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終極のエデン アフター

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終極のエデン アフター
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■3-3.生と死の先を目指して

 前線基地の確保成功の報せを受けたとき、都市部外壁沿いに打ち立てられた臨時指揮所はにわかに喜びの声が上がった。ささやかなものといっても、物資を集積し休息の取れる、ある程度警戒行動が行える陣地というのは貴重なものだ。

 あとは、報告にあった統率個体との戦闘に備え後顧の憂い――すなわち外壁沿いの怪物たちを排除し、後背を突かれぬようにするだけだ。

 都市と外界をつなぐゲート周辺も慌ただしさに包まれ、僅かばかりの隙……すなわち警戒の緩みが生まれていた。

「待って! 待ってください、何をしようとしているんですか!?」

 切羽詰まったような古井戸 綱七の声が荒野に響き渡る。彼は闇野 名無しの腕を掴み、押さえつけていた。名無しの手には護身用の小口径拳銃が握られ、己が頭に突きつけようとあらんばかりの力がこめられていた。

「離して……わたしの邪魔をしないで。わたしは……この世界から消えたいの……」

「それは聞きました! でも、あなたがどういう人であれ、目の前で死のうとして止めないわけにはいきません……!」

「復讐の対象であるあなた達、特異者が全員死なない限り生きる意味がない」

「だからといって、死ぬ意味もないでしょう……!」

 綱七は彼女の言葉に応えるように何度も呼びかける。しかしそれらもすべて堂々巡りの結果で、決して彼女は納得しようとしない。幸い彼の力は名無しのそれを上回っている。アバターとしての力も、単純な腕力という意味でも。

 彼が名無しに対して害意を持っていないのも大きかった。彼女を傷つけようという意志がなかったからこそ、名無しも彼に反応しきれなかった。

 だが、それも時間の問題であるかもしれない。名無しの持つ負の想念は非常に強いものだ。それが直接的に怪物たちへ向けられたものではないといえ、それでもなお惹きつけるだけの闇が感じられた。

「……深界霊!? くっ、このままじゃ……!」

 持てるだけの力を放出し、名無しの身体を押さえつけながらなんとか足止めを試みる。しかし、確かに歩みこそ遅くなったが止まることはない。このままでは二人して怪物に食い殺されることになるだろう。

「このままでは二人で死ぬことになる。あなたは死にたくないんでしょう……? 離してちょうだい」

「できないって言ってるじゃないですか!」

 綱七は強く、名無しの言葉を否定する。

「生きる意味だとか死ぬ意味だとかそんなものは誰も持ってないんです。生きていれば理由なんて後からついてくる、だからぼくは今あなたを生かしたい!」

 勝手な理屈ではあるが、しかしそれはお互い様だ。意地の張り合いといってもいい。どちらが折れるか、或いは怪物が彼らのもとへたどり着くのか。既に状況はギリギリにも思えたが、

「そう、そうだ。ぐだぐだ言っても始まらねえ。まずは、前に進むことが大事だからな!」

 そんな声が響くと同時、けたたましくも力強い音が轟いた。先行調査に赴いていた葵 司が、エアビークルを駆りながら乱入してきたのである。司の狙い澄ました霧の鳥が、先頭の怪物に衝突し爆発する。

「瑛心、頼む!」

「…………」

 司はそのままマニュアルモードへと切り替えると勢いよくハンドルを切る。するとエアビークルが滑るようにして綱七と怪物たちの間に割り込んだ。すると、助手席に同乗していた風間 瑛心が怪物に向けて矢の如く飛び出した。

 瑛心の表情からは殺意も敵意も読み取ることはできない。だが怪物たちは表情ではなく意志そのものを感じ取る。即ち、彼が大槍を振りかぶる瞬間には、怪物たちは攻撃を開始していた。

 それでも、彼は表情一つ崩すことはない。勢いを殺すことなくあえて地を蹴り、かわしきれない攻撃を避けようともせずに群れの中へと突っ込んでいく。

 鋭く息を吐き痛みを殺すと、そのまま腕を触手へと変化させて怪物を絡め取り、引き寄せた端から槍によって貫いていく。

 先行調査の帰り――瑛心は既にほとんどの役目を終えている。故に彼はここで倒れても問題ないとすら思っていた。

 彼の捨て身の覚悟は、手に持つ身切りの大槍の力を大いに引き出し、また、その忌まわしき特性を抑え込んでいる。

「……行け」

 それは、背後に控える綱七にかけた言葉だ。この場において綱七は足手まといでしかなく、名無しを抑えている今は尚更だ。彼は歯噛みしつつも頭を下げ、なんとか名無しを引っ張り都市の中へと戻っていく。

「よし。あのまま死に急がれたんじゃ、また怪物どもが集まっちまうしな」

 司も当然逃げる気はさらさら無い。笑いながら彼も、自身の持つ原典の力を解き放っていく。

「まだやれるよな?」

「……ああ」

 瑛心の表情は相変わらず読むことはできない。だが、ここまで身を削る彼に頼もしさを感じた司は、拳を振り上げるようにして戦いに臨む。

「それなら、また生き残るとするか。……ああ、そうだ。俺は今、ここに……いるぜ!」

 彼は圧倒的に増幅された魅了の力を解放した。怪物たちを引きつけ、すべて二人で平らげるとでもいいたげに。必殺の一撃を持つ瑛心に加え、相手を魅了で支配し、罠へと誘い込む司。少なくとも今の彼らにとって、小集団の群れなど障害にもならないのだった。

◇◆◇


 一方で、丘での攻防以上に激戦区になっていたのは臨時指揮所の周辺である。元々外壁の損傷などで薄くなっていた場所を護るように設営されたのだが、そのためここには多くの戦力が投じられていた。

 本来の計画であれば指揮所という名とは裏腹に怪物たちを誘い込み徹底的に殲滅する算段であったが、端的に言ってしまえば“数が多すぎた”のである。

「報告通り……ということかしら。こちらの弱みを理解して攻めてきている、ということね」

「知恵が働くということですわね? ユニス様はどうなさるおつもりでしょう」

 観測されるデータから戦場の様相を整理するユニスの横で、山内 リンドウが尋ねた。同調者として戦い方を学ぶ――そういった名目で、今彼女はここにいる。なにせユニスはこのエデンにおける指折りの実力者、その戦いに触れるのは悪いことではない。

「当初の作戦通りでいいでしょう。想定より数は多いけれど、統率個体が居ない以上は烏合の群れ。負の想念によっておびき出してこれを殲滅するだけよ」

「作戦通り。それはよかったな……自分自身を実験にするような君のことだ。統率個体を見つけたら、何をするか分かったもんじゃないからな」

 リンドウに対する返答に反応し、青井 竜一が冗談めかして笑った。だがユニスは肯定もしなければ否定もしない。深界霊という存在の前に、実際のところ興味が惹かれているのは間違いないからだ。

 そんなユニスの気性を竜一のパートナーである羅那魅 静姫は嫌いにはなれなかった。

「ユニス様は……どこか生き方が不器用なタイプに見えますわね。力があって、頭も切れるのに」

「味方になった途端、ズバズバと言うようになったわね? 構わないけれど……不器用なのはあなた達もではないかしら」

 一度そういうと、この場にいる全員を見渡してから肩をすくめる。特に話を続けるつもりはないらしく、引き起こすようにして影の中から自らの相棒とも言える幻影の黒狼を出現させた。

「まずは私の幻影を先行させます。引きつけた後、竜一を主軸に戦闘の展開を」

「了解だ。この戦いでWHの特異者達と力を合わせて戦う呼吸を掴んでいってくれ」

 言いながら竜一は狼を追うようにして走り出した。彼の戦法は至ってシンプルなもので、敵の攻撃を受け止め、それを利用しながら反撃していくというものだ。己に攻撃した相手に返礼の炎を返し、傷つけば傷つくほどに力を増す槍を振り回す。

 だからといって決して捨て鉢な戦い方ではなく、防御にも意識を払い堅実に、着実にリードを奪っていく戦術。

「お兄様!」

 竜一が攻めあぐねているときには静姫が攻めるために前進し、竜一が攻めている時にカウンターが来るようであれば静姫が防御に回る。

 すなわち彼らは攻防一体、堅実な選択と連携に裏打ちされた戦術である。

 こと、これまでの攻防で学んだことを取り入れていた二人は、例えば怪物たちが“分裂”しようとも、

「それは……知っていましてよ!」

 行動を開始しようとする前に、それに備えていた静姫に叩き伏せられる。攻撃を受けて散り散りになろうとしても、ユニスの操る影の壁が相手の進路を塞ぎ、

「ダック・ハントとでも……言うべきでしょうか?」

 見に徹していたリンドウの素早い射撃が突き刺さり、挙げ句、進路にあらかじめ回り込んでいた彼女は、

「戦い続けると決めておりますので……あなたの力、いただきますわ」

 などといいながら、相手のエネルギーを“喰らい尽くす”。彼女たちの戦いは決して衰えることのない吸収と拡大だ。影の檻に閉じ込められたものたちの端から、彼女たちに食らい付くされていくという塩梅であった。

「先導する幻影に、追い込みのための影。素晴らしい戦いぶりですわね。さ、所定通りユニス様は前へ。ここはわたくしたちにお任せください」

 戦場が少し落ち着いてから、ユニスは悠然と次の戦場へと向かう。リンドウの淑女らしい見送りの一礼を受け、ユニスもまた、彼女たちへ向かって別れの挨拶を送るのであった。

 そして、ユニスの向かった先で戦いを繰り広げていたのはアクエリアスの力を受け継いだ優・コーデュロイらである。

 いや、戦いを繰り広げていたはず。なのだが。何故か優は敵ではなく仲間であるエイミー・シュタイアーマルクを羽交い締めしていた。

「……なにをしているのかしら?」

「いや少し……あはは……お気になさらず」

「なによー。ちょっとした冗談よ、冗談」

「どうだろう。ボクたちを見る目はだいぶ真剣だったような気はするけど」

「あれはむしろ狩人の眼差しであったな」

 そう。端的に言ってしまえば、この戦いにおける協力者、ノア=エアリーズとそのパートナーであるクロに対してセクハラめいた接触を敢行しようとしたのである。ただ声をかけるだけならまだしも、そうとなればこうして羽交い締めにされるのも仕方のないことであった。

「WHの特異者たちと力を合わせて戦う、ねえ」

 こうして交流する中でユニスが感じていたのは、彼ら特異者が一枚岩ではないことと、それ以上にそれぞれが自由に動いているということであった。組織というのは奔放すぎる彼らは、彼女の目からすれば新鮮に映ったのだった。

「そろそろ真面目にやるわ。“来る”んでしょう?」

 優の羽交い締めから脱したエミリーが一度空を見上げてから地平の向こうを見る。地平の彼方から、砂塵を巻き上げてなにかがやってくるのが見えた。

 優・コーディロイはアクエリアスの力によってこれを予測していた。そして、今この場でそれを排除しなければきたる決戦の勝利はないとすら予感していた。だから先んじてこの場の敵を排除し、迎え撃とうという算段であった。

「……“来る”!」

 それは波濤のような怪物たちの群れであった。いや、事実波濤と言ってよい。これまでに確認されてきた中に、怪物同士が融合しあうものがあったが、それがまるで壁のように組み合わさって押し寄せてきたのだ。

「これは思った以上ね……エル、アイリス。お願いね!」

「はぁ~い、任せておいて~」

「はいっ、なんとしてでも成功させましょう!」

 エイミーの号令にエラルウェン・アモンスールアイリス・フェリオの二人が続く。波濤の中央からぶつかるようにするエミリー、彼女とぶつかるであろう波濤に向けて、エラルウェンの生み出した巨大な氷柱が降り注ぐ。

 その攻撃は壁を打ち破るまでには至らなかったが、本来の目的はそこではない。壁の一部が凍りつき一瞬ばかり動きを止め、そして、前にせり出たアイリスの支配領域とぶつかり合う。するとどうしたことか、壁の勢いはみるみるうちに減衰し、凍りついた場所から壁が三つに引き裂かれ分かれていく。

 それでもなお、先触れを押し留め攻撃しようとするエミリーに対する負担は大きい。だからこそ、壁に向けて切り裂かんとする刃に合わせて壁に向けて衝撃が打ち込まれた。

「我とノアの叡智を授けよう。さあ、切り拓け!」

「ずいぶんと心強い……ことねっ!」

 ノアとクロ。二人の偉能力の後押しを受けてエイミーの太刀が輝いた。アクエリアス家のデータを用いて作られた雷の力、それを彼女は元から太刀に載せていたのだが、その力は圧倒的に増幅され、分断された壁を引き裂き、雷が迸った。

「うふふ~。すごーい、一撃だったね~。もう一回、いってみよ~!」」

 そう。それだけでは終わらない。分断された後の残された壁の動きをひっそりと鈍くしていた彼女は、そのままにエイミーに触れ増幅された雷を再び放った。

 大気の焦げる臭いとともに焼き付いた壁はたまらず鳴動する。

「……! させません!」

 アリシアが外套を壁の前に広げ、同時に、己の持つ槍でもって外套ごと壁を突き通す。外套は鳴動する壁の認識を阻害し、槍の一撃によってひときわ大きく鳴動した壁からは炎が撒き散らされた。岩をも融かす高温の炎がノアやエラルウェンの真横に着弾し、どろりと大地が歪む。

「……危ないところだった。助けられたね」

「助け合いです、よ!」

 アイリスが突き通した槍をそのままねじり回して壁を両断すると、そのまま壁は崩れ落ちるようにして沈黙する。これで分かたれた三つのうちの二つを打倒したこととなり、

「絶好調のようね。それじゃあ、後は仲良く決めるとしましょうか」

 そういって、ユニスは優の肩に手を載せた。優は驚いて視線を向けるが、ふざけた様子のないユニスを見て一度だけうなずいた。

 優は殺生鏡の力を全力で解放する。九つの尾を持つ狐の化身としての姿を得た彼女は、巨大な狐火を渦巻かせる。

 壁の怪物はこれを止めるべく魔法を放とうとするが、しかし、暗色の“壁”に阻まれ行動が一手遅れることとなる。

「これは……あなた方が力を見せてくれた、その御礼です」

 優はそう宣言すると、影壁に囲われたその内部を巨大な炎によって焼き尽くしたのだった。

 壁として連なった怪物たちは軒並みに消滅し、ユニスや優たちは安堵のため息をつく。アクエリアスの予知した出来事が果たして何を指し示していたのか一同が疑問を抱いた時、

 ブゥーン、と、重く低い振動音が遠くから響いてくるのが分かった。それは数々のドローン――即ち、これまで姿を見せなかったゾディアック継承者の一人、“スコーピオ”焔生 セナリアの操るドローンの大群であった。

◇◆◇


 エデン都市区画。セナリアは外へ出ずして内部からドローンを操っていた。これこそがスコーピオの持つ強み、その一つであった。

「やっぱり。統率個体……つまり、知性を持った深界霊が居たみたいね」

「ほう。界霊ジストレスのような存在というわけか」

 オペレータールームから、これまでに起きたことを検分するセナリア。彼女はドローンが撃墜される可能性を恐れ、また行動が察知されぬようギリギリまで参戦を控えていた。パートナーであるローレンティア・ベルジュを横に置きながら、セナリアはただドローンの操作に集中している。

 アクエリアスの予知が無ければ、もしかしたらあの波濤の壁が放つ炎によって、今頃これらのドローンはすべて焼き尽くされていたかもしれなかった。

「それでこれからどうするつもりだ?」

「その統率個体を追い込むわ。先行調査隊たちの資料を読む限り周辺に人工物は無し……なら、その統率個体にちょっかいを出して、足止めや誘導をしたほうが有意義だもの」

 言いながらも、セナリアの額からは汗が流れ落ちる。彼女は都合16機用意されたドローンを一斉に動かし、そしてその全てと視界を共有しているのだ。漫然と眺めているだけでもなく、不自然な場所がないか常に神経を張り詰めさせて観察し、並行してドローンを操作しているのだ。その精神的疲労は推し量ることすら難しいだろう。

「集中力を切らさないように気をつけろ。ほら、あーん」

 ローレンティアはセナリアの汗をハンカチで拭うと、そのままスムージーのストローを咥えさせる。スコーピオの能力はあくまでも視界共有。今何をしているのかすらローレンティアには分からないが、だからこそとばかりにセナリアの面倒を見ていた。

「ありがと。……よし、図体が大きいからすぐに見つけられたわ。それじゃあ、はじめましょうか」

 緊張で乾き気味の唇を舐め、ローレンティアとセナリアは手をつなぎ合う。触れ合うことでより密接になった彼女たちは、互いの魔力を掛け合わせることでより大きな力を作り出す。

「デュアルリリース……くらいなさい……ッ!」

 ローレンティアは魔力が吸い上げられるような感覚を懐いた。実際にこれが命中しているかはセナリアにしか分からないが、浮かべた笑みからして恐らく予想はうまく言っているのだろうと思う。

「しかし……びくともしないわね。流石、“ティアマト”と先行調査隊に名付けられただけのことはあるわね」

「ティアマト?」

「そう。……かつて神々に打倒され、“大地となった巨大な神”。たいそうな名前をつけられたものだけど、さて……先行調査隊は、勝てるかしらね?」

 深界霊の巨人、ティアマトが動き出す。特異者たちの築き上げた臨時前線基地へと向けて。大地も空も祝福するかのように風が響き、特異者たちはみな一様に決戦の予感を懐いていた――。

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