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≪ワールド・ピース≫穢夷の鬼神 詠

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≪ワールド・ピース≫穢夷の鬼神 詠
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【1】混乱招く妖魔たち



 平和泉の地を突如として覆い始めた黒い靄と、妖魔へと姿を変えていく清獣たちに、町中には混乱の色が広がっていく。


 混沌とした平和泉近辺を、ふらふらと歩いて行く影がひとつ。
 闇野 名無しだ。
 周囲には妖魔たちが飛び回り、今にも名無しの方へ攻め込んで来そうだが、名無しは一切退く様子を見せなかった。
 正面から妖魔が攻撃を仕掛けてくるが、うつろな目をした名無しは進路を変えない。復讐に疲れ、生きる理由を見失ってしまった名無しには、避ける理由も気力も残されていなかったのだ。
 敵の鋭い爪が、自分の首に当たるように――そんなことを意識して動きながら、躊躇なく敵と向かい合う。
 はじめの一体と名無しが接触すると、そのまま一斉に妖魔たちが襲い掛かり、意識を失った名無しはその場に倒れたのだった。



 出現している妖魔たちは、元は地元住民たちの相棒だ。それがわかっている以上あまり大きなダメージを与えるわけにもいかないが、かといって危険を放置しておくこともできない。
 穢れを浄化すると共に、動物たちを元の姿に戻すために。一人、また一人と特異者たちが駆け付け、それぞれ数体の妖魔への対処を行っていく。

 壬生 杏樹水瀬 茜と共に、皆のパートナーである清獣たちを助けるべく奔走している。
 目的はあくまで浄化して元に戻すこと……あまり傷つけたくはないところだが、敵の力の強さを考えると、そうは言っても油断はできない状況だ。
 茜はマインドリセットで心を落ち着かせ、目前の妖魔たちに対応するため集中力を高める。
 充分に頭が冴えたら、戦闘開始だ。暁の双刀・神剣と霊剣を両手に構えた二刀流で、全力で敵に立ち向かう。
 神秘の長靴によって高められた跳躍力を活かして立ち回りつつ、妖魔たちの動きにクセがないか、様子を見て探っていく。
 強力な妖魔とはいえ元は動物であるため、その動物の種類によってそれぞれ、ある程度の法則性はありそうだ。
 一方の杏樹はロングレンジショットの技術を活かしながら、茜や付近の特異者たちを援護するように動く。攻撃に使用している聖森弓は所持者を癒す力を持つため、杏樹自身を守るのにも一役買っている。
 とはいえ大きなダメージは避けたいところだ。回避を優先しつつ、怯むことなく敵に挑む。
 敵に直撃させて重傷を負わせないよう、絶妙な位置を掠めるように意識しながら、杏樹は破魔の光矢を降らせる。
 “狙い”は外さない――杏樹が放った矢は敵を傷つけすぎずに、牽制していく。
 しばらく様子を見ると茜は、自身が妖魔に囲まれていないことと、杏樹との距離が適切であることを確認すると、わざとゆっくり動いて敵の油断を誘う作戦に出る。
 すると短気な敵がそれにかかり、真っ直ぐに茜の方へ突進してきた。と、茜はリップルの動きで至近距離から打撃を食らわせ、相手の態勢を崩しにかかる。
 そして怯んだところに追撃を食らわせる――もちろん、峰打ちだ。傷つけずに、確実に。茜による打撃攻撃をまともに食らってしまった妖魔は、その場にどさりと倒れ込んだ。
 茜が弱らせた妖魔に、今度は杏樹が浄めの火を焚いて浄化を進めていく。
 さらに、再度穢れに侵されてしまう確率を少しでも減らすため、鳴弦の儀を行って場を浄める。今回の件が解決するまでの時間稼ぎにはなるだろう。
 浄化が完了すると杏樹は、国産みの宝涙の霊力を解き放って動物たちの傷を癒し、自分たちの体力は含菓子で回復して態勢を立て直す。

 水城 頼斗は妖魔を見つけると、天狗の下駄を履いた足で駆け、その跳躍力を活かして敵に接近していく。
 穢魔滅を施した直槍-汗馬刀槍-を手に死角から飛び込むが、物音に気付いた敵は咄嗟に振り向き反撃を仕掛けてくる。頼斗は慌てずその攻撃を槍でいなし、霞の構えをとって再度妖魔に向き直った。
 頼斗は引き続き、天狗の下駄で跳び回りつつ妖魔と戦闘していく。攻撃はあくまで、石突きや槍の腹を使った峰打ちだ。
 それでも、清浄なる力を与えられた槍による打撃は、妖魔たちを怯ませるには充分だ。
 さらに頼斗は、浄爆符を放って爆発させることで、周囲に浄化の力を散らす。それに妖魔が思わず足を止めると、その隙を狙って即座に駆け寄り、思い切り槍を振るった。
 打撃をもろに食らい吹き飛ばされた敵に、さらに浄爆符を放つ。今度は牽制ではなく、本命の浄化のために当てにいく。一度で駄目なら二度、三度と畳み掛けるように浄化していく。
 避け難い連続攻撃と浄化の力によって、妖魔はとうとう戦闘不能状態に陥る。が、息はある……この分なら、ゆっくり休めばまた元通り、地元の人々の相棒として動けるようになるだろう。

 水野 愛須もまた、妖魔への対処に動いていた。
 まずは敵の動きを止めないことには、浄化もしづらい。愛須は妖魔たちを倒すため、しびれ薬を散布してその動きを阻害する。
 動きが鈍った敵はそれでもどうにか愛須に抵抗しようと爪を立てるが、そこで困惑したように目を見開く。標的である愛須が、二人いるのだ。
 愛須の手に握られた武器――夢幻刀は神器化されており、その神通力によって愛須の分身を作り出しているのだ。愛須は不離一体で符を投げつけて牽制し、抜刀して敵に斬りかかる。
 周辺が浄化され、その影響は目の前の妖魔にも及んだ。と、休む間もなく別の妖魔が襲い掛かってきた。愛須はそれを刀で受け、先ほどと同じ要領で対処していく。
 順調に敵を減らしていく愛須だったが、次第にその周囲に妖魔の数が増えてきた。これまで通りの力では、対処しきれそうにない。
 そこで愛須は、神懸りによって浄化の力を借り受けた。これなら多数にも対応しやすくなるだろうが、この力が使える時間は有限だ――刀を構え直すと愛須は妖魔たちに接近し、一気に仕留めにかかる。

 レイン・クリスティも杏樹や頼斗、愛須たちに混じり、妖魔たちに対抗するべく戦闘を繰り広げている。
 この辺りに出現した妖魔たちは、皆の協力により次々と浄化されていった。




 妖魔たちへの対処に加勢すべく、どのあたりから攻めるべきかと戦況を見極める夕凪の横で、小山田 小太郎が世界眼を光らせる。
 広い平和泉を見渡し、妖魔や鬼の数、それらの位置を見える限り把握していく。と、こちらの対処が追いついておらず、妖魔たちの脅威から住民たちが逃げ惑っている区域があるのがわかった。
「行きます……穢れを祓い、皆の心を救いましょう」
 とその区域に目を向ける小太郎に、「本当にあそこへ?」と小太郎から戦況を伝え聞いていた夕凪が問う。
「穢れに苦しむ方々を助けたい……故にこそ、見逃す訳にはいかないんです」
 小太郎の答えに、夕凪も力強く頷く。無論、夕凪としても見捨てるつもりはなかった。
「…わたしも行く。みんなを助けよう…」
 そう言って立ち上がったのは、小太郎のパートナーである八代 優だ。
 その傍らには同じく小太郎に同行していた八葉 蓮花の姿もある。蓮花も当然、といった様子で二人のあとに続く。


 妖魔たちは靄の発生場所ごとに集中し、群れを成すように次々と出現している。一体づつ相手をする、というわけにもいかないのが歯がゆいところだ。
 妖魔たちの数を減らすべく対応に赴いたウリエッタ・オルトワートは、複数の敵を一気に相手取ろうとしていた。
 バリツや大和柔術といった武術を心得ているはウリエッタは、それらの技術を活かした動きで歩を進め、妖魔たちの間をすり抜けていく。
 当然敵がそれを放っておくはずはなく、異変に気付いた妖魔たちが徐々にウリエッタを囲み始めた。
 が、囲まれることはウリエッタの思惑の内だった。ちょうど対処できる程よい数の敵が周囲に集まってきたのを確認すると、ウリエッタは神器化した大太刀――雪桜を地面に突き立てた。
 雪桜のもつ冷気が完全に解放され、地面を伝い周囲を瞬時に凍り付かせていく。今にもウリエッタに襲い掛かろうとしていた妖魔たちは、凍って身動きが取れなくなってしまった。
 この隙に八陣封殺を配置して、じわじわと敵の体力を削っていく。これでもう、簡単に反撃はできないだろう。
 ウリエッタは妖魔たちを殺さずに、打撃によって順に気絶させていくと、浄化の大筆を使って穢れを吸い取っていった。

 妖力探知によって妖魔たちの居場所を探っていた卯月 浩人も、早々に敵の密集地にたどり着き、戦闘を開始していた。
 めんつゆの零妖気を身に纏い、接近戦を繰り広げる。少し離れたところにいる相手には、狐火を放って対処しつつ浄化を行い、なるべく敵に囲まれないようにと立ち振る舞う。
 が、このまま味方の応援が無ければ、囲まれるのは時間の問題だろう。一人で対応するには敵の数が多すぎる。
 やがて妖魔たちが浩人の周りを囲んだ。大技は温存したいところだが、このまま妖魔たちに道連れにされる方が厄介だろう。浩人は百鬼夜行を出現させ、この場を乗り切ろうと試みる。
 生み出された幻影たちが、辺りの妖魔たちを攻撃し蹴散らしていく。この隙に、浩人はこの場から一旦離脱する。

 人手が足りていない様子のこの地区では、若干名ではあるが穢れに蝕まれつつある住民たちの姿も見受けられる。
 この窮地を察して助けに入ったのは、乙町 空だ。空は神木の弓を手に、破魔の矢で駆け回る妖魔たちを狙う。
 さらに夕凪と共に駆け付けた小太郎たちも、付近で戦闘を開始した。
 接近戦を繰り広げている仲間が何人か増えたのを確認すると、空はしばらく後方からの支援攻撃に徹することにした。破魔の光雨を降らせて妖魔たちを牽制し、皆の攻撃につなげていく。

 小太郎は妖魔たちの前に立ちはだかると、正覚念珠によって高められた身体能力を活かし、武器を持たず徒手格闘で挑む。
 ブロウクンポイントで相手を無力化できるポイントを探る。おおよその位置は見当がついたが、そこに攻撃を当てるには向こうの俊敏さに付いていかなければならない。
 小太郎はあらゆる邪念を払って無我の境地に至り、対する妖魔に気を合わせようと試みる。隙を突くために相手の思考を読むうちに、ふと小太郎の表情が陰る。
「貴方達の嘆きの声、確かに聞きました……今、助けますからね」
 焦らず、されど迅速に――敵を無力化させるべく、その弱点を突き狙う。
「…援護します。小太郎は小太郎の信念を貫いて…」
 と優がそれに加勢する。金弓箭をもって矢を放ち敵を物理的に牽制すると共に、折を見て鳴弦の儀を行い、周囲の邪気を払う。
 小太郎や夕凪の状況判断と攻撃は的確だったが、何しろ敵の方が数が多く、うまく狙っても別の妖魔の邪魔が入る。
 二人が苦戦を強いられているのを見て優は、神木の霊玉に込められた霊力を解き放ち、体力を回復させる。
「…神木よ。どうか、皆を助けて…」
 体力を取り戻した小太郎は再び妖魔に向き直るが、しかしそんな小太郎と優の連携を裂くように、また別の妖魔が襲い掛かって来る――が、その攻撃が優たちに届くことは無かった。
「二人の邪魔は私がさせないわ」
 蓮花の放った雷神の怒りが直撃し、麻痺して動けなくなったのだ。優の方の無事を確認すると蓮花は、
「天狗の技法を見せましょう」
 と今度は小太郎の方にいる妖魔たちを見据えた。鏡花水月によって自身の姿を隠し、敵に接近していく。光の屈折では音や気配は消せないが、瞬息走術を活かして移動しているため、敵はなかなか蓮花の接近に気づかない。
 優と蓮花による協力を受け、小太郎も妖魔の無力化に動く。そしてついに小太郎の攻撃が命中し、妖魔がその動きを止める。次いで蓮花も至近距離から雷神の怒りを撃ち、周囲の妖魔を無力化させる。
 そうして付近の妖魔たちが意識を失うと、小太郎は浄化の数珠でその穢れを払っていった。
「道を外れてしまった者を連れ戻すのも僧の勤めです……その邪念、必ずや祓いましょう」
 蓮花も迦楼羅炎の力で浄化を行い、優もそれを手伝う。
 さらに優は、付近に気を失っている住民たちがいるのに気づくと、彼らの助けに入った。妖魔となった動物たちのパートナーだったのだろうか……穢れに侵されている可能性もある。
 傍で浄爆符を起爆させてみる。それだけで対応しきれないと見ると優は、神懸りを宿してさらに浄化を続けた。
 夕凪は救助された人々を守り、避難に導くため、ここから別行動をとることとなった。


 これ以上は穢れを吸えない、というところまで浄化の大筆を振るったウリエッタも、この場の収束と共にまた別の場所へと浄化に向かう。
 と、一旦戦線から離脱したために少し離れた位置にいた浩人が、鬼と対峙しているのと出くわした。
 浩人は妖力を解放し、零妖気を纏って一気に鬼に攻め込む。鬼はそう簡単に浄化をさせてはくれないが、まずは少しでも敵の体力を削れれば御の字だ。
 ウリエッタも雪桜を構えて接近していくと、思い切り鬼に殴り掛かる。
 妖魔がある程度片付いたのを見て移動してきた空も姿を現し、二人が苦戦を強いられているのを見ると駆け寄った。国産みの宝涙の霊力を解放し、二人を回復させた。
「大丈夫ですか? よろしければこれを」
 と氷瓢箪を差し出し、冷えた水を分け与える。態勢が整うと、今度は空も加勢し鬼に挑む。
 さらに小太郎たちも鬼に気づき、攻撃を仕掛けていく。
 小太郎たちの攻撃を命中させるべく、優が神羅万象による結界を展開し、相手の動きを封じにかかる。 さらに傍らでは蓮花がクールアシストで戦況を見極め、対妖魔戦と同じ要領で鬼に接近する。
 死角から放たれた雷撃を相手は寸でのところで避けるが、避け切れずに掠り、動きが鈍った。
 鬼が蓮花たちの方に気をとられている隙に、その背後には小太郎が迫っている。小太郎は豊穣の独鈷杵を手に鬼に接近し、意識が無我の境地にあるままに一撃を繰り出した。
 一斉攻撃を受けて、鬼が膝をついた。まだ意識はあるが、かなり朦朧としている様子だ。
 そこに空が、手にした弓矢を通じて清滅の力を発動させ、鬼の穢れを祓おうと試みる。強力な相手ではあるが、鬼も元は人間だ――武器を通すことで、あえて威力を低下させて穢れのみを取り除く。
 とうとう鬼の穢れが浄化され、この区域の靄は消えていった。



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