Sweet Chocolate
「ちょ、なによこれ~。私は甘くて美味しいチョコが食べたいのよ!!」
遥に口へと流し込まれたチョコをすぐさま吐き出したミリアムがそう叫ぶ。
どうやらお気に召さなかったらしい。
遥の作戦は失敗したがチョコの塊の解体とミリアムへの道筋は出来上がった。
☆☆☆―――――――――――――――――――★★★
「非常に切迫した事態のようです。早急に事態解決に取り組みましょう」
「大変、大変! 早くチョコになったみんなを助けないと」
ジョニーから騒動の連絡を受けた
邑垣 舞花はすぐにパートナーである
ノーン・スカイフラワーへも騒動の話をした。
「マリナちゃん、お願い。もしも手が空いてたら、みんなを助けるの手伝って!」
ノーンはすぐに
マリナ・アクアノートへ助けに来てくれるようにと連絡をした。
同じ頃、
世良 潤也もまたジョニーから騒動の連絡を受け、市庁舎前へと急いでいた。
先程までRWOで共に遊んでいた潤也と舞花たちは潤也が呼んだ
星川 鍔姫とノーンが呼んだマリナの総勢五名からなるシャンバラ遊撃隊としてハート形のチョコレートの塊とミリアムを相手に戦うことにした。
「私は、ノーン様や潤也さんと鍔姫さん、それとマリナさんへのアシストに努めます」
天衣無縫と煽り耐性を発揮した舞花は可能な限り冷静さを維持しようと試みる。
クールアシストで仲間の援護を行う以上、チョコの誘惑に負けては仲間さえも巻き込んでしまう事態になりかねない。
「触手は私が狙い撃つ……」
未だに長くうねりながら近づいてくる触手をマリナの精密な射撃が撃ち抜いていく。
その隙を突くようにノーンは天狗の空走で浮遊し、チョコの頂にいるミリアムと対峙するべく駆け上がっていく。
「ノーンとマリナの連携もさすがだな……。それじゃ、俺たちも負けずに行こうぜ、鍔姫!」
「わかったわ」
マリナとノーンの連携を見て、潤也と鍔姫も援護を開始する。
二人が行うのは炎魔法を放ち、ミリアムの足場を崩し、ノーンが攻撃するチャンスを作り出そうとしていた。
☆☆☆―――――――――――――――――――★★★
騒動を聞いた
天津 恭司は協力したい気持ちはあるものの悩んでいた。
だが、
フィア・ヒーターがミリアムにどうしても一言いいたいことがあるということで、
ルーニャを呼んで協力してもらうことにした。
(本当はルーニャさんをこんなことに巻き込みたくないし、所詮傭兵だから……。
僕がルーニャさんを守りたいのに、いつも助けてもらってばかりいるなぁ……申し訳ないけど、でもフィアを送り届けたいから……)
ルーニャと無事に合流を果たした恭司とフィアが挨拶をする。
「来てくれてありがとうだよーっ♪」
朗らかに挨拶するフィアと違い、恭司はまだどこか申し訳無さそうだ。
「ルーニャさん、いつもありがとう……。ちょっと面倒なことになってしまってどうか助けてください……。
本当は僕がルーニャさんを助けてあげたいんだけど……あ、いえ、なんでもないです。
えっと、と、とりあえず今年のチョコを受け取ってください! 本当は何処か落ち着いた場所で渡したいんですけどね……。
あ……僕が前目に出てできるだけ攻撃を引き受けるのでルーニャさんはその隙を突く感じでお願いします」
来てくれたことへのお礼とバレンタインということで綺麗にラッピングされたファビュラスチョコレートを贈る恭司。
「私でお役に立てるのならば……。素敵なチョコ……ありがとうございます」
ルーニャは恭司から差し出されたチョコレートを受け取り、嬉しそうに微笑んだ。
「ルーニャさん、フィア、このおかしな戦いを終わらせよう……」
恭司のその言葉を合図に三人はフィアをミリアムの元へと辿り着かせるべく、戦いを開始した。
アルベドクロースで光を放ち、自身の存在をアピールすることで恭司は攻撃の的を自分に絞らせようと考えた。
そのまま、トリック&トリートでチョコを切り取っては投げ、チョコの塊の解体を行う。
「ルーニャさん!」
「任せてください」
恭司がカルキノスの鋏を使ったタイミングでルーニャが切り払いを行い、二人に迫っていた触手がばらばらと地面へ落ちた。
☆☆☆―――――――――――――――――――★★★
既にハート形のチョコレートは特異者たちに削られ続け、いびつの風貌を晒している。
だが甘い香りは市庁舎前中に充満し、広がるよりもその濃さを増させていた。
「う……っ……。ちょ、チョコ……」
その影響を受け始めたのはマリナだった。
甘い物好きという一面があるからなのかは知らないが、ふらり、ふらりとチョコへ近づいていく。
「マリナさん、どうか落着いてください」
舞花が羽交い締めにするような形でマリナを止める。
ここでマリナが取り込まれてしまっては意味がないと舞花は懸命に声を掛け続けた。
チョコの頂にいるミリアムの元へと辿り着いたノーンはミリアムに問いかけていた。
「チョコはみんな“を”食べるモノじゃなくて、みんな“で”楽しく食べるモノだよ?
ミリアムちゃん、一体どうしちゃったの?」
そこに同じ様にミリアムの元へと辿り着いたフィアも問う。
「ミリアムさん、どうしてこんなことするのっ? 自分だけでチョコを食べても美味しくないよっ!?
原人さんにやられてる特異者の皆を見て、皆の恐怖とか苦しみから介抱してあげなくちゃって思ったのかなっ?」
以前に原人を怖がってたことがあったためにそう聞いたフィア。
だが、ミリアムから特に返答らしい返答はない。
「特異者はそんな柔じゃないよっ! でも、ありがとうねっ!」
返事がないことを肯定と捉えたのか、フィアはそう笑いかける。
「それとも……もしかして……本当にチョコを食べたいだけ?」
その可能性も否定出来ないとばかりにフィアが首を傾げる。
「…………」
何かを言おうとしたのか、ただの沈黙かはわからない。
ただ、ミリアムは静かに首を振ると二人に攻撃を仕掛けようとした。
☆☆☆―――――――――――――――――――★★★
戦いの終盤を悟り、潤也と鍔姫は二人でバレンタインハーツを放つことにした。
「俺は鍔姫が好きだ。だから……鍔姫が一緒なら、どんな敵にも負けない!」
潤也の熱い想いが言葉とそして強力な熱攻撃となる。それに鍔姫のバレンタインハーツが合わさり、チョコレートの塊にぶつかる。
「流石は、潤也さんと鍔姫さんのコンビ。お見事な連携攻撃です!」
二人のバレンタインハーツでの攻撃を見ていた舞花が称賛の言葉を贈る。
強力な熱攻撃だったこともあり、チョコの塊はその質量を大きく溶かし削られたようだ。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
足場を大きく崩されたことで体勢を崩したミリアム。
「ノーン様、今です!」
舞花がノーンへ好機到来を伝える。
「レディスィーツ! 行くよデスモンブラン!!」
舞花の伝えた好機を活かすべく、ノーンがミリアムの口にデスモンブランを叩き込む。
「それとクッキーの追加だよ!」
追い打ちをかけるように美味しくないと評判のケチャップクッキーもミリアムの口に放り込む。
「美味しくないのは嫌だって……むぐっ」
「はい、私からのプレゼントだよ」
ノーンに続く形でフィアはミリアムの口にファビュラスチョコ2019を放り込んだ。
普通に美味しいチョコであったためにミリアムは反射的に飲み込んでしまったが、それにはメルティ・シュガーがかかっていた。
「バレンタインが終わるまでおやすみなさいっ?」
口の中で甘さの余韻を感じながら、ミリアムの思考は徐々にチョコレート色に染まっていった。
こうして市庁舎前での騒動は終わりを迎えた。
ミリアムを止めたこととハート型のチョコレートの解体も終わり、戦いに参加した特異者も全員無事だった。
騒動での片付けを終えた後、参加者はそれぞれチョコレートを渡し合ったり、ホワイトデーの約束を取り付けたりなど、ひと時の本当のバレンタインを楽しんだのだった。