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アバターリミット3

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アバターリミット3
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<5>ゼスト連合軍


 シークレットオフィサーの藤原 経衡を指揮官に、聖騎士のクロエ・シンクレア、クアンタロスのソフィア・ヴァーリィ、ランチャーウィザードのシンシア・ロスチャイルド――ゼスト連合軍として集ったこの四名も自身のコピーたちと対峙していた。
 戦闘開始と同時に、ミカエルを憑依させたクロエとクロエのコピーがゴッドブレスを放った。本来ならば決め手に使いたい技の一つではあったのだが、コピー側が先に仕掛けてきたため、経衡も対応せざるを得なかったのだ。……使わされた、という感覚があったが、しかし経衡は冷静さを崩さず、すぐに次の指示を飛ばす。
 経衡の差配ですぐに敵陣へと飛び込んだのはソフィアだった。マッスルブースタースーツとジェットウィングを駆使した、縦横無尽の高速機動戦法だ。
 コピーのソフィアもまた、真っ先に前に出て――まず何よりも経衡を狙ってきた。
 シークレットオフィサーは非力だが、無力ではない。戦術を差配する指揮者の有無が、どれだけ戦況を左右するか――。それは表面上に現れにくい功績だが、大局の行く末を決める要の存在であり、役割だ。
 だからこそ、コピーたちも経衡を真っ先に落とす気なのだろう。……いや、コピーたち、ではなく、もしかするとそれが経衡のコピーによる戦術なのかもしれない。
 経衡は1/15『雲雀』SOカスタムのカメラ撮影・録画――収集した情報をドレスアッパーに蓄積し、敵の行動パターンを解析。ドレスアッパーを通し、ソフィアとシンシアの思考通信に繋げ、クロエには口頭で指示を出していく。メンタルケアも無線通信を介しつつ処置をして、療養のお香も併せて皆に良好な精神状態を保って貰うよう意識した。
 シークレットオフィサーの役割は、事前準備を万全に整える事と、戦況分析による勝利の糸口を掴む事にある。
 経衡が思うに、シークレトオフィサーは“全員が生きて帰る”為にやれる事をやる指揮官――究極の体現者は澤儀・梗になるのかもしれない。
 しかし、シークレットオフィサーの裏側となると“一人でも多く敵対者を殲滅する”扇動者になるのではないだろうか。
 こういう観点で見ると、桔梗院・咲耶は、実はシークレトオフィサーの裏側に既に覚醒していたのかもしれない。
(大事なのは私らしい戦い方だ。すなわち、“何か見ていようとも、何も見えていなくとも、すべきことはどこかにあると、そう思っている”)
 ――皆で生き残る。経衡にとって最も重要な点は、そこだ。
 経衡のドレスアッパーから思考通信で指示を受けながら、ソフィアは駆けまわる自身のコピーを前線に抑える。
 ゼストのクアンタロスは如何なる状況にも対応できる万能の戦闘能力者だ。刻一刻と戦況が変わる前線において、遠近遊撃など全ての分野で常に最大の能力を発揮できる存在ともいえる。
 しかし、その裏側となると万能性の発露ではなく、特化性に追及した形になるのではないだろうか、とソフィアは考えた。
 では何に特化するか。ソフィアらしい、戦い方とは。
 ソフィアにとって大事なのは“明日出会う誰かと手を結ぶ為に今日を護りたい”ということ。そのために、皆で生き残ることだ。だが、しかし、そのためにどう戦うのが自分らしいのか――胸を張って、これが自分の戦い方だと言える答えが、まだ見つからない。
 でもそれでも。
 ブルー・セイバーの手の甲から展開したプラズマ刃で斬り結び、弾きあって離れればすかさず、アクティベート・DWで召喚し副武装としたACT:レールボウで狙う。互いにオートアボイダンスで超回避し、そうして対峙しながらも、ソフィアは後方の味方へ敵の射線軸が重ならない様に常に注意を払っていた。
 しかしコピーのほうはお構いなしだ。その分、攻め方に躊躇いもない。ソフィアは押されているのを感じた。
 コピーの雲雀SOカスタムが、積極的に機銃攻撃をかけてくるのも、コピーたちの攻撃が熾烈な由縁だった。
 しかし、コピーの雲雀SOカスタムはソフィアだけを狙っているのではない。むしろ、一番の狙いは経衡だろう。
 経衡自身も雲雀で応戦はするが、防戦に重きを置いていた。……コピーは、指揮官である経衡の集中を割くことを意識している。経衡自身もそれを感じたので、対応しながらも打開の機を探った。
 その間、シンシアはアクティベート・ヘヴィアームズでDD:ハンディフォートレスを召喚――物理演算で身体能力を高め、接近と離脱を繰り返して、遠近を交えての攻撃で、ほぼ同じ戦法をとるコピーと対峙する。
 ゼストのランチャーウィザードは強力な兵装を“召喚”して範囲攻撃を得手とする者だが、反面、身体能力は低めだ。殲滅戦を仕掛けられる戦術・戦略兵器なのだとシンシアは思っている。
 しかし、その裏側となると、白兵戦を得手とした戦闘兵器になるのではなかろうか――とも、シンシアは考えた。
 シンシアらしい戦い方。すなわち、“空に拒まれていようとも、私は高嶺で咲き誇る”ということ。低空でもいい。飛び続ける事がシンシアらしい戦い方だ。
 エアリアルユニットの低空飛行で対峙しながらも、雲雀を狙う機会を窺う。
 しかし、雲雀は近場のものを攻撃しながら飛び回っていて、自身のコピーを相手にしながらではなかなか仕留めることが叶わない。
 ――そこで、経衡が指示を出した相手はクロエだ。
 クロエはミカエルポゼッションでミカエルを憑依させたことで、自らも剣の達人となっていた。クルセイドシールドで攻撃を防ぎ、エンジェリックプレートで飛行、エンジェリックブーツで蹴りを織り交ぜながら、ソフィアと同じく高速戦法で自身のコピーと幾度も斬り結ぶ。
 だが、積極的に使うつもりでいたクルセイドスラッシュを、温存するよう経衡に指示された。対してコピーはクルセイドスラッシュを気持ちの良いほどよく使う。憑依のおかげでいなせているが、決め手の選択肢を減らされた戦いは流石に厳しいものがあった。
 セフィロトの聖騎士は対悪魔・魔族戦の、プロフェッショナルの中の最精鋭――だがそれ以上に、聖騎士は役所勤めの官僚だ、とクロエは思う。清濁併せ持つ胆力を持つが故に、責任感が強く、上からの無茶振りも迷いながらも遂行できてしまう。
しかし、聖騎士の裏側となると、理不尽にはNOと言えてストライキも辞さない様になっているのではないだろうか。自分もそうなりたい。クロエはそう考えた。
 ――大事なのは私らしい戦い方。すなわち、剣だ。
(魔法に優れた職? それよりも剣だ)
 ホーリートーカーでミカエルの声が聞こえた。瞬間、クロエは背後に回り込んでいたコピーの雲雀SOカスタムを、クルセイドスラッシュで叩き落とす。
 積極的に機銃を放ってきていたコピーの雲雀がようやく破壊される。
 経衡は勝負に出た。
 シンシアとソフィアに指示を飛ばす。それにより、ソフィアはエクスターミネーションを実行。シンシアはサブ・ブレイン2.0をリミッター解除し、ブーストをかけた上、デッドエンドでコピーを薙ぎ払った。
 しかし、そこで仕留めきる必要はない。
 コピーたちを経衡のコピーの元にまで押し戻し、ソフィアとシンシアは経衡の指示ですぐさま一気に後退した。
 同時に、クロエが前に出て――再びゴッドブレスを放つ。
 コピー側の経衡も、コピーのクロエに同じ指示を出そうとしたのが見えた。だが、そちらは不発となり、クロエのブレスにまとめて飲み込まれる。
 クロエのコピーは力を温存していなかった。だから、もうそれを放つだけの力が残されていなかったのだ。
 コピーたちが、まとめて聖なる波動の中で掻き消え、消失する。
 少々危ない橋ではあったが、攻められながらも弾き出した必勝の型を、どうにか押し通すことが出来たようだ。
 この実験では、コピーの手札は完全に自分たちと同じになる。つまり予め、相手の行動はすべて予測し得るものだ。
 持てる手札と技術から鑑みて、最も効率的で成熟した動き――コピーがその体現者であるならば、自分たちはアバター運用の最効率的行動や戦闘パターンを把握した上で、更にその上を目指さなければならない。そして、その最も効率的且つ成熟した運用法を超えていける鍵となるのが、自分らしさなのだ。
 裏側を垣間見ることは出来なかったが、しかし経衡は、手応えを感じた。
 アバターに染まりアバターに寄り添うのではなく、自分達が自分達としてどうそのアバターを使いこなすのか。
 今回はそこに、手が届きかけた気がする。


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