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終極のエデン アフター

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終極のエデン アフター
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■3-4.礎の巨人

 統率個体――ユニスらによって“ティアマト”と名付けられた深界霊は、セナリアの手によって徐々に誘導されていた。周囲を監視できるよう小高い丘に敷設された暫定前線基地からならば、その姿を視認することができるだろう。

 それは、まさに山の如き巨人だ。それは大きさの話だけではない。一見影に塗りつぶされたような姿をしているが、暗く渦巻くエネルギーの中核となっているのは苔むした土塊のゴーレムではないか、という観測データも出ている。

「出てる、だけってわけよね」

「うん。でも、空を飛んだりするわけじゃない、攻撃だってシンプルな感じみたい。だから多分手足さえ潰せれば……」

 そんな中、先陣を切ることを買って出たのは司聖 まりあ白雪 姫香のコンビと、

「完全同調するには、妾がまだ修行が足りぬ……。
 じゃが……キョウ、妾達で出来る事はやるぞぃ……」

「ああ。我が身にかけて、道を切り拓いてみせよう」

 六道 凛音とそのパートナーである御陵 長恭のコンビであった。

 ティアマトはあまりに巨大で、どこを潰せば倒すことができるのかおおよそ見当もついていない状態だ。故にまずその弱点を見つけ出さなければ話にならない。つまりはそういうことである。

 基地からの援護はあるものの、先陣を切るというのは非常に過酷な状態にさらされることは間違いない。せめて力になれればと木戸 浩之と宇野 讃良の両名も合わせ六名が、開けた平野へと先行していた。

 まるで音楽を奏でるような風の律動が響き渡る。これによって他の深界霊たちを従えているのだろうというのが現状での推測であった。その証拠に、おびただしい数の深界霊たちが戦列を成し、一糸乱れぬ歩調でティアマトに付き従っていた。

 そんな光景を目にしても、彼らは怯えることなく立ち向かう。

「巨人討伐。“いかにも”って感じだけど……やるしかないわね!」

 まりあのその言葉と同時、戦いの火蓋は切って落とされた。

 開幕で放たれたのは炎の雨。岩をも融かす威力を持ったものではあるが、一度見たものなら対策はできる。

 空が闇に染まるかのように、影の壁が特異者たちを護る。恐らくは基地に身を置くユニスのものだろうか。無論完全に防ぎきれるわけではないが、その一瞬の隙間を縫うようにして彼らは炎の雨をかいくぐる。

 その先に待ち受けているのは当然、深界霊の軍勢である。巨人に近づけまいとひしめき合うその姿は見るだけで気圧されてしまいそうにもなるが、彼らの進路を妨害しようとする怪物たちが、次々に爆発によって吹き飛ばされていく。

 後方から随伴していたウリエッタ・オルトワートが、小高い岩の上に陣取りこちらへ火砲支援を敢行していた。

 先陣を切る特異者たちに向かって手を振り見送り、そのまま岩から飛び降りると、険しい山崖を登りながら小器用に眼下へ攻撃を加えていく。

「ごきげんですね、ウリエッタ」

 他人事のように、彼女のパートナーであるクート・グリーンが漏らすと、いかにもにこやかに、

「はい。私専用のライフルを作ってもらえるはずなので」

「え? ウリエッタだけ? ……奪い取っていいですか……ソレ」

「いいですよ。私よりキルマークを取れれば、ですが」

 軽口を叩き合いながらもクートも戦闘行動を取り始める。精神を研ぎ澄まし、自身がかつて身をおいていた戦場の香りを思い出す。硝煙と、土と、血の香り。ただそれだけで彼女の中のスイッチが切り替わる感覚があった。

「言いましたね? ……我がライフル小隊を召喚する!」

 かつて彼女が指揮していた兵士たち。それに見立てた人形たちが三人、ずらりと並び、

「目標、空中戦力……構え、撃ェッ!」

 その言葉と同時、クートと共に空へと銃弾を放つ。ウリエッタが地上の敵を薙ぎ払うというのなら、彼女は空から特異者たちを狙おうとする怪物の排除に専念した。近接戦闘を得意とするものが多いまりあ達にとって、航空戦力とは厄介なものだ。

 地上と空中。二面の制圧を同時に行なう彼女たちの支援によって、まりあたちは深く敵陣へと切り込んでいく。

「これは私がもらいましたかね」

 クートの得意げな表情を見て、崖を駆け上がり終えたウリエッタはひとつ思案する。ここは少し派手なこともやったほうがいいだろう、と。

「おや。それなら少し攻め方を変えましょうか」

 そうしてウリエッタは躊躇なく、敵の只中に“ダイブ”した。とはいえ、もともと予定していたイレース・ザ・ヴァンパイアはここでは活用しようがない。彼女は敵の注意を惹きつけるため、自分自身の守りに任せて乱戦を始めたのだった。

 特異者たちが敵陣を切り抜けたのを確認した二人の戦いは、より自由かつより過激になっていく。ウリエッタの用意したサテロイドにはいかにもいいデータが記録できたように思えた。

 さて、一方でティアマトの足元まで無事切り抜けることができたまりあたちは、まず下肢から攻撃を開始していた。しかし、刃は身体の表面のみを切り裂くだけに留まり、芯まで断つことはできなかった。

「……? この感覚……」

 その切り口は、まりあにとってどこか覚えのある感覚があった。記憶を辿ろうとしても思い出す事は叶わなかったが、しかし、直感的に“ここではダメだ”ということが彼女には分かった。

「姫香! 上に登るわ!」

「まりあ!?」

 まりあは刃をティアマトの身体に突き立てるようにして上へ上へと登っていく。恐らく彼女にとって何か思う所があったのだろうが、予想だにしていなかった姫香は慌てて彼女を追いかけた。

 しかし、まりあの判断そのものは正しかった。二刀流を生かし、器用に身体を駆け上がりつつも弱点を調べるために残った刃を使うスタイルは、ティアマトの“弱点”がどこなのか、存分にその情報を蓄積することができたのであった。

 また、情報を集めているのは彼女たちだけではない。

「ぐっ……まだまだ……!」

 長恭は相手の特性を見極めるためにむちゃを敢行していた。それは、凛音が分析するまでの間彼女を守り、挙げ句攻撃の回避ではなく防御に専念するというものだ。その間、長恭はしっかとティアマトの身体を見据え、切りつけ、受け止める。そうして感覚共有した凛音に更なる情報を提供していた。

「これは……」

 そして、その成果は間違いなく出ていた。まりあ達が切り裂き、そして長恭が攻撃を受け止めたために生まれたそのひびの奥。土の如き外装に覆われた中身は、

「キョウ! ティアマトという名は言い得て妙……ヤツは巨人ではない。“巨竜”じゃ!」

 びっしりと竜鱗によって覆われていた。土の鎧に竜の身体。それがこの巨大な深界霊の実態である。

 長恭が凛音の言葉を受けて天を仰ぐと、ちょうど姫香が胸から首にかけてに打撃を加えているところであり、

「お二人とも。……恐らく、弱点は首元! 竜というなら、恐らく逆鱗が……っくう!」

「姫香!」

 尾の如く生やした大刀によって姫香は巧みに攻撃を加え続けてきたが、裏を返せばもっとも警戒の強い場所であるということ。ティアマトの手のひらにはたき落とされるようにして邪魔をされる。まりあは姫香を受け止め、入れ替わるようにして駆け出し、

「……待たせたのぅ、反撃といこうか……! 奴らにお主に名、魅せつけてやれ!」

「ああ! ……我が真名は“蘭陵王”高長恭! だが……今の名は御陵 長恭としていざ界霊相手の戦へ参らん………!」

 凛音の力を受け取った長恭がティアマトの身体を駆け上がるのに並走する。耐え忍び、戦場を駆け、そして多くの仲間の力を借りてきた。だからこそ、今この全力をぶつけるに値する。

「喰らえ……クロスレイドォッ!」

「爆発しろぉーッ!」

 両者の刃がティアマトの首元へ食い込み、爆発する。巨人はのけぞるようにして絶叫し、二人は大地へと舞い戻った。

「やったか!」

 木戸の月次な言葉が響く。爆煙の中倒れゆくティアマトの身体、それは確かにかの巨人を討伐したように見えたが、

「だめみたい、ですね……!」

 ティアマトは踏みとどまっていた。首元、土の鎧がすべて弾き飛び、爛々と赤熱する逆鱗が見える。昏い闇を越えてなお輝いて見えるそれは、誰がどう見ても無防備な場所を晒しているように感じられた。

 ティアマトの紡ぐ音の響きが変わる。すると今度は、引き連れていた深界霊たちは一心にティアマトへ向かい始める。

「いけない。ヤツは深界霊を取り込み、鎧を復活させる気です……! 燈音さん、西村さん。お願いします!」

「ああ。“俺”たちがヤツの喉元にたどり着いて、一撃かましてやるよ」

 この状況に、後から追いついてきた燈音 了シンシャ・ウェントゥスの二人が対応した。怪物たちを一刀で切り捨てた彼らは、一にも二にもなく逆鱗へと駆け出した。体勢を崩している今ならば、ティアマトの直接的な邪魔もない。

 了が段階的に加速していく中で、それに付き従うシンシャは彼の影の中に溶けていく。ただただまっすぐに、敵の喉元へと矢の如く奔るのみである。

「分かったわ。それなら燈音さんたちは弱点を目指して! 私達は残った深界霊たちを相手するわ」

 その背を押すようにして、西村 由梨ら五人が背後につく。怪物たちの群れたちは最後の力を振り絞り迫りくるが、もはや恐れるものではないだろう。

「謎は秘められている間が恐ろしイ。だが暴かれてしまった謎は哀れなものだヨ」

 リルカ・ハートカラーズは不気味に笑みを浮かべて嘯いた。だが、事実としてこれまでの戦いで多くの人々が深界霊に対して検証を繰り返してきた。ティアマトからも焦りのようなものが感じられ、底が見えたといっていい。

「とはいえ油断は禁物ですよ。戦場はいつ何がおきてもおかしくないものですから」

 西村 瑠莉の冷静な言葉。誰しも表面上では理解しているものの、いざというときは油断してしまうものだ。取らぬ狸のなんとやら、とならぬようエミリー・ブロンテは一同に守りの加護を与えてみせる。

「来るわよ、気をつけて!」

 同時、やはり――というべきか。空から炎が再び降り注ぐ。今は一刻を争う瞬間であり、エミリーの防護に多くを委ねて真っ直ぐに突っ切っていく。

 あるものは炎を切り払うことで対処しようとし、あるものは反射によってこれらをかいくぐろうとし、あるものはより防御を厚くした。それだけの力があればひとまずは問題ないと、彼女たちは結論づけていた。

 了たちに対して降り注ぐ火炎に対しても、むしろエミリーや由梨たちは率先して攻撃を引き受け、すり抜けた火炎も問題なく彼が展開したエネルギーシールドによって防がれた。

 これらの対処は情報があったからこそできたものだ。未知を既知へと変え、それを共有しあうことこそ彼ら人間の強みといっていいかもしれない。

「このあたりね。……よし、私も始めるわ」

 盾によって炎を切り抜けたジェーン・エアはこの間隙に言葉を紡ぐ。

「此処に来たれ、其れは王、孤高の王
 誰に認められずとも自己を貫きし、孤独な王の物語よ」

 言葉とは、物語とは、力そのものだ。少なくとも偉人であるジェーンはそう考えているし、彼女のの持つ偉能力はそれを裏付けるようなものだ。

 彼女の口から語られるその物語から、兵士や、困難を打ち払う力が生まれてくる。戦うための物語だと、彼女は言った。彼女の言葉によって新たな力が生まれてくるというのならば、きっと、この戦いとていつか誰かの力になるときがくるのだろうか。

 いずれにせよ、

「真実の欠片を集めれば、それは力になります。次に繋げるためにもここは勝たなくてはなりません」

 瑠莉はそう呟いた。雷の力で作り出した弓に、闇の槍を番えて引き絞る。彼女たちを引き離し小さくなっていく了たちの背、それを護るようにして偉能力による弓矢を放った。

 彼らに襲いかかろうとした怪物が倒れ伏し、彼らは背を向けたまま手を振って感謝の意を示す。一層加速したのかあっという間にティアマトへ飛びつけば、最後の抵抗とばかりにティアマトが身体をよじり振り落とそうとする姿が見えるだろう。

「じゃあ、油断せずにいきたいところね。それに報告にあったようなことだって、自分の目で確かめて検証しておきたいところだし」

 そういってその矢に続いた由梨は、光の力を収束させた。昏い色を伴った深界霊たちを切り裂くのに、光の力が有効であるかをこの目で確かめたかったからだ。百聞は一見に如かずという言葉があるわけだが、やはり、人から伝え聞くよりも自分で実行したほうが説得力も増す。

 調査とはそういうものだ。情報の厚みこそ信憑性に繋がり、その信憑性が次の人を助けるのだ。

 四つに分かたれた相州伝政宗・紅鳳凰、それらによる踊りのような鮮やかな連撃によって怪物たちは二つに両断されることとなる。光が格別効果をもたらしているような実感はない、が、逆説的に、光に耐性のあるものは居ないとも言える。

 属性に依存する強化手段を持つ特異者も、強気に能力を使っていけるということだ。

「判明している限り現状ヤツの切れるカードはもう無いと思っていいだろウ。なら、あとはおしまいだナ」

 リルカの言葉に彼女たちは顔を見合わせ、最後のもうひと頑張りと走る速度を早めた。怪物たちは未だに数を残し、もしかしたら了たちに追いつくものもいるかもしれない。

「ならまずは足を止めるわ!」

 そんなことはさせまいと、エミリーの放つ音が衝撃波となり了を追う怪物たちを襲う。放たれた衝撃波は当たろうと当たるまいと、怪物たちの障害となる。

「ならば征け、王に従う寡黙なりし兵士たちよ。王の前に立ち塞がるものを捕縛せよ」

 少しでも足が遅くなれば、今度はジェーン・エアによって生み出された兵士たちがこれを捕縛していく。捕縛できずとも、やはり足を引くことさえできればそれでいい。

 積み重なる遅延に足を取られた怪物たちは、いずれ、己の足が凍えていることに気づくだろう。冷気の力がこれまでの戦いで有効であったことは疑いようもなく、リルカはその力を最大限に引き上げた。

 結果としてこれである。足を取られたものから凍りつき足が止まる。二つの栄具によって増幅された凍結の力が敵を絡め取り、そのまま、ジェーンや由梨、瑠莉の手によって砕かれていくのであった。

 砕かれた残骸はまるで溶けるように大地へ吸い込まれて消えていく。これほど跡形もないように消えてしまっては、検分することは難しい。死体すら残らない事実に由梨たちは肩を落とした。

「けれど、何も残らないだなんて不気味ね。……これじゃ、本当に倒したのか分からないのではないの?」

 呟きながら彼女たちは頭上を見上げる。守りのほとんどを失ったティアマトの身体を駆け上っていく了の姿がはっきりと見て取れた。

 ティアマトの逆鱗を塞げるほどの怪物はもう居ない。最後に結集した怪物たちは身体を寄せ集めるようにして組み合わさり、了たち――否、了と対峙した。

「確実を期す。目の前のヤツから片付けるぞ」

 そう呟いた了が踏み込み怪物の複合体に向かって斬りかかると、当然、その影は怪物たちに重なることになる。了の影に潜んでいたシンシャは複合体の裏に現出し、挟み込むような形を取った。

 殺意、敵意に鋭敏に反応する複合体は当然シンシャの存在には気づいている。しかしどこにいるのかを認識できない以上、どうしても反応は遅れてしまう。

 その一方でシンシャは主と感覚を共有することで常に支障なく状況を把握できる。つまり、

「悪いけど、主の命だ」

 了が攻撃を放つと同時にシンシャもまたそれをトレースするように背後から斬りつける。相手の対応を鈍らせる連続攻撃、それが前後で挟み込むように繰り出されれば、それに抵抗できるものなどそうは居まい。

 最後の抵抗も容易く切り裂かれたティアマトは“観念”したのか、とうとうその動きを止めた。

「……お前は確かに強かったのかもしれないが、俺たちはお前たちの弱点を調べ、仲間で共有しあった。お前が負けたのはきっと、背中を預ける仲間が居なかったからだろうな」

 了の言葉に応えるように風が鳴動した。言葉のやりとりをすることすら出来ないが、目の前の巨人が明確な意志を持つことだけは二人にも理解ができた。

 二人の身につけたリングが力を帯び、彼らの身体に一層の力が満ちる。

「クロスレイド」

 シンシャと共に放たれたその最大の連携攻撃によって逆鱗の奥までその刃は貫き通された。同時にティアマトの身体は崩壊を始める。山ほどもあった質量が嘘のように消え果て、外装として覆われていた土の残骸だけが丘のように積み重なった。

 こうして見ると、周囲が荒野であるにも関わらずティアマトの身体には自然が残されていた。意志を持つ統率個体、巨人ティアマト。それが一体どういう存在なのか、特異者たちはまだ知るよしもないことであった――。

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