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終極のエデン アフター

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終極のエデン アフター
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■3-1.先駆ける者たち

 エデン――閉ざされた世界の外は荒れ果てた大地が広がっていた。空は昏く夜が如き帳が降り、大地には延々と続く白い荒野。だが、地平線まで見渡すことが出来るかといえば、高く聳える丘や落ち窪んだ谷が視線を阻む。

 第一調査隊とされた面々は、深界霊の排除そのものを目的とせず周辺の地形や外敵の確認、つまり斥候の役目を務めていた。

「見晴らしが良すぎるのも考えものだね。……ここからは崖を登らず、谷沿いに進んでいったほうがいいと思う。怪物が3、4体ぐらい丘に陣取ってたから」

 そんな中、不可視の力を存分に活かして隠密したエレナ・フォックスはパートナーである綾瀬 智也に周辺の状況を逐一に報告し、それを受けた智也はオートマッピングで得た情報に詳細を書き記していく。

 地道な仕事だ。だがこと調査という任務においては重要な役割であることは論じるまでもないことである。

「分かりました。となると前線基地を設営するならこの北部の山間、西寄りにあるこの丘ですね」

 智也が情報を網羅しつつある端末を指で叩く。

「じゃあ、このあたりのルートの怪物は退かしておきたいよね? わたしがいこうか」

 “怪物”の討伐、そして今後の外界調査。それに際して都市内部ではなく、外部に拠点を設営することの重要性を説いた特異者たちがいた。彼らに賛同した彼は、この調査の間にいくつかの候補をピックアップするつもりであった。

「そうですね。あとはこの情報を第二調査隊の方へ回して拠点を確保してもらう形で――」

 そのまま連絡を取るためするりと指を走らせた智也は息を呑んだ。気づけば、岩陰から“ぬるり”と怪物、すなわち深界霊がこちらを覗き込んでいたからである。

「――――!」

 エレナがそのまま駆け出して弓を放つ。その音に惹きつけられたのか、深界霊は意識をそらしてそのまま谷の向こうへと去っていく。別れ際、互いにサインを出し合い合流場所を決めると、エレナは怪物の気を惹くことに専念し、智也はそのまま撤退の動きを取るのであった。

「……偉能力を感知するような能力じゃ深界霊を捉えるのは難しいな。“彼ら”の報告を体現できれば楽なんでしょうが……頭で分かっていても、完璧な実行はできそうにないですね」

 別行動を取る“彼ら”――紫月 幸人有間 時雨の二人の言葉を思い出し苦笑しつつ、後に続く人々のための報告を頭の中で纏め直すのだった。

◇◆◇


「あっはっは! いやあ、これはけっこう楽しいなぁ!」

 一方で――正気を疑うかのような光景が繰り広げられていた。深界霊の群れの中を呑気にホバーボードで駆け抜ける幸人の姿である。

 その姿をロングビジョンによって観測・記録を続ける時雨は、なんとも頭痛に見舞われるような感覚に襲われこめかみを抑えた。

 深界霊との直接的な接触そのものを避けているとはいえ、頭上を駆ける幸人を攻撃しようという深界霊は存在しない。智也たちの報告、そして目の前で繰り広げられる馬鹿げた光景。そこから導き出されるのは、

「そう。深界霊は純粋な“負の感情”を感知して襲いかかってくる、ということだ。そして幸人さんには緊張も不安も、ましてや敵意もなかった」

 ということである。探索への好奇心が何よりも勝っていた幸人は深界霊に怯えることもなく、かといって敵意を向けることもなく、純粋な好奇の念で向かっていた。これが恐ろしいことに、深界霊にはどこまでも有効だったのである。

「一方で、自分の透明化の能力は完璧じゃなかった。こちらの緊張や不安から“存在”は察知してくるようだ」

 幸人と時雨はそれぞれの行動を対比させることで怪物の特徴に対して真に迫っていた。姿を消す能力、認識を阻害する能力、それらは深界霊にも通用する。しかし、敵意を向けた段階で存在そのものは察知される。のみならず、距離が近くなればなるほどその感覚は鋭敏になり、こちらの緊張や不安といった要素すら読み取ってくる。

「シグやんも気楽に遊ぶ感覚で歩けばおそわれないよ? ほら、まじまじ見てみると案外ラブリーじゃない? こいつら」

「幸人さんほど気楽には無理だな……」

 そう。逆に言えば無防備な姿を晒せば晒すほど深界霊の警戒は緩くなる。しかし幸人ほど振り切れた人間は少なくともこの調査隊には居なかったのであった。

 とはいえ彼の行動が無意味であったかといったらそうではない。怪物の警戒網、そのボーダーラインのようなものは測れるようになってきたからだ。

「まあこの距離からの観測だったら問題はない。遭遇戦ならともかく、相手の場所さえ分かってれば先制攻撃も取れるな」

 その声には安堵の色も混じっていた。外界調査、大きな波乱の予感があったが、周辺の外敵の掃討であれば、現有戦力で十分対応可能だと感じたのである。

 ……しかし。こういった悪い予感とは大抵当たるものだ。

「山が……動いている……?」

 彼らの視線の向こう。薄暗がりの空の下でうごめく“なにか”があった。

「おいおいおい、さすがにやばそーだな、あれは……」

 幸人の不安げな呟きに反応してか、それとも“なにか”の到来に呼応してか。眼下に散らばる怪物たちもまた、風の如き唸り声を上げるのであった。

◇◆◇


「……なんだ……いったいどういうことだ……!?」

 その一方。件の“山”方面の調査を担当していたルキナ・クレマティスは動揺の声を上げていた。情報を共有しあい、敵意さえ見せなければすぐに襲いかかってくることがなかった怪物たちが、突如唸り声を上げながらこちらへと攻撃を加えるべく迫ってきたのである。

 怪物たちや周囲を観測する過程で何度か戦闘をこなしてきたルキナであったが、明らかに、確認した数以上の怪物たちがこの場所に集まりつつあった。

「少々まずい事態になってきたな。奴ばらめ、急に盛りおって……これでまだ戦えるか?」

 共に連れ添うオリヴィア・アルベルトがルキナの手を握り、彼女の力を高めていく。雲隠れのマントの力で、少しは力が外に漏れにくくなっているはず。にも関わらずこうして包囲されつつあるのは非常にまずいことだ。

「偵察……って言ってる場合ではないわね。それでいいわね? ルキナさん」

「ええ。退路を作り、そこから脱出しましょう。私たちの目的はあくまでも情報を持ち帰ることですから」

「なに。そなたらの身体は、我が身命にかけても守り抜くとも!」

 彼女に同行していたヒルデガルド・ガードナーと、そのパートナーである騎 紅月の二人は、こういった事態についても予測していたようだ。むしろ戦意を高め、迎撃していかに逃げるか、と積極的に思考を巡らせていた。

 意気軒昂といった様子の二人に対してどこかほっとしたオリヴィアは、改めて状況を確認しつつあたりを見回し、

「業腹だがその手しかあるまいな。一体何が……? 待て、あれは……!」

 その時、山が動いた。規則的な地響きが足を通してつよく感じられる。――そう、それは決して山などではない。

「……巨人……巨人だ!」

 黒く塗りつぶされたかのような異形の巨人。山を思わせるほどの威容を誇るそれが、奈落を思わせる谷底から這い上がり、そして谷を踏み潰すようにして現れたのだ。

 それは不気味な風の律動を響かせながら彼女たちへ向かって腕を伸ばした。同時、怪物たちもその律動に呼応するかのようにその身をくねらせ、二人へと殺到するのであった。

「“指揮個体”!」

 そう。その巨人は明らかに怪物たちを従えていた。わらわらと巨人の身体を駆け下りた怪物たちが、そしてそれ以外の怪物たちも、彼女たちを目指して殺到する。

 この情報は必ず持ち帰らなければならない。自分たちが生きて帰る理由に、重要な項目が一つ加わった。

「万事休す、といったところかしら。ルキナさん、なにか奥の手はあるのかしら」

「あるといえば、あります。一度だけの大技になりますが……」

 その言葉を聞いてヒルデガルドは笑みを浮かべる。自身がこの状況をひっくり返すこと難しいが、仲間に賭ける分には目のある賭けだ。

「決まりね。やるわよ、紅月! 時間を稼ぐわ!」

「おう、我が主君。騎・紅月いざ参る! 我が槍の冴え、とくとごらんあれ!」

 二人はあえて前に出てルキナたちをカバーする。高らかに名乗りを上げる紅月の声だけで、一同からは怯えが消え、目の前の状況に対処できるだけの心の余裕が強くなる。実際的にも紅月は率先して怪物たちとぶつかりあい、その巧みな槍捌きで対処しはじめるのだった。

 ――しかし内心での焦りは強い。恐らく、怪物たちは紅月の力を大きく上回っている。長い間は保つまいと予感しつつも、彼はあくまで平静に努めていた。

 当然、主であるヒルデガルドもそれを理解していた。度重なる射撃を怪物に与え、時に一気に踏み込み剣による突きを叩き込むことで紅月のフォローに徹している。

 紅月はフォローする側の感覚を更に得ることで、綱渡りのように怪物に対処しているようだった。

「オリヴィア。……魔力を回せ、全力で薙ぎ払った後に後退するぞ」

「おうさ。では、一気に決めるとしようぞ!」

 二人の力が高まり合い、広範囲を薙ぎ払うための力が発動する。偉能力によって象られた力の波が荒れ狂い、解き放たれれば波濤のごとく怪物たちを飲み込んでいく。

「ダメ押し……喰らいなさい!」

「おおおおッ!」

 ヒルデガルドと紅月で同時に攻撃を放ち、岩にしがみつくようにした怪物たちを強引に切りつける。

「ぐっ……これで……!」

 最後の抵抗とばかりに切りつけられた一撃に紅月は大きく血を流すことになり、ヒルデガルドは彼女の肩を担ぐ。銃弾を放ちながら後退し、ルキナたちへと合流した。

 即座に追っ手となる怪物が視界に入ってこないところから、巨人から降り立った怪物たちすらその波濤に呑まれていた事が分かるだろう。いずれにせよこのチャンスを逃さぬようにと全力でこの戦場を離れようとしていた。

 逃げ切れるか。彼女たちが逡巡しながらも全力で逃げ続ける中、再び怪物たちの密度が増したその瞬間、光を伴った爆発が一帯に炸裂した。

「プロミネンスフレアの威力減衰無し! 黒い影のような姿だからといって光が弱点……ってわけじゃなさそうですね!」

 爆発によって怪物たちを再び押し留めたのは後詰として第一調査隊の退路を確保していたノナメ・ノバデたちだった。

「貴殿らは情報を仮設本部へ持ち帰られよ。ここの足止め、我らが引き受けよう」

 スキルトレースによってノナメと同時にプロミネンスフレアを放った大祝 鶴姫は、光の刃によってルキナたちに群がる怪物たちを再び吹き飛ばす。二度、視線が交錯するが、その後ルキナたちは迷いなく撤退を選択していた。

「よーっし! それじゃあおねーさんもがんばっちゃおうかなあ……!」

「やぁやぁ、相手も強けりゃ私らも大ピンチ。しかしここで引いちゃーいらんないねえ」

 未だ粉塵消え去らぬ中、駆け抜けるようにしてライビー・ティビランシ狐目 月明の二人が敵の只中へと突っ込んでいった。

 彼女たち四人は、他の調査隊に比べると実力としては非常に厳しいところのあるメンバーだ。しかし、それぞれが欠点を補い合うように立ち回るそれは、この局面においてギリギリまで彼女たちの力を引き出していた。

「月明ちゃん、気をつけてください! 相手はどうやら、敗者の力のほうが好みのようです!」

「はいよー。お帰りはあちらですってな」

 徐々に狭まる包囲網を無理やり重力の力でこじあけながら、月明はむりやり笑みを浮かべる。敵が吹き飛ばされたその先に居たのはライビーだ。彼女はまるでお互いの思考を理解しているかのように、上空で無防備な姿を晒した怪物一匹を叩き伏せてみせた。

 そう。彼らは負の感情に強く惹きつけられる。そのために敗者の力をより強く察知するのであろう。指揮個体の登場からどのセオリーを外し続けてはいるが、しかし、あの巨人もまた怪物すべてを完全に支配しきっているというわけではなさそうだった。

「偉人による攻撃も、偉能力による武器も、どっちも効きはよさそうねっ! ならこれで!」

 偉能力によって分身し展開したヴェリサティスを振り回し、群がる怪物たちに向けてひたすらに攻撃を加え続ける。――彼女は汗を額ににじませながらがむしゃらに戦うものの、致命打をうまく与えられずにいた。

 本来、実力が足りていない彼女たちが戦えているのは、偉能力のみではない感知力を持ち、またそれぞれの意志を汲んだ連携を行えるからにほかならない。

 だが、

「……巨人がもう近くまで……!」

「流石に我らでは奴の相手は荷が勝つだろう。如何する?」

 山の如き威容を誇る巨人。それが彼女たち四人でどうこう出来る存在だとは到底思えなかった。風のような律動を奏でる以外、不思議と戦闘行動に移るわけでもなかった巨人であるが……これ以上接近すれば、その巨人の物理的な間合いに入りかねない。

 どうすれば最善か。ノナメは一瞬だけまぶたを閉じて考えを巡らせる。これまで観察してきた情報、前衛二人の消耗度。それらを踏まえた上で、彼女は判断を下す。

「二人を回復させて余力を作った後に撤退しましょう。鶴姫ちゃん、護衛の方お願いします」

「よし、任された。全力を尽くそう」

 光の刃を振るいながら鶴姫が前へスイッチする。刃のリーチを殊更に伸ばしながら再び迫りくる怪物たちを追い払うが、なんとかなっているのはこれまでなぎ払い吹き飛ばすことを重点に置いてきた戦術からか。

 散発的な殺到であるからこそ、前衛が一人であってもかろうじて捌ける状態であった。

 後方では、ノナメの作り出した光の領域が二人を癒やしていた。遠距離に対する攻撃手段もある彼女たちならば鶴姫をこの位置からでも援護することは可能であったが、万全な支援だとも言い難い。三人は歯がゆさの中できることをする他になかった。

『オォォォ……』

 風が鳴動する。気づけば巨人はゆっくりと拳を振り上げて、こちらの大地を打撃せんと構えていた。

「よし、私はひとまず大丈夫……!」

「わかりました! 鶴姫ちゃん、戻ってください!」

「ああ! ……全員、生きて帰らなければな!」

 最後になんとか一体の怪物を押しのけて、三人の元へと走り出す。振り上げた拳が音を立てて空気を押しのけ彼女たちの元へ迫る。

「みんなつかまりなぁ。一気に“跳ぶ”よぉ!」

 三人がしがみついたところで、月明は再び重力の力を解放した。巨人の拳の圧力はあまりにも大きく吹き飛ばすことさえできなかったが、しかし直撃だけは避けることができた。そして、自分自身の身体をわずかに大地から離すことによって、自分たちの身体を大きく吹き飛ばすことに成功していた。

 ひときわ大きな地鳴りが響き渡る中、彼女たちはこの場所を後にするのであった。

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