ひととき呼吸を整えると、ゆっくり部屋を後にした。