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アバターリミット3

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アバターリミット3
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<9>頂き


「こんにちは♪ 今日はよろしく♪」
 羽村 空の挨拶で、すぐに戦闘が始まった。
 同部屋になったのは、戒・クレイルと信天蟹に搭乗する高橋 蕃茄だ。
 目の前には既に、自分達のコピーが姿を現していた。
 空はすぐに、栄光の小瓶を投げる。
 実体のある同一容姿の完全コピー。自分の限界を超える為の修業相手には丁度いい、と空は思う。アバターの裏側も気になるが、それよりなによりも訓練として、空はコピーに挑みにきたのだ。
 常に流血と痛みを伴うが、空は流血の指輪をはめて来た。ノーペインで最初の痛みを無視して、怯まずに、小瓶の閃光が効いているうちにブラッディブーストで一気に攻め込む。
 コピーたちは小瓶の閃光にも怯んではいなかったが、警戒をしていたためその場を下手には動いていない。閃光により空からもコピーの姿はあまり見えなかったが、信天蟹ならば影が見えるし、多少狙いが大雑把であっても相手が大きいのでどうにかなる。怯まずに、空は果敢にエクセキューショナーを大きく振り回して蕃茄のコピーへと斬りかかった。
 だが、ツインシールドで受け止められ、後ろへ弾き飛ばされる。――けれども、空を追おうとしたコピーの前に、今度は蕃茄が割り込んだ。
 戒も、リュシフェルの黒い翼を広げて飛翔する。
 だが、高く飛びあがるのではない。まずは全体の状況を把握し、そして必要な穴があればそれを埋めるため、見渡す意味で飛んだのだ。
 戒のアバターであるチャンピオンは、その名の通り、頂点を極める為のアバターだ。その複合的な性質から器用貧乏に成りがちだが、己の目指す形がきちんと見えていれば、ジョブ、レイス、テク、スキル全てを活かし自分だけのロールで果てなき高みを目指すことができる。
 それが、チャンピオンになってからが本番と言われる由縁だと戒は考えている。
 ならば、今こうして己と――過去の己自身と対峙する瞬間さえも、常に己を鍛え上を目指すのみだ。
 そしてこの性質は、仲間たちと共に戦う時、どんな緻密な作戦においても――いや、作戦が緻密であればあるどどうしても出てしまう綻びをすぐに補助し、大局を導くのにも役に立つ。そうするためには戒自身に広い視野が必要だが、これまで数々の戦場で仲間たちをまとめてきた経験は、戒自身が思っている以上に戒の中に根づいている。
 戒のコピーが、床と水平に不可思議な飛び方をした。回り込んで、死角から空を狙う気だ。それに気づいて、すぐさま戒も下降し、細刀で仕掛ける。
 蕃茄も、戒と同じく自身のコピーと激しくぶつかり合った。
 トルーパーとして経験は積んだ。だが上位の存在には勝てない。食らいつくことすら難しい。
 ――しかし、チャンスが来た。
 テルスには居ない強者達のコピー。それらとの戦闘は自分を成長させる。
 ここで経験を積むことで、テルスの強靭な豚、強化人間、新人類、超人達とも渡り合えるようになるはずだ。蕃茄はそう考えた。
 弱気になる必要は無い。むしろ、己に勝てぬなら今まで倒した敵に失礼だとさえ思った。
 蕃茄がオールラウンダーのバスターソードで斬りかかる。コピーはそれをツインシールドで防いだが、蕃茄はすかさず固定武装のクローで、シールドの向こう側にあるコピーの関節部を貫いた。ここまで近接戦になればウィービングも容易ではない。虚を突いた攻撃でもあったため、コピーはフレックスカウンターの構えを取る猶予すらなかった。
 コピーは関節にクローを刺されたまま、バスターソードを振るってきた。クローを手離し、蕃茄はすぐに後ろへ跳ねて避ける。
 コピーがニードルガンとビームショットガンを交互に撃ってきた。
 だが、ウィービングで軽やかに裂け、シールドでも防ぎながら射撃の僅かな隙間を縫ってもう一度肉薄した。
 止めきれないと判断したのか、コピーも再びバスターソードを構え、正面から向かってくる。
 咄嗟に、蕃茄は柔術のような構えをとった。そこに、コピーのバスターソードの切っ先が突き入れられる。
 それをフレックスカウンターでいなして、蕃茄はコピーの反対側の腕、今度は肩部分の関節に下からクローを突き入れた。
 そしてすぐに引き抜き、今度は頭部にもう一度。――いや、二度。
 コピーの頭部に蕃茄のセカンドサドンデスが叩きこまれる。
 バスターソードで蕃茄を払いのけるようにして、コピーが後ろへ跳ねた。
 けれども、数拍を置いて、コピーの信天蟹が爆発する。
 ……機体と共に、中にいただろう本体もさらさらと虚空へ溶けて消えて行った。コピーが消えゆく中、蕃茄の脳裏を過るものがあったが、これは“裏”のビジョンなのだろうか。
 戒の戦いもまた、速度を増す。
 しかし、僅かな膠着状態に陥りかけているのを、戒は早々に感じていた。互いに速さと回避力を駆使し戦うスタイルならば、攻撃を当てる事は困難だ。このままでは突破口は開けない。だから。
 コピーの攻撃をアストライアの杭盾で受け止め、弾きながら、武幻の細刀を触媒にライトブレードを生成。
 多少の力業ではあるが、この横薙ぎで戒は、自身のコピーを空達から大きく分断させた。
 連携を奪われたコピーを、野放しにはしない。横に飛び、死角に回り込もうと見せかけることで、戒は自身のコピーを誘い込んだ。
 ゲーム要素で一番技量差が出るのはテクニックだ。ジョブやレイス、スキルは同種でも、テクは自身の力量に左右される。
(コピーのテクは僕が実験に臨んだ時点のモノ。そこから向上心のないコピーに上達は無い)
 ――なら、そこを越える!
 やはり自分自身、そしてアバターを越えてこそ、見えるモノがあるはずだ。
「さあ、ここからです」
 コピーがそれに乗る。振るわれたライトブレードが戒を追い――けれども、戒はそれを回避せず抗盾で受け止めた。
 瞬間、コピーへと杭を射出する。
 セオリー通りの動きならコピーも同様――だが、装備の隠れ要素も全て活かした虚を突く連続の動きなら、独自の判断が強く真似難いはずだ。戒はそう考えた。
 正確に言えば、コピーは戒の動きや癖を真似ているわけではない。戒の姿、技量、能力、そういう素体が複製された、いわば鏡から出て来た存在のようなものだ。そして、その技量、その能力において最適な……効率的な戦い方をする。
 意志ではなく、ひとつの完成された、……逆を言えば、もうこの先のない、定められた枠の中に収まる答え。たった今この場にいるコピーは、そういう正攻法の鑑のような存在とも言えた。
 それでも、正攻法は強い。そして、なにせ、能力そのものは戒と同じに複製されているのだ。予想外の杭も、戒のコピーは反射的にタンプムーブで回避してみせた。
 だが、余裕があったわけではない。むしろ、咄嗟に、思わず躱してしまったという状態だった。
 即座に、戒は再びライトブレードで光の刃を作り出す。
 これには、コピーと言えども対応しきれず、まともに薙ぎ払われて吹っ飛ばされた。
 飛んでいくコピーを追って、――いや、追い越すように戒も飛翔し、レイスによって闇の力を付与させた武幻の細刀を、剣速に乗せて真後ろからコピーの翼に突き刺した。
 コピーのチャンプムーブはまだ発動状態のようだったが、しかし吹っ飛ばされていれば避けきれないものもある。戒の剣はコピーの翼を貫通し、そして裂く。
 ファーマメントメイルは空戦に最適化されている。戒にとって翼は空中回避の要だ。その僅かな損傷の差が明暗を分ける。
 コピーが振り向きながら剣を振るう。戒はストライダーの速度で回避し、巻き起こした風でコピーの攻撃を阻害する。それでも近距離であったので剣先が腕を掠めたが、それは覚悟のうちだった。
 コピーが千刃白華を放つより、先に。戒がその連撃を叩き入れる。
 戒自身が、果てない頂きを突き抜ける風となり――炸裂した無数の斬撃で、コピーの体は弾けて消えた。瞬間、風の向こうに何かの存在を感じた。
 ――空もこの戦いの間、実は蕃茄や戒の援護をしようとしていた。
 いや、実際には、援護をしようと見せかけて、自身のコピーに大剣を投げていたのだ。
 空のコピーは同じエクセキューショナーでそれを受け止め、弾いた。けれどもこの時にはもう、空はダストバーストでリミッターを解除し、投げた大剣を追うようにコピーの目の前にまで迫っていた。
 ノーペインの副作用による無茶な動き――通常ではあり得ないような角度から拳を突き出し、そして続けて膝も繰り出す。
 けれども。
 目の前から、コピーの姿が消失する。
 倒したのか――と思った瞬間、空は真後ろからエクセキューショナーで貫かれていた。
 最後の審判を発動したコピーが、瞬間移動と錯覚するほど高速で背後に回り込んでいたのだ。
 ノーペインで痛みは感じない。貫かれたまま、空は背後にも蹴りを繰り出すが、しかしエクセキューショナーを引き抜きながらコピーが真上に飛んで躱す。
 頭上から突き立てられたエクセキューショナーを、空は転がってぎりぎり回避した。大剣が床に突き刺さる。コピーはそれを捨て、肉弾戦を仕掛けて来た。
 空も、最後の審判を発動する。どのみちこのままではやられると思った。ならば、賭ける。
 最終リミッターも解除した空とコピーとの殴り合いは――しかし長くは続かなかった。
 先に最後の審判を発動したコピーのほうが、力尽きて消える。空は殴り勝ったというより、粘り勝ちで生き残ったのだ。
 コピーを殴ろうとした拳が消えゆく霧の中を突き抜け、その消失を見届けてから空も倒れる。
 戒がすぐに飛んできて、瀕死の空を抱えあげた。
 蕃茄も戒も、勝った上で帰還するまでが勝負であるのを知っている。
 二人はすぐに、部屋の外へと空を運び出したのだった。

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