三千界のアバター

ゴールデン・フェイル

リアクション公開中!

ゴールデン・フェイル
リアクション
First Prev  3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13  Next Last

【手探りの決闘者デビュー】

 セクターCは中立エリアということもあり、勝者と敗者双方の居住区はそれなりの広さを与えられて構成されている。
 黄金獣はどうやらセクターC敗者区画内のダウンタウンの大通り付近を徘徊しているようだが、セクターDから侵入した敗者テロリストの一団は、同じセクターC敗者区画内でももっと市民生活に近しい住宅街エリアに出没し、破壊活動を繰り広げている模様だった。
 そんな破壊の嵐の中で、何故か街角の一角が全く異なる風景に変化している場所があった。贅を尽くした宴席と酒の泉に、猛虎が放たれた森という極めて異様な情景である。
 これは悪名高き殷の皇后『妲己』の分身たる偉人蘇 妲己が空創庭園を駆使して投影した、彼女の心象風景であった。
 この心象風景に巻き込まれた数名の敗者テロリストは、しかし決して動揺することはない。自分達の敵が偉人を連れていると即座に理解し、単なる破壊活動から臨戦態勢に突入していたからだ。
 妲己と契約を結んでいる決闘者は、焔生 たまだった。
「妲己の逸話は則ち紂王の逸話。悪女と暴君はふたりでひとつの偉人ともいえると、私は考える訳です。彼女に力を借りる以上、私は暴君であらねばならない。どこまでも傲慢に、どこまでも強欲に。そうあることが出来れば……」
 誰に語りかけるともなく、半ば瞑想的に独白を続けるたま。
 しかし今は、目の前の敗者テロリスト共を駆逐する必要がある。自分達はその為に、セクターEから派遣されてきた訳なのだから。
「仰せのままに、我が君よ。宴の用意は……とうに出来ておりまする」
 グラントを発動したまの能力を大幅に向上させた妲己は、自らも女王の剣を携え、敗者テロリスト共に挑みかからんという気勢を見せた。
「さて、チンピラが十余人……肩慣らしにもなりそうにありませんね」
 随分と冷めた目線で敵の集団を見つめるたま。
 だが、流石に人数が多い。ふたりでこの場の敗者テロリスト共を全て叩き伏せるには、少々手数が必要かも知れなかった。
 と、そこへ──。
「手が足りないようなら加勢するよ」
 たまと同じく勝者のひとりである草薙 大和が、のんびりとした口調で呼びかけつつ、空創庭園の領域内に足を踏み入れてきた。
 傍らには同じく勝者の草薙 コロナの姿もあったが、今回は更にもうひとり、パートナーを同伴している。
 日本武尊の分身たる偉人碓氷 命が、大和とコロナを従えるようにして三人の中央にどっしりと身構えていた。
「主様、奥方様、準備は宜しいでありますか?」
 命の呼びかけに大和とコロナは揃って頷いたが、ここでふと、大和は思い出したように命に面を向けた。
「あ、さっきもいったけど、殺生は厳禁だからね」
「はっ、承知であります。敵の処遇はおふたりに任せるであります」
 そんな大和と命のやり取りを横目で眺めていたコロナだったが、不意にたまと妲己の暴君・悪女ペアの向こう側に、妙に不気味な雰囲気を漂わせる大柄な男が現れたのを目ざとく発見した。
「もしかしてあれは……リーダー格でしょうか?」
 コロナの警戒に満ちた声を受けて、大和や命のみならず、たまと妲己も鋭い視線をその方向に向けた。
 そのリーダー格の敗者テロリストは、どうやら原典らしき装備を所持していた。
 ここは少し、気合を入れなければならない──大和とコロナもそうだが、たまと妲己も幾らか気合を入れ直して、敗者テロリスト集団と対峙した。


     * * *


 少し離れた別の区画では、弥久 ウォークスが勝手の分からぬ勝者としての戦闘に、幾らか戸惑いを感じていた。
 ウォークスはフォーフォールドを駆使して四本の火縄銃を現出せしめようと考えていたのだが、実際には、彼が所持するエデンストリッシャが四倍に増えただけだった。
「うむむ、フォーフォールドは自分の好きな武器を四つ、自由に出現させる技ではなかったのか」
「それならそれで、仕方が無い。直接連中をぶっ叩くだけだな」
 すっかり戦術プランが狂ってしまい、当初の予定とは全く異なる戦法を選択せざるを得ない状況に陥ってしまったのだが、それでも偉人杉谷 善住坊は特に動じた様子も見せず、手にしたクロースソードを軽く振り回しながら、目の前の敗者テロリスト数名をじっと睨みつけた。
 ウォークスとて、いつまでも使用不可能と判明した己の戦術に拘ってばかりではいられない。今は目の前の敵を駆逐することに専念しなければならなかった。
「まぁ良いか……そりゃそうとお前ら、俺に勝てたら、今俺が持っている財布の中の金をやろうッ! さぁ存分にかかってこいッ!」
 手にした財布を目の前に掲げるウォークスに、敗者テロリスト達は一斉に色めき立った。馬鹿にされている、とでも思ったのだろうか。いずれにしても、相手がそれなりのモチベーションを持って挑みかかってきてくれるのであれば、ウォークスも善住坊も願ったり叶ったりである。
 そんなウォークスと善住坊の戦いぶりを、有間 時雨は幾分の興味を持って眺めていた。
 時雨は敗者である為、テロリスト共はウォークスに挑むほどには積極的に仕掛けてこない。それでも時雨が手を出せば、敵もそれに応じて戦闘に突入する、といった具合である。
 これまでのところ、時雨は敗者テロリスト共の戦いぶりを観察しながら自らの能力を行使していたのだが、現時点ではまだ参考となるような戦術にはお目にかかっていなかった。
 いずれの敗者テロリストも一般的な栄具の使用法に落ち着いており、目から鱗が落ちるような戦術は誰ひとりとして見せていないのである。
 逆に時雨の方が、原典『異教徒の錫杖』を起点として復讐の牙と理論爆弾を同時に繰り出し、敵に面食らわせているという有様だった。矢張り、自分と同じく原典を所持したリーダー格と遭遇でもしなければ、面白い戦術を見ることは叶いそうにない。
 それだけに、ウォークスと善住坊が陥った勝者としての戦術の落とし穴に、幾らかの興味が湧いたのだ。
「成程。勝者は勝者で、色々な縛りがあるってぇ訳か」
 呑気に呟きながら、時雨は威勢良く吠えている目の前の敗者ふたりを、じろりと睨んだ。同じ敗者同士、何か相通ずるものがあるかと期待したが、そんなものは欠片にも感じられなかった。
 所詮、テロリストはテロリスト。下っ端の戦闘員に過ぎなかった。
「……さてチンピラ共、力があるなら見せてみろよ。まぁ、そんな物があれば、だけどな」
 もうすっかり諦めたというか、戦いそのものに冷めてしまったような感覚で時雨がいい放つと、対峙するふたりの敗者テロリストは恐ろしく激高し、口々に何か喚きながら時雨に挑みかかってきた。
 時雨は、黒塗りの篭手を行使するまでもなく、それらの攻撃を難なく躱して二種の栄具を同時に発動し、手厳しいカウンターを叩き込んでいた。
(ところであのふたり、上手い具合に勝負出来ているのかな)
 下っ端テロリストを相手に廻しながら、ウォークスと善住坊を心配するだけの余裕が、時雨にはあった。そんな時雨の心遣いにはまるで気付かぬ様子で、ウォークスと善住坊は派手な戦闘をひたすら繰り広げていた。


     * * *


 セクターCに侵入した敗者の中で、特に強敵と思われているのは司令官クラスのソロウであることは間違いないのだが、それ以外にも原典を所持する数名の敗者テロリストが侵入しており、そのいずれもが数名単位の部下を持つリーダー格であることが分かっている。
 今、ルイーザ・キャロルリデル・ダイナカルラ・チョコラータの三人の前に姿を見せたのは、そんなリーダー格のひとりであった。
 右目を黒い眼帯で隠したスキンヘッドの大男で、如何にも歴戦の猛者といった風格を漂わせている。
 片目のリーダー格は、理論爆弾と粛清の杭を同時に発動し、こちらの逃げ場を奪ってから的確な攻撃を叩き込んできていた。
 これに対しルイーザは、デュアルリリースで回復技能の効果増大を狙ったのだが、不発に終わった。彼女はヒールフィールドとの同時利用を狙ったのだが、上手くいかなかった。
 単純に、タイミングが悪かったとしかいえない。技や装備を組み合わせて同時に行使する技術論でいえば、敗者の方がより適格ということであろうか。
 ならば、とルイーザはひたすら守りを固めて敵の攻撃を凌ぐ作戦に出たが、彼女が防御の為に駆使しているのはいずれも非エデン由来の装備や技能が主軸であった為、期待していたほどの効果がない。
 果たして、ルイーザは片目のリーダー格が仕掛ける攻撃の為に、瞬く間に手酷い打撃を被った。
(このままでは、仲間を守るどころか、自分でさえも……)
 ルイーザは内心で歯噛みしたが、しかし今は用意している技能も装備も、これが精一杯である。後は、リデルとカルラの奮戦に期待せざるを得ない。
 偉人カルラは、チェザーレ・ボルジアの分身として契約した。彼女が行使するグラントでの能力強化は、主にリデルが恩恵を受けているようで、実際の戦闘もリデルとの連携に主眼が置かれていた。
 しかしここで、カルラも失敗を犯した。彼女はリデルのフォーフォールドをスキルトレースしようとしたのだが、このスキルトレースという技能は、コンビネーション技を対象とすることが出来ない。
 その為、カルラはヒールフィールドでの自己回復とロイヤルセイバーでの特攻を適宜使い分け、ひたすらに女王の剣を振るうしかなかった。
 一方のリデルは、フォーフォールドで片目のリーダー格に挑んだ。矢張りこの敵は相当に手強く、時折エクストラストを発動して間合いを誤魔化さなければ、あっという間に打ち倒される危険性があった。
「こいつは中々、やり手なのにゃー」
「ふふ……こんな強敵を相手にしても尚、不殺を強要するとはな。初っ端から強欲な話だ」
 カルラはルイーザに笑いかけた。決してそんな余裕は無いのだが、こうでもしなければルイーザが必要以上に心配してしまう。
 いずれにせよ、彼女達三人は決闘者としての戦術理論をよく理解すれば目の前の敵は然程の強敵でもなかったであろうが、今はそれぞれの勘違い、思い違いが幾重にも重なり、思わぬ苦戦を強いられてしまっていた。
 その時、突然周囲の景色が一変した。
 美しい者達を『永遠』の中へと封じ込めた一種独特の情景──何者かが、空創庭園を発動したのだ。
「ふふ……あはははッ! 醜い存在は消えなさいッ!」
 若い女の哄笑。見るとそこに、偉人ノワール・ネージュの姿があった。
 ワンダーランドのとある人物の分身として契約を結んだノワール。その契約相手は、桐ケ谷 彩斗である。
 彩斗はフォーフォールドを駆使して片目のリーダー格の不意を衝いた。更にノワールも彩斗のブラストエッジをスキルトレースで拝借し、援護射撃を叩き込む。
 この闖入者に、片目のリーダー格は素早く間合いを取って構え直した。少なくとも、彩斗とノワールをただならぬ敵として認識している様子である。
「やれやれ、初仕事でいきなりこんな手のかかる相手と鉢合わせとはな……まぁ、やるだけやってみるさ」
 いいながら、彩斗は負傷したカルラとルイーザを少しばかり退かせた。今のうちに回復しておけ、と目線で合図を送る。
 リデルは彩斗とノワールが咄嗟に築き上げた戦線に踏みとどまった。共闘しよう、という訳だ。
「色々、見させて貰った。どうやらエデンに由来しない能力や装備は余り役に立たないらしいな」
 彩斗は最前まで考えていた戦術を、修正しなければならなかった。だが、それ自体は決して問題ではない。寧ろノワールの積極的過ぎる交戦的な性格を如何にして御するのか──そちらの方が難題だった。
「さぁ、一緒に踊りましょう」
 彩斗の心労など知ってか知らずか、ノワールは片目のリーダー格に向けて不敵に笑った。
First Prev  3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13  Next Last