クリエイティブRPG

ワールドホライゾン

全てがチョコになる日

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 Sweet Incident



 ワールドホライゾンの市庁舎前では今もなお、ハート形のチョコレートの塊が次々と特異者たちを取り込んでいた。

「Hurry!!! とにかく急いで市庁舎前に来てくれ。大変なんだ!!」

 市長代理ジョニー・ハワードからの緊急連絡の声は焦りの色が手に取るように分かるもので、それが聞いた者へ緊急性をありありと伝えていた

 ジョニーからのその連絡はワールドホライゾンでもバレンタインを楽しもうとRWOからログアウトした風間 那岐風間 玲華の元へも届いた。
二人は急いでジョニーからの連絡通り、市庁舎前へと急ぐことにした。

「那岐様、玲華様。お久しぶりでございます」

 市庁舎前へ向かう途中、那岐がジョニーに呼んでほしいと頼んだトワイライトが合流する。

「トワさんお久しぶりです」

 那岐はかけられた声とその姿を確認し、急ぐ歩みは止めずにジョニーから聞いていた情報をトワイライトにも伝える。

 急ぎ着いた市庁舎前は甘い香りと悲鳴に包まれていた。
特異者たちを飲み込んではその大きさを増すハート形のチョコレートの塊はうねうねと轟き、チョコレートの触手を伸ばしてくる。

「この様な騒ぎはとっとと終わらせて普通のバレンタインにしないとですね」

「これでは楽しむどころではありませんし阻止しないと。チョコの塊なら何とかなりますかね」

「では私達は連携してチョコレートの塊の解体してしまいましょう。油断だけはしない様にですね」

 那岐と玲華が目標をチョコレートの塊へと定める。

「積もる話はこの騒動が終わった後にゆっくりとしましょう」

 那岐の言葉にゆっくりと頷くトワイライト。
本来であれば、那岐と玲華、そしてトワイライトはゆっくりとお茶をするという約束が以前にあったのだが、今回は事情が事情故にゆっくりもお茶もしていられそうにない。
まずは目の前で起こっている騒動を片付けてからではないと……。
 その想いは三人共同じだった。

 防御用にと自分と仲間へパリエスの防壁を形成した玲華が触手の攻撃を避けつつ、後方へと下がる。
チョコレートの塊は玲華だけでなく、那岐やトワイライトへも触手を伸ばし、自分と一体化させようとしているようだ。

 その攻撃を那岐は真・重子刀 零式の自動追尾で迎撃しつつ、トワイライトと共にハート形のチョコレートの塊から中距離程度の間を開けた。
生半可な攻撃で時間をかけても逆に取り込まれてしまう可能性が高いと判断した那岐の攻撃は最初から全力そのものだった。
 反撃されたことで明確に那岐たちを敵視したのか、次々と触手が襲いかかってくる。

「ではワタシも……。全力でお相手致しますね」

 那岐の攻撃の合間を縫うようにトワイライトもまたチョコレートの触手や塊へと攻撃を加えていく。
だが相手にするにはどうにも分が悪い。攻撃を続けているとはいえ、ハート形のチョコレートは今もなお、特異者たちを取り込んでいるのだから。

「これでは……」

 後衛から那岐達の攻撃をシューティングスターでサポートしていた玲華も分の悪さを感じ取っていた。
少しでも那岐達の力になるべく玲華は僅かに自分の位置を敵へと近づけた。
そこへ数本の触手が好機とばかりに玲華へと襲いかかる。

「玲華!!」

「玲華様!!」

 那岐とトワイライトの声に玲華が触手を視認するも既に回避は不可能であると悟る。

「まったく……何の騒ぎだと言うのじゃ……」

 反射的に持っていた四葉の鋼杖をぎゅっと握った玲華への攻撃を庇うように弾き返しながら、セイレーンがやれやれと言った様子で現れた。

「セイレーンさん!!」

 玲華の声に那岐とトワイライトもセイレーンの方を向いた。

「あ、ありがとうございます……。島の方は大丈夫なんですか?」

 突然の再会と助けてもらったことで、玲華はお礼と共に来てくれて大丈夫だったのかという不安が同時に口をついて出た。

「……ここにいる、ということはそういうことじゃ。もし来れない状況ならここに来てはおらぬ」

 セイレーンの返答を聞き、一先ず安心した玲華は改めて四葉の鋼杖を持ち直す。
二人が話している間、那岐とトワイライトは防御に専念することで二人への攻撃全てを防いでいた。

「さて……長話は無用じゃ。早々に倒してしまうとするか」

 セイレーンのその言葉に共闘の意思を感じ、玲華、那岐、トワイライト、そしてセイレーンが頷きあって反撃を開始する。

 那岐とトワイライトが中近距離から攻撃を、玲華とセイレーンが遠距離からサポートを行う。
那岐とトワイライトの連携もさることながら、玲華とセイレーンもまたお互いを護り合うようにサポートを行う。

 一気に解体を行うためにと4人はチョコレートの塊の隙を狙うが、その隙は未だ訪れない。
【クロノミーティア】の戦いはまだ続きそうだった。




 市庁舎前に駆けつけたクロノス・リシリアは目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。

「久しぶりにアデルと遊べる思ったらナニコレ……特異者がチョコになって……ミリアム達が暴れて……」

 そう呟くクロノスの目の前で今まさにハート形のチョコレートの塊がシア・クロイツを自身の一部とするべく取り込み終わったところだった。

「これはもう遊ぶのは後回しにして止めないとね。準備は大丈夫?」

「こっちは大丈夫だよ」 

 ジョニーに呼んでもらったアデルと合流し、クロノスは攻撃を仕掛ける前にアデルへと声をかけ確認する。
準備は出来たとこくり頷くアデルに頷きを返し、クロノスはその銃口をハート形のチョコレートの塊……ではなく、ギリアムに向けた。

「邪魔をするニャ!」

 何発かの牽制するような攻撃が明らかに自分へと向けられていることに気付いたギリアムが叫ぶ。
反撃するようにギリアムはシューティング☆クッキーをクロノスに向かって投げる。

「い…っっ!!」

 たかがクッキーとはいえ、その殺傷能力は不思議なほどに強い。
それはクロノスの二の腕あたりを掠めただけなのにも関わらず滲む血が明確に物語っていた。

 だが、そんなギリアムの攻撃もクロノスにとっては好都合だった。
自分がギリアムを引きつけている間にアデルは……

「これで大人しくなってくれるよね」

 詠唱を終えたアデルがギリアムへミーティアレインによって隕石を降らせる。
クロノスの牽制のような銃撃はアデルの詠唱時間を稼ぐためのものだったのだ。

「まっけないニャ!」

 アデルからの一撃を受けつつも、ギリアムは反撃する余裕があるようでクロノスとアデルの二人はいつの間にか血まみれのクリームになっているような錯覚を覚えた。
とろり、とろりと溶かされていくような思考の中で身体の自由すらも効かなくなっているようだった。
 二人はそのまま、思考を血のような赤からチョコレートのような色へと塗り替えられていくのだった。




 市庁舎前の騒動を物陰から見ていたのは神前 藤麻だった。

(……自分でも、あまり心の整理はついていないのですがね。
あのゴミ虫(仮面エロ)は不快ですし、元凶に奴が加担しているというのは騒動の鎮静化に加わる理由にはなります。
ですが、今の私はもうホライゾンとは敵対しているも同然。
なので今回の騒動は放置して被害が出て欲しいというのもあり、悩ましいところです)

 自分の中の揺れる心境を冷静に考えつつ、藤麻は一つの賭けとも言える行動に出ることにした。



☆☆☆―――――――――――――――――――★★★


「一体、これは何の騒ぎだと言うんですの?」

 ジョニーに呼ばれ、市庁舎前の騒ぎを目の当たりにしたサンドリヨンが困惑した声をあげる。
ジョニーから簡単な状況説明を受けてはいたものの、今目の前に広がる騒ぎを深刻と捉えるべきか、呆れるべきか悩んでいるような声音だった。

「……!!!」

 サンドリヨンの姿に藤麻は声には出さずとも驚き、そして息を飲んだ。
サンドリヨンが来てくれるかどうか、それが藤麻が賭けだったのだ。

「このチョコも元は特異者だった……ということは、【アッシュ・トゥ・アッシュ】で灰に還してしまうわけにもいきませんわね」

 たとえ手間だったとしても剣技のみで相手をしつつチョコの解体を進めるしかないとサンドリヨンが構え、ハート形のチョコレートの塊の解体を始める。
ミラージュマントと人払いの術によって身を隠していた藤麻はそんなサンドリヨンを援護するようにエンクローチでの弱体化やサイコガンで触手を撃ち落とした。

「わかっていますわよ」

 突如としてサンドリヨンが放った言葉に藤麻がどきりとする。
サンドリヨンの視線は身を隠しているはずの自分をじっと見据えていたからだ。

「困りましたね。相手が貴女でなければ憎まれ口の1つも叩くのですが……」

 援護していたことだけでなく、自分のことさえも看破され、藤麻は肩を竦める思いだった。

「自分で宣言したことすら反故にして……こんなだから、あの人も私のことを拒絶したのでしょう」

 藤麻の口からぽつりと零れ出た名に気を取られるわけでもなく、サンドリヨンはチョコの解体を進める。

「私も、既に正気ではないのでしょうねぇ。自身が笑えるような未来などありえないと分かっているから、嘆いて腐るしかない……実に、無様ですねぇ」

 自分のことを嘲笑うかのように自嘲の笑みを浮かべながら藤麻は言葉を並べる。

人の危機であれば助けるのが人の道理というものですわ。そこに理由は必要ありまして?」

「……あなたは変わっていませんねぇ。変わったのは私の方かもしれませんが……」

 それが果たして藤麻にかけられた言葉なのかはわからない。
ただ、その言葉がサンドリヨンへ強すぎる負い目を感じていた藤麻の心を僅かに軽くした。

 その後、二人の間に会話らしい会話はなかったが共闘という形でチョコの塊の解体を一緒に行ったのだった。




「よもやこんな事になるとはな……。仲間や親友も……特異者の殆どがチョコにされたというのか……」

「これは……ジョニーさんから連絡を受けたんだけど……うん、何ていうか……」

 飛鳥 玲人の言葉に隣に並ぶリーゼロッテ・マルセイユもまた、動揺を隠せないでいた。

「リーゼロッテに来て貰ったは良いが……なんとも言い難い状況に巻き込んですまないが手を貸して欲しい」

「気にしてないよ。でも早く終わらせたほうがいいかもっ」

 近寄ってきた触手の一撃を避けながらリーゼロッテはそう状況を見極めた。

「……まったく、訳の分からんチョコよりもリーゼロッテからのチョコが食べたいものだな」

「まずはコレを片付けてから、かなっ」

 玲人がホーリーナイトダガーで触手を切り払う中をリーゼロッテはハート形のチョコレートの塊へと距離を縮めていく。

 二人が歩みを進める。だが敵も動けないわけではない。
取り込まれないまでも甘い香りが二人を包み、そして思考を少しずつ蝕んでいくのが分かる。

(このままだと……)

 自分の思考がチョコに染まりそうであると危機感を感じた玲人が持っているホーリーナイトダガーを自らの足へと突き刺そうとした。

「待って! 意識をしっかり持てるように話しながら行こう」

 玲人のダガーを持っていた手を取り、リーゼロッテがそう提案した。

「ああ……。だが、万が一のときは……」

 とりあえずは突き刺すのをやめた玲人の言葉にリーゼロッテは首を振る。

「終わったらチョコ、ね」

 リーゼロッテの言葉に、別のチョコへの楽しみが玲人の思考を染め替えていく。
玲人がこの状況を切り抜けるためには痛みよりも、リーゼロッテからのご褒美のようだった。

 会話を交えつつ、二人はチョコの塊の解体を急ぐのだった。
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