三千界のアバター

≪ワールドピース≫相剋のグラナート 前編

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ラルフの憂い


 獣王ラルフは自身の家の応接間で「ふうううう~~~」と大きなため息を吐いていた。
 本来ならばどっしりと構えているのが彼なのだが、今は状況が状況だ。解決に向けて動けない自身にわずかながら苛立ちを覚えていた。
 しかし、とはいえ、カタンを放り捨ててクーザに向かう訳にもいかない。
 一先ず今は、一輝やその仲間達を信じて、クーザが無事であることを祈るしか無かった。

「失礼いたします」
 そこにキョウ・イアハートが来訪する。
「お久しゅうございます、獣王ラルフ」
 礼節に則った言葉で腰を曲げるキョウを見て、ラルフは「やめいやめい」と声を掛けた。
「知らぬ仲じゃないけぇ。堅っ苦しいのはなしじゃ。で、なんだ。聞きてえことってえのは」
 豪気にそう言って、どかりと椅子に座ったラルフに、キョウも堅苦しい態度を止める。
「旦那、俺達も手をこまねいてるだけじゃいたくない。
 何かアッツァーの内部情報や、ゼスの部下達の情報とかは無いのか? 九狼の段取りの良さも気になる。
 情報があったら教えてくれ」
「……申し訳ないことに、ハダルの野郎と駆け引きをしようにも、腹芸ってのは苦手でなぁ。
 探らせちゃいるが、よくわからないってのが実情じゃけぇ。
 何があってて、何が嘘かもわからん。余計な先入観を与えないためにも、情報はまだ精査したいというところよ」
「そんなに謎に包まれているのか……」
「そうだ。ただ、アッツァーからの使者は定期的に来ておる。
 まあ、統一国家に従い忠誠を誓えというくだらん話しかせん、しようもねぇ奴らだがな」
「危なくないのか?」
「特に何をするでもなく、本当に行き来しておるだけよ。
 それだけにクーザの件はともかく、うちに対するハダルの態度はさっぱりわからんという感じだ」
 キョウは少し悩むと話を打ち明けることにした。
「旦那、実は俺は非戦派のハーピー・チーフから……」
「アルカサスの話じゃろう。知っておるから細かいことは言わんでよい。
 あれに関しちゃあ、もう代表となるヤツ次第だな」
「結局は、どこも解決待ちって感じかい。
 まあ、ラルフの旦那。俺の力でよかったら幾らでも貸すぜ。
 非戦派となら積極的に接触できるし、俺達ならサキュバスクイーンが無事なら、クーザ・カタンと同盟を組むように介入出来るかもしれない」
「ああ、その時はお前達に使者を頼むかもしれん。
 あの女王も、昔はお淑やかな心優しい王だったんだがな。いつの頃から変わりよった。
 俺は代表としてここを動けないし、普通の使者じゃあヤツらも外に行きたいという意志を抑えるのは難しいだろうしのう」
「その辺は、まあ、俺達のせいでもあるかもしれないしな……」
 サキュバスクイーンが外の世界に目を向けだしたのも、自分達のせいかもしれないとキョウは嘆息する。
 そんなキョウの言い分を知る筈もなく、ラルフは首を傾げるのだった。

「ところで旦那、今日は何でこんな立派な部屋で出迎えなんてしてるんだ」
「ああ、それはお前以外に話を聞きたいってヤツが……」
 コンコンとノックの音が響く。使用人に導かれて姿を現したのは、ルナ・セルディアライオネル・バンダービルトだった。
「ラルフさん、今日は……お時間を作ってくれて……ありがとうございます……」
 ルナが落ち着いた様子で席に着く。
「旦那、こっちも悪いな。忙しい中時間を作ってくれ」
 続いてライオネルもどかりと席に着く。
「気にせんでええわい。
 どうせ、代表としてここにいる内は、ああだこうだと部下達と言い合う程度が仕事じゃけえのう。
 で、お前達は何を聞きに来たんじゃ。
 申し訳ないが、役に立ちそうな情報はほとんどないけぇの」

「じゃあ、俺から聞くぜ。今、グラナート……いやオリエンティアは相当な火薬庫と化している。
 帝国が見過ごすとも思えないし、交易のあるコルリスは既に動いている。紅雷をヤツらは寄越してるぜ。
 何者かの手が既に入り込んでるんじゃねえか?」
 ライオネルの言葉にラルフは首を横に振る。
「帝国は表だっては動かんよ。二年前のこともあり、神聖騎士や帝国軍も再編されとるけぇの。国内が優先だ。
 一旦波風を立てずに静観、お前達のように内部から解決をさせる姿勢なんじゃろうな。
 そもそも帝国が無理に介入して事を構える利点はあまり無い。
 手を出さずに済むなら、それが良いというのが向こうの考えだとオレは思っておる」
「使者すらも来てないのか?」
「来てないことは無いが、様子見の姿勢を貫くつもりのようだ」
「後は……急進派か? アッツァーのヤツらはどうなんだ」
「先にキョウにも話したが、内部の急進派達の動きはまるで外に出てきておらん。
 送っている内偵も帰ってきておらんでな……。
 急進派達からの使者に関しては、定期的にこちらに送られてきているが、特に何をするわけでもない。

 その上、使者に関しては恐らく末端を使っておるんだろうな。
 勿論シメれば多少の情報は吐き出せるだろう。
 だが、感覚的な話になるが、『アレ』は情報を持ってないとオレは思っとる。
 手を出して、罪もない使者を嬲ったといちゃもんをつけられる不利益の方がデケェだろうな」
「八方塞がりか……。
 今の内に重要度の高いヤツや都市に話をつけておくといいとは思うぜ」
「オレもそう思うが、既にグラナートはハダルに取り込まれた都市ばかりじゃけぇ。
 確実に信頼できるのは、今のところフランクくらいだ。
 迂闊に動けねぇんだのう……とても歯がゆいが……」
 拳を撃ち合わせてラルフは怒りをあらわにする。
 心底歯がゆそうなラルフを見て、ライオネルも「そうか……」と彼を思いやることしか出来なかった。

「では……今度は……私……。なにか……九狼達のあの力に……ついてる見当は……?」
 ルナに対して、ラルフは「そうだな」と口を開く。
「一応、今のところは本当にお前達に伝えたりしたこと程度だのう。
 ハダルから授かった力――魔導具なり、文字通り力なりがある、ってことくらいじゃ」
「力……」
「お前達の捕えたディンゴは魔導具でもって力を高めていたようじゃな。
 ただ他のヤツらも全員魔導具が力の源かはわからんのが現状だ。
 それってーのは言っちまえば弱点を晒して戦ってるようなもんでもあるからのう。
 ディンゴに関しては、九狼の末端――そういう露骨な魔導具を使わなければ補強出来なかっただけかもしれん。
 手強いヤツならそれは無敵の武器や防具かもしれないし、それは何か使役するものだったりすることも考えられる。
 自身の能力を覚醒して得られた力かもしれんしな。
 確実な情報以外は、今のところ先入観を持って臨まない方がいいだろう……としか、オレも言えんのう」
「その力の……出所や源は……わかってない……?」
「ハダルの力……という以外は、わかっておらんな。
 魔導具といえば帝国だが、仮に技術を盗んできたというのなら黙っちゃおるまい。
 オリエンティアの地形が変わることになる。“未知”ゆえに、帝国も警戒して介入しようとはせんのかもな。
 すまんな、まだまだ全てにおいて手探りで状況を明らかにしている段階、というのが実情じゃわい」
「色んな人達が……みんなが、命を賭けて守った世界を……決断を……無かったことにしたくないの……」
「それはオレも同じよ。お前達の活躍は聞き及んでおる。
 その決断や努力を無にしないためにも、今一度、力を貸してくれるとありがたい」
「うん……私の心に誓って……」
 ルナは安定せずに輪郭をぼやかした神聖武装を形成し、それを掲げて誓った。
 キョウとライオネルもまた頷く。
「ああ、頼むぞ、若き戦士達よ。
 “獣王”はお前達のその献身を誇りに思い、必ず報いる。今はどうか力を貸してくれ」
 ラルフは自身の守ってきた同盟の為、“盟友”でもある彼らに深く頭を下げるのだった。
 
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